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第十三章 そうぼう
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しおりを挟む大入りだった学校祭も終わりに近づいて、私は入場客に紛れ込んでいた多門と合流をした。
そしてこっそりと屋上へと移動して、日が暮れるのを待っている。
黒いスーツを身に纏い、コートを肩に掛けていた多門は制服姿で寒さに耐えていた私にそれを貸してくれる。
「ありがと」
「どういたしまして」
多門は長い髪をきっちり後ろで結んで、傍らには既に黒駒を一匹だけ侍らせていた。
表情は厳しく、ざわざわと感じる犬外道の気配に苛立っている。
微かに校内放送が聞こえ、学校祭のクラス展示などの大賞が発表されている。
そんな中、我が特進クラスは最優秀賞に輝いていた。
校舎から歓声が響いて、私は思わずガッツポーズをする。
この喜びをあそこでみんなと分かち合いたかったなぁ。
そして残念ながら私のカラオケの順位は二位だった。
優勝したのは、あの福田先輩だ。
何だかムカつく。
クルクルと百面相をしていた私を見て、多門は微妙な笑みを浮かべていた。
「なによ」
「えー、楽しそうだなって。これからお役目があんのにさ」
「それとこれとは話が別」
両手で頬を軽く叩いて表情を引き締めて真面目な顔をしたのに、多門は笑ったままだ。
「これ、終わったら西へと帰るんだって?」
「うん。帰るよ」
「どうして断ったのよ」
多門は私を犬外道から救った夜、宗祐さんに抱えられて表門を通り抜けた。
それはこの五村の地が、正武家が彼を稀人だと認めた瞬間だった。
その時には誰もそのことに気が付いていなくて、後からそう言えばとなったらしい。
後日澄彦さんから直々に稀人の誘いを受けた多門は、首を横に振った。
澄彦さんは、それを良しとした。
本来なら多門が断れないように下知を下すことさえ出来たというのにだ。
「今後の清藤の為。次期当主の姉は身体が弱いんだ。だから子供は産めないかもしれない。だからオレ達双子が生まれた。姉がこければ、次期当主は亜門だ」
「げっ」
「亜門は頑丈だから、次の世代を残すだろう。オレは教育係になるよ。間違った考えを持たないように。清藤は必要があるからここに居るって教えるつもり」
多門は私を見て、照れくさそうに下を向く。
「本当はここの居心地が良過ぎて、居たいけど。オレが生きる場所はここじゃないんだ。それにオレが狗にしてきた子たちの供養もしなきゃだしね」
「そっか……。ずっと昔だったら、多門が次期当主になれていたのにね」
昔は後に生まれた方が、双子の兄になると玉彦は教えてくれた。
私が残念そうに呟くと、多門はニヤリと笑った。
初めて会った時の様に太々しく。
「当主なんてなりたくない。下っ端の方が好きに動ける。ここへも遊びに来られる」
「その時はケーキでも作って歓迎会をしてあげるわ」
「うん。でも、比和子ちゃん、その時鈴白に居るの?」
「いるわよ。何言ってんの」
「だって、次代とまた揉めるんじゃないの?」
「だとしても、ここに私はいる。そう決めてるから」
私は冷やかす多門を受け流して、校舎の屋上から沈んだ夕陽の橙の名残を眺める。
学校祭の終わりが宣言されて、グラウンドには疎らに帰途へ着く生徒が見えた。
もうすぐ夜が来る。
正武家次代の本領が発揮される闇夜が。
ざわりざわりと足元から気配が濃くなっていく。
屈伸運動をして最後に大きく伸びをした多門が、隣の黒駒を一撫でする。
「さぁ、正武家様の御出座しだ」
私はその時、走る二ノ宮金次郎の像があった辺りに、ゆらりと燃え上がった蒼い炎を視た。
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