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第一章 がっこう
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しおりを挟む近付くとその橋の不思議さに首を捻る。
長さは大人の足で二十歩程度。
巾は二メートルほど。
車は通れない。
木造で作りが脆いから。
ここまでは普通かもしれない。
橋は、田んぼのど真ん中にあった。
普通橋は、向こう側からこちら側へと渡す為に架けられている。
でもこの橋はそこを渡らなくても、下を歩いて行き来出来てしまう。
これは一体……。
私が玉彦を不審な目で見れば、彼は須藤くんを見る。
須藤くんは観光案内板でも読んでいる様に説明を始めた。
「この鈴白小橋は、遥か昔鈴白の田畑に都から移築されました。えーと、この橋は廃神社の御神木を使って造られた大変罰当たりな代物で、迂闊に渡ると怪我をしたり、死にます。正武家では御神木の祓いを行い、鎮めの効果は橋の塗装の剥がれ具合でわかります」
どこのどいつが御神木を橋にしたんだろう。
なんて罰当たりな。
そしてこんなものが普通に田んぼの中にあるってどうなのよ。
流石に意味が無いから渡ろうとする人はいないだろうけど。
須藤くんの説明が終わり、玉彦は橋の欄干に手を当て、口元を隠して何かを呟いている。
しばらくすると、玉彦が触れていた部分の朱色になった木の皮が手に吸い付くように剥がれる。
須藤くんはそれを玉彦から受け取ると、白い布で包み背中の袋へと入れる。
「え、もう終わり?」
「今日はな。何ヵ月訪れても剥がれ落ちない時もある。今日は日が良いようだ」
玉彦は満足げに橋を見上げて笑う。
塗装が剥がれれば剥がれるほど、後世に残すお役目が減る。
そんな感じの笑顔だった。
次の松の祠はそこからすぐだった。
立派な赤い屋根の祠にはお花などのお供え物が沢山あった。
毎日数人の誰かが詣でている、そんな感じ。
「ここは数年前に建てられた松の祠で、んーと、あれ?」
「ここには年老いた猫が眠っている」
説明に詰まった須藤くんに代わり、玉彦が続けた。
「昔から村に居る猫でな。どこの家にも現れては餌を貰い可愛がられていた。百年ほど」
「え、猫ってそんなに長生きするの!?」
「みなこの猫はどこかの家で飼われているんだろうと思っていた。だからふらりと現れては餌をねだる猫にまた来たかと思い、数年後に現れた時にはその猫の子供だと思っていた。ちょうど比和子が来たあの四年前の秋口。この猫は正武家の石段に鼠を持って現れた。父上曰く、最後の恩を返しに来たそうだ。そして息を引き取った。父上は猫との約束通り、ここに祠を建て祀った」
「約束って?」
「先代当主はこの猫が化け猫になる前に殺そうとした。が、父上が化け猫にならず普通の猫で在るならば生きよと命じた。それからこの猫は普通の猫として生きた。本来なら化け猫にも猫神にもなる資格があったのにだ。人を深く愛していた猫だと聞いている。ゆえに父上は神として祀った」
玉彦は静かに手を合わせ、祈る。
新しい名もなき猫神に。
この神様もいずれは正武家にお力を貸してくれるようになるのだろう。
少し長めの祈りが終わり、玉彦が裾を払うと、須藤くんが次はスズカケノ池へと案内してくれる。
昨日の夜玉彦から鈴彦の話を聞いていたお蔭で、須藤くんの説明では涙を浮かべる程度で堪えることが出来た。
もしかして玉彦はこれを見越して私に話聞かせたのかもしれない。
そして鈴彦と感動の対面と思いきや、彼らは玉彦が何やら呟いても現れてくれなかった。
どうやら新顔の須藤くんが居て警戒しているらしかった。
これもまた数回重ねれば現れてくるだろうと玉彦は気にもしていなかったけれど、須藤くんは残念そうだった。
続いて山の中に入り、産土神の隠れ社へは玉彦一人で向かった。
隠れ社は正武家の直系にしか場所は明かされておらず、また立ち入りも禁忌とされている。と須藤くんが待っている間に教えてくれた。
「玉彦、遅いね」
「南天さんの話だと、長い時には一時間くらい掛かるって言ってたよ」
どういう意味の一時間なんだろう。
往復一時間なのか、隠れ社で足止めされて一時間なのか。
玉彦の口ぶりだと、隠れ社は山の中で移動しているみたいだったけど。
時計を見ればまだ十分くらいしか経っていない。
待つことに飽きてきた私たちは雑談を始める。
「上守さん、部活決めた?」
「文学部に入ろうかと思って」
「そうなの? てっきり弓道部に入るのかと思ってた」
「いや、さすがにそこまで玉彦にべったりじゃ気持ち悪いでしょ」
「そう? 僕的にはいつも二人でいてくれた方が安心」
「安心?」
「玉彦様と居る限り、上守さんは護られるから」
須藤くんはにっこり笑う。
それは私が玉彦と居れば安全ってことなんだろうけど、私の安全を思ってくれる須藤くんはやはり香本さんが言っていた通り、私の信者なのかもしれない。
「でもさ、ちょっと一緒に居過ぎかなって最近思うこともあるのよ」
寝る時まで一緒だとは言えないけど。
「え、いいじゃん。親が認めてくれているんだから一緒に居れば」
「……馬鹿ップルに見えない?」
須藤くんはそこで大爆笑した。
そこまで笑うってことは、そう見えていたのか。
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