エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

文字の大きさ
23 / 40
第1章 幼少期

16話 王様と悪友

しおりを挟む
 ネオニールはジハナから規定のやり取りである“どこへいつ遊びにいくか“の報告、兼犯行予告を聞いていた。脱走が失敗することも増えたので脱走が成功した日の帰り際に現れ、3、4日分の予告をしていくが日常になっていた。
 どれだけ見つかる頻度が上がってもきちんと毎回報告しに来る子供にネオニールは好感を持ち始めていた。

 小言が始まる前に言うことだけ言って逃げ帰ろうとしたジハナをすんでの所で呼び止める。


「ジハナ、このあと時間はあるか?」
「時間ですか?ありますけど……」
「そうか。では少し待っていろ。話したいことがある」
「?はい、じゃあ、ここにいますね」


 ネオニールはジハナを椅子に座らせるとそのまま部屋を出る。ドアを閉める前に逃げるなよ、と念押しをするとジハナが笑った。

 目的の人物はすぐに見つかり、声をかける。


「陛下、ジハナを待たせております」
「おお、来たか。もう少しでキリのいいところまで終わる。少し待て」
「ええ、でもなるべく早くお願いしますよ。あまり待たせると逃げられてしまいそうですから」


 王を連れて戻ると、ジハナは部屋を出た時のまま椅子の上でのんびりとネオニールの帰りを待っていた。エルロサールがネオニールの後から部屋に入ってきたのをみると、焦ったように気をつけの姿勢で立ち上がる。


「ジハナ、こちらへ」


 エルロサールに呼ばれ、2人の前にジハナが両膝をついて座る。
 ジハナは居心地悪そうにもぞもぞし、最近何か特別悪いことをしただろうか、と焦りながらここ数週間の悪事を思い返した。レンドウィルの脱走の手助けは目の前の王から許可をもらっている。見張り達との追いかけっこももう日常になって長い。怪我もしていない。特に心当たりはなく、なぜ呼ばれたんだろう?とジハナはエルロサール王をチラリと見上げ見た。


「ジハナ、お前、レンドウィルが好きか?」
「はい、好きです」


 エルロサールが口を開いたと思えば、何を今更という質問だった。当たり前に好きだ。じゃなきゃ何度も怒られてまで遊んだりしない。怪訝な表情でジハナが答える。


「レンドウィルは大人になり、いずれ王になる。それはわかるな」
「……はい」


 王の言葉にジハナは王から目線を逸らし、床を見た。ああ、やっぱりそうだ。きっとレンドウィルと遊ぶなと言われるんだろう。むしろ今までよく見逃してもらえていたと思うべきだ。納得しなければならない。
 レンドウィル達に会ってから7年、みんな成長した。レンドウィルは王子の教育で毎日忙しそうだ。エルウィン王子もアイニェン姫だってまだ小さいのに遊びに行くと勉強をしていることが多い。自分だけフラフラと遊びまわっていて、もう楽しいと言う理由だけで王子達の邪魔をしてはいけないと頭ではわかっていた。
 会えなくなるのは、嫌だなぁ。



 エルロサールは目の前の子供が眉を寄せて涙を堪えているのに気がついた。ネオニールを見ると困った顔で笑っている。


「ジハナ、安心しろ。お前をレンドウィルから引き離すつもりはない。むしろ逆だ」


 ジハナがぱっと顔を上げる。その目には困惑の色が強く映っている。


「お前をレンドウィルの側近にしようと思う」


 ジハナが顔を上げたまま固まり、暫くの間の後、恐る恐ると言った様子で訪ねる。


「おれ、いや、私でいいんですか?その、悪影響だと、思うのですが……」
「自覚はあるのだな」
「うぐ……」
「いじめるな、ネオニール」


 ネオニールがすかさず揚げ足をとるのを嗜める。私はジハナが難色を示したことに満足していた。言葉の表面だけ受け取って一緒にいられることを喜ぶだけの子供なら側近としては不十分だ。たとえ王である私の言葉でも反対するような、簡単な言い方をすれば自分で考えてものを言える側近でなければならない。


「悪影響と思うのならば行いを改めよ。未来の王の横に立つに足る知性と気品を得るのだ。これは、王としての言葉だ」


私はそこで一呼吸置く。前に跪く子供の目が不安に揺れるのを見た。しかし、今度は視線が逸らされることはなく、まっすぐにこちらを見つめている。


「親としての言葉は、そうだな、息子たちはお前に連れられ城の外の世界を見た。危険なことではあったが、お前がいなければ息子たちの世界は狭いままであっただろう。感謝している」


 ジハナは感謝されるとは思っていなかったのか目を大きく開いた。そして眉を下げ、頬を赤くして笑う。私も笑い返して続けた。


「レンドウィルは優しい子だ。国民を想う良い王になるだろう。しかし優しいだけでは国は成り行かぬ。厳しい選択を迫られる時もいずれ訪れる。そんな時、お前がレンドウィルやエルウィン、アイニェンを支えてくれればと思っている。どうだ、受けてくれるか」


子供は随分と長い間考えていた。私もネオニールも驚くほど長く。そしてやっと顔を上げて口を開く。


「エルロサール陛下、側近のネオニール様がいてよかったと思うときは、どんな時ですか?」


 正解のない質問だった。子供のくせに随分と大人を困らすような質問をする。まったく、と苦笑して、ネオニールも自分の斜め後ろで笑いを堪えようとしているのを感じた。
 ここで答える回答が、目の前の未来の側近の目標となることは火を見るよりも明らかだった。エルロサールは王として口を開く。


「……王の荷は重い。1つの判断で民の未来が変わる。常に最善を選んでいるつもりだがたまに不安に駆られることがある。そんな時、ネオニールと話をするのだ。側近として、友として、家族として」

「会話のあと、荷が軽くなることもあれば、さらに重くなることもある。それでもネオニールという信頼できる相手に話ができると、私は恵まれていると感じるのだ」


 私とネオニールを交互にゆっくりと見つめ、子供は今の回答をどう自分に当てはめればいいか考えているようだった。


「ありがとうございます、レンドウィル王子のよき友であるよう努力します」


 またしばらく考え込んだ後、ジハナはそう返事をした。
 側近になるかどうかを先延ばしにするような回答だ。賢い子、なのだろう。まだ何の教育も受けていない原石だが。


「それはつまり、了承と取るぞ」
「……ハイとも、イイエとも、私は答えていません」
「きちんとイイエと答えない場合、王にとっては了承と同じことだ。しかし、自信が無いなら他の誰かを側近にしてもよい」
「他の誰か?」
「お前がやらないのなら、だれを側近にしても変わらない。大して知りもしない相手と毎日毎日、四六時中一緒にいなければならないレンドウィルはさぞかし疲れるだろうなぁ。」
「……め、」
「なんだ?何か言ったか?」
「……だめです」
「何がだめなのだ?あぁ可哀想にレンドウィル。きっとお前と遊ぶ時間も無くなって、城に閉じこもりっきり。きっと息も詰まるような生活だろうな」
「我慢させるなんてだめです!それくらいなら俺、が……」
「俺が、なんだ?」


 私がにんまりと笑うのをジハナはしまったという顔で見た。そしてジトリと睨む。


「陛下は……ちょっと意地悪ですね。そういうところ、レンドウィルと似てます」


 不貞腐れて文句を言うジハナにネオニールが後ろで小さな声を出して笑いはじめる。私はネオニールを睨みつつ、ジハナに畳みかける。


「で?やるのか?レンドウィルを悲しませたくないだろう?」
「わかりましたよ!やればいいんでしょう!」


 ジハナは悲鳴のようなひっくり返った声で返事をした。それは犬が降参だと吠えるようでもあり、とうとう私もネオニールも大声で笑ってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

異世界転生してBL漫画描いてたら幼馴染に迫られた

はちも
BL
異世界転生した元腐男子の伯爵家三男。 病弱設定をうまく使って、半引きこもり生活を満喫中。 趣味と実益を兼ねて、こっそりBL漫画を描いていたら── なぜか誠実一直線な爽やか騎士の幼馴染にバレた!? 「……おまえ、俺にこうされたいのか?」 そんなわけあるかーーーっ!! 描く側だったはずの自分が、 誤解と好意と立場の違いにじわじわ追い詰められていく。 引きこもり腐男子貴族のオタ活ライフは、 王子と騎士に目をつけられ、 いつの間にか“逃げ場のない現実”へ発展中!? 誠実一直線騎士 × 流され系オタク 異世界・身分差・勘違いから始まる リアル発展型BLコメディ。 *基本的に水・土の20時更新予定です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...