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グラウンドで

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 グラウンドを使用している他の生徒たちにも話を聞くため、僕たち四人はグラウンドに来ていた。
 他のサッカー部員や、野球部、陸上部の何人かに話を聞いたところによると――実際に話をしたのは東堂先輩だけれど――昨日の時点では手袋はなかった可能性が出てきた。野球部が同じようにボールを生垣まで飛ばしたことが何度かあったそうだが、特に手袋は見かけなかったらしい。加えて、陸上部と話しているときに、グラウンドに水たまりがあるのに滝島さんが気づき、その現象から、かなり説得力のある意見が出てきた。もし仮に昨日から手袋が生垣にあったのであれば、手袋は濡れているのではないか。しかし、僕たちの手元にある手袋は濡れていないし、軽井沢くんが見つけたときも、生垣の枝や葉に触れていた面だけに水滴は付着していたそうだ。しかし、今日は天気がいいから、放課後までに乾いてしまった可能性も考えられる。
「その可能性は低いと思います。」
 滝島さんは、編みかけの手袋を手に取り、僕の方に差し出す。
 手袋を触ると、彼女の意見の根拠を理解した。
「防水性か」
「そう。この手袋、防水加工がしてあるの。確かに、少量の雨なら今日の放課後までに乾ききっていてもおかしくなかったかもしれない。だけど、昨日は大雨だった。手袋の内側にも雨は入ってきたはず。しかも、防水加工が施してある分、手袋の内側の水は外側表面から蒸発しにくくなっているはずだから、更に乾きにくくなっていると思うの。だから、一日中雨が降っていた昨日には、少なくとも手袋は生垣のところにはなかったと考えていいのではないかしら」
 手袋を覗き込んでいた東堂先輩に手袋を手渡す。
「本当だ、注意深く触れば、確かに防水加工独特の滑るような感触がある。よく気が付いたね、ユッキー」
 ユッキーと呼ばれることにやはり抵抗があるのか、滝島さんは道に迷った子供のような困った表情を浮かべている。
「確かに、本当ですね」
 軽井沢くんも手袋を手に取りながら、感嘆の声を上げる。
「それはそうと、もっと気になっていることがあります」
 照れているのか、滝島さんの頬は桃のように薄く赤色に染まっている。
「それは、どうしてこの時期に手袋が見つかったのかということです」
「確かに、今日手袋が落とし物になって、その日のうちに発見されるというのは不思議と言えば不思議な気がするけど――」
「違う」
 滝島さんは僕の方に一瞬視線を送り、そして野球部やサッカー部が練習をしているグラウンドへと目を向けた。
「私が言っているのは、季節の話。だっておかしいと思わない? 今は春でしょ。冬に手袋が見つかったのなら頷けるけれど、今はその冬が終わって春。とても手袋が必要な時期だとは思えない」
 グラウンドの喧騒が風に吹かれて遠くへと去っていく。
 昼間のグラウンドに似つかわしくない静寂が、僕たち四人を包み込む。
「……確かに、その通りだね。私は大切なことを見逃していたのかもしれない」
 東堂先輩の言うように、僕もその重大なことに気がついていなかった。僕はいつも大切なものを見落とす。すぐ傍にあるのにも関わらず。
 この手袋で未完成なところは小指のところだけで、もう少しで完成という状態だ。手編みの手袋であるということは贈り物だと考えるのが妥当だろう。となれば、送る時期は遅くとも数か月後だと考えられる。つまり、春から夏にかけての間に相手に贈るために、落とし主は手袋を編んでいたことになる。寒い冬に使う手袋を春や夏にプレゼントすることはいささか不自然ではないだろうか。
「そうですね、春や夏に手袋をもらったら、『ん?』ってなりそうですね」
 もちろんプレゼントをもらえるのはとても嬉しいことですけど、と軽井沢くんは僕の方を見ながらつぶやく。   ちょっと、軽井沢くん、もしかして君は僕のことが――確かに僕も君のことを見て一瞬ときめいてしまったけれど、まさか君もそうだったというのか。これは両想いというやつなのか。
 舞い上がっている僕を置いてけぼりにするように、話は先へと進んでいく。
「それに、よく見ると、この手袋、滑り止めがついているよね」
 東堂先輩は手袋の片面を僕たち三人に見えるように向ける。そこには直径一ミリほとの粒々がついているのが見える。
「普通は手編みの手袋に滑り止めなんて、わざわざつけないよね」
 滑り止めをつけるには専用の材料を買ったり、粒々を何個も作ったりしないといけない。その分手間が大幅に増えるだろう。それに、滑り止めがあることで、それが不便さを引き起こしてしまう場合もあり、不用意に滑り止めをつけるとは考えにくい。
 結論、この手袋には何か特別な使用用途がある可能性が高い。
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