エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

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第1章 幼少期

8話 王子とオシャレ

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 私は父と母に呼ばれて王座の間に来ていた。
 祝い事の時に着る服や装飾が小さくなっていたから少し前に採寸をして、今日は出来上がった品の大きさが合っているかを確かめる試着の日なのだ。試着は時間がかかる上に頼んでいない品も試させられるので私は定期的に訪れるこの日がとても憂鬱だった。


「よくお似合いですよ。レンドウィル王子」


 服の仕立屋が言う。私は楽な格好が好きだと伝えていたのに、仕立て屋は結局母の好みの紐やらレースのついたごちゃごちゃした服を用意してきた。殊更おしゃれに関しては、我が家で母に意見できる者はいないので私は恨むような眼で仕立屋を見るしかなかった。

 母は楽しそうに「あれもいいわね、これも合いそう」なんてデザインがたくさん描かれた紙を一枚一枚確認している。母の思考はもう次の服に向けて飛んでいっているのだ。私がうんざりしているのに気づいたのか、仕立屋はこれが最後の1着ですよ、と言って次のローブを勧めた。

 2時間に及ぶ試着会が終わり、椅子に座って深いため息をつく。


「ぐったりだ。服なんて3着くらいあればいいのに。父上なんか毎日似たような服じゃないか……」
「レンドウィル、聞こえているぞ。それに似たような服が多いが、私はきちんと毎日違う服を着ている」
「似てるなら同じでもいいじゃないですか……」


 ぶつぶつ文句を言っていると今まで黙って空気に擬態していた父が言い返してくる。父も服に頓着しない人なので、なるべく静かにして自分に矛先が向かないようにしているのだ。
 母と注文の話が終わったのか、仕立屋が頭を下げて帰って行く。もちろん別れのお辞儀は王に向けてでもなく、試着した私にでもなく、実権を持った母に向けてだった。


「母上ぇ、やっと終わりですか?」
「あら、まだよ。これから装飾を色々見なきゃいけないんだから。あなたもね、エルロサール」
「ランシェル、私の分はよい」
「あらダメよ。あなたもう200年も同じ飾りをつけているじゃない。流石の私ももう見飽きたわ」
「……好きにしなさい」


 希望は母の楽しそうな言葉に打ち破られた。
 父は自分も着せ替え人形になると察したのかしょんぼりして見える。母に逆らう事はできない、父と目を合わせて2人でがっくりと肩を落としたのだった。


 次に入ってきたのは平たい木の箱を持った男だった。茶色い髪で、エルフの中でも大柄だ。彼は私たちのいる場所に近づく途中で、後ろを振り返ると呼びかけた。


「ジハナ!さっさとせんか!」
「今行くって父上!」


 後からパタパタと走って入ってきたのは"あの"ジハナだった。

 いつもボサボサの髪は櫛を通したのか今日は少しまともで葉っぱも土もついていない。服は動きやすさだけを気にしたようなものが多かったが、今日は城に仕える者が着ているような白いローブ姿だった。
 いつもと違いすぎる姿に思わず笑いそうになるのを必死で堪える。

 父親とジハナは私たちの近くまでくると膝をついて挨拶をする。


「金細工師ヴァーデン、これは息子のジハナでございます。本日はお招きいただきありがとうございます」
「ヴァーデン、ジハナ。よく来てくれたわね。ジハナは初めて会うわね?こちらがエルロサール王、私は妻のランシェル、あなたと同じくらいのこの子はレンドウィルよ」
「レンドウィルです。よろしく」
「ご紹介、ありがとうございます。よろしくお願いいたします!」
「さぁ飾りを見せて」


 母が促すとヴァーデン殿が持っていた木の箱を開ける。中には父の首飾りやローブの紐を止める金具が綺麗に並べてある。

 母はいくつか手に取ると父を立たせて体に当てる。


「これは決まりね。こっちもとても素敵……」
「ランシェル、私のは1つずつあればよい」
「だめよ!あなたがこう言う事にもっと興味を持ってくれればいいのに」
「……お前、自分の飾りはよいのか?」
「意識を逸らそうとしたって無駄よエルロサール。私の分はきちんと定期的に買っているもの」
「む……」


 父と母のやりとりに呆れていると、くすくすと笑い声が聞こえる。そちらに目を向けるとジハナが口を抑えて楽しそうに笑っていた。


「こら!静かに!」
「ぃでっ!」
「ヴァーデン、構わないわ」


 父親に頭を引っ叩かれたジハナが「ごめんなさい」と言って静かになる。みんなの目線が母に戻ってもジハナを見ていると、視線に気がついたジハナがニヤッと笑った。思わず笑いそうになって口の端っこがひくつく。

 しばらくの間父が母の餌食になっていたが、標的が私になるとジハナが寄ってきて、持っていた小さい方の木箱を開けて母に見せた。


「あら……これ、気に入るんじゃないかしら」


 母が一瞬動きを止めて、木箱から装飾品を1つ取り出す。母の手にあったのは青い小鳥のブローチだった。
 金の葉の上で舞い踊っている小鳥。色ガラスで作られた小鳥は細かい羽の部分までよく作り込まれている。ゴテゴテと宝石が詰め込まれたデザインよりよっぽど美しく見えた。


「ぴぃちゃん」


 思わずジハナの方を見る。ジハナは俯き木箱を見つめてこちらを見ようとはしなかったが、背丈の近い私からは彼の口がにんまりと緩んでいるのが見えた。


「これにする」
「ふふ、そうね。ぴぃちゃんそっくりだもの」


 他にもいくつか動物がモチーフのものがあって、揃いのブローチとして購入が決まった。本来の依頼品である首飾りと髪につける金細工を選ぶ。

 母とヴァーデン殿が金額をまとめていると、意外なことに、父がジハナに話しかけた。


「あの動物のブローチはヴァーデンのデザインと随分違うな。お前か?」
「元の絵は私が、実際に作り上げたのは父です」
「そうか」
「はい」
「…」
「……」


 父とジハナの間に気まずい沈黙が流れる。何か話しかけた方が良いかなと考えているとちょうど母と話が終わったヴァーデン殿がジハナを呼んだ。


「いつもご贔屓にありがとうございます。また御用の際はいつでもお呼び立てください」
「またお願いね、ヴァーデン」
「は、では失礼いたします。ほら、ジハナ」
「ありがとうございました!」


 ヴァーデン殿とジハナが王座の間からでたのを確認してから母に頼む。


「母上、母上、小鳥のブローチ、つけてください」
「あら、本当に気に入ったのねぇ。貸してごらんなさい」


 母はローブの紐を固定するところにブローチをつけてくれた。姿見で確認する。薄青のローブに真っ青な小鳥のブローチ。うん。いいんじゃないかな?
 私が満足げにくるりと一回りしてみせる父と母は楽しそうに私を見て微笑んだ。
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