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第五章 ひょうま
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しおりを挟む「やだ。やだー。離せ馬鹿玉」
「いつもしているだろう」
言われてみればそうだけど、この先に何があるのか知ってしまった手前、温もりを堪能しながら眠りにつけるとは思わない。
無理矢理腕の中を擦り抜けて、毛布に包まる。
どうだ、これなら手をだせまい!
そんなに恨めしそうにこっちを見たって、こっちにだって拒否権はあるはずだ。
睨み合っていると、二人の間でスマホが鳴る。
着信音は私のではない。
玉彦が面倒臭そうに座卓に置いていたシルバーの自分のを手に取ると耳に当てる。
玉彦が電化製品を使っている!
しかも壊すことなく!
「なんだ……いらぬ……どうでもよい……帰って来るな!」
どうやら相手は澄彦さんの様で、散々な返事だけをしている。
大方、お土産どうするー?とかスマホの向こうで言っているのだろう。
しかもこのタイミングって狙っている様にしか思えない。
だってもうお土産屋さんなんて閉まっているだろうし、翌朝でも差し障りはないのだ。
電話が終わり、玉彦は静かにスマホを置く。
そして疲れたように瞼を閉じて目頭を押さえた。
「澄彦さん?」
「あぁ父上だった。土産がどうのと宣っていた」
「私、甘いものリクエストしたかったなー」
澄彦さんは何故、私に言ってこなかったのだろう。
いつもならそういうことは反応が悪い玉彦ではなく私に言ってくるのに。
「土産よりも南天が作る甘いものの方が断然美味い」
「そりゃそうだー」
再び横になるものの、今度は私に迫って来ない。
澄彦さんの声を聴いて、玉彦的な言い方だと萎えてしまったのだろう。
「そういえば、スマホ壊れないね」
普通はそんな簡単に意味不明な故障はしないけれど、玉彦の場合は別だ。
スマホを始め、パソコンは勿論のこと、デジタル時計は時間が狂うし、機嫌が悪ければテレビにノイズが走る。
特に電子レンジは顕著で、その使用を南天さんからきつく禁止されていた。
「そうだな……。揺らぎが落ち着き始めたのだろう」
「へぇー。随分急に落ち着くんだね」
「それは、まぁ……。本日の役目も調子が頗る良く捗った。このような力の安定は初めてだ」
「良かったじゃん」
心からそう思えた。
だってあのまんまだったら、車の免許だって取れなかったはずだ。
玉彦が包まる毛布ごと私を引き寄せ、一拍置いて剥がしにかかる。
必死に抵抗をしていると、耳元で玉彦が囁く。
「揺らぎが安定したのはお前を抱いたからだ」
「へっ?」
間抜けな声に抵抗する力が一瞬緩んでしまい、クルクルと悪代官に帯を解かれる町娘のように毛布が取り除かれた。
そういうことをすると安定するって、おかしくない!?
部屋の入り口にあるスイッチではなく、腕を伸ばして電気を消した玉彦は有無を言わさずに覆いかぶさる。
「ちょっと! 今日はほんと無理!」
「つれないことをいうな」
「やだ、無理、馬鹿じゃないの!?」
「そうだ。俺は比和子に馬鹿になっている」
「肯定したって無理なものは無理!」
私の強い口調にパジャマの裾から侵入していた手が胸のところで動きが止まる。
「どうしてそんなに嫌がる。昨夜はあんなにも……。何か不手際があったか?」
真顔で質問されても、そんなの、何が不手際なのか判らない初心者にきかれてもわかんないよ。
「比和子」
理由を言えと迫るように呼ばれ、顔をそむける。
やめてよ、もう。
私だっていっぱいいっぱいなんだ。
蔵人のことや神守の眼のこと。
いくら玉彦が居てくれたとしても、新しい生活にまだ馴染むことに精一杯で学校の事だって勉強に付いて行けるか不安だ。
平気なフリをしていたけど、私なりに必死で頑張ってる。
なのに、そんなことされたら全部がどうでもよくなってしまう自分が嫌だ。
背けていた顔を恐る恐る戻すと、しょんぼりした玉彦が眉をハの字にさせていた。
「……すまない。急ぎ過ぎてしまったようだ。明日からはもう共に眠ることが出来なくなる。せめてこのままでも、駄目か?」
明日には澄彦さんが正武家のお屋敷に帰って来る。
そうなれば無暗に私のところで彼は夜を過ごせない。
親同士が認めている間柄でも、流石にこうも頻繁だと叱られてしまう。
「このままだったら、良いよ……」
私の最大限の譲歩に玉彦は安堵の溜息をつく。
仰向けになって腕で目を隠す仕草。
きっと自己嫌悪しているんだ。
玉彦は悪くないのに。
そう考えるととても自分が我儘に感じてくる。
気持ちの切り替えが出来ないのは、自分のせい。
どうでもいいと思ってしまうのは、自分をコントロール出来ていないから。
「玉彦……ごめん」
「気に病むことはない」
こちらを見もせず呟く返事に胸が締め付けられる。
あぁもうどうしたら良いんだろう。
後悔は後からすればいいし、とりあえず私らしくあるべきだ。
玉彦の揺らぎを落ち着かせる事が出来るのならばと思ってしまえばと考えるのは、言い訳だろうか。
「……玉響きみ」
「……然もありなん」
私が詠ったものを思い出し、返事をした玉彦は口角を上げる。
彼の目を隠す腕を押さえて、唇を重ねてみる。
「もし私がどうしようもなく溺れたら、責任取りなさいよ」
「……その覚悟はとうの昔に出来ている」
「あ、あ、明日からは無理だからね。土日の約束は守ってよ?」
「……承知した」
これで良かったのかと自問自答しても答えはまだでない。
玉彦の隠されていた目元が露わになり、三日月を描く。
「比和子……」
伸ばされた指が私の髪に潜り込み、引き寄せられる。
「もう一度、お前から……」
お願いされて、恥ずかしくなって額にキスを落とすと、玉彦は一瞬きょとんとしてからはにかんだ。
「初めて比和子にされたのも額だったな」
「あ、うん。そうだね……」
「これからはもう額ではなく、口づけを所望する」
そう言った玉彦は私の腰を抱きしめて、自分と私の身体を素早く逆転させると、覆い被さった。
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