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第三章 くじょう
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しおりを挟む「そうでしょうとも。彼らにその意識はない。けれどこの五村の地は正武家が永遠に在るようにそうなるようにあろうとする。だからこれから訪れるその時に、必要となる神守の眼を再び呼び起こした」
ぞわりと鳥肌が立つ。
異常過ぎる稀人の数、惚稀人の出現、そしてあと数年で迎える正武家の隆盛。
極め付きに神守の眼の発現。
玉彦が拳を握りしめて不安視していた何か。
全てのピースが徐々に填まりつつある。
私は視えてきたこの自分の眼を正直疎ましく感じていた。
出来れば視えないようにしたいって。
その方法を九条さんに教えてもらおうって。
でも……。
「さて、今日はどのようなご用件で?」
九条さんは私を試すかのような質問をして、口角を上げる。
きっと視えなくしたいと言えば彼はその方法を教えてくれるだろう。
でも……。
「神守の眼の限界を知りたいと思います」
「では僭越ながらこの御門森九条、稀人最後のお役目として請け賜わりましょう」
「よろしくお願いします」
私は深く深く頭を下げた。
玉彦、私のこの判断って間違ってた?
でも私だって正武家の一員になったんだ。
護られるばかりじゃなくて、少しでも役に立ちたいよ。
九条さんが語ったこれから訪れるその時ってやつ、その時に私は玉彦を失いたくない。
私はその時に隣にいて、絶対に玉彦を護るんだ。
何があっても絶対に。
豹馬くんが言っていたように、盾になって。
玉彦は私はぺらっぺらの紙だと言っていたけど。
九条さんに師事出来れば、画用紙くらいにはなると思うよ。
それから私は九条さんとずっと話をしていた。
彼は私が生まれてから今までの人生を知りたがった。
出来るだけ詳しく、どういう経験をしてその時どう感じたのか。
特に四年前のあの夏の出来事。
玉彦との出逢いから始まった夏休み。
九児から白猿、御倉神まで。
自分で語るあの夏の私は、客観的に見て本当に子供で、突っ走っていた。
感情の赴くまま、喜んだり怒ったり困ったり泣いたり悲しんだり。
鈴白村でいうところの数えで十三歳。
その年は私の子供としての集大成だったと思う。
「わかりました。大層面白く拝聴しました。さて、そろそろ今日のところはお開きにしますか」
「え、もうですか?」
まだ今の私の時まで話し終わっていない。
玉彦と離れていた空白の四年。
そして再び訪れた鈴白村でのこと。
九条さんはおもむろに窓へと目を向ける。
つられて私も同じく見れば、もう夕陽が窓ガラスに反射していた。
「夕方……?」
朝の六時から夕方の十七時。
私と九条さんは飲まず食わずで向かい合っていた?
喉も乾いていないし、お腹も空いていない。
「楽しい時間はあっという間に過ぎるというでしょう?」
「それにしたって十一時間ですよ!?」
「きっとわたしが切り上げなければまだまだお話が出来たでしょうね」
「私、まだまだ全然いけます」
もっとこの人と話をしていたい。
聞いてもらいたい。
「わたしがもっと若ければお相手出来ますが、なにせもう年でしてね。君とわたしの眼を交わしながらどれほどの集中力があるのか試させていただきました。これならば大丈夫。きっと自身の眼を使いこなすことが出来るでしょう」
九条さんは立ち上がってよっこらせと腰を伸ばす。
「続きはまた今度伺いましょう。次はいつにしますか」
明日にでも!と答えたいけど、私には学校がある。
学校が終わった後に速攻で九条さんのところへ来ることは可能だろうか。
玉彦は私が心配だから側に置きたがっているけど、自分にも何かが出来ると分かった今、出来るだけ早くこの鈴白にいる間にどうにかしたい。
「急ぐことはありませんよ。わたしはまだ死にません。そうですね。正武家の当主が帰還されたら本格的にいらっしゃい。それまで一つ、宿題を出します。いいですか?」
「はいっ」
私はバッグに入れていたスケジュール帳を開く。
宿題ってどんなものだろう。
「もし不可思議なものを視たり感じたりしたなら、決して眼を逸らさないこと。見極めなさい。そうすれば恐れはなくなる」
「あの、もしそれらを視て襲われそうになったらどうすれば良いんでしょうか?」
学校で視たあの這い寄るものを直視するイメージをしてみる。
黙って視ていたら追いつかれて、どうにかされちゃうと思うんだけど。
「ははっ、面白いことを言いますね。君がしているのは眺めてるだけです。神守の眼で視るのですよ」
「それはどうしたら……。質問ばかりですいません」
「そうですね、ではこれから視てみましょうか。どの様な力が発現するのか興味があります」
九条さんはテーブルの隅に置いてある赤いリボンが付いた呼び鈴を三度鳴らした。
するとすぐに部屋のドアが開き、制服姿の豹馬くんが来る。
「お呼びですか」
「鈴は呼ぶために鳴らしています」
九条さんの言葉に豹馬くんは視線を横に一瞬流す。
きっと舌打ちをしたかったに違いない。
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