私と玉彦の学校七不思議

清水 律

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番外編

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「爺さまは一匹だけ。俺は理由は知らぬがそういうものだと思っていた。しかし、爺さまが亡くなられた年の夏祭り。俺は金魚を持ち帰らなかった。上手く掬えなかったのだ。金魚屋の主は気の毒そうに一匹だけ好きなものを持って帰っても良いと言ってくれたが、俺はそうしなかった」

 いわゆるおまけというやつだ。
 頑張った子に一匹だけ。
 たぶん玉彦のことだから一度では諦めずに何度も挑戦したのだろう。
 でも何回も挑戦して手に入れられなかったって、どんだけ下手くそだったんだ。
 おかっぱ頭の玉彦が浅い水槽の前に座り込み、必死になる姿が目に浮かんで笑ってしまう。
 しかもおまけを貰わなかった辺りが玉彦らしい。
 ものすごく悔しかったんだろうと推測できる。

「そうしたある日のことだ。池にぷかりと金魚が一匹浮いて死んでしまっていた。庭の土を掘り、弔ったのだがその晩にだな、天狗が庭に現れた」

「は? え? 天狗?」

 私は何度も玉彦に聞き返して、南天さんにも二回確かめた。
 天狗ってさ、赤い顔の鼻がぐっと長くて、山伏の格好で高い下駄履いて、手に葉っぱの団扇みたいなの持ってるアレだよねぇ……。
 鈴白村に来て様々な奇々怪々な出来事に遭遇してきたけれど、ここに来てそんなメジャーな妖怪みたいなのが出てくるとは思ってもいなかった。
 この五村にはあくまでも五村に由来する何かが出るとばかり思っていたから。

「夜中におかしな気配に目が覚めた俺は障子の隙間から庭を見た。塀の上に佇む天狗は決して敷地内には足を下ろさなかった。けれどその姿は異形で、幼い俺は驚いた。あのような者を払わなければならぬのかと慌てて着替え外に出れば、天狗は俺を一瞥して……その節くれ立った手から池に何かを放り投げると飛んで行った」

「まさか」

「そう、金魚だった。丸々と太った黒い出目金だ。それからというもの金魚が身罷る度に天狗が現れるようになった。夜中に起こされるこちらとしてはいい迷惑だ。そして俺は気が付いた。池の金魚が十匹を下回るとどうやら天狗が現れて補充をしてゆく、と」

 取り合えず金魚が増えた理由はわかった。
 天狗が補充してくれたんだって。
 でもどうして天狗が金魚を池に補充しなくてはならないのかが意味不明だ。

「なので次の年の夏祭り、俺は金魚を十数匹掬い上げて池に放った。するとやはり天狗は現れなくなった。冬になれば池は雪と氷に覆われるので天狗は現れない。その間金魚は屋敷の中で飼うこととした」

「うんうん」

「そうして毎年金魚を掬い、池に放つのが恒例となっていたのだが、今年の夏祭りは惚稀人願可の儀があり、池を見れば金魚はまだ充分だったので金魚を掬うことはしなかったのだが」

「あー、昨日実は何匹か死んでしまったのよ。ここ何日か暑かったでしょう?」

「そうであったか……。しかし天狗の気配には気が付かなかった」

 昨晩玉彦が気配に気がついていれば、すぐに天狗という答えには辿り着いたのだろう。
 玉彦が首を捻ると南天さんが神妙に一度顎を引いた。

「もしかすると、天狗の代替わりがあったのかもしれませんね」

「代替わりすると気配が無くなるんですか?」

 私の質問に南天さんが答えてくれる。

「天狗も初めから強い天狗ではありません。新参の天狗はまだ玉彦様の関知に触れないほどの小さな存在なのでしょう」

「子供の天狗なんですかねぇ。でも代替わりしてまでここに金魚を補充するって律儀……」

「おそらく、だが。どこぞの馬鹿どもが先代の天狗と何かしらの約束を交わしたのだろう」

 忌々し気に言い放った玉彦は、澄彦さんの母屋の方を睨んだ。
 それから私と玉彦は、私のお祖父ちゃんの家でどこかで持て余した金魚がいる家が無いかと夏子さんに聞けば、数十分後には金魚が十匹ほど集まった。
 夏祭りが終わり、子供たちが掬って来た金魚を飼っていたけれど子供が飽きてしまい親が世話していた子たちだ。
 私たちはその金魚たちを母屋の池に放って、数を数えれば二十二匹。
 これだけいればしばらくは天狗の仕事も減るだろう。
 閑散としていた池は金魚が増えたことで彩が増して賑やかになった。
 明日から餌も増やしてあげないとだなー。
 二人並んで池を眺めていると、水面に夕陽が射す。

「そろそろ夕餉だな。さすがに父上も夕餉の席はとんずら出来まい」

 澄彦さんを問い詰める気満々の玉彦の後を追って、私は母屋へと戻った。
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