悪役令嬢?当て馬?モブ?

ブラックベリィ

文字の大きさ
9 / 173

0008★陽の精霊王の靈石

しおりを挟む


 セシリアは混乱しながらも、鳩尾から抉り出した魔封石を両手で握りなおす。
 そして、アゼリア王国の国土・国民その他の全ての澱みや穢れを浄化する為の器として、集めたモノが解放されないように埋め込まれた魔封石に、今ある全ての魔力を注ぎ込む。

 同時に、セシリアは一心に祈りながら、手の中におさまる魔封石に呼び掛ける。

 今…遠き遥か昔に……わかたれし……陽の精霊王の靈石よ………
 陽の精霊王の神子でありながら……穢れ堕ちし魔人の手によって………

 穢されれ……割られた……陽の精霊王の靈石よ………
 今一度…ひとつの……まったき靈石へと……戻り給え………

 セシリアが心から、乞い願うと同時に、魔封石はフルフルと震えだす。
 同時に、耳鳴りのようなモノが空間に響き、それはあっさりとかなえられる。

 自分の鳩尾から抉り出した魔封石と、眼前に拘束封印されていた龍帝陛下に埋め込まれていた魔封石が、セシリアの手の中で震えてゆっくりとひとつの魔封石へと変わる。

 ひとつにはなったが、まだ、封印や吸穢など、複雑に刻み込まれた呪いによって、魔封石のままだった。

 えぇーとぉ………こっから………どうしたら良いのぉ?
 ほとんど、無意識でここまできちゃったけどぉ…………

 前世の妹がしていた乙女ゲームのほとんどを知らないセシリアは、自分の行動に戸惑いつつも、しっかりと両の手の中にある魔封石を握る。

 ここに、魔封石がある……穢され…澱み……いびつな魔力と穢れを込められた………
 んぅぅ~……込められた……だったら、解放……いや返還…かな?

 究極まで精神がおっつめられたセシリアは、単純明快に決断する。

 まぁ…あるべき事象は、あるべき者達に………よね
 なら、ここは…この魔封石に込められたモノを、本来の持ち主に返すべきね
 他人に、自分達の負いしモノを、一方的に、勝手に押し付けるのは、ダメ絶対

 セシリアは、両手を開き、捧げ持つようにしながら、言霊となる言葉を口にする。

 「古今東西……流れながるる……あらゆるモノよ……
  あるべき事象……すべて……あるべき姿に………
  陽の精霊王の靈石よ……その身に溜めし…モノを返還せよ」

 セシリアは、皇太子妃教育の中で読み覚えていた、神子の言霊を思い出しながら、自分の言葉と解釈で持って、言い放った。

 その言霊が終わると同時に、セシリアが捧げ持つ魔封石は、ドロリと澱んだ魔力を放出し、上空に上がると同時、フッと消えて行く。

 どのぐらいの間、その姿勢でいたかわからないが、魔封石を捧げ持つ腕がブルブル震える頃に、ただただ黙ってセシリアの行動を見守っていた龍帝が声をかける。

 『お嬢さん……そろそろ……限界であろう………』

 疲れ切り、声が細くなっいる龍帝の言葉に、セシリアはハッとする。

 「………あっ………」

 意識が飛んでいた居たセシリアは、眼前の龍帝へと視線を戻す。

 「失礼しました…龍帝陛下………」

 と、無意識にカーテシーをするセシリアに、龍帝は穏やかな声で言う。

 『よいよい……長き時を封じられし……我を…解放してくれたのだ……』

 声に力が無いコトで、セシリアは龍帝に残された時間がほとんど無いコトを読み取る。
 ほんのひと時のレゾナンスでも、セシリアにはそのコトが理解ってしまった。

 えぇーとぉ……転生とかできるのかなぁ?……
 例えば、龍帝陛下の魔石が有ればできるのかなぁ………

 時間が残されていないのは………マジで一目瞭然なんだけどぉ………
 代替の器なんて造っている時間なんてないし………
 だいたい、私にそんなモノなんて作れないしなぁ………

 と思い悩みながら、手の中の魔封石の感触にハタッと思い付く。

 コレ使えないかしら?………なんか、浄化されているっぽいし………
 もとの精霊王の靈石になってない?………

 ただ、陽の精霊王の気配は……残念ながら感じないけど………
 陽の精霊王が居ない靈石なら……使えないかしら?………

 「龍帝陛下……ものは相談なのですが………私の手の中にある靈石に宿りませんか?」

 セシリアの言葉に、龍帝は首を傾げる。

 『その靈石にか?』

 「はい……視たところ……そろそろ、何もかもが限界のようですし………」

 セシリアの言葉に、龍帝はユルユルと首を振る。

 『長く……封じられた……身とし……嬉しい話しだが……無理だ……』

 既に、限界を迎えている身体、魂魄、魔石、長い間穢れに染まり、魔力を吸い上げられていた為に、ボロボロなのだ。
 御霊移しというモノに耐えられるだけのモノが既に残っていないのだ。

 龍帝の言葉に、セシリアはクッと悔しそうに唇を噛む。
 セシリアにも、理解ってしまったのだ。
 龍帝が、今自分と話しているこの時間すら奇跡だと言うことを………。

 ぅん?………奇跡……時間………時空神に祈ってみるっていうのはどうかしら?
 刻を司る神様なら出来ないかしら?………対価は必要よねぇ………

 「では、一度だけ試させては下さいませんか?」

 『……ためす?……なにをだ?………』

 人間の愚かさゆえに苦しんだ龍帝陛下に。穏やかな時を生きてもらいたい………
 神子に…選ばれたと…驕り……堕落した者の為に……苦しんだこの方を救いたい

 「御霊移しと言う儀式がございます…それを試させて欲しく………」

 深く頭を下げるセシリアに、レゾナンスの名残りから、自分の長き時を思い痛む思いを感じた龍帝は頷く。

 『良い……そなたの好きにせよ……もう…長くは持たぬ………』

 「お許しいただき……ありがたき幸せ………」

 涙声にならないように気を引き締めながら、セシリアは心から時空の神へと祈りの言霊を口にする。

 「創造の刻より……古今東西……流れながるる
  刻と空間のすべてを司り…つむぎし…始祖神よ……

  この世に誕生せし時に…生命の神よりたまわりし
  この身体をあやどる彩…を……

  太陽の光りを写し取りし…流れる黄金の髪…
  萌ゆる大地の緑を映しし…息吹き豊かな碧眼………
  僅かばかりで……対価にもならぬモノですが……捧げます

  どうか……長く苦難の時を過ごした龍帝陛下の御霊を
  陽の精霊王の靈石に………移したまえ…………」

 セシリアは、捧げるモノを持たないがゆえに、生まれ持った色彩を、幼少期、両親に唯一褒められた髪と瞳の色を対価として、龍帝の御霊移しを望んでみたのだ。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

処理中です...