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第三章 くじょう
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しおりを挟む「次代をここへ。それとお前も一緒に居なさい」
「わかりました」
音も無くドアが閉められ、九条さんは私に向き直る。
「あの二人には実験台になっていただきましょう。君に悪意を持っていない二人ですから、案外すぐに視えると思いますよ」
「でも二人は人間です。何が視えるんでしょうか」
「それはY軸に伸びた神守の眼のどの力が強く作用するかによりますね。大丈夫。いざとなればわたしが居ます」
「はい」
「一つ、相手から眼を逸らさないこと。二つ、集中すると視る対象以外の周りの物が歪みます。気にせず視続けなさい」
「はい」
「三つ、視えたものは心の中にしまいなさい。必要な情報だけ口にしなさい。四つ、視ることを終える場合、深く息を吸いこみ、大きく一度柏手(かしわで)を打ちなさい」
「わかりました」
私は九条さんの言葉をメモに取り、反芻する。
彼らなら私に襲い掛かって来ないし、落ち着いて視ることができる。はず。
「来ましたよ」
九条さんが呟いた五秒後、緊張した面持ちの二人が部屋に入ってくる。
「次代はそこに座っていてください。豹馬、そして君もこちらへ」
部屋の入り口付近の何もない壁に立たされた豹馬くんから三メートルほど離れて向かい合う。
緊張する。
そう言えば豹馬くんは眼鏡を掛けているけどそのままでも私は視えるのかな。
「そこから何があっても動いては駄目ですよ、豹馬。もし動いたら、軽蔑します」
子供っぽいことをいう九条さんに私が苦笑いすると、豹馬くんは頬を引き攣らせた。
「では、始めましょうか」
九条さんの言葉を合図に、私は豹馬くんを視据え集中する。
彼も私から視線を外さずに見返してきた。
瞬きはすれど、彼の眼の一点だけを視続ける。
集中すればするほど豹馬くんの周りが次第に白く、ぼやけてくる。
不思議な感覚だ。
周りは動いてもいないのに、すごいスピードで流れていく。
でも何も動いてはいない。
それからしばらくして豹馬くんの額辺りに白い光の点が出来始め、それがだんだんと大きくなる。
大きくなるというか、私がそれに段々と近付いて行っている感覚だ。
白光が限界まで大きくなり、私は包み込まれる。
その中で私は、黄色の光に包まれたうずくまる豹馬くんを視た。
駆け寄り肩を叩く。
すると彼はニヤリと笑って、立ち上がり私の肩を叩いた。
「柏手(かしわで)!」
九条さんの怒声が腹の底に響き渡り、無意識のうちに手を打つ。
すると一瞬にして視界が元に戻り、前を見れば汗だくで両手両膝をつく豹馬くんがいた。
一体どうなっていたんだろう。
息を調えた豹馬くんは私を見上げ、ニヤリと笑う。
「そう易々とオレの中には入れてやんねぇぞ……」
「面白くないですね、豹馬。少しは協力したらどうですか」
九条さんの冷ややかな視線に豹馬くんは眉を顰めて文句を言うのかと思ったら、素直に謝る。
ゆっくりと無言で立ち上がった玉彦が豹馬くんに手を貸しソファーに座らせる。
そしてさっきの豹馬くんの位置に立つ。
「次代、宜しいですか」
「良い。私は比和子に何も隠すものはない」
「良いお覚悟ですね。見習いなさい、豹馬。ではもう一度」
先ほどの手順で私は玉彦を視据える。
果たして彼の中には一体何が視えるんだろう。
白光が私を再び包み、その中に。
薄紫と白い光が玉彦を包んでいた。
胎児の様に丸くなり、ゆらゆらと浮いている。
手を伸ばして触れようとすれば、眠っていた彼は目覚めて私を引き寄せ離さない。
暖かい。すごく暖かい。
心地よい腕の中で眠気に襲われる。
僅かに玉彦の口が動く。
声になっていないけど、何を伝えたいのかダイレクトに伝わってくる。
そうかここは心の中。
視えていた光は、その人が纏う命の光。
この中では誰も嘘がつけない。
「柏手!」
九条さんの声が聞こえる。
でも、私、ここから出たくないなぁ。
玉彦と一緒にいたい。
グイッと首根っこを掴まれ、一瞬にして現実に引き戻される。
私は九条さんに強制的に視ることを解除された。
一種のトランス状態から解放され、前のめりに倒れそうになれば玉彦の腕が私を受け止めた。
「大丈夫か、比和子」
「あ、うん……。大丈夫」
自力で立ち上がろうとしても身体に力が入らない。
よろけてもう一度玉彦の腕に収まる。
「やっぱり大丈夫じゃないかも……」
腕に縋り付き目に触れると、そこだけ熱い。
瞼を閉じると眼球がジンジンとする。
これが本当に視るってことなんだ……。
「九条。彼女は」
「放って置けば落ち着きます。では二人は退出願います」
「この状況で退出すると思うか」
若干怒りを含んだ玉彦の声音に怯む九条さんではなく。
「退出せよ、次代。それとも過保護は父親譲りか」
それはさっきまで私と会話していた柔和な九条さんではなく、厳格な稀人。
澄彦さん以外に玉彦に命令し、頭から抑え込む人を初めてみた。
一瞬にして無表情になった玉彦は、私を抱えてソファーに降ろす。
そして一礼するとまだふらつく豹馬くんを連れ退出した。
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