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第四章 はじめて
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しおりを挟むひゅるるると夜風が私の足元を吹き抜ける。
少しだけ湿っているから、夜中に雨が降るのかもしれない。
「玉彦、部屋に入ろう?」
無言で玉彦は立ち上がって先にお布団に入ってしまう。
どこのスイッチを押して拗ねてしまったのか、見当もつかない。
ライトスタンドを枕元へと移動させ、雨戸と障子を閉める。
ほんのりと暖かいお布団にもぐり込み、うつ伏せで読書を再開させる。
……隣からの視線がビシバシ痛い。
「一緒に読む?」
「そんなものに興味があると思うか」
誘ってよくよく考えれば、学校の七不思議なんて目じゃないくらい正武家のお役目は不可思議な訳で、玉彦にとって当たり前の世界、しかも彼曰く小物過ぎるものをわざわざ知る必要はない。
七不思議に出てくるようなものは、所詮玉彦に触れてしまえば消えてしまうのだろう。
だがしかし。それでは困るのだ。
私が成長するために、玉彦にはもしもの時の尻拭いを図々しくもお願いしたい。
虎の威を借る狐と罵られようとも!
正武家のお力の無駄遣いだと謗られようとも!
「そう、わかった。じゃあ別にいいよ。おやすみ」
「……おやすみ」
「ま、須藤くんとか豹馬くんとか香本さんと何とかするし。いざって時には御倉神呼ぶから」
「……おい」
「須藤くんは視えないから手でも握って一緒に七不思議を探検すれば良いし」
「……比和子」
「そんでもって、澄彦さんが帰って来たら相談に乗ってもらうんだー」
「……」
「おやすみ、玉彦。良い夢みろよ」
「まったく……。人を焚き付けるのだけは一人前なのだな」
「……ふふん」
勝ち誇って玉彦をみれば、呆れて半眼になっていた。
「御倉神は呼ぶな。須藤に触れる際には一瞬で良いだろう。父上には相談などするな。そういう事に首を突っ込みたがるからな」
「で?」
それらを私がしないとして、玉彦は何をしてくれるの? と暗に迫ってみる。
「俺が色々と担えば良いのだろう?」
私と同じ体勢になり肩を寄せてきた玉彦の頬に、よくできましたとキスを一つ。
会報誌に目を落とした玉彦の頬は紅潮している。
馬鹿みたいに欲望丸出しで迫って来る時もあるくせに、こういう些細なことで照れてるなんて純情かっ!
逆に私も照れてしまうわ!
お互いに照れ合いながら、会報誌を教科書を開いた時の様に一緒に捲る。
「これでは六不思議ではないのか」
私と同じところに突っ込みを入れる玉彦。
やっぱりそう思うよねぇ。
声に出さずに読み進めて、私と玉彦は顔を見合わせる。
たぶん同じことを思っている。
七不思議が六不思議になってしまった理由。
会報誌には本来なら美山高校には七つの不思議があったのだけれど、十年前にその内の一つがとある事件の為に消失してしまった。と書かれていた。
会報誌の発行は十五年前、その十年前ということは、今から二十五年前。
私のお父さんと、玉彦のお父さんの澄彦さんが美山高校に通っていた時である。
もしかしなくてもあの二人が事件を起こしたに違いなかった。
「あのさ……」
「……今に始まったことではない」
玉彦はさっさと次のページを捲る。
すっごく気になるけど、詳しいことはあまり書かれていなかった。
ただその事件のせいで、グラウンドの片隅に在った七不思議の一つ、『走る二ノ宮金次郎の像』が失われたらしい。
あの二人、お祖父ちゃんの家の庭に落とし穴を作ってみたり、二ノ宮金次郎の像をどうにかしたり、一体どんな高校時代を送っていたんだ。
そんなことを考えていたら、先に読み進めていた玉彦が会報誌の二番目のところを指差す。
「お前が遭遇したのはこれだな」
言われて指先の部分を読めば『トイレの用務員さん』とあった。
思わず顔を顰めてしまう。
あれは用務員『さん』と呼べるほどフレンドリーでもなかったし、女子トイレに出没するなんて変態だ。
それにどうしてあんな色で、上半身だけだったのか。
「その昔美山高校は水洗トイレではなかった。昔の用務員さんが清掃の為に便器を洗っていたところ落ちてしまう。這い上がろうと何度も試みたが無理だった。その内力尽きて肥溜めの中で死んだ。……くだらん」
要約して読み上げた玉彦は鼻で笑って、私を見下げる。
お前、本当に七不思議を信じているのかと。
「でも、どうして用務員さんは未だに現れてたんだろうね……」
ぶっちゃけ言ってしまえば、自分の不注意で死んでしまったのだ。
それをうら若き乙女が用を足している時に現れなくても良いと思うの。
「お前……あれが用務員に見えるのか」
「え、違うの?」
「あれは人だったものではない。いや、一応は人と呼べるのか……」
玉彦は自問自答して納得する素振りをする。
あれが人でなければなんだというのだろう。
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