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第十三章 そうぼう
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しおりを挟む「な、なんでそうなるのよ!」
「何処の誰であろうと想いは変わらぬ。例えお前が神守だとしても私は変わらぬと以前にも伝えたはずだ」
「じゃあどうして私が澄彦さんに連れていかれた時に黙ってたのよ!」
玉彦は言葉を詰まらせて、私から視線を逸らせた。
「比和子が父上を拒絶せぬから、そちらを選んだのだと……。ならば事案が解決するまでは父上の庇護下にと……。しかし解決後には……と考えていたのだ。けれど日が経つにつれ、己の判断が間違っていたのではないかと感じ……」
沸々と怒りが沸き起こる。
そうだった。
玉彦はそういう人間だった。
私を正武家に巻き込みたくないからって、もう会わないとか言っちゃう人間だった。
自分のことよりも、私が一番安全で笑っていられることを優先しちゃう人間だった。
玉彦の中では澄彦さんのところが安全だって考えたんだ。
私は玉彦の両耳を掴んで引き寄せると、思い切り頭突きをかました。
「この馬鹿玉が! ほんっとあの時から何にも変わっていないんだから! そこは何が何でも私を取り返しなさいよ!」
「しかし、あのとき比和子の安全を第一に考えれば……」
「玉彦にとって私ってそんな簡単に澄彦さんにあげられちゃうものだったの!?」
「馬鹿なことをいうな! だが……」
「だが、とか、しかし、とかもういい! 玉彦はどうしたいのよ」
「比和子に戻ってきてほしい」
「やだ」
私は腕組みをして、部屋の天井の隅を見上げた。
そこには小さな、澄彦さんの奥の間の天井にある月が貼られていた。
私の答えに、玉彦は勿論のこと、澄彦さんも目が点になっていた。
「戻ってきてください」
「敬語で言っても、やだ」
「戻れ」
「命令しないで」
とことんヘソを曲げてる私だけど、そんな言葉が欲しいんじゃないんだってば。
まず戻って来いとか言う前に、大事な言葉があるんだってば。
たった一言。
それに気が付いている澄彦さんは、寝転びながら二本目の煙草を燻らせた。
「頑張れー、息子」
「黙れ。そもそもどこぞの馬鹿が比和子を妻にするなどと言い出して場を引っ掻き回したのが原因なのだぞ!? 大人しく謹慎の沙汰を下しておけば、その間に比和子と話し合いの席を設ける事が出来たはずなのにだ!」
「だーかーらー。それじゃ駄目だろ。一時の感情に流されない判断力を持たせてやろうと父はだなー」
「黙れ」
玉彦は必死に考えている。
眉間に皺を寄せて、口元を手で隠して。
白い着物でその格好をすると、これから払いを行う玉彦の様だった。
澄彦さんが言っていた『一時の感情に流されない判断力』とは多分、自分の苦い経験を踏まえての話だろう。
その昔、若かりし澄彦さんが私のお父さんに言ってしまったこと。
『稀人成らずば五村に足を踏み入れること赦さず』だったっけ。
暫くそうしていて、さっぱり事態が進展しないので私はもう疲れてきた。
そんなに考え込むほどのものではないのに、人間関係に鈍感な玉彦には相当な難題のようだ。
「澄彦さん、私、部屋に下がります。おやすみなさい」
「え、この息子どうすんの?」
「知りません」
私はそう言って澄彦さんの私室に玉彦を残して、あの狭い四畳半の部屋へと戻った。
それから。
しばらく。
散らかり放題の畳の上に寝転がり、目を閉じると思わず笑みが浮かぶ。
廊下を走る足音が遠くから、近づいて来ているのがわかった。
美山高校学校祭最終日。
私は粉雪が降る中庭の特設ステージで、演歌を熱唱していた。
クラス対抗歌合戦の決勝の三人に残った私は審査員に先生たちも加わると聞いて、急遽曲を変更したのだ。
本来なら女装喫茶の面々を後ろに従えて踊りながらと考えていたけれど。
男子たちは皆ブーイングしていたけれど。
私は歌い終わって、大満足でステージを降りた。
そこを出迎えてくれたのは、盛りに盛った鬘を被ったケバイのになぜか美しいキャバ嬢の須藤くんと学生服の亜由美ちゃんだった。
真紅のロングドレスのスリットから覗くスラリとした筋肉質の足は、なぜかエロかった。
「上守さん、どうして珍島物語……」
須藤くんは笑いを堪えて私に透明な傘を差し出す。
「だって審査員の点数が欲しいじゃないの」
「そうだけど、珍島物語……」
どうしてか彼の笑いのツボに嵌ってしまったらしく、珍島物語と呟いては一人で笑っている。
「比和子ちゃん、何でも歌えるんねー」
「バイト先、カラオケ屋さんだったからね。お客さんいない時に歌って良いって店長が許可してたから」
「カラオケ屋さん、行ってみたいなー」
そう言って笑った亜由美ちゃんを私は二度見した。
もしかして行ったことないのだろうか。
このご時世で。
「亜由美ちゃん、冬休み一緒に行こう? 通山の私の家でお泊りしてさ!」
「うん!」
「あっ、僕も!」
「え、やだ。亜由美ちゃんと那奈と香本さんで女子会にする」
「げっ。じゃあこの格好なら参加しても良いよね?」
須藤くんはくるりくるりと回って営業スマイルを作る。
可愛かったけれど、私は許可しなかった。
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