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第1章 幼少期
9話 王子達と天の川②
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どのくらい星を眺めていただろう、ふとジハナが「あれ、どのくらい時間経ったかな……」とつぶやいた。「どうしたの?」聞くと「時間が分からなくなった」と気まずそうに言う。
湖のほとりでは星空が明るく照らしてくれるのでお互いの顔ははっきりと見ることができた。「それって何かマズイの?」エルウィンが聞くと「見張りが今どこにいるか、わからない」とさらに小さい声でいう。
エルウィンと目を合わせる。
「それって、た、大変だ……!」
「帰り始めよう、でもゆっくり、慎重に……」
ジハナが立ち上がったまさにその時、「何者だ!」と怒鳴り声が響く。私たちは飛び上がってジハナにぴったりとくっついた。
次の瞬間、ジハナが私たちの手を掴んで森の方へ走り出す。「まて!」見張りの兵が2人追いかけてきていた。ジハナは夜目が利くのか暗闇をものともせずに森の中を右に左に曲がりながら走る。エルウィンも私も、行きの道よりは周りが見えていたが彼に着いて行くので精一杯だ。
「飛んで!」
ふいにジハナが言い、私は大きく地面を蹴って跳んだ。大きな丸太をジハナと私が飛び越えたとき、後ろに引っ張られる。同時にエルウィンの「いたっ」という声が聞こえた。引っ張られた拍子に繋いでいた手が外れ、エルウィンは丸太の上まで乗りあげた後、勢いそのままにゴテンと地面に転がり落ちた。
ジハナが足を踏ん張ってエルウィンの方へ向き直る。2人でエルウィンを抱き起すと頭から地面に突っ込んだのか顔は土だらけで、よく見ると膝も腕も擦り傷だらけだった。
「ひっく」
エルウィンの口がへの字に曲がり、目にはじわり涙が浮かんだ。
「あぁ、血が出てる!ごめんエルウィン王子。俺が強く引っ張ったから……ごめん、痛いよな、ほんとにごめん」
ジハナがエルウィンを抱きしめると、我慢がしきれなくなったように「うえぇえ痛いぃぃ」と泣き始めた。
「ジハナ、見張りが来てる……」
私が急かすとジハナはエルウィンに背中に乗るように言った。泣いていたエルウィンも近づいて来た見張りの声に涙が引っ込んだのか、素直にジハナの背におぶさる。
「行こう、レンドウィル、ついてこれる?」
「着いて行くから気にしないで」
エルウィンを背負ったままなので早く走ることはできない。着実に見張り達との距離は縮まっていた。しばらくまっすぐに走ってから東に逸れる。確か大きな岩がある方向だ。陰に隠れれば見張りを撒けるかもしれない。
予想通り岩が見えてきた時、気が緩んでつるりと足元が滑った。昨日降った雨で地面がぬかるんでいたのだ。倒れそうになった私を支えるためにジハナが手を伸ばし、私も必死になってその手を掴んだ。
そして結果は、まぁ、当然ながらジハナが背負っていたエルウィンもろとも、3人して泥の中に突っ込むことになった。泥の上を滑り、岩にぶつかる。あとからエルウィンとジハナも重なるように滑ってきて2人に潰された私は「ぐえ」と全部の空気を吐き出した。
「見つけたぞ!こっちだ!」
見張りの1人が持った明かりが近づいてきて、もう逃げられない事を悟る。私の後ろに隠れようとするエルウィンを引っ張り横に立たせる。
「ちょ、兄上!やめてよ!」
「なに隠れてるんだ、今更どうしようもないよ」
「僕は兄上に連れ出されたっていうもん」
「何それ!ひどいな!さっきまで泣いてたくせに!」
私たちが言い争っているなか、ふと主犯が随分と静かなことに気が付く。あれ?と2人できょろきょろと探すと低い茂みのなかに隠れようとしているジハナを見つけた。死なば諸共、だ。エルウィンと目を合わせ、ジハナの足を引っ張り戻す。
「うわ、やめろよぉ!」
「1人だけ逃げるなんて許さないぞ!」
「そうだ、一緒に怒られろ!」
騒ぐジハナを無視して泥の中へ引き戻したところで見張りが2人そろって私たちの事を見ていることに気が付く。
「え、王子!?」
「なぜこんなところに王子が泥だらけで……ん?お前、ヴァーデン殿のとこのガキか?」
「どういう経緯にせよ、陛下に報告しなければ」
「あぁ、そうだな。レンドウィル王子、エルウィン王子、帰りますよ、立てますか?」
「おまえもだぞ!」
見張りの1人が私たちを泥の中から引っ張り上げ、もう1人はこの期に及んでこっそり逃げ出そうとしているジハナの首根っこを捕まえた。
そこからはひどいものだ。ほぼ囚人扱いと言ってもいい。監視のもと城へ戻った私たちは夜中にもかかわらず見張りの兵に叩き起こされた父母、ネオニールの前に立たされていた。3人そろって泥だらけなので寝室に入ることは許されず、城の入口でだ。
知らんぷりをしている兵士たちの目がこっそり自分たちに注がれているのが分かっていたたまれない。
「……で?」
長い沈黙の後、父はそれだけ言った。
「ごめんなさい」
私とエルウィンはまず謝る。ちらりと父の顔を見ると無表情で、怖くなり縮こまる。
「随分とやんちゃをしたようだな。レンドウィル、エルウィン。そしてお前は……ジハナだな」
「はい、ごめんなさい」
「こんな夜中に、何をしていたのだ。レンドウィル?」
「その、天の川を、見に行っていました」
「……天の川?」
「はい、えっと、綺麗だったので」
「湖の近くでお前たちを見つけたと報告を受けている。事実か?」
「……はい」
「どうやって城から……それは今はよい。それよりエルウィン、怪我をしているな」
「はい、滑って転びました」
「夜に森を歩くことが危険だというのは身に沁みてわかったろう」
「……はい、ごめんなさい」
「レンドウィル、弟を危険にさらしたのはお前だ。理解しているか?」
ジハナがパッと顔を上げ何か言いかけるが、父に睨まれすぐ俯いてしまう。
「……私が誘って弟を連れだしました。浅はかでした」
「王子としての責任を学ぶように。私からは以上だ。後はネオニールが説教する。よく聞くように」
「……はい」
父はネオニールの肩をポンと叩き、何か耳打ちすると母を連れて寝室へ戻っていった。ネオニールは「私も眠いから手短に済ましますよ」と言って夜出歩くことの危険について語り始めた。
話の途中でジハナの両親がやってくると真っ青な顔でネオニールに謝り始め、ジハナの頭に拳骨を落とした。
あまりにもヴァーデン殿たちが必死になるのでネオニールは王子達に大きな怪我が無かったのでお咎めは無しとしてジハナ達に家に帰るように伝えた。ジハナは何回もこちらを振り返りながら帰っていったが、最後まで話すことは許されなかった。
湖のほとりでは星空が明るく照らしてくれるのでお互いの顔ははっきりと見ることができた。「それって何かマズイの?」エルウィンが聞くと「見張りが今どこにいるか、わからない」とさらに小さい声でいう。
エルウィンと目を合わせる。
「それって、た、大変だ……!」
「帰り始めよう、でもゆっくり、慎重に……」
ジハナが立ち上がったまさにその時、「何者だ!」と怒鳴り声が響く。私たちは飛び上がってジハナにぴったりとくっついた。
次の瞬間、ジハナが私たちの手を掴んで森の方へ走り出す。「まて!」見張りの兵が2人追いかけてきていた。ジハナは夜目が利くのか暗闇をものともせずに森の中を右に左に曲がりながら走る。エルウィンも私も、行きの道よりは周りが見えていたが彼に着いて行くので精一杯だ。
「飛んで!」
ふいにジハナが言い、私は大きく地面を蹴って跳んだ。大きな丸太をジハナと私が飛び越えたとき、後ろに引っ張られる。同時にエルウィンの「いたっ」という声が聞こえた。引っ張られた拍子に繋いでいた手が外れ、エルウィンは丸太の上まで乗りあげた後、勢いそのままにゴテンと地面に転がり落ちた。
ジハナが足を踏ん張ってエルウィンの方へ向き直る。2人でエルウィンを抱き起すと頭から地面に突っ込んだのか顔は土だらけで、よく見ると膝も腕も擦り傷だらけだった。
「ひっく」
エルウィンの口がへの字に曲がり、目にはじわり涙が浮かんだ。
「あぁ、血が出てる!ごめんエルウィン王子。俺が強く引っ張ったから……ごめん、痛いよな、ほんとにごめん」
ジハナがエルウィンを抱きしめると、我慢がしきれなくなったように「うえぇえ痛いぃぃ」と泣き始めた。
「ジハナ、見張りが来てる……」
私が急かすとジハナはエルウィンに背中に乗るように言った。泣いていたエルウィンも近づいて来た見張りの声に涙が引っ込んだのか、素直にジハナの背におぶさる。
「行こう、レンドウィル、ついてこれる?」
「着いて行くから気にしないで」
エルウィンを背負ったままなので早く走ることはできない。着実に見張り達との距離は縮まっていた。しばらくまっすぐに走ってから東に逸れる。確か大きな岩がある方向だ。陰に隠れれば見張りを撒けるかもしれない。
予想通り岩が見えてきた時、気が緩んでつるりと足元が滑った。昨日降った雨で地面がぬかるんでいたのだ。倒れそうになった私を支えるためにジハナが手を伸ばし、私も必死になってその手を掴んだ。
そして結果は、まぁ、当然ながらジハナが背負っていたエルウィンもろとも、3人して泥の中に突っ込むことになった。泥の上を滑り、岩にぶつかる。あとからエルウィンとジハナも重なるように滑ってきて2人に潰された私は「ぐえ」と全部の空気を吐き出した。
「見つけたぞ!こっちだ!」
見張りの1人が持った明かりが近づいてきて、もう逃げられない事を悟る。私の後ろに隠れようとするエルウィンを引っ張り横に立たせる。
「ちょ、兄上!やめてよ!」
「なに隠れてるんだ、今更どうしようもないよ」
「僕は兄上に連れ出されたっていうもん」
「何それ!ひどいな!さっきまで泣いてたくせに!」
私たちが言い争っているなか、ふと主犯が随分と静かなことに気が付く。あれ?と2人できょろきょろと探すと低い茂みのなかに隠れようとしているジハナを見つけた。死なば諸共、だ。エルウィンと目を合わせ、ジハナの足を引っ張り戻す。
「うわ、やめろよぉ!」
「1人だけ逃げるなんて許さないぞ!」
「そうだ、一緒に怒られろ!」
騒ぐジハナを無視して泥の中へ引き戻したところで見張りが2人そろって私たちの事を見ていることに気が付く。
「え、王子!?」
「なぜこんなところに王子が泥だらけで……ん?お前、ヴァーデン殿のとこのガキか?」
「どういう経緯にせよ、陛下に報告しなければ」
「あぁ、そうだな。レンドウィル王子、エルウィン王子、帰りますよ、立てますか?」
「おまえもだぞ!」
見張りの1人が私たちを泥の中から引っ張り上げ、もう1人はこの期に及んでこっそり逃げ出そうとしているジハナの首根っこを捕まえた。
そこからはひどいものだ。ほぼ囚人扱いと言ってもいい。監視のもと城へ戻った私たちは夜中にもかかわらず見張りの兵に叩き起こされた父母、ネオニールの前に立たされていた。3人そろって泥だらけなので寝室に入ることは許されず、城の入口でだ。
知らんぷりをしている兵士たちの目がこっそり自分たちに注がれているのが分かっていたたまれない。
「……で?」
長い沈黙の後、父はそれだけ言った。
「ごめんなさい」
私とエルウィンはまず謝る。ちらりと父の顔を見ると無表情で、怖くなり縮こまる。
「随分とやんちゃをしたようだな。レンドウィル、エルウィン。そしてお前は……ジハナだな」
「はい、ごめんなさい」
「こんな夜中に、何をしていたのだ。レンドウィル?」
「その、天の川を、見に行っていました」
「……天の川?」
「はい、えっと、綺麗だったので」
「湖の近くでお前たちを見つけたと報告を受けている。事実か?」
「……はい」
「どうやって城から……それは今はよい。それよりエルウィン、怪我をしているな」
「はい、滑って転びました」
「夜に森を歩くことが危険だというのは身に沁みてわかったろう」
「……はい、ごめんなさい」
「レンドウィル、弟を危険にさらしたのはお前だ。理解しているか?」
ジハナがパッと顔を上げ何か言いかけるが、父に睨まれすぐ俯いてしまう。
「……私が誘って弟を連れだしました。浅はかでした」
「王子としての責任を学ぶように。私からは以上だ。後はネオニールが説教する。よく聞くように」
「……はい」
父はネオニールの肩をポンと叩き、何か耳打ちすると母を連れて寝室へ戻っていった。ネオニールは「私も眠いから手短に済ましますよ」と言って夜出歩くことの危険について語り始めた。
話の途中でジハナの両親がやってくると真っ青な顔でネオニールに謝り始め、ジハナの頭に拳骨を落とした。
あまりにもヴァーデン殿たちが必死になるのでネオニールは王子達に大きな怪我が無かったのでお咎めは無しとしてジハナ達に家に帰るように伝えた。ジハナは何回もこちらを振り返りながら帰っていったが、最後まで話すことは許されなかった。
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