エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

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第1章 幼少期

9話 王子達と天の川①

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 早いものでジハナと出会ってから3年、脱走を始めてからは2年が経った。
 エルウィンの背はぐんぐん伸び、私もジハナもとうとう弟を連れ出す事に許可をだした。毎回ではなかったが何度か連れ立って城の外へ遊びに行った実績もある。


 冬の終わり、今日のジハナの提案はいつもと違う内容だった。


「天の川を見に行こう」
「天の川?」
「夜って事?」


 ジハナは真剣な顔で頷く。


「今までにない時間帯だから慎重にやらないといけない」
「見張りの動きは覚えたの?」
「うん、でも天の川を見るだけなら城壁を越える必要はないだろ?問題は裏庭の門にいる見張りだな。こっちでなんとかする」


 信じ難い事に2年経った今も私たちは一度も捕まっていなかった。危ないと思う時もあったが何故かウサギが飛び出して見張りの目を逸らしてくれたり、小鳥が木の実を兵の上に落としたりしているうちに隠れる事ができた。ジハナはどういう仕組みか、森の動物達に助けてもらっているようなのだ。

 ジハナは普段はおしゃべりなのに、動物のことはあまり話さない。聞かれたくないんだろうと思って私も気にしないようにしている。


「じゃあ、みんなが寝たくらいの時間に迎えにくる。よく昼寝しとけよ~」


 ジハナは言いたいことだけ言って帰ってしまった。私たちに勧めたように自分も昼寝をするのかもしれない。
 エルウィンが不安そうに私に聞く。


「夜なんて、本当に抜け出せると思う?」
「どうかな、私も初めてだから。私たちに部屋の窓から下に降りろとは言わないと思うけど……」
「城の中の見張りは夜には減るから、その間に行くのかな。僕、心配になってきた」


 この国は数年に一度、他の国と外交するだけで、人の出入りはほとんどない。国を出たり入ったりする人なんてトレバー先生くらいなものだ。国民も豊かでほとんど格差もない。
 そして国があまりにも平和過ぎると、城の警備を夜はやらなくても良い、帰って寝ましょう!となる訳だ。
 なので城内の夜の見張りの兵は昼の半分ほどしかいない。


 私とエルウィンはとりあえず言われた通り昼寝をして、夜を待った。
 月が高く上りみんなが寝静まったころ。私の部屋にジハナがやってきた。


「よぉ、レンドウィル。眠くないか?」
「ジハナ、待ってたよ。眠いような、眠くないような、変な気分かな?」
「あはは。さて、出かける心の準備は?」
「うん、いつでも行ける」
「エルウィン王子を連れてくるから、ちょっと待ってて」


 ジハナは部屋の扉からキョロキョロと辺りを見回した後、エルウィンの部屋まで低い体勢で走っていった。しばらくしてエルウィンと連れ立って戻ってきたジハナは「よし、2人とも、靴を脱いで」と小声で言った。


「靴?」
「ああ、靴がない方が静かに歩ける。外に出る前に履くから部屋に忘れるなよ」


 私とエルウィンは目配せし合い、靴を脱ぐ。よし、出発だ、とジハナがニヤリとして私たちを見た。


 ジハナが先に城の中を進み、合図に合わせて私たちがついて行く。
 城の中の見張りは少ないが、全くいないわけではない。迂回したり、見張りの動きに合わせてすり抜けたり。あっという間に裏門の近くまで到着できた。

 柱の影から門の方を覗く。日中は2人いる門番が今は1人だ。門番は森の方を向いていて、向きを変えることがない。
 どうやって進むんだろう、とジハナをちら、と見た時門番が何かに反応してキョロキョロと周囲を見回し始めた。しばらくして、カラコロと今度は私たちにも聞こえるくらいの音がして門番が持ち場を離れた。音の出どころを探しにいったんだろう。

 ジハナが背中を押したの感じて私とエルウィンは走り出した。靴を履くのも忘れてひたすら森の奥へ走る。

 城の前の開けたところから木が生い茂った場所までくるとジハナが「あはは、やった!」と小声で言った。私とエルウィンはそれを聞いてやっと走るのをやめる。


「すごい、僕たち本当に抜け出しちゃった!」


 エルウィンがジハナに抱きついてはしゃぐ。


「それにしてもあの音は何だったんだろう?」


 私とエルウィンが首をかしげているとジハナが笑って「な~いしょ!」という。


「いっつも内緒っていう!」
「だって秘密だもん」
「こうなったら教えてくれないのは分かってるからなぁ」
「秘密よりさ、天の川だよ。ほら、行こうぜ!」


 靴を履いた後、私とエルウィンそれぞれと手を繋ぎジハナが歩き出す。見慣れたはずの裏庭も、葉の生い茂る木々が明るい月や星たちを覆うように隠してしまって全く知らない場所の様に見えた。静かな夜に梟や蛙の鳴き声が大きな音で響く。


 「暗いと少し怖いね」


 エルウィンが小さい声で言う。


「私も、少しだけ、怖いかも」


 正直に言うと、ジハナがつないだ手に力を込めた。


「大丈夫だよ。2人も裏庭が安全なのはよく知っているだろ?」


 そのまましばらく進み、「もうちょっとだ」とジハナが言った。


「湖の方に向かってるんだよね?」
「そう。あと少しだ。2人とも、目をつぶって」
「どうして?」
「僕、こわいよ。こんなに暗いのに目をつぶったら、本当に真っ暗になっちゃう」
「目をつぶっても俺が引っ張ってやるから大丈夫。それに、次に目をあけるとき、2人が見るのは天の川だ」


 暗い森の中ではジハナがどんな顔でそう言っているのかもわからない。いつまで経っても目をつぶらない私たちに「うぅん、そんな怖がるんじゃぁしょうがないな。このまま普通に歩いていこう」とあきらめた声を出す。
 彼は湖のほとりまでゆっくりと私たちを引っ張って歩いた。湖に近くなってきて水がさざめく音がする。私たちを覆っていた木々がなくなり開けた場所に出た途端、エルウィンと私は「わぁっ」といっせいに声を上げた。


 見上げた空には大小の星々が一面に輝いていた。湖の向こうにある山々の淵から斜めに星が一際集まっていて、光り輝く川になっている。よく目を凝らすとそれぞれの星が赤みがかっていたり、青みがかっているのが分かる。湖の水が風に揺られると星の輝きを反射してキラキラとしていてまた美しかった。

 2人で釘付けになって星々を見つめているのに笑って、ジハナが近くの岩まで私たちを連れていく。私たちは岩の上に座って空を見つめた。


「城から見るよりずっときれいだ」
「兄上もそう思う?僕も丁度そう考えていたところ」
「そうなのか?城からの方が空が近いのに。そういえば、ここから見ると城もきれいだよ」


振り返ると、城を照らすかがり火が城全体を夕焼けの様なオレンジに染め上げていた。「わぁ、」ため息の様な声が出た。


「ふふ、城に住んでると、自分たちの場所がどう見えるかわからないものなんだなぁ」


私たちはしばらく時間を忘れて星空と城を眺めた。
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