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第六章 せいどう
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しおりを挟むお風呂に入って心機一転、玉彦にしっかりと上書きをしてもらった私は、張り切って竜輝くんと希来里ちゃんが待つ離れへと向かった。
玉彦は次に鈴が鳴れば何を置いても必ずすぐに駆けつけると約束し、私の居場所は離れの台所近くの部屋にあると確認してから立ち去った。
清藤の人たちが予定よりもかなり早く到着をしてしまったらしく、お迎えの準備にお屋敷全体が乱されている。
「竜輝くーん、希来里ちゃーん!」
四畳半の座敷の襖を開けば、二人揃ってテレビを観ていた。
私は背後から二人を抱きしめ、頬をすりすりする。
無垢な子供に癒され、私はさっきの事などすっかりと忘れた。
「おねいちゃん、お絵かきしよー」
「しよーしよー。竜輝くんは?」
「僕もお付き合いします」
小学二年生のしっかりとした口ぶりに、私は二度見してしまった。
ミニ南天さんがここにいる!
しかも常磐色の作務衣がまた可愛らしい。
「え、竜輝くん。普通の話し方で大丈夫だよ?」
「いいえ。おと、父から惚稀人様には失礼がないようにと言われました」
「そうなの!? でも、今日は希来里ちゃんもいるし、普通に行こうよ。私からのお願い。ね?」
「わっ、わかりました」
恐縮する竜輝くんの肩を叩けば、にっこりと笑った。
私と玉彦の間に跡取りが出来たら、竜輝くんがその子が接する最初の稀人となる。
まだ全然未来の話だけれど、もう既に御門森では竜輝くんに稀人としての行いを求めている。
シビアだな、と感じる。
現代の日本でそれを強いてしまうことが。
私は鈴白村を訪れるまで、こんな世界があるだなんて思っても見なかった。
限られた世界で生きている自分にとって、外からやって来た私はセンセーショナルだったと豹馬くんは鬼の敷石で語っていた。
少なくとも次男の彼は違う道を選ぶことが出来たはずだったけれど、稀人となった。
どうして?
選択肢があるなら、もっと違う事も出来たはずだったのに。
「おねいちゃん! お絵かき!」
考え込んでいた私は希来里ちゃんの声に引き戻される。
「あ、うん。お絵かきしよう!」
テーブルに画用紙一杯広げて、クレヨンで太陽を描きこめばそこには果てしなく広がる世界がある。
限られた世界でも、願わくば未来が明るくありますように。
私の弟のヒカルは泣き虫の甘ったれだけど根性だけはある。
一つこれと決めたらとことん納得がいくまで終わらない。
そんな彼を見て、お父さんは研究者に向いているといっていた。
そして同じ遺伝子を持つはずの希来里ちゃんはとても飽き性だった。
お絵かきを始めて三十分後にはかくれんぼをしようと言い出す。
確かに、このお屋敷には隠れるところがいっぱいだ。
鬼が気の毒になってしまう程だ。
普段なら二つ返事だけど、今日は来客がある為にそう簡単には行かない。
ぐずり出す希来里ちゃんを竜輝くんが宥めて、じゃあ探検ごっこにしようと提案する。
希来里ちゃんはすぐに頷いて竜輝くんの手を握る。
ようするにあれだ。
この部屋に希来里ちゃんは飽きてしまったのだ。
だから竜輝くんは部屋から出れば良いだけだと解って、探検ごっこを勧めてくれたのだ。
グッジョブ、竜輝くん。
君の背後にもお父さんの南天さんと同じ後光が見えるよ。
で、部屋から出たのは良いけれど、私たちの探検は台所近くで足止めをされていた。
廊下にあった新聞紙の上に並べられたじゃがいもたちが、二人には犬やら猫やらパパに似ているそうで一つずつ眺めては名前を付けている。
その様子が面白くて可愛くて、そしてそのじゃがいもに似ていると言われた人たちはどう思うのかと気になって、私はポケットに入れていたスマホで動画を撮る。
「これねーおねいちゃん!」
差し出されたじゃがいもを見れば、少し小さくまん丸。
「これは豹馬お兄ちゃんかな?」
竜輝くんが手にしていたのは、中くらいだけどそら豆のような形のじゃがいも。
こっ、これは本質を言い当てている!
斜に構えた性格の豹馬くんの様に少し曲がっている!
そして二人とも一番大きいじゃがいもを指差して、お父さんだと声を揃えた。
「これね、玉ちゃん!」
「あ、僕もそう思う!」
希来里ちゃんの手の中には形の良い、如何にもじゃがいも!って感じのが乗せられている。
この動画を見せたら、玉彦は笑いを堪えて口元を歪ませるだろうなー。
色々なことを考えながら、私はスマホの画面越しにその様子を見ていた。
なので凄く視界が狭くなっていたのだと思う。
画面越しに二人を映していたら、一瞬左手側を見た竜輝くんが希来里ちゃんに覆いかぶさった。
そして黒い影が横切り、二人はすごい音を立てて画面からフェードアウトした。
なに?と思う間もなく、右腕に走った衝撃に私も吹っ飛ばされる。
廊下に倒れ込んで滑るスマホの方を見れば、竜輝くんと希来里ちゃんの方へと足を蹴り上げようとする黒いスーツの巨漢な男の背中がみえた。
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