錬金術師な転生エルフの自由気ままな冒険譚!

旅わんこ

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第二章

錬金術師ライセンス 2

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「よーっし、錬成開始ぃ!」
 まず、炉に薪と木炭と特製火薬をくべて火をつけ、錬金術師アンドエーレが残した『錬成炉アタノールリアクター』に液体薬剤と各種素材を投入。すべてを混ぜた液剤をボート用オールのような『へら』でかき混ぜながら、リアクターに『アークル』と呼ばれるエネルギーを注入する。
 ――アークルとは、錬金術及び魔法の行使に必要なエネルギー。アークルは『生命因子』から作られ、生命因子そのものをアークルと考える錬金術師や魔法使いもいるみたい。生命因子は人間や動物などはもちろん、顕微鏡で視認可能な単細胞生物までもが持っているエネルギー。水と酸素と栄養素を摂取することで細胞が生きる力に変換してくれるもの。それが生命因子であり、アークルの源。錬金術は、術師が文字通り命を懸けて起こす現象。無駄にできるものは何ひとつない!
 数時間煮込み続け、すべてが溶け込んだ液剤が煮詰まったところでレードルでひとすくいしていくつものビンに詰めてゆく。ラベルには『外傷薬』とあり、ほかにも『気付け薬』『植物毒解毒薬』『総合感冒薬風邪薬』などのビンがあり、アキラは一日かけてそれらを製造した。
 次に取り掛かったのは武器兼狩猟道具の作成。
 アンドエーレ鉄工所製刀身、自家製ガンフレームと六発入り回転式シリンダーとシリンダー軸、ショートバレル、木製のグリップ、カーボンで強化した鋼鉄を加工して作成した鋭い金属部品。これらをビスで組み立て、ようやくアキラが目指す武器が完成した。
「うん、いい出来だと思う。キメラブレード・バージョン2! ……じゃあダサいか。そうだなあ。『トライアタック・アーマメント』。略称『トライアーム』! うん、悪くない響きだ!」
 完成した新しい刀、トライアーム。
 トライの名が示すように、三通りの戦い方ができる。
「まずは竹で試し切り! まずは斬撃!」
 廃材のため安く譲り受けた竹を庭に突き立て、アキラは抜刀して切り裂く。すると竹はつややかな切り口を残して真っ二つに切り裂かれた。
「アークルも込めないでこの切れ味、さすがはアンドエーレ鉄工所の職人さん。見た目も美しく切れ味抜群、そして重さも丁度いい!」
 トライアームの刀身はアキラの顔をしっかりと映し出すほどつややかに輝き、芸術的なまでに美しい曲線を描きだす。鍔から切っ先にかけての刃は一切のブレのない見事な出来で、これが鋭い切れ味を生む。
「次に、打撃!」
 アキラは鞘に納刀し、グリップの先(柄頭つかがしら)にある鋼鉄製で先の鋭いハンマーで打撃を与え、続けて鞘の先にある鋼鉄製の金具で殴打。竹はバラバラに砕け散り、見るも無残な姿となり果ててしまった。
「ラスト、銃撃!」
 グリップ上部にある、フィンガーガードに守られた引き金を引く。鍔の部分にあるシリンダーが回転し、撃鉄が降り下ろされて雷管を叩き、火薬の炸裂と共に銃弾が飛び出す。銃弾は突き立てられた竹の根元を貫通した。
「いい出来! これだったらどんな獣が相手でも負ける気がしない! ……さすがに熊は勘弁してほしいけど」
 その後、アキラは武器の性能を試すべく鹿を生きたまま捕獲し、各種ポーションの効能を実験してレポートにまとめ上げて屠殺とさつして食料にした。実験台かつ食料になった鹿には最大限の敬意を払い、折った角を慰霊碑として工房に飾り鹿を祭った。
「動物での検証は済んだ。あとは人間に対してだけど……」

 翌日。
 アキラは荷車に品質検査提出用ポーションを載せ、完成したトライアームを見せにヴァルの元を尋ねた。ヴァルはその武器の出来栄えに唖然となり、そして愉快そうに笑った。
「いやはや、まさかこんなものを作ってしまうとはね。ゆるやかに湾曲した片刃の剣身を作ってくれと言われた時には何を作る気かと思ったが、なるほど、これは面白い。触った感じ、耐久性も決して低くはなさそうだ。剣、拳銃、鉄槌、それぞれの持ち味をよく発揮できそうだ」
「ありがとうございます。この武器は、わたしに残っているわずかな記憶ある『カタナ』と言う武器をベースに作られていて、そのカタナに拳銃と鉄槌の要素を足した複合武器にしたわけです。……でも、これで人を安易に斬りたくはありません。わたしがこの刃を向けるのは、獣と悪人だけと決めています」
「そうか。よいと思う」
 ヴァルはふっと微笑んだ。
「しかしきみほどの腕の持ち主が鍛冶屋も錬金術師もやらないのはもったいない。どこかでその腕を生かせる場があればよいのだが。あるいは僕が受験費用を捻出するから早くライセンスを取得した方がいいと思うのだが」
「お気持ちはありがたいのですが、ちゃんと線引きはしないと」
 アキラに言われ、ヴァルはそうだねとうなずいて引き下がるしかなかった。
「そう言えば、お父様のジャン・アンドエーレさんは錬金術師としてどんな仕事をなさっていたのですか?」
「そうだな。仕事の内容は幅広かったが、錬金術を戦いに使う人ではなかった。どちらかと言うと薬剤師や医者のような仕事をしていた。錬金術を医療に役立てる、そんなお人だったよ」
「そうですか。工房に残っていた錬金術全書第一巻がすべて薬剤系だったのも、そう言うことなんですね?」
「そうだな。そしてどのポーションも出来がよく、五割以上が王立龍騎兵軍に納品された。残る五割も我が州、特に首都フリードの龍騎兵軍およびその直轄下位組織たる自衛団に、残りがそこそこ繁盛している薬屋に」
「……格差かな」
「ん? 何と?」
「いえ、何でもないです」
 すると、アキラはひらめいた。
「それなら、今はまだお父様が遺した錬金術大全を全部制覇しようとはせず、まずは薬剤や医療に関するものを作ります。そして戦いよりも人々の生活に根付いた錬金術を、わたしの商売にしたいと思います。こんな武器を作っておいてなんですけど、人々に寄り添った錬金術師となることが今の快適な暮らしができる家をいただいたことへのご恩返しとなるでしょう」
「そうか。そう言ってもらえると僕もうれしい。ではこれからも、アキラくんには父の工房を頼むよ」
「はい。必ず失望はさせません」
 しかし、そんなところにあわただしい足音が響き、応接室の扉が音を立てて乱暴に開かれた。
「所長! 急ぎご報告が!」
 現れたのは、アキラも見知った鉄工所の職員の男性だった。
「どうした、ブロウ?」
「リヒトホーフェン中央駅で列車の脱線・横転事故発生!」
「なんだと!?」
「つきましては自衛団主導の下、負傷者の応急処置をする人員が必要とのこと! すでに大勢のボランティアが負傷者の手当てに向かっています。我々は薬や包帯の用意、炊き出しの準備を要請されました!」
「分かった。しかし生産の手を止めるわけにはいかない。鍛冶師及び見習いには現在の業務を続行させ、それ以外の人員をすべて事故現場に回せ! アキラくん、ぜひきみにも!」
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