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第三章 くじょう
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しおりを挟む南天さんが立ち去り、私は部屋の明かりを消した。
明朝六時。ということは四時半くらいに起きて、用意すれば間に合うかな。
てゆーか豹馬くんの家に九条さんがいるのだろうか。
そもそも豹馬くんの家がどこに在るのか、知らない。
鈴白村にあるのは確実だけど。
お布団に入って色々と考える。
九条さんのこと。神守の眼のこと。これからの私のこと。
考えれば考えるほどドツボに嵌って、うんざりした。
「……比和子」
「ん?」
ずっと黙っていた玉彦が、私の眉間の皺を指先で擦って消そうとする。
「明日は学校を休むぞ。九条の話がどのくらいになるのかわからない」
「うん……。そう言えばずっと気になってたんだけど、前に澄彦さんが不在の時って玉彦、お屋敷から出られなかったよね?」
四年前の夏休み。
玉彦は夏休み前から澄彦さんが不在の為に学校を休んで、お屋敷にいた。
なので、休みがちな玉彦の為に南天さんが家庭教師をしていた。
「あの頃はまだ半人前だったからな。この屋敷を中心としておかなくては五村を感じることが出来なかったのだ。今はもう、五村の範囲ならばどこにいても大体の異変は感じられる」
「じゃあ、鳴黒の鬼の敷石の時って……」
「父上も俺も関知していた」
「そういうので、蔵人がどこにいるとか判らないものなの?」
「小物過ぎるものは難しい」
それは身体が小さいということなのか、脅威が小物過ぎるということなのか。
どちらにせよ蔵人を見つけるのは自力になるのかぁ。
「ふーん。ということは玉彦は一人前になったんだね」
「……父上から言わせればまだ半人前だろうな」
「そうなの?」
「お前と話しているといつもこの方面の話になってしまうが、跡継ぎをつくり、人の親になって一人前だ」
「……そうなんだ」
「おい、俺は何かを含んでこう言っている訳ではない。勘違いせぬように」
月明かりだけなのに、やけにはっきりと玉彦の真剣な顔が見える。
「わかってるってば」
眉間を擦り続けていた玉彦の手首を掴み、降ろす。
彼が半人前なら私もまた。
その半人前以前の私には一人前になる前にまだまだ知らなくてはならないことが一杯だった。
早朝。
南天さんに送られて訪れた御門森の家に私は衝撃を受けていた。
てっきり正武家のような日本家屋のお屋敷だと思っていたら、すっごいオシャレな平屋のデザイナーズハウス。
薄紫の屋根はクジラの背中のように緩やかなカーブを描き、壁は真っ白。
いや、壁というかそこには大きな窓ガラスばかりで、夏の日差しが入り込むとめっちゃ熱くなりそう。
朝だからかブラインドが下げられている。
無駄に土地だけはある田舎だから、この平屋の奥行きがどこまであるのか玄関先からでは判らない。
そして私は次にもっともっと、たぶんここ数年で一番の衝撃を受けた。
三人で玄関前に行くと、チャイムを鳴らす前に三十くらいの女の人が出てきた。
純日本風の和装が良く似合う綺麗な人で、南天さんに軽く会釈をした後しなりと頭を下げる。
「主人がいつもお世話になっております」
え、主人って。
今の御門森の一番偉い人は宗祐さんだ。
宗祐さん六十近いのにこんなに若い奥さんがいるの!?
南天さんや豹馬くんのお母さんにしたら年が若すぎるから後妻さんなんだろうか。
狼狽えていると今度は中から小学校低学年くらいの男の子が走ってくる。
まさか、この人との間にも子供がいるのか宗祐さん。
男の子は慌てて靴を履き、玄関前に飛び出してくると嬉しそうに南天さんに飛びついた。
「お父さん!」
……お父さん?
いま、南天さんをお父さんって呼んだ!?
思わずよろめいて玉彦の二の腕にぶつかる。
南天さんは男の子を抱え上げて、ニコリと笑った。
「妻の紗恵と息子の竜輝(たつき)です」
「南天さん、結婚してたんですか!?」
だっていつも正武家のお屋敷に居て家に帰っている素振りなんて全く無くて。
奥さんとか子供の話なんて一切してなかったし!
私の驚き様に苦笑する南天さん。
玉彦はあきれたように溜息をついた。
「南天は御門森の跡取りだぞ。三十も越えて子供が居なかったら困るだろう」
「いや、だってそれにしてもだよ!? 全然南天さん家に帰れてないじゃん! 正武家ブラック企業過ぎるでしょ!?」
「ブラッ……お前。南天が帰られないのは誰のせいだと思っているのだ」
「あんたでしょ!」
「お前だ、馬鹿者。正武家に客人が来ている間、稀人は屋敷にいるしきたりだ。前の夏休みも今回の夏休みも。それに鈴白で厄介事がある時もだ。何事も無く通常ならば父上が宗祐と外へ出ている今は南天はあまり正武家にはいない」
その後私は南天さんに平謝りした。
私が正武家にいる間、いつも南天さんがいたのでそれが当たり前に思っていた。
では南天さんがいない時、玉彦のお世話は誰がしていたのかというと本当の住み込みの松梅コンビだそうだ。
でも夏休みに私は一応正武家の一員になったのだから帰宅できるのではと思ったけれど、蔵人の件が終わっていないので離れられないとのこと。
なんていうことだ。
全部全部、玉彦の言う通り私のせいだった。
ショックに打ちひしがれた私は無言の玉彦に手を引かれ、南天さんに案内されるがまま九条さんが待つ部屋へと通された。
お蔭で覚悟を決められないまま、私は御門森九条、先先代の稀人その人と対面する羽目になった。
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