私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第六章 せいどう

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 一時間後。

 正武家当主の間には、当主の澄彦さんを始めとするいつもの面々に加えて、今回の騒動の当事者である清藤の人たちが座敷の後方三列になって頭を下げている。
 先頭に清藤主門。二列目にその息子たちである双子の亜門と多門。そして三列目にはその付き人二人。
 当主である澄彦さんの後方に稀人の宗祐さんが控え、右手側に玉彦と私と南天さん。
 そして反対側には竹婆と後方に豹馬くんと須藤くん。
 香本さんは当主の間の誰よりも一番後ろで全体を見ていた。

「皆の者、上げよ」

 澄彦さんの感情が籠っていない声に、全員が頭を上げた。
 私は玉彦の少し後方で、視線を下げて周りを見ないようにして、畳の紋縁だけを見ていた。
 泣き過ぎて瞼が熱を持っていたので、重かったっていうのもある。
 それに亜門の顔を見れば、私はきっとまた冷静ではいられなくなる。

「言祝ぎの儀を夕刻に予定していたが、些末事では済まされないものがあった故、皆を集めた。これより正武家澄彦の赦しなく物申すことは叶わぬ。よいな?」

 場が静寂に包まれ、微かに衣擦れの音がしたので、同意の一礼がされたのだろう。

「清藤亜門。前へ」

「……はい」

 不貞腐れた返事に、澄彦さんは厳しく叱責する。

「清藤亜門。下がれ。礼節を弁えぬ者に弁明の余地は与えぬ」

「畏れながら、澄彦様」

「主門、発言を赦さず」

 息子を庇おうと進言しようとした父親の言葉を澄彦さんが遮る。
 いつも緩い感じで進める澄彦さんとは思えない厳格さ。
 須藤くんのお母さんと問答した時よりも、澄彦さんの威圧感が半端ない。
 これが本来の当主の間での会合なのだろうか。

「三度目は無い。清藤亜門。前へ」

「はい」

 私の視界に微かに亜門の影が入り込み、顔を上げれば、澄彦さんの二段下に亜門が正座している。
 お互いに真っ直ぐ見据えて、目を逸らさない。
 と思っていたら、亜門が視線を下げる。

「先ほどの暴挙と呼べる行いの詳細を語れ」

「私はお手洗いを探し、廊下を歩いておりました。すると廊下の端から子供らが走って私に当たり、倒れたのです。それを後から見たそちらの付き人の女性が何を勘違いしたのか私に眼を使ったのでそれを避けるために、掴みかかった次第でございます」

 こっ、コイツ!
 いけしゃあしゃあと嘘を付きやがって!

 思わず腰を浮かしかけて、澄彦さんにじろりと睨まれ座り直した。
 隣を見れば、息子を傷つけられた南天さんが口を引き結んでいる。
 たぶん竜輝くんから聞いた話と、今の話が違いすぎるからだろう。

「子らが足に当たっただけで、あのような怪我になると思うか?」

「私には判りかねます」

「そうか。では子らはおらぬ故、もう一人の者にも話を聞くとするか。比和子、前へ」

「はい」

 多分呼ばれるだろうな、とは思っていたけど出番が早かったな。

 私は亜門から離れて正座する。
 横目でこちらを見た亜門は、私を睨み付けたけど、怖くないもん。
 だってここに皆いてくれるし、万が一私に何かしようとすれば今度こそ澄彦さんや玉彦が黙って居ないだろう、と他力本願な私。

「では比和子よ。先刻の詳細を語れ」

 私は深呼吸をして、出来るだけ冷静に当主の間にいる全員に聞こえるように声を出した。

「先ほどは、竜輝と希来里と台所前の廊下にて、じゃがいもを見ては名前を付けておりました。そこへその方がいきなりやって来て、問答無用で希来里を庇う竜輝を蹴り上げました。その次に私を蹴り、剰え暴挙を止めようとした私を左腕で振り払い、その隙に希来里の頬と竜輝を蹴ったのです。私は二人を庇い、思わず眼を使い……殴ってしまいました。そのあとのことは玉彦様が駆けつけられましたので周知のことと存じます」

「ふむ。亜門よ。お前が語るものと比和子が語るものに随分と相違があるが、これはどういうことだ?」

「そちらの付き人の女性の嘘か思い違いだと思います」

「そうか、比和子の嘘か思い違いか。では彼女に出来た右腕と背中痣に覚えはないと?」

「ございません」

 言い切った亜門に私は大きく溜息をつく。
 悪い嘘ってさ、絶対にばれるんだよ。

「比和子、これ如何に?」

「はっきりと申し上げれば、その方は嘘を付いています。すっとこどっこいのクソ野郎だと思います」

「ふむ。少々口を慎め、比和子。さてここで二人の証言が一致しているのは、比和子が眼を使い、亜門が彼女の首に掴みかかったことだけか」

 澄彦さんは口元を扇子で隠し、考え事をしている。
 長考してようやくぱたんと扇子を閉じる。

「では少し話を変えるか。清藤主門。此度の亜門が仕出かしたことを何とする」

「故意ではなかったにしろ、子らに怪我をさせてしまったのは事実でございます。ゆえに治療費等々は当家にて負担させていただきたく」

「それは良いが、かなり高くつくぞ?」

 澄彦さんの言葉に、父親の主門が眉根を寄せた。
 どうやら双子の弟の多門は父親似であったらしく、息子と同様に目が細めで身体はしゃなりとしている。
 ても弱々しい感じではなく、しなやかな鞭を連想させた。

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