エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

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第1章 幼少期

19話 王子と未来の側近

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 レンドウィル、エルウィン、アイニェンの3人は父のエルロサールに呼ばれて大広間へ来ていた。大事な話があると言われてはいたが3人とも詳しい話は伝えられていない。大広間には母のランシェルとネオニール、トレバー先生まで集まっている。

 私たちを含め全員が大広間の入り口を向いて座っていて、自分たちは誰かがここに到着するのを待っているのだろう。レンドウィルは予測を立て、そして待ちくたびれて飽きてきた頃、城の中がざわざわと騒がしくなった。待っている相手が到着したに違いない、レンドウィルは姿勢を正して椅子へ座りなおした。


 広間に入ってきたのは3人のエルフだった。大人2人と子供1人。大人のエルフのうち女性の方は初対面だが、男性の方は何となく見覚えがあった。誰だったかなと考えながら、次に子供のエルフを見る。

 銀色の髪を鎖骨のあたりまで伸ばした子供のエルフだ。いつも父上や母上が付けているような金細工を首や耳や髪にたくさんつけていて、王族に仕える証の青い布を肩から垂らしている。誰だろう、どこか別の国から来た偉い人の子供だろうか。しっかりと前を向いて歩く姿は堂々としていて、何故か森の中を歩く時のジハナを思わせた。



 3人がエルロサールの前まで来てお辞儀をする。エルロサールはジハナを見てにんまりと笑みを浮かべた。挨拶は洗練された動きではなかったが昨日の今日で覚えた付け焼刃としては十分だ。
 息子たちをちらりと横目に見る。目の前にいるのが彼らの悪友だと気が付いていないようだった。内心ほくそえみながら大きく深呼吸をして口を開く。


「よく来た、ヴァーデン、レアンナ、そして息子のジハナよ」
「ジハナ……」
「え?うーん、あ、ほんどだ!誰かと思った」
「髪の毛どうしちゃったのかしら?まっすぐじゃないわ!」


 子供たちが次々に話し出す。ちらりと視線を向けると慌てて口をつぐんだ。普段は許可なく客人の前で話し始める事などないというのに、やはり友人がいると気が緩むのだろうか。エルウィンとアイニェンは興味津々と言った様子でジハナを見つめるのに対し、レンドウィルは戸惑いを隠せない様子だった。青い布の意味を察したのかもしれない。


「レンドウィルよ、ジハナをお前の側近に任命した」
「……」
「えぇ~いいなぁ兄上、ずっとジハナと一緒?」


 レンドウィルはうらやましがるエルウィンにも無反応でジハナを見つめている。少しの沈黙の後、レンドウィルは不安そうに私を見上げた。


「父上、なぜ急に……」
「お前ももう25。そろそろ多くの事を知らねばならぬ。その助力は気心の知れた者の方がよかろう。ジハナ、挨拶を」
「レンドウィル王子、よろしくお願いいたします」
「う、うん……よろしく」

「まずは仕える者の基礎を学ばねばならん。一緒に行動を始めるのはもうしばらく後、1年ほど経ってからだろう。今日のところはまず顔合わせだからな。ネオニール」
「はい」
「ジハナをまずは磨いてやれ。髪の変化は正直驚いたが、専門の者を呼んでいるのだろう?金細工はそのままがよいだろう、良く似合っている。ヴァーデン、流石だな」
「ありがとうございます陛下、息子に合うよう特別に作ったものでございます」
「うむ。さてヴァーデン、レアンナ、時間は空いておるか?予定が無ければ食事をしてゆけ」
「ご招待ありがとうございます、では是非ご一緒させてください」


「さ、ジハナ、ついてきなさい」
「はい、ネオニール様。陛下、レンドウィル王子、エルウィン王子、アイニェン姫、トレバー先生、父上、母上、失礼いたします」
「うん、またあとでね……」


 ネオニールに連れられ、ジハナが退出する。
 レンドウィルはジハナが広間の出入り口の先を曲がって姿が見えなくなるまでずっとその後姿を見つめていた。その表情は暗く、思っていなかった反応に私は少し困っていた。あれだけ仲の良い2人だから、堂々と一緒にいられることを喜ぶと思っていたのだ。

 ネオニールは退室前に少し不思議そうな視線を私に寄越したが、トレバーは困った顔をして笑っている。おそらく何か心当たりがあるのだろう。

 ランシェルに私とトレバーは少し話してから食堂へ行くと伝える。聡い妻は子供たちに部屋に戻るように言うと、ヴァーデンとレアンナを連れて先に退出してくれた。


「……レンドウィルは、喜ぶと思っていた」


 トレバー以外誰もいなくなった大広間では顰めた声も大きく響くようだった。僕もそう思っていました、とトレバーが答えて続ける。


「何か心当たりはあるか」
「そうですね、レンドウィル王子は……おそらく私たちが思っている以上にジハナ君を気に入っています」
「ならなぜ側近にしてあれほど沈んだ顔をする」
「言ったでしょう、"私たちが思っている以上に"ですよ」
「……わからん、はっきり言え」
「随分前の事ですが、ジハナ君を可愛いと言っていました。一緒にいると安心するとも」
「かわいい?あれがか?」
「ふふ、僕もそう思って聞き返したんです」
「笑った顔や照れた顔が可愛いそうです。その時思ったんですよ。その感情って、友達に向けるものなのかなって」
「レンドウィルがジハナを、友達以上に想っていると、そう言いたいのか?」
「あくまで可能性の話ですよ?ただ、僕が惚れ込んでいると揶揄ったら、照れて笑うだけで否定しなかったんです。もし陛下が、ランシェル様に恋をしているときに、彼女が側近になってしまったら、どう思われますか?」
「……」
「まぁ、今回は単にびっくりしただけかもしれませんけどね!」
「いや、あのレンドウィルの顔は、驚いた顔ではなかった。落ち込んだような、怖がっているような……」
「……あとは2人の問題ですからね。見守ってあげるしかないでしょう」


 私はジハナの後ろ姿を見つめるレンドウィルの目を思い出した。あれはどんな目だった?私は何か間違ってしまったのだろうか。

 レンドウィルがジハナに向けるのが恋慕であれただの友情であれ、私が無理やり2人の関係を変えてしまったのは確かだった。

 トレバーの言うようにしばらくは様子見だが、ネオニールにも一応伝えておかねばならない。私は大きくため息をつき、ヴァーデンとレアンナを待たせている食堂へ向かうのだった。
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