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Episode 2
守りたいもの、守るべきもの 7
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⚓
翌日。
神奈川県立七橋高等学校、二年A組。
紬は相変わらず誰とも話さず本を読んでいた。
表紙は虐殺もので有名なライトノベル。しかしその中身はいたって平和な異世界スローライフファンタジーである。ハリー・ポッターを読んでいた事実をバカにされた教訓から「こいつ危険な趣味に走ったぞ」と思わせて人を遠ざけるのが目的のようだ。
昼食もまたひとりだった。初めの頃はコンビニで買ってきたパンを自分の机で食べていたがそれすらもバカにされたため、長蛇の列に並んでまで学校のパン購買に並ぶようになった。多くの生徒が利用する学食であれば、かつてのような揶揄を受けることもない。
「高っか……」
コンビニで買えば百五十円程度で済むところ、二百円を超えるパンもある。大きさもさほどないため、二つ買わないと腹の足しにもならないのが実情。ダイエットを心掛ける女子でもなければ、男女問わずふたつは買ってゆく。
ローファーに履き替えて花壇に腰掛けて、合わせて五百円も支払ったパンと自販機のコーヒーを無言で無表情でむさぼり飲み下す。しかも。
――美味しくない。最近具の盛り付けや味付けサボり気味なんじゃないのかな、パン屋さん。こんなのに一個二百円も支払ってるんだ。出費としては痛いな。
――だったら、そうだなあ。誰もやってないみたいだし、朝早く家を出てワイルドメリケンのハンバーガー買おうかな。そっちのほうが絶対に美味しいし、今より割高になってもうなずいて食べられる。
そして包装ビニールと缶をゴミ箱に捨てて教室に向かう。
――学校なんて、地獄だ。
五時間目、体育の授業。
この日の授業は、体育館でのバスケットボールだった。
体育は隣のクラスとの合同で進行し、A組はB組との合同となる。
男女と出席番号順に分かれ、五対五、十分ずつの試合形式で授業は進む。紬は第二戦の出場になり、体育座りで壁際で出番を待つ。
するとそこに、隣のクラスの女子生徒が話しかけてきた。
「ねえ。一青瀬さん、だよね?」
「えっ? ええと、はい。あなたは?」
「忘れたの? 野崎だよ、野崎香苗。友達からはザッキーって呼ばれてる。どうする?」
「ええと、じゃあ今は野崎さんって呼ばせて。私に何か?」
「別に用があるわけじゃないんだけど、少し前までどこまで下手な床屋で髪切ってもらってるんだろうって思ったらいつの間にか可愛くなってて気になってさ。で、昨日見かけたんだよね。アイドルの、えーと、八神映奈ちゃんと歩いているところ。そのあと通りがかりの子供たちの自転車の修理してあげたでしょ」
「えっと、そうだね、したね」
「でさ。一青瀬さんは八神さんとどこで知り合ったの? あと修理とか得意なの?」
「知り合ったって、ええと、先週ストリートライブをやってたのを見て、それで映奈ちゃ、あ、八神映奈さんにワイルドメリケンに誘われて、それでさっきの雑な髪形を指摘されて髪切ってもらって」
「うっそ!? その髪、あの映奈ちゃんに切ってもらったの!? すごいレアなことじゃない!? そんないつの間に親密になったの!? ってワイルドメリケンだよね、今言ったばかりだよね!」
「ええと、そうだね……。それに自転車の修理って言ったって応急処置程度だし、自分ではできないところは自転車屋さんに持っていくのが無難だよね」
「まーたまた謙遜しちゃって。ねえ。今度あたしの自転車も見てもらってもいいかな。ブレーキの利きが悪くて」
「利きが悪い?」
「うん。レバーを思いきり握っても前よりも減速しなくなったんだ」
「それはきっと、ワイヤーが伸びているかブレーキのゴムがすり減ったんだと思う。ブレーキパッドの交換くらいならできるけど、ワイヤーだったら自転車屋さんに……、あっ。試合終わったみたい」
「次はあたしたちだね。よろしく」
「よろしくお願いします」
そして女子第二試合の開始。
スポーツがあまり得意ではない紬は、シューターとして敵陣ゴール前に居座ることに。チームメイトが敵から奪ったボールをすぐさまパスでつないで紬に手渡し、紬はそれを得点につなげてゆくという作戦に出た。紬のチームにバスケットボール部の部員がおり、彼女が立案したものだ。
「と言うわけで頼んだよ、一青瀬さん!」
「はい、がんばります!」
そして試合開始。
B組のチームの中で一番背の高い女子生徒がA組のバスケ部員生徒と対峙しボールを奪い合う。バスケ部員がボールを奪ったところでチームメイトが特攻、パスでつないでボールを紬に託す。
「一青瀬さん!」
「了解!」
だが。
「調子こいてんじゃねえ!」
紬の記憶は、そこで途切れた。
翌日。
神奈川県立七橋高等学校、二年A組。
紬は相変わらず誰とも話さず本を読んでいた。
表紙は虐殺もので有名なライトノベル。しかしその中身はいたって平和な異世界スローライフファンタジーである。ハリー・ポッターを読んでいた事実をバカにされた教訓から「こいつ危険な趣味に走ったぞ」と思わせて人を遠ざけるのが目的のようだ。
昼食もまたひとりだった。初めの頃はコンビニで買ってきたパンを自分の机で食べていたがそれすらもバカにされたため、長蛇の列に並んでまで学校のパン購買に並ぶようになった。多くの生徒が利用する学食であれば、かつてのような揶揄を受けることもない。
「高っか……」
コンビニで買えば百五十円程度で済むところ、二百円を超えるパンもある。大きさもさほどないため、二つ買わないと腹の足しにもならないのが実情。ダイエットを心掛ける女子でもなければ、男女問わずふたつは買ってゆく。
ローファーに履き替えて花壇に腰掛けて、合わせて五百円も支払ったパンと自販機のコーヒーを無言で無表情でむさぼり飲み下す。しかも。
――美味しくない。最近具の盛り付けや味付けサボり気味なんじゃないのかな、パン屋さん。こんなのに一個二百円も支払ってるんだ。出費としては痛いな。
――だったら、そうだなあ。誰もやってないみたいだし、朝早く家を出てワイルドメリケンのハンバーガー買おうかな。そっちのほうが絶対に美味しいし、今より割高になってもうなずいて食べられる。
そして包装ビニールと缶をゴミ箱に捨てて教室に向かう。
――学校なんて、地獄だ。
五時間目、体育の授業。
この日の授業は、体育館でのバスケットボールだった。
体育は隣のクラスとの合同で進行し、A組はB組との合同となる。
男女と出席番号順に分かれ、五対五、十分ずつの試合形式で授業は進む。紬は第二戦の出場になり、体育座りで壁際で出番を待つ。
するとそこに、隣のクラスの女子生徒が話しかけてきた。
「ねえ。一青瀬さん、だよね?」
「えっ? ええと、はい。あなたは?」
「忘れたの? 野崎だよ、野崎香苗。友達からはザッキーって呼ばれてる。どうする?」
「ええと、じゃあ今は野崎さんって呼ばせて。私に何か?」
「別に用があるわけじゃないんだけど、少し前までどこまで下手な床屋で髪切ってもらってるんだろうって思ったらいつの間にか可愛くなってて気になってさ。で、昨日見かけたんだよね。アイドルの、えーと、八神映奈ちゃんと歩いているところ。そのあと通りがかりの子供たちの自転車の修理してあげたでしょ」
「えっと、そうだね、したね」
「でさ。一青瀬さんは八神さんとどこで知り合ったの? あと修理とか得意なの?」
「知り合ったって、ええと、先週ストリートライブをやってたのを見て、それで映奈ちゃ、あ、八神映奈さんにワイルドメリケンに誘われて、それでさっきの雑な髪形を指摘されて髪切ってもらって」
「うっそ!? その髪、あの映奈ちゃんに切ってもらったの!? すごいレアなことじゃない!? そんないつの間に親密になったの!? ってワイルドメリケンだよね、今言ったばかりだよね!」
「ええと、そうだね……。それに自転車の修理って言ったって応急処置程度だし、自分ではできないところは自転車屋さんに持っていくのが無難だよね」
「まーたまた謙遜しちゃって。ねえ。今度あたしの自転車も見てもらってもいいかな。ブレーキの利きが悪くて」
「利きが悪い?」
「うん。レバーを思いきり握っても前よりも減速しなくなったんだ」
「それはきっと、ワイヤーが伸びているかブレーキのゴムがすり減ったんだと思う。ブレーキパッドの交換くらいならできるけど、ワイヤーだったら自転車屋さんに……、あっ。試合終わったみたい」
「次はあたしたちだね。よろしく」
「よろしくお願いします」
そして女子第二試合の開始。
スポーツがあまり得意ではない紬は、シューターとして敵陣ゴール前に居座ることに。チームメイトが敵から奪ったボールをすぐさまパスでつないで紬に手渡し、紬はそれを得点につなげてゆくという作戦に出た。紬のチームにバスケットボール部の部員がおり、彼女が立案したものだ。
「と言うわけで頼んだよ、一青瀬さん!」
「はい、がんばります!」
そして試合開始。
B組のチームの中で一番背の高い女子生徒がA組のバスケ部員生徒と対峙しボールを奪い合う。バスケ部員がボールを奪ったところでチームメイトが特攻、パスでつないでボールを紬に託す。
「一青瀬さん!」
「了解!」
だが。
「調子こいてんじゃねえ!」
紬の記憶は、そこで途切れた。
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