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最終章 ひっこし
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しおりを挟む「この稀人の数は異常なのだ。それこそ戦国まで遡る。もしくは多次彦多津彦の時代だ。戦国では人が死ぬゆえに補充を兼ねて最初から増やした形跡があるが、江戸中期の正武家に双子が誕生した際には、当主の稀人、双子の稀人になるべき御門森ABがいた。これでも三人だ。今は稀人四人に惚稀人一人、合わせて五人。当主、跡取りはまだ若く、これからますます隆盛する。あと数年後には長きにわたる正武家の歴史の中でも、攻守に優れた布陣が出来上がる」
彼は以前言っていた。
自分の代で何かが起こるって。
だからその為に稀人が増えているって。
しかも澄彦さんは、あまり息子である玉彦を褒めないけれど、歴代の正武家の中で優秀と言っていた。
これはもう、何かが起こるよっていう充分な前振りだった。
「そして上守。もう随分昔に神の守役を解いてしまっているのに、先祖返りしてしまった比和子」
「え、私!?」
「御倉神が現れた時点でおかしいとは思っていたのだ。先日会ったお前の父も、実は視えているだろう?」
「う、ん。私は知らなかったんだけど」
お父さんは、私を呼びに通山まで来た御倉神に揚げ料理を振舞っていた。
さも当たり前の様に。
「神守の惚稀人を隣に、稀人を複数人従わせ、一体正武家に誰が何をさせたがっているのだろうな……」
「神様が祓い退治をさせたがっているの?」
「『何を』祓い退治する? 数年後のこの布陣だと、大宰府や大手町の首塚級の怨霊でも鈴白で迎え討てば瞬殺だ」
「人、ではないんじゃない?」
怨霊って人だよね……。
「崇り神か……。しかしそのような報告は……」
考え込みだした玉彦の肩をポンと叩く。
「今は、蔵人だよ。隠に手古摺っているようじゃ、崇り神どころじゃないよ」
「あぁ、そうだな。まずは蔵人だ。話が脱線してしまったな」
玉彦は立ち上がり腰を伸ばすと、石段を登り始める。
私は慌てて追いかける。
彼に確認しておきたいことがあった。
「あ、ちょっと待ってよ。今夜って私の部屋に南天さん、付くの?」
以前白猿に狙われていた時は、宗祐さんか南天さんが何かあった時の為に部屋の外に控えていた。
そして今回は印のこともあり、ずっと玉彦の部屋で寝泊まりしていたけれど、今夜からは一人部屋になる。
実は正武家で一人で寝るのは初めてに近い。
いつも誰かが側にいた。
「その予定はない」
「あ、そうなんだ……」
夜中に蔵人が来ることはないのかな。
本殿にある左腕が奪われない限り大丈夫だとは思ってるけど。
「何かあれば呼べ。俺か南天がすぐに駆けつける。後藤の娘にも言っておかねばならんな」
小百合さんは嫌がるかもだけど、私と一緒の部屋で寝てくれないかなぁ。
夕餉が終わり、私たちはそれぞれ自分の部屋へと戻った。
玉彦は夏休みの課題が溜まっているらしく、今夜は徹夜だと溜息をついていた。
でも一日だけの徹夜で終わるなら大したことないと思う。
明日までは夏休みなんだし。
一人でお布団にゴロリと横になる。
時計を見れば、まだ二十一時。
寝るには全然早い。
私は充電器を差しながら、小町にメールをしてみる。
通山へ帰った時に、守くんが言っていたことが気になったのだ。
『小町ー(´▽`) 起きてる?』
『起きてるよー。こんな時間から寝ないわい!(´_ゝ`)』
『守くんと一緒?』
『さっき帰ってったよ~(´_ゝ`)』
『あのさ、守くんといつしたの?(*ノωノ)』
しばらく小町から返事がない。
『なんの話?(´・ω・`)?』
コイツ、しらばっくれるつもりだな。
でも守くん、言ってたもん。
犬のようにお預けを喰らっている玉彦の気持ちを、この前までそうだったから良く解かるって。
私はメールでそのことを突っ込めば、小町は観念して白状をした。
実は春休みに経験済みだったと。
『い、痛かった?( ;∀;)』
『半端なく!( ゜Д゜)!』
『そっか……』
『比和、玉様とするの?(・∀・)ニヤニヤ』
『しない』
『やっちまえよー。きっと紳士的に優しくしてくれるって、野蛮な守と違って(-"-)』
小町、一体守くんに何をどう野蛮的にされたんだろう……。
しばらく小町の経験談を聞いて、私は震えあがった。
私、きっと一生玉彦とそんな恥ずかしいこと出来ないと思う……。
スマホを握りながら寝てしまって、閉めていた障子が風でガタガタ揺れ、目を覚ませば午前一時。
再び眠りにつこうとしても、風の音が気になって眠れない。
本当に風で揺れているんだろうか。
外側から入り込もうとしている蔵人が揺すっているのではないだろうか。
そんなことを考えていると、ますます目が冴える。
もう十七なのに、一人で眠られないって、私ってばしょうもない。
四つん這いになって、廊下側の襖を開けて周りを見ても誰も居ない。
そもそも今この広い正武家のお屋敷には、玉彦と南天さん、私に小百合さん。
松梅コンビはいるのだろうか。
お布団に戻ればまだ温かい。
寂しいから青紐の鈴を鳴らしたら、玉彦は怒るだろうか。
流石に馬鹿馬鹿しくて、私は首を振る。
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