妖魔戦輝

ブラックベリィ

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008★邂逅

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 座り込んだタケルは、自分が無事に境界線の内側に戻れたことに安堵して、腕の中の繭玉に思わず縋りついてしまう。
 激しく波打つ鼓動が落ち着くのを待ちながら、今日一番の冒険の余韻に浸る。

 しばらくして、鼓動と気持ちが落ち着いたタケルは、自分の腕の中の繭玉が無事であることに改めてホッとし、無意識に呟く。

 はぁぁ~…マジで、ドキドキしたぜ
 あんなに喧嘩していたのに、ピタッと止まって
 あいつら全部、俺の存在をすぐさま感知したもんなぁ
 
 村の中で飼っている家畜以外は、危ないって本当なんだなぁ
 あいつらは、肉が食べられる、魔獣に分類されるんだったよなぁ
 他に妖獣って呼ばれる、肉が食べられない種類もいるんだよなぁ

 そんな感想と、大人達に教えられた知識とを照合しつつ、タケルは腕の中の繭玉をそっとナデナデする。

「お前、あのワイルドボアとホーンディアの群れに、踏み潰されなくて良かったなぁ…」

 呟くようにそう言いながら、タケルは掌に感じる、ほんのりとした温かさと、ホワホワとした感触にほぉ~っと溜めていた息を吐く。
 すると。

『……ア…リ…ガ…ト…ウ……』

 どこかたどたどしく弱い念話が、タケルの脳裡のうりへと届いた。
 その念話を受けたタケルは、それが自分の腕の中の繭玉からだと本能的に理解する。

「今のキミなんだね。お話しできるんだ」

『……ウ…ン……マダ……テ…キゴウ……チュ……』

 繭玉の中の存在が、意思疎通が可能なほどの知的生命体であることを知ったタケルは、そのたどたどしい念話を受けてクスッと笑う。

 妹達が生まれた頃の俺と変わらないなぁ
 俺も、あの頃は呂律ってやつが回らなくて苦労したっけ
 最近は、だいぶちゃんと喋れるようになったけどさ

 そんなことを考えつつ、繭玉を隠せる場所を探すが、残念なことに、守護結界の張られた守護地の外輪部の部分にそんな場所は存在してなかった。

 う~ん…困ったぞぉ……何処に隠そう?
 っと、その前に、場所を移動しても良いのかなぁ?
 あそこから移動しちゃったから、今更だけど

 一応、腕の中にあるのが繭玉なので、いずれは中で変態を終えて、成体となったモノが出て来る。
 そう言う知識はあるので、設置された場所から移動して、育成環境が変化するのは良くないということは理解わかっているタケルである。

 だからと言って、元の位置へは到底戻すことは不可能だった。
 縄張り争い中であり、人間を見れば躊躇ためらいなく襲い掛かって来るモノが多数存在しているからである。

 う~ん…どういうところが良いのか判らないしぃ………
 この辺から移動しても大丈夫なのかなぁ?

 ちょっと途方にくれたものの、タケルは小首を愛らしく無意識に傾げてから、直接繭玉に問い掛ける。

「えーと…繭玉さん、孵化する為の場所って、ここから移動しちゃっても大丈夫?」

 タケルの問いかけに、繭玉は小さく震えてから応える。

『…ン……ヘイキ……ヒ……カゲ……イイ………』

 念話での応答に、タケルは頷く。

「そっか……それじゃ、ちょっと奥に連れてくね。花が咲いているところに、キミを隠せそうな穴があるんだ。おっきなおっきな大樹に開いているんだよぉ」

 そう言いながら、タケルは一度繭玉を腕の中から地面へと降ろす。
 そして、ワイルドボアに蹴り飛ばされて即死したホーンラビットの前足を肩にかけて、大人が子供を背負うような形にして、ツタで手足をくくり交差させるように縛り上げた。

 うっ……思っていたよりも、ずっと重い
 でも、せっかくだし…置いてくの勿体無もったいな

 ズシッと来る重量に、タケルはヨタヨタする。
 それでも、繭玉を手放しがたいタケルは、ソッと繭玉を抱き上げる。
 途端に、身体全体の伸し掛かっていたホーンラビットの重量が重さをほとんど感じさせない程に軽減する。

 それが腕の中の繭玉がしてくれたことだと判ったタケルは、感謝を込めて言う。

「ありがとう、繭玉さん」

 タケルの言葉に、念話での応答は無かったが、微かにフルフルと震える。
 既に、念話をするだけの【力】が無いか、重量軽減を行っているセイで応えられないのだろうと判断し、タケルは帰路を歩き始める。

 タケルは集落から直ぐ近くにある、元は花畑だったらしい、今は背丈がわりとある雑草も生えている空地に向かう。
 繭玉からの補助のお陰か、普段の半分くらいの時間でそこに到着したタケルは、大樹にポッカリと開いた穴に、意思疎通ができる繭玉を隠す。

 ここなら家から近いし、大人達はあまり来ないからな
 幸い、他の子供達も草刈りしてないから、ここには遊びに来ない
 良い具合に、雑草が大樹の穴を隠してくれているもんな

 タケルくらいの子供が3人くらい入っても余裕な大樹の穴の奥に、ソッと繭玉を置く。

「ここで大丈夫かな?」

 そうタケルが無意識に呟けば、繭玉はフワッと仄かに光って、スゥーっとその存在を消してしまった。
 びっくりして、そこに手を伸ばせば、確かにソコに居るコトを感じて、ホッとする。

「そっか…そうやって、擬態するんだ………っと、帰らなきゃ……」

 タケルは名残り惜しいと思いつつ、繭玉からの重量軽減が無くなって、ずっしりと重いホーンラビットを背負ってヨタヨタと自宅へと向かうのだった。









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