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円卓を囲んで

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 その後、東堂先輩の鶴の一声で、現状を確認することになった。隣の教室から円卓を一卓と椅子を一脚とってきて、僕たち四人で円卓を囲むようにして座る。ちなみに、東堂先輩曰く、隣の教室は物置の用途で使われているそうだ。実際に入ってみると、様々な種類の椅子や机が所狭しと並び、中には天井近くまで積み重ねられている机たちもあった。しかしながら、掃除などの手入れは行き届いているようで、机や椅子にほこりがたまっているということはなかった。どこかのクラスがこの教室の掃除を担当しているということだろうか。
「私が掃除していた。今年からは、私たち広報部三人でやる予定かな」
 どうやら広報部が掃除を担当しているとのこと。机と椅子が密集した、あの空間を掃除するとなるとかなり骨が折れそうだ。去年は東堂先輩一人でしていたそうだから、できることはできるのだろうけれど。
「では、現状確認をしようか。軽井沢くん、知っている最大限の情報を教えてもらえるかな。できるだけ時系列順で話してもらえるとありがたいかな」
 広報部の魅力について書かれていた黒板を黒板消しで消し終えると、東堂先輩は『手編み手袋(未完成)はだれのもの』という文字で黒板の上四分の一のスペースを埋め尽くす。
「はい。今日、新入生歓迎試合ということで、上級生の方も交えて、放課後に試合形式でサッカーをしていました。そのときにボールが大きく逸れて、グラウンドと校舎の間にある低い生垣にボールが入ってしまいました。それを僕が取りに行ったんですけど、そのときに、その編みかけの手袋が生垣に少し埋まりこむような形で、枝に引っかかっているのを見つけました」 
 東堂先輩は黒板に情報を書きこみながら、質問をしていく。
「今日の放課後に見つけたということは、ついさっき見つけたということだね?」
「はい、手袋を見つけて、サッカー部の先輩に相談して、その後すぐにここの部室まで来たので、たぶん見つけてから今の時間まで、三十分くらいだと思います」
 三十分前となると、今が十七時半だから、十七時ごろか。
「いつごろから、その生垣のところに手袋があったのか分かる?」
「いえ、僕は今日がサッカー部の練習に参加する初日で、それまでにグラウンドに出たこともないですし。今日グラウンドに出たのは、十五時ごろだったと思うんですけど、そのときから手袋があったのかどうか……よく見ていなかったので分からないです」
 普通の人はわざわざ生垣に目をやったりはしないだろう。生垣マニアなどでもない限りは。まして、少し埋め込まれたようにして手袋はあったらしいし、それだとなおさら目につきにくいだろう。
「その生垣のところを通る人影を見たりはしなかった?」
 必死に記憶をたどろうとしているのか、まるで苦いものでも食べたかのように、真剣でいて困ったような表情を軽井沢くんは浮かべる。その顔も可愛らしい。もちろん誰かさんから軽蔑のまなざしを向けられるだろうから、口に出したりはしないけれど。
「場所的には誰かが通ってもおかしくはないとは思います。何人か通っていたと言われれば通っていたような気もしますし……はっきりと記憶に残っていなくて。もしかしたら誰か通ったのかもしれないし、誰も通っていないかもしれません。すみません、はっきりと答えられなくて」
 軽井沢くんは東堂先輩に頭を下げる。彼の顔は地面と向かい合っていて、僕から彼の表情を見ることはできない。
「いやいや、軽井沢くんが謝る必要なんてないよ。気に病むことじゃない。むしろ、軽井沢くんが見つけてくれたことに私は感謝しているんだ。もし軽井沢くんが手袋を見つけてくれていなかったら、この手袋に光が当たることはなかっただろうから」
 『光が当たる』とは一体どういう意味なのか。僕には分からない。おそらくは僕の隣で座っている彼女にも。
「さあ、軽井沢くんが知っていることをありったけ話してほしい。それが、この手袋の歩んできた道を、進むべき道を明らかにすることにつながるだろうから」
 突然スイッチが入ったみたいに、東堂先輩は熱く語り始める。
「はい」
 軽井沢くんも座っていた椅子から立ち上がり、体の前で握りこぶしをつくる。
 やっぱりサッカー少年だったんだな、軽井沢くんは。妙なところで納得してしまう自分がいた。そう思わずにはいられないほど、軽井沢くんは全身から熱いオーラを放っていた。
 その後、東堂先輩が質問して軽井沢くんが答えるというやり取りが何度か繰り返された。
 僕と滝島さんは、遠くへと去っていく船を見るように、その熱い光景をただ眺めていた。
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