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第1章 幼少期
11話 王子と謹慎期間②
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脱走がバレた夜、ジハナは父親のヴァーデンにずりずりと引きずられながら自宅へ戻った。家の前には母のレアンナが不安そうに立っているのが見え、母の目いっぱいに涙が貯まっていて、ジハナは母と視線が合った瞬間にそれが洪水のように決壊するのを見た。
レアンナはジハナを抱きしめ、怒ったのと悲しいのと、本人にもよく分からない焦りをごちゃまぜにした気持ちを元凶のジハナにぶつけて大声で泣き始めた。
耳元で母が騒ぐものだから頭にガンガン響いたが、大人しく罰として受け入れる。おかげでジハナの土だらけのシャツは母の涙やら鼻水やらでびしょびしょだ。
「母さんごめん。もうしないってば」
「この間もそういったばかりじゃないの!どうせ無理言って王子達を連れだしたんでしょ!」
「そう、だけど。でも王子達も乗り気だったし」
「お黙んなさい!王子達に怪我がなかったからいいものの、また怪我でもさせてたらどうなってたか!」
泣き喚く母を背負ったままヴァーデンと家の中に入る。夜中だと言うのにお湯が沸かしてあり、母が私たちのためにお茶の準備をしていたことがわかった。
母が大泣きでジハナに張り付いて使い物にならないので、父がお茶の準備をする。温かいお茶を飲ませ母が落ち着いてきたところで父が訊ねた。
「いつから王子達のとこへ行っていたんだ?」
「えぇっと、それは、その~。結構前?かも?」
「ジハナ?この期に及んで嘘は許さないわよ」
レアンナはジハナを睨むとメリメリと骨がきしむぐらい強く抱きしめた。
「うぐ、ぐ、さ、3年……」
「3年だと?」
「3年!?ヴァーデン!聞いた?3年も城に忍び込んでんですって!」
ヴァーデンが目を見開いてジハナに迫った。
「つまり、納品で城に行った時、お前は王子達と面識があったのか?」
「ううんと……」
ジハナがデザインした青い小鳥のブローチを納品したときのことだ。あの時はお互い楽しく知らんぷりを決め込んだが、今頃になって仇になった。ジハナは冷や汗をかきながら父に言う。
「知らない人のふりして遊んで、ました。」
母の泣き声が再開され、抱きしめる力も更に増した。父からは頭をスパンと引っぱたかれる。
「まったくお前は!」
「いだだだだ、ごめんなさい!ごめんなさい!!!」
そのあとしっかり叱られたジハナはエルロサール王の言いつけ通り、基本自宅から出ることは禁止になった。外出の用事があるときは必ず父か母が同行する必要があり、とてもではないが抜け出すことなどできない。
「暇で死ぬ……」
謹慎開始からたったの2日、ジハナは自分の寝床になっているハンモックに寝ころび愚痴をこぼした。父も母も仕事に出てしまって1人きり。与えられた掃除だの料理だのの仕事はすっかり終わらせてしまっていたし、家にある本はもう何十回と読み返していて面白くない。
以前ならこっそり家を抜け出しているところだが、ジハナが王子達を連れだしていたことは今や城下中のエルフが知っていたので、どこを歩いても悪い意味の注目が集まってしまう。
「だ~れか~」
ジハナは窓に向かって力のない声を出した。すると「暇そう、あはは」と笑い声が返ってくる。ジハナが飛び起きて窓に張り付くとアナグマ家の中を覗いていた。森で会った時にたまに話をするアナグマだ。
ジハナは動物や昆虫と話す力を持っていた。なぜかは分からない。ただ生まれた時から親の言葉をゆっくり覚えていくのと同じように、自然と動物たちの言葉が身についていったのだ。
他のエルフたちにはキャンキャンと聞こえる鳴き声でも、ジハナにははっきりと意味のある言葉として届く。
この事を知っているのは両親だけだ。
ちょいちょいと手招きしてアナグマを部屋の中までおびき寄せ、捕まえるとアナグマをぎゅうと抱きしめた。アナグマはじたばたと腕の中から這い出し、ジハナの正面に座る。
ジハナが膝を抱えて座るとアナグマは鼻をすんすん動かして聞いた。
「どうした?悲しいのか?」
「うん、俺、友達に悪いことをさせちゃったんだ」
「悪い事?」
「そう。そのせいで友達は親に怒られた」
「そうかぁ」
「……もう俺と遊んでくれないかもしれない」
「その悪い事ってのは、友達はやりたくなかったのか?」
「ううん、やりたいけど、やっちゃダメって知ってたから悩んでた。俺が大丈夫って言ってやらせたんだ」
「難しいな。俺にはわかんねぇよ。でも親が叱るってんなら、ダメなことだったんだろう。長生きしてる生き物には従うほうが良い」
「そんなのわかってるよ。俺は今、友達をなくしたと思って悲しくなってるの。慰めろよ、アナグマくん」
「しかたねぇなぁ」
アナグマはそういうと膝を抱えて縮こまったジハナの体をよじ登って顔を舐めた。くすぐったいとジハナが笑っても気にせず舐める。
「ジハナ、悪いことしたときは、謝るんだぜ。おまえ、友達に謝ったのか?」
「一回だけ。それ以上は友達の親が話させてくれなかった」
「そうか。もっと謝ると許してくれるかもしれねぇな」
「そうかな?」
「ああ、頑張れよ」
最後にぺろりとジハナの鼻の頭を舐めてからアナグマは窓に向かって歩き始める。
「もう行っちゃうのか?」
「アナグマは忙しいんだ。のんびりエルフとは違うんだよ」
「俺、外に出ちゃいけないんだ。暇なんだ、もっと話そうよ」
「じゃぁなジハナ」
「置いてくなよ、な?」
「さようなら!」
「ああもう!わかった、わかったよ。また来てね、アナグマくん」
アナグマがこちらを振り返らないのを見てジハナは諦め、アナグマが大きなお尻を揺らしながら窓から出て行くのを眺めた。
本当のことを言うと、謹慎が明けてもレンドウィルのところへは行かないつもりだった。自分のせいで2度も怒られたのだ。レンドウィルに会わせる顔が無かったし、いざ会って嫌な顔をされたらと思うと勇気が出なかった。でも、とジハナは先ほどのアナグマの言葉を思い出す。
「最後に一回だけ、謝りに行こう、かな」
ジハナは家の反対側の窓から城の方を覗いた。
丘の間にあるジハナの家からは城の天辺のとんがった屋根しか見ることができない。レンドウィルやエルウィン、アイニェンに会いたい気持ちは本当だったが、謝る時のことを考えると不安で先延ばしできるならずっと後までそのまましておきたかった。
謹慎がずっと終わらなければいいのにと思いながらジハナは3カ月を過ごしたのだった。
レアンナはジハナを抱きしめ、怒ったのと悲しいのと、本人にもよく分からない焦りをごちゃまぜにした気持ちを元凶のジハナにぶつけて大声で泣き始めた。
耳元で母が騒ぐものだから頭にガンガン響いたが、大人しく罰として受け入れる。おかげでジハナの土だらけのシャツは母の涙やら鼻水やらでびしょびしょだ。
「母さんごめん。もうしないってば」
「この間もそういったばかりじゃないの!どうせ無理言って王子達を連れだしたんでしょ!」
「そう、だけど。でも王子達も乗り気だったし」
「お黙んなさい!王子達に怪我がなかったからいいものの、また怪我でもさせてたらどうなってたか!」
泣き喚く母を背負ったままヴァーデンと家の中に入る。夜中だと言うのにお湯が沸かしてあり、母が私たちのためにお茶の準備をしていたことがわかった。
母が大泣きでジハナに張り付いて使い物にならないので、父がお茶の準備をする。温かいお茶を飲ませ母が落ち着いてきたところで父が訊ねた。
「いつから王子達のとこへ行っていたんだ?」
「えぇっと、それは、その~。結構前?かも?」
「ジハナ?この期に及んで嘘は許さないわよ」
レアンナはジハナを睨むとメリメリと骨がきしむぐらい強く抱きしめた。
「うぐ、ぐ、さ、3年……」
「3年だと?」
「3年!?ヴァーデン!聞いた?3年も城に忍び込んでんですって!」
ヴァーデンが目を見開いてジハナに迫った。
「つまり、納品で城に行った時、お前は王子達と面識があったのか?」
「ううんと……」
ジハナがデザインした青い小鳥のブローチを納品したときのことだ。あの時はお互い楽しく知らんぷりを決め込んだが、今頃になって仇になった。ジハナは冷や汗をかきながら父に言う。
「知らない人のふりして遊んで、ました。」
母の泣き声が再開され、抱きしめる力も更に増した。父からは頭をスパンと引っぱたかれる。
「まったくお前は!」
「いだだだだ、ごめんなさい!ごめんなさい!!!」
そのあとしっかり叱られたジハナはエルロサール王の言いつけ通り、基本自宅から出ることは禁止になった。外出の用事があるときは必ず父か母が同行する必要があり、とてもではないが抜け出すことなどできない。
「暇で死ぬ……」
謹慎開始からたったの2日、ジハナは自分の寝床になっているハンモックに寝ころび愚痴をこぼした。父も母も仕事に出てしまって1人きり。与えられた掃除だの料理だのの仕事はすっかり終わらせてしまっていたし、家にある本はもう何十回と読み返していて面白くない。
以前ならこっそり家を抜け出しているところだが、ジハナが王子達を連れだしていたことは今や城下中のエルフが知っていたので、どこを歩いても悪い意味の注目が集まってしまう。
「だ~れか~」
ジハナは窓に向かって力のない声を出した。すると「暇そう、あはは」と笑い声が返ってくる。ジハナが飛び起きて窓に張り付くとアナグマ家の中を覗いていた。森で会った時にたまに話をするアナグマだ。
ジハナは動物や昆虫と話す力を持っていた。なぜかは分からない。ただ生まれた時から親の言葉をゆっくり覚えていくのと同じように、自然と動物たちの言葉が身についていったのだ。
他のエルフたちにはキャンキャンと聞こえる鳴き声でも、ジハナにははっきりと意味のある言葉として届く。
この事を知っているのは両親だけだ。
ちょいちょいと手招きしてアナグマを部屋の中までおびき寄せ、捕まえるとアナグマをぎゅうと抱きしめた。アナグマはじたばたと腕の中から這い出し、ジハナの正面に座る。
ジハナが膝を抱えて座るとアナグマは鼻をすんすん動かして聞いた。
「どうした?悲しいのか?」
「うん、俺、友達に悪いことをさせちゃったんだ」
「悪い事?」
「そう。そのせいで友達は親に怒られた」
「そうかぁ」
「……もう俺と遊んでくれないかもしれない」
「その悪い事ってのは、友達はやりたくなかったのか?」
「ううん、やりたいけど、やっちゃダメって知ってたから悩んでた。俺が大丈夫って言ってやらせたんだ」
「難しいな。俺にはわかんねぇよ。でも親が叱るってんなら、ダメなことだったんだろう。長生きしてる生き物には従うほうが良い」
「そんなのわかってるよ。俺は今、友達をなくしたと思って悲しくなってるの。慰めろよ、アナグマくん」
「しかたねぇなぁ」
アナグマはそういうと膝を抱えて縮こまったジハナの体をよじ登って顔を舐めた。くすぐったいとジハナが笑っても気にせず舐める。
「ジハナ、悪いことしたときは、謝るんだぜ。おまえ、友達に謝ったのか?」
「一回だけ。それ以上は友達の親が話させてくれなかった」
「そうか。もっと謝ると許してくれるかもしれねぇな」
「そうかな?」
「ああ、頑張れよ」
最後にぺろりとジハナの鼻の頭を舐めてからアナグマは窓に向かって歩き始める。
「もう行っちゃうのか?」
「アナグマは忙しいんだ。のんびりエルフとは違うんだよ」
「俺、外に出ちゃいけないんだ。暇なんだ、もっと話そうよ」
「じゃぁなジハナ」
「置いてくなよ、な?」
「さようなら!」
「ああもう!わかった、わかったよ。また来てね、アナグマくん」
アナグマがこちらを振り返らないのを見てジハナは諦め、アナグマが大きなお尻を揺らしながら窓から出て行くのを眺めた。
本当のことを言うと、謹慎が明けてもレンドウィルのところへは行かないつもりだった。自分のせいで2度も怒られたのだ。レンドウィルに会わせる顔が無かったし、いざ会って嫌な顔をされたらと思うと勇気が出なかった。でも、とジハナは先ほどのアナグマの言葉を思い出す。
「最後に一回だけ、謝りに行こう、かな」
ジハナは家の反対側の窓から城の方を覗いた。
丘の間にあるジハナの家からは城の天辺のとんがった屋根しか見ることができない。レンドウィルやエルウィン、アイニェンに会いたい気持ちは本当だったが、謝る時のことを考えると不安で先延ばしできるならずっと後までそのまましておきたかった。
謹慎がずっと終わらなければいいのにと思いながらジハナは3カ月を過ごしたのだった。
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