私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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第十三章 そうぼう

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 奥の間へと連れられて四日目。

 ようやく私は部屋から出ることを許された。
 その間ずっと澄彦さんと一緒だった。
 怠い身体で朝餉の座敷に座ると、久しぶりのまともな食事に喉が詰まる。

「ゆっくり食べなさい、比和子。喉を詰まらせて死ぬよ」

「解ってます。お茶を飲むから大丈夫です」

「さて本日私は溜まりに溜まった役目をこなす」

 澄彦さんは黙々と食事をする玉彦に予定を言えと促すと、彼は無表情で学校とだけ言った。

「比和子は?」

「私はお休みします」

「そう。じゃあ、時間が空いたら部屋に行くから」

「わかりました」

 お箸を置いて、小さく息を吐く。
 澄彦さんは宣言通りに三日三晩ずっと私と二人きりで過ごして、私は疲れ果てているっていうのに、彼には全く疲労の色がない。
 澄彦さんは早々に座敷を出て、私も後に続く。
 部屋を掃除しとかないと。
 南天さん、手伝ってくれるかな。

 襖を開ける手前で足首を掴まれて見下ろすと、前を向いたまま腕だけを伸ばしている玉彦がいた。

「どうしました、玉彦さん」

「学校へはもう、行かぬのですか。比和子様」

「そう、ですね。もう必要もなさそうですから。その件については澄彦様とお話をして決めることになると思います。では、失礼します」

 私は手を蹴るように振り解いて、襖を開けた。
 心が痛まない訳じゃない。

「比和子……」

「もう、そんな呼び方が出来る間柄ではないでしょう?」

 後ろ手に襖を閉めて、私は涙が零れ落ちないように上を向いて歩いた。

 こんな風に玉彦と接する日が来るだなんて考えた事もなかった。
 近くに居ても、遠い。
 すごく、遠い。
 玉彦は一体、何を思って私の名を呼んだのか。
 私を澄彦さんの下へと黙って行かせたのに。
 今さら、もう何もかも手遅れなのに。
 当主がそう為れば良いという思惑が走り出してしまった今、次代の玉彦が何を願おうと結果は覆らない。

 私は部屋に戻って、床に散乱している顛末記を時代ごとに並べ直した。
 狭いくせにこんなに散らかるって、一体どういう事よ!
 私が今いるところは澄彦さんの奥の間ではなく、以前家出をした時に逃げ込んだあの窓もない四畳半だ。
 澄彦さん、時間が空いたら来るって言ってたし、早く何とかしないと。

 慌てていても片付くはずもなく、私は混乱を極めていた。
 そこへ四日ぶりとなる南天さんが、襖を静々と開け、頭を下げていた。

「あっ、南天さん!」

「澄彦様より奥の間ではなく、こちらと伺いましたので」

「入って、入ってください。そして手伝って!」

 なぜかどんよりしている南天さんを部屋に招き入れ、私は辺りを見渡してから襖を閉めた。

「これは……?」

 南天さんは部屋の顛末記が散らばる惨状に立ち尽くしていた。

「今ね、澄彦さんにみっちりと正武家のこと仕込まれているんです。で、今この水彦の……」

「比和子さん、あの……?」

 あ、そうだった。
 南天さんには無理だからバラしておけと言われてたんだ。

「もう一回だけ! 私、玉彦に当たって砕けてみます!」

「え、あの……?」

「だから、全部澄彦さんの三文芝居だったんです! そもそも私のお父さんが澄彦さんとそんなことになるなんて許しません!」

 南天さんは力が抜けたようにしゃがみ込んで、本当に大きな大きな溜息をついた。
 私はそんな彼の肩に手を置いて、頷くしかなかった。

「共犯者は誰ですか?」

「今のところ澄彦さんと南天さんだけ!」

「比和子さん、当たって砕けてはいけないと思います。砕けないでください」

「そ、そうですね……」

「一体どういう計画なんですか」

「逃がした魚は大きいぞ!作戦です」

「もう、そのまんまですね……」

 南天さんは呆れかえりながらも、笑顔になって共犯者になってくれた。

 待ってろよ、玉彦。
 私は勘違いしない立派な正武家の人間になるんだから。

 あの非常識な夜。
 澄彦さんは奥の間で一晩掛けて、私にお説教をした。
 そして正武家の人間としての心構えを私に教え込んでいなかった事を痛烈に後悔していた。
 冷静になり、手放してしまったものの大切さに気が付いた玉彦が、私を必ず奪還しに来ると言い切った澄彦さんは、それまでに私を立派な正武家の人間に仕込むことを宣言したのである。
 それとは別に当主として澄彦さんには別の思惑があるらしく、玉彦が私から離れる状況が好ましいらしい。
 てゆーか、自分の父親の女になった惚稀人を玉彦が奪還しに来るのか疑問ではあるけれど、私にはその道しか残されていなかった。
 私を神守の者と線を引いてしまった玉彦が、その線を乗り越えてきてくれるのか。
 何者であっても好きだと言ってくれた彼を信じるしかなかった。

 でも、でも……。

 玉彦の冷たい横顔を思い出して、胸が潰れそうになった。
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