55 / 111
次代不在
3
しおりを挟む恙なく正武家の一日が終わり。
夕餉を三人でいただく。
玉彦は昼の一件以来、膨れていた。
まぁそれは置いておいて。
食事を終えて席を立つ澄彦さんを引き留める。
どうしても耳に入れておかなければならないことがあった。
そしてそれを玉彦にも聞いて欲しいと思った。
本当は当主の間で話をするべき事かもしれないけど、私の推測の域をでないものを気軽には話せない。
「どうしたの?」
「すみません。先ほど美憂と話をする機会がありまして」
そう私が言えば、隣の玉彦が呆れたように溜息をつく。
澄彦さんは苦笑いをして「離れのこと?」と聞くので私は首を横に振って否定した。
それにしても澄彦さんも離れの捌きに問題があると思っていたのね。
「美憂の西での生活について聞いていて疑問に思った事がいくつかあって。話が長くなりそうなんですけど良いでしょうか」
二人は目を合わせて、それから同時に頷いた。
私は頭の中を整理しながら話し始める。
「美憂は清藤の血を残す者として施設から引き取られたそうです。それ以来清藤で暮らしていて。それで」
二人の視線を受けつつ、私は考え込んだ。
違う。これは必要な情報ではない。
「すみません。結論から言うと、清藤の黒幕って亜門なんでしょうか。私は違うように思います。でも誰かって聞かれると、ちょっと突拍子もないけど……」
「主門。もしくは次代の都貴(とき)」
口籠った私に代わり、玉彦が口を開いた。
驚いた私をよそに、澄彦さんも玉彦も全く動揺していない。
もしかして気が付いていないのは私だけだった?
「どうして……」
「根拠はない。だが、二人揃って行方知れず。狗にも追えぬ。遺体も見当たらぬ。生かしてどこかに監禁されている可能性もあるが、清藤の主である主門がそう易々と亜門にしてやられるとも思えぬ」
「そうなんだよねー。そこが引っ掛かるんだよねー。で、比和子ちゃんは根拠あるの?」
「それは……。次代がいるのに美憂がいたこと。多門が正武家と関わりを持ってしまったこと。最後に私の眼です」
「さてさてこれは面白い流れになってきたぞ。二人とも。着替えてすぐに本殿へ。ここでは全てが筒抜けだ」
ウキウキし始めた澄彦さんは楽し気に座敷を出て行く。
本殿は限られた者しか入られない。
それに声が漏れにくく、誰かが中を窺っても聞こえない。
立ち上がった玉彦の後に続き、私も腰を上げた。
廊下に出ると玉彦が私に手を差し出したので、強く握る。
翌朝。表門にて。
黒い着流し。腰には黒鞘の太刀。
いつもと違うのは、白い羽織だけ。
石段の下には、宗祐さんだけが待つ。
「ここで待ってるから。だから」
「必ず戻る。今生の別れでもあるまい。そのような顔をするな」
玉彦は困ったように笑って、私の髪を梳く。
昨晩、私たち三人は本殿で、なぜか御倉神も参加して話し合った。
正直御倉神は冷やかし半分で、正武家のお役目ではない物事には興味がないようだった。
そこで決められたのは、玉彦の西入り。
多門もあれから何度も訪れて手掛かりとなるものを探していたけれど見つけられずにいた。
しかし玉彦であれば、対象が空に浮かんでさえいなければ山神様のお力である程度感じることが出来る。
鈴白でならかなり正確に把握できるけど、西の地はそうもいかないらしい。
でも本当の狙いはそこではない。
正武家次代の不在。
そこが重要だった。
前回正武家内での出来事は、玉彦の不在中。
当主か次代の不在時に、清藤が動くと予想された。
そこで澄彦さんが鈴白に残り、玉彦が外へ出ることになった。
尤もらしい理由を付けて。
だったらなぜ遠くの西まで行かなくてはならないのか、近場でも良いんじゃないかと思ったけれど、すぐに駆け付けられる距離だと警戒するだろうと澄彦さんは答えた。
もう二度も失敗している。
流石に三度目は慎重にならなければ馬鹿だと笑った。
そして玉彦が不在時に、鈴白を含む五村の範囲で清藤を迎え討つ陣が敷かれることになった。
正武家のお屋敷を中心に円を描く。
その円の外側五か所に護石《ごいし》があるそうで、それらを線で繋ぐと星が出来上がる。
普段はあまり作用はしていないそうで、今回その護石を目覚めさせるそうだ。
その役割は本殿の巫女の役割なのでどうやら香本さんの出番となりそうだった。
陣が敷かれるとどうなるのかというと、正武家の人間のお力が陣内に流れ込み、禍を陣内に封じ込めてしまうそうだ。
入り込んできたモノは出られなくなり、そこをどうにかするらしい。
ちなみによく玉彦が言う小さなモノは陣内では勝手に消滅してしまうらしい。
とりあえず私が玉彦から聞いた説明はこれくらいで、後は顛末記を読み込んで自分で調べろと言われてしまった。
清藤がこちらの動向を見定めるまでに二、三日は掛かるだろうからと。
ついでにそれを調べてお屋敷で大人しくしていろというのが彼の本音らしい。
「では、行ってくる」
「いってらっしゃい……」
「……土産は甘いものを買ってこよう」
「そんなの買ってる場合じゃないでしょ」
「土産を考えるほど余裕があるということだ。ではもう、行くぞ」
繋がれていた手が解かれて、そのまま私に振られる。
石段を下りてゆく背中を見送り、何とも言えない気分になった。
玉彦は一度も振り返らずに、行ってしまった。
お役目に向かう正武家の人間を送り出した人たちは、みんなこういう気持ちだったんだろうな……。
今回はお役目の範疇ではないとしても、同じだと思う。
頬っぺたを両手で叩いて、気合を入れ直す。
玉彦が西で頑張るなら、私だって鈴白で頑張らなくてはなのだ。
表門を通り抜けるとそこには稀人の二人が待っていた。
頭を下げる彼らの横を歩き、振り返る。
「次代は不在。けれどすべきことは沢山あります。よろしくお願いします」
そう言って懐に仕舞っていた青紐の鈴に手を当てると、揺らしてもいないのに三回鳴る。
この鈴を必要とする距離に離れてしまったけれど、大丈夫。
またすぐに絶対に会える。
私は取り出した鈴を大きく四回鳴らした。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる