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第1章 幼少期

12話 王子と再会

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 謹慎が明けた!謹慎が明けた!

 私は晴れやかな気分で目を覚ました。
 部屋の中を走り回って、枕に顔を押し当て叫ぶ。それでも喜びが抑えられずにエルウィンの部屋へ駆け込む。エルウィンがまだ寝ているのを確認して、私は勢いよくベッドへ飛び込んだ。「あにうぇえ?」寝ぼけた声のエルウィンに笑う。


「エルウィン、朝だ!謹慎は終わりだよ!やったぁ!」
「あにうえ、あさからげんきだね……」




 朝食の席には家族全員が集い、父から正式に謹慎の解除が宣言され、これからは分別ある行動をするよう念を押された。
 弟と2人元気よく返事をして朝食を食べ始める。小麦の粒々が残った温かいパン、野菜がたくさん入ったスープ、卵のたっぷり乗ったサラダ。
 気分がいい私はいくらでも食べれるような気がして、あっという間にお皿を空にした。


「レンドウィル今日はずいぶん元気ねぇ」
「はい母上!もう自由ですから!」


 「今までも自由だったじゃない」とアイニェンが笑う。
 私は皆の食事が終わると飛ぶように自室へ戻り、窓の外を眺める。ジハナが来てくれる、何となくそう確信していた。きっとジハナも私たちに会いたいはずだもの!


 ところが1時間経っても2時間経っても、太陽が空の天辺を目指して昇り始めても、待ち焦がれた銀髪は現れなかった。あまりにも私が窓の前から動かないのでエルウィンとアイニェンがからかいに来て、それでも移動しないのを見ると呆れて帰っていった。

 そして太陽が高く登り切り、これから高度を下げ始めるくらいの頃、城の花壇の裏でキラリと光る銀髪を見つけた。「あ、来た!」私は思わず声を上げる。
 彼はちょろちょろと建物の隙間を走って、あっという間に3階の渡り廊下まで来ていた。
 窓から頭を引っ込め髪や服を確認する。久しぶりに会うんだから、きちんとしなくては。身なりを整えて落ち着きなく部屋を歩き回っていると、コンコン、と控えめなノックの音が外から聞こえた。窓を見るといつかと同じように顔の上半分だけを覗かせてジハナがこちらを見ている。


「よ、よぉ。久しぶりだな、その、今日はだな…えっと、その…」


 ジハナは目をキョロキョロさせながらどもるばかりで一向に部屋入ってこない。焦れた私は窓枠につかまっている手を掴んで引っ張った。


「ジハナ、何してるの?早く入っておいでよ」
「ちょっと、引っ張るなって、あぶないだろ!」


 構わずぐいぐいと引っ張って、やっとジハナが部屋に入ってきた。相変わらず髪はボサボサだし、服は土で汚れている。3か月の謹慎前と何も変わらない姿に私はうれしさのあまりジハナに飛びついた。
 ジハナが後ろによろけて窓枠のある壁に寄りかかる。特に痛そうな顔もしていないので私は気にせず彼のことを抱きしめた。


「やっと会えた!この3か月間本当に退屈だったんだから!どうしてもっと早く来てくれなかったの?朝一で来るかと思ってたのに!」
「レンドウィル、怒ってないのか?」


 再会の喜びを分かち合おうと思っていたのに意図のわからない質問がきて、私より少しだけ高い位置にある彼の目を見上げた。もう3年以上一緒に遊んでいるのに彼の目が濃い青色をしていることに今更気が付く。


「怒る?どうして?」
「だって、俺のせいで怒られちゃったから」
「あぁ、あれはまぁ、私が悪いからいいんだよ」
「でも!誘ったのは俺だし、レンドウィルも、エルウィン王子も行かないほうが良いって言ってた。なのに俺がしつこく誘ったから……本当にごめん」
「あの日の夜、ジハナは謝ったじゃない。もうあれで終わりだよ」


 あの夜、父親に腕を掴まれ帰っていくジハナが必死な声で謝っていたのを思い出す。父やネオニールの怒りを見た後では、声を出すのに大変な勇気が必要なことは身をもって知っていた。あれで十分なのに。


「あんなの、謝ったことにならない」
「でも、私はもう怒ってないよ。怒ってないことに謝られても、困っちゃうなぁ」
「……レンドウィルは優しすぎる」


 ジハナの声が震えた。見つめた目がどんどん潤んで、涙に育っていく。泣かないように頑張っているせいで、ジハナの目には限界一杯まで涙が溜まって、今にも零れてしまいそうだった。
 黙ってきらきらと光を反射する涙を見つめているとジハナが眉を寄せて顔をそむける。


「見んな」
「どうして?光っていて綺麗だ」
「泣いてるの見て馬鹿にするつもりだろ」
「そんなことしないよ」
「絶対する」
「しないってば」
「見られたくないんだよ」
「私は見たい」
「なっおまえ、やっぱり優しくない!」


 目を覗き込もうと体を傾けると、ジハナは手で私の体を押し返した。仕方なしに私はジハナのお腹に一周させていた腕をほどいて解放する。


「俺、レンドウィルが怒ってる、もう遊べなくなるって3か月ずっと考えてたのに。心配して損した」


 ジハナは深いため息をつきながらずるずると壁沿いに座り込み、袖の縁で目元を拭った。


「ねぇ、これからも来てくれる?」
「エルウィン王子も、怒ってないなら。また来る。でも、もう城の外にはいかない。怒られそうなことはやめる」
「そっかぁ、楽しかったのにな」
「別にここでも、いろいろ遊べるし」
「そうだね」


 王子の部屋にこうやって忍び込むこと自体も怒られることに該当する気がしたが、黙っておく。

 そうやってジハナと無事再会し、ついでにこれからも遊びに来るよう口約束を交わした。何度か遊びに来たあと、エルウィンやアイニェンとも再び遊ぶようになってやっと日常が返ってきたのだった。




 再会してから城の外に出かけるのはやめた。私は父を落胆させたくなかったし、ジハナは母のレアンナを泣かせたのを気にしているようだった。ジハナは昼間にきて、話をして、帰っていくのを続けている。


 その短い訪問の中でも母に1度、トレバー先生に2度見つかった。

 母は「ほどほどにしなさいね」と言って私たちの頭を撫でてから「お父様には黙っておいてあげる」と笑った。ジハナが顔を赤くして母を見るので肘でつついておいた。

 トレバー先生は「君が噂の小さい侵入者君?いやぁ、城に忍び込むだけじゃなく、王子達を連れ出すなんて、やりますねぇ!」とジハナの背なかをバンバン叩いて、頭をくしゃくしゃに撫でてから帰っていった。
 2回目にバレたときにはナイショですよ、と言って国外の本を数冊ジハナに貸してあげていた。(それから2人は私の本棚を使ってずっと本の貸し借りをしている。)


 ジハナは「いままでバレなかったのに。最近すごく見つかるな。不思議だ」と首をかしげていたが、今までも見て見ぬふりをしてくれていたのかもしれないなと想像した。



 そんな日々が続き、謹慎の明けた時からあっという間に季節が一周した。楽しいけど、刺激のない退屈な日々。始めはジハナに会えた喜びで忘れていた"城の外に出たい"という気持ちはだんだんと強くなっていた。
 私が外に出たいと言ったらどうするだろうか。頼みを聞いてくれるだろうか。それとも私を叱るのだろうか。ジハナが来た時、私は思い切って聞いてみた。


「城の外に、出たいんだけど……」


 準備していた割に、自信のなさそうな情けない声が出て少し恥ずかしい。ジハナは驚いて目を真ん丸にしてこちらを見て、恐る恐るといった様子できく。


「外って、城壁の外?」
「うん。やっぱり、外の明るいところでさ、何にも気にしないで話がしたいよ」


ジハナはパチパチと瞬きをした後、腕を組み眉尻を下げてうぅぅんと唸った。


「べ、別に。ジハナが嫌なら、」
「嫌じゃない。考えてただけ。よし、うん。行くか!」


 そう言ってジハナは立ち上がると、「準備してくる、30分後に裏庭の湖な!」と言って窓から飛び出していった。
 思ったより簡単にジハナが了承したので驚いたが、うれしさが勝って浮かれた気分で動きやすい服装へと着替えたのだった。
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