私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第五章 ひょうま

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 確実に私と玉彦の関係が変わった土曜日。
 あの時、次の日学校が休みの日って約束をしておいて良かったと痛感した。

 正武家にお世話になっている間、土日に自分の洗濯物を自分で洗っている。
 だって下着とか見られたら恥ずかしいし。
 何から何まで南天さんにお世話になるのは正直気が引ける。
 それに自分の家に居た時にも自分で洗っていたし、そんなに大変ではない。

 明け方にようやく眠りについた私たちは大寝坊したけれど、南天さんが部屋に呼びに来ることも無く、午前の日差しが暑くなってきた頃にもぞもぞと動き出した。

 お風呂へ入る前に洗濯機を回して、ゆっくりと湯船に浸かる。
 湯にひたる身体を撫でれば、昨夜のことを思い出して頬が火照る。
 世の中の大人たちはあんなことをして、平気なんだろうか。
 あんな、恥ずかしいこと。

 今朝は玉彦と顔を合わせるのが恥ずかしくて、さっさと服を着てシーツを引っ剥がして来てしまったけれど、あんなことが続いたら私の身が持たないよ。
 それにお股もじりじりするし、身体も変なところが筋肉痛だ。
 覚悟していた痛みというものがあまり無かったのだけが救いだけど。
 でも経験済みの通山の女友達はみんなすんごく痛いって言ってたのに、私はそうでもなかったな。
 一応、色々と時間をかけて優しかった玉彦のおかげなんだろうか。

 お風呂から上がって、洗い上がった洗濯物を籠に移せばシーツを手にして赤面する。
 うん、きちんと落ちている。

 籠を抱えて部屋に戻ると、もうそこに玉彦はいなくホッとする。
 きっと私と一緒でお風呂に行っているんだろう。
 あーもう、どんな顔をして会えばいいんだ。
 この時ほど一緒に暮らしていることを恨めしく思うことはなかった。
 そしてそんな私の思いをよそに、玉彦はそのあとすぐに正武家を訪れた来客を相手にお役目に関わる仕事をしていて、夕餉の時まで顔を合わせることはなかったのだった。





「明日、父上が帰って来るそうだ」

 そう玉彦が教えてくれたのは夕餉が終わり、お膳を下げた台所で南天さんのぷるぷるゼリーをデザートにしていた時だった。
 思いの外玉彦は普通でいつもと変わりなく、安心した。

「連絡来たの? 予定より早くない?」

「事が順調に運んだらしい。一年くらい行っていれば良いものを」

 冗談とも本気とも思える言葉を口にした玉彦に、南天さんが意外そうな顔をする。

「ご連絡は玉彦様の方に?」

「先ほど電話が来た」

「左様ですか……」

 南天さんは顎に手を当てて少し考えてから、ゼリーを頬張り至福の時を味わっていた私に片眉を上げる。
 それが何を意味しているのか解らなくて、とりあえずニッコリしておく。

「では明日のご予定は澄彦様へと引き継がれますか?」

「午前は俺になるだろう。午後からは父上で構わない」

「かしこまりました。ではそのように」

 一礼した南天さんを残して台所を出た私たちは、とりあえず廊下で別れた。
 どうせまた枕を持って部屋に来るんだろうけど、二日連続は絶対に断るぞ。

 部屋の座卓の上に紙を広げて鉛筆を垂直に立てる。
 紙には『ポスター』と『鏡』と書いてある。
 この鉛筆が倒れた方向に月曜日に視に行く。

「入るぞ」

「え?」

 不意にスパンと襖が開けられて、指先で支えていた鉛筆が倒れる。
 あ、『ポスター』だ。

「何をしている」

「月曜どっちに行こうかと、鉛筆倒して決めてたんだけど」

 私の手元を覗き込み、玉彦は呆れてこちらを流し見る。
 まだ諦めていなかったのかと。
 そうだ、まだ玉彦に二人が協力してくれること話していなかったんだ。

「玉彦ー」

 押し入れを開ける背中に話し掛ける。
 ちゃっかり枕も持ってきているし、お布団も敷き始めているし。
 心なしか機嫌が良さそうにも感じる。

「豹馬くんたちが協力してくれることになったんだー」

 故意なのか不意なのかお布団をばさりと落とす。
 振り返り私をみて、また動き始めた。

「それでね、うーん。まだお父さんにはお願いしてないんだけど、玉彦にもお願いがあってさー。いや、澄彦さんにお願いした方が良いのかなぁ」

「なんだ」

 素早く敷き終わったお布団に横になって、ポンポンと隣に来いと叩くので寄って行って正座する。
 洗い髪に触れれば猫の様に目を細めた。

「実は協力してくれるために条件があって、飲んだんだけど」

「アイツらからか?」

「うん。あのね、十一月末まで美山高校に在学してくれって」

「十一月などと言わず、卒業までいれば良い」

 やっぱり豹馬くんが予想していた通りのことを口にした玉彦に苦笑してしまう。
 彼は幼い頃から玉彦のことを良く知っているから、多分こう言い出すこともお見通しだったのだろう。

「とりあえず十一月末まで」

「相分かった」

 了承した玉彦は私の二の腕を掴み、引き倒した。
 よろめいて胸に倒れ込むと、私が逃げないように抱き込む。

 こっ、この流れ。
 今夜は無理、絶対無理。

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