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第十三章 そうぼう
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しおりを挟む「澄彦様!」
「澄彦殿!」
宗祐さんと竹婆から同時に声が上がった。
「なんぞ場替えに異議があるか?」
澄彦さんは後ろに控えていた宗祐さんではなく、右斜め前方に座っていた竹婆に笑いかけた。
「玉彦殿の惚稀人様を妻にとおっしゃるのか!」
「そうだ。何も問題はあるまい。比和子が十八になる年に祝言を執り行う。良いな? 次代」
その問い掛けに玉彦はただ黙って低頭した。
「なんと愚かな……!」
竹婆は絶句して、隣にいた香本さんに支えられた。
私は澄彦さんが言った事よりも、玉彦が黙って従った事がショックだった。
私ってやっぱり、玉彦にとってただの惚稀人だったんだ……。
あんなに好きだって、愛してるって何度も囁かれて夜を過ごしてきたのは、単なる捌け口だったのか……。
正武家のお役目の為に、お力の揺らぎを制御するための。
……あの夏。
彼は待っていると言ってくれた。
そして、この夏。
私の予想よりも早い再会だったけれど、お互いに同じ想いで恋焦がれてた、と思って、た。
でも。
……でも。
その答えを知る憎たらしい位に綺麗な姿勢の玉彦の横顔は冷たく、造り物のようだった。
一切揺るがない視線はただ一点を見つめ、私になんか目もくれない。
正武家に不必要な騒動を巻き起こす惚稀人は不要、なのだろう。
そう思ったら、なんだか全てが馬鹿らしくなってきた。
なんなのよ、この茶番。
全部夢だったんじゃないの?
「ふっ、ふふ。馬鹿みたい……」
私は膝の上に作った握り拳に涙を落とした。
もう今日は何度泣いてるんだろ。
「そう、比和子は馬鹿である」
澄彦さんは楽しそうに扇を閉じて私を差した。
私はその仕草にでさえ、くだらなさ過ぎて笑えてきた。
「比和子はとんでもない馬鹿であるが、悪い者ではないのだ」
「……ありがとうございます」
「そう、例えば次代が一大事の役目に一人で出向いたと勘違いをして追い掛けるような馬鹿なのだ」
「ちょっ、澄彦さん……」
「例えば次代の代で何かがあると思い、神守としての立場を受け入れ、盾になろうと考える馬鹿なのだ」
「止めてください……」
「例えば頬を打たれようとも、それでも正武家に在ろうとしていた馬鹿なのだ」
私、多分人生で初めてこんなにも馬鹿って面と向かって言われた気がするわ……。
しかも必死で隠してたことまで暴露されるし。
「ちなみに次代はそれに輪を掛けた大馬鹿者で、そのような惚稀人を手放そうとしている。ならばこの澄彦、貰い受ける。私であれば泣かさず悲しませず、慈しむ。男としての度量が違うからな。こんなにも真っ直ぐに恋情を寄せることの出来る比和子を手放すことはしない。今は辛かろうが、その想い私に寄せろ、比和子。必ずこの澄彦が幸せにする」
澄彦さんはそういうと立ち上がって、私の前に片膝をついた。
そして見たことも無い男の人の顔をしていた。
「来い。閨へ行く」
「えっ? ねやって?」
私は手を取られて半ば引き摺られるように奥の襖へと進む。
振り返ると、玉彦はずっと目を閉じていた。
「お待ちください!」
そう言って立ち塞がったのは、宗祐さんと南天さんだった。
「あまりにも無体です」
二人は私たちの前に傅いて、その先に行かせまいとする。
澄彦さんは苛立たし気に片眉を上げた。
「阻むこと、赦さず。三日三晩奥の間へは誰も近づくな。私も比和子もそこからは動かぬ。さて久しぶりに夜伽を楽しむこととするか。比和子は惚稀人。この先もずっとここに在り続けることが出来る。何とも愉快なことよ」
澄彦さんは高笑いをして私を軽々と抱き上げると傅く二人を跨いで当主の間を後にし、あのファンシーな奥の間の天蓋付きのベッドへと放り投げた。
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