エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

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第1章 幼少期

16話 王様と悪友

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 ネオニールはジハナから規定のやり取りである“どこへいつ遊びにいくか“の報告、兼犯行予告を聞いていた。脱走が失敗することも増えたので脱走が成功した日の帰り際に現れ、3、4日分の予告をしていくが日常になっていた。
 どれだけ見つかる頻度が上がってもきちんと毎回報告しに来る子供にネオニールは好感を持ち始めていた。

 小言が始まる前に言うことだけ言って逃げ帰ろうとしたジハナをすんでの所で呼び止める。


「ジハナ、このあと時間はあるか?」
「時間ですか?ありますけど……」
「そうか。では少し待っていろ。話したいことがある」
「?はい、じゃあ、ここにいますね」


 ネオニールはジハナを椅子に座らせるとそのまま部屋を出る。ドアを閉める前に逃げるなよ、と念押しをするとジハナが笑った。

 目的の人物はすぐに見つかり、声をかける。


「陛下、ジハナを待たせております」
「おお、来たか。もう少しでキリのいいところまで終わる。少し待て」
「ええ、でもなるべく早くお願いしますよ。あまり待たせると逃げられてしまいそうですから」


 王を連れて戻ると、ジハナは部屋を出た時のまま椅子の上でのんびりとネオニールの帰りを待っていた。エルロサールがネオニールの後から部屋に入ってきたのをみると、焦ったように気をつけの姿勢で立ち上がる。


「ジハナ、こちらへ」


 エルロサールに呼ばれ、2人の前にジハナが両膝をついて座る。
 ジハナは居心地悪そうにもぞもぞし、最近何か特別悪いことをしただろうか、と焦りながらここ数週間の悪事を思い返した。レンドウィルの脱走の手助けは目の前の王から許可をもらっている。見張り達との追いかけっこももう日常になって長い。怪我もしていない。特に心当たりはなく、なぜ呼ばれたんだろう?とジハナはエルロサール王をチラリと見上げ見た。


「ジハナ、お前、レンドウィルが好きか?」
「はい、好きです」


 エルロサールが口を開いたと思えば、何を今更という質問だった。当たり前に好きだ。じゃなきゃ何度も怒られてまで遊んだりしない。怪訝な表情でジハナが答える。


「レンドウィルは大人になり、いずれ王になる。それはわかるな」
「……はい」


 王の言葉にジハナは王から目線を逸らし、床を見た。ああ、やっぱりそうだ。きっとレンドウィルと遊ぶなと言われるんだろう。むしろ今までよく見逃してもらえていたと思うべきだ。納得しなければならない。
 レンドウィル達に会ってから7年、みんな成長した。レンドウィルは王子の教育で毎日忙しそうだ。エルウィン王子もアイニェン姫だってまだ小さいのに遊びに行くと勉強をしていることが多い。自分だけフラフラと遊びまわっていて、もう楽しいと言う理由だけで王子達の邪魔をしてはいけないと頭ではわかっていた。
 会えなくなるのは、嫌だなぁ。



 エルロサールは目の前の子供が眉を寄せて涙を堪えているのに気がついた。ネオニールを見ると困った顔で笑っている。


「ジハナ、安心しろ。お前をレンドウィルから引き離すつもりはない。むしろ逆だ」


 ジハナがぱっと顔を上げる。その目には困惑の色が強く映っている。


「お前をレンドウィルの側近にしようと思う」


 ジハナが顔を上げたまま固まり、暫くの間の後、恐る恐ると言った様子で訪ねる。


「おれ、いや、私でいいんですか?その、悪影響だと、思うのですが……」
「自覚はあるのだな」
「うぐ……」
「いじめるな、ネオニール」


 ネオニールがすかさず揚げ足をとるのを嗜める。私はジハナが難色を示したことに満足していた。言葉の表面だけ受け取って一緒にいられることを喜ぶだけの子供なら側近としては不十分だ。たとえ王である私の言葉でも反対するような、簡単な言い方をすれば自分で考えてものを言える側近でなければならない。


「悪影響と思うのならば行いを改めよ。未来の王の横に立つに足る知性と気品を得るのだ。これは、王としての言葉だ」


私はそこで一呼吸置く。前に跪く子供の目が不安に揺れるのを見た。しかし、今度は視線が逸らされることはなく、まっすぐにこちらを見つめている。


「親としての言葉は、そうだな、息子たちはお前に連れられ城の外の世界を見た。危険なことではあったが、お前がいなければ息子たちの世界は狭いままであっただろう。感謝している」


 ジハナは感謝されるとは思っていなかったのか目を大きく開いた。そして眉を下げ、頬を赤くして笑う。私も笑い返して続けた。


「レンドウィルは優しい子だ。国民を想う良い王になるだろう。しかし優しいだけでは国は成り行かぬ。厳しい選択を迫られる時もいずれ訪れる。そんな時、お前がレンドウィルやエルウィン、アイニェンを支えてくれればと思っている。どうだ、受けてくれるか」


子供は随分と長い間考えていた。私もネオニールも驚くほど長く。そしてやっと顔を上げて口を開く。


「エルロサール陛下、側近のネオニール様がいてよかったと思うときは、どんな時ですか?」


 正解のない質問だった。子供のくせに随分と大人を困らすような質問をする。まったく、と苦笑して、ネオニールも自分の斜め後ろで笑いを堪えようとしているのを感じた。
 ここで答える回答が、目の前の未来の側近の目標となることは火を見るよりも明らかだった。エルロサールは王として口を開く。


「……王の荷は重い。1つの判断で民の未来が変わる。常に最善を選んでいるつもりだがたまに不安に駆られることがある。そんな時、ネオニールと話をするのだ。側近として、友として、家族として」

「会話のあと、荷が軽くなることもあれば、さらに重くなることもある。それでもネオニールという信頼できる相手に話ができると、私は恵まれていると感じるのだ」


 私とネオニールを交互にゆっくりと見つめ、子供は今の回答をどう自分に当てはめればいいか考えているようだった。


「ありがとうございます、レンドウィル王子のよき友であるよう努力します」


 またしばらく考え込んだ後、ジハナはそう返事をした。
 側近になるかどうかを先延ばしにするような回答だ。賢い子、なのだろう。まだ何の教育も受けていない原石だが。


「それはつまり、了承と取るぞ」
「……ハイとも、イイエとも、私は答えていません」
「きちんとイイエと答えない場合、王にとっては了承と同じことだ。しかし、自信が無いなら他の誰かを側近にしてもよい」
「他の誰か?」
「お前がやらないのなら、だれを側近にしても変わらない。大して知りもしない相手と毎日毎日、四六時中一緒にいなければならないレンドウィルはさぞかし疲れるだろうなぁ。」
「……め、」
「なんだ?何か言ったか?」
「……だめです」
「何がだめなのだ?あぁ可哀想にレンドウィル。きっとお前と遊ぶ時間も無くなって、城に閉じこもりっきり。きっと息も詰まるような生活だろうな」
「我慢させるなんてだめです!それくらいなら俺、が……」
「俺が、なんだ?」


 私がにんまりと笑うのをジハナはしまったという顔で見た。そしてジトリと睨む。


「陛下は……ちょっと意地悪ですね。そういうところ、レンドウィルと似てます」


 不貞腐れて文句を言うジハナにネオニールが後ろで小さな声を出して笑いはじめる。私はネオニールを睨みつつ、ジハナに畳みかける。


「で?やるのか?レンドウィルを悲しませたくないだろう?」
「わかりましたよ!やればいいんでしょう!」


 ジハナは悲鳴のようなひっくり返った声で返事をした。それは犬が降参だと吠えるようでもあり、とうとう私もネオニールも大声で笑ってしまったのだった。
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