妖魔戦輝

ブラックベリィ

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009★タケルの冒険はうやむや

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 はたから観れば、ホーンラビットに背後から襲われている構図にしか見えない状態で、タケルは父親であるマサルの姿を探す。
 何故なら、現在のタケルの母親は双子で生まれた妹達の世話で非常に忙しいのだ。

 そのせいもあって、長男のタケルを見る為の余裕というモノが無いのだ。
 タケルはと言えば、そんな母親の邪魔をしたくないので、できるだけ普段は良い子を演じていたりする。

 だから、本当なら騒ぎを持ち込みたくないタケルだった。
 それでも、縄張り争いをするワイルドボアの群れとホーンディアの群れは見逃すことができない程、非常に魅力的な獲物なのだ。

 繭玉の【力】による重量軽減が無くなったことで、やっとこさっとこ足を進めたタケルは、遠くに人影が見えたことで、ホッとする。
 同時に、タケルのヨタヨタ姿に気付いた大人が、駆け寄って来る。

「たけ坊ぉー…どうしたぁー…大丈夫かぁー……」

 その聞きなれた声にホッとして、タケルはペタンッとその場でヘニャァ~と座り込んでしまう。

「お爺ぃ~……重かったよぉ~……疲れたぁ~……」

 駆け寄って来た壮年の男は、マサルにとって叔父にあたり、タケルにとっては大叔父にあたる男だった。
 ちなみにタケルには『お爺ぃ』と呼ばれているが、コテツという名前だったりする。

「んぅー…何処も怪我は無いか? タケル」

 そう言いながら、コテツは座り込んだタケルの回りをクルリと見て回る。
 ひと目で、タケルが背負うホーンラビットが死んでいることは見て取れたので、まず身体に大きな怪我など無いかを確認したのだ。

「よしっ…どこにも怪我は無いようだな」

 そう言いながら、コテツはタケルが胸の前で手足を交差させて、ツタで括って背負って来たホーンラビットを外してやる。
 勿論、そのさいにちゃんともう一度タケルの身体に怪我がないことを確認していたのは確かな事実だった。

「うん……大丈夫ぅ………じゃなくて、父さんはどこぉ?」

 荒くなっていた呼吸が落ち着いと同時に、背中に背負って来たホーンラビットを外してもらったコトで、タケルは大きく深呼吸する。

「ぅん? マサルなら、一緒に物々交換に行った奴等の牝牛に、ようやく種付けが終わったからって、ヤヒロのところのがちょうど発情したから連れて行くって言ってたな。どれ、連れて行ってやろうか?」

「うん……連れて行ってっ……」

 タケルの返事にコテツは、タケルの身体を軽々と片腕に抱き上げ、ホーンラビットをツタで手足を括りなおしてからヒョイッと軽く持ち、歩き出しながら問い掛ける。

「んで、こいつぁーどうしたんだぁ? まだ、ひとりで獲れないだろう?」

 もう括り罠ぐらいは教えてもらったのか?と思いつつ、そう問い掛けたコテツに、タケルは首を振る。

「うん……えっと……境界線って言うの……ちゃんと見れば、判るって…聞いたから……それを見に行ったんだぁ………」

 タケルは、滑らか過ぎないように、たどたどしく、考え考え、どうすればお説教が少なくて済むかと思い悩みながら言葉を口にする。
 そんなタケルに、コテツはなるほどと思う。

 何故なら、自分も子供の頃に、やはり大人達の言う境界線というモノを、見に行った記憶があるからだ。
 だから怒ることをせずに、コテツはタケルが話しやすいように、さりげなく促すように言う。

「そっかぁー……それで、タケルは境界線が判ったかなぁ?」

 コテツの言葉に、お説教のようなモノが無かったコトにホッとして言葉を続ける。

「うん……本当に、地面の色が違うんでぇ……驚いたよぉ」

「それを確認しに行ったのか?」

「うん」

 得意げに頷くタケルに、コテツは苦笑いを微かに浮かべる。
 子供の視線は侮れないもので、大人の視線と違うモノを観ることがあるので、コテツはタケルから見た境界線付近の話しを引き出そうと問い掛ける。

「そっか……他に変わったことはあったかぁ?」

 コテツからの言葉に、当初の目的を思い出したタケルは大きく頷く。

「うん……それで……境界線を確認しながら……内側を散歩してたらねぇ……境界線の外側をねぇ……ワイルドボアの群れがドドドドドドッて走って来たんだぁ……」

 タケルの言葉に、コテツは一瞬だけビクッとしてから、何事もなく問い掛ける。

「それは境界線の外側だよな」

「うん………お爺ぃが両手拡げて3人くらい外かなぁ?」

 境界線上から換算して、そんれぐらい至近距離にワイルドボアの群れが現われたことをタケルは口にする。

「そっかぁー……いくら守護結界の張られた守護地で、安全だったとしても、境界線の内側でも危ないことはあるから、あまり行くなよ………つーか、あんなところまで歩いていったのか?」

 コテツは内心で心臓に悪い情報だなぁーと思いつつ、少しだけたしなめる言葉を口にしたが、タケルはそれに気付かないフリをして言葉を続ける。

「うん……でねぇ……ワイルドボアの群れがねぇ………ドドドドドドッて通り過ぎた後にねぇ……もの凄い鳴き声したんだぁ……そんで…ホーンラビットがねぇ……俺の…足元に飛んで来たんだぁ………ドサッ……て………」

 その時の状況を想像し、コテツは内心で蒼白になる。

 そっか……生きている害獣は入れないけど……
 死んでいれば、何の障害もなく通過するのか……はぁー
 それは盲点だったわ……

 こりゃー……ちぃーと子供達の行動を気をつけないとなぁ
 タケルは無謀なコトしない子だけど……あいつらはなぁ……はぁ~

 そのおとなしいはずのタケルが、とんでもない危険な冒険をしたことに気付かないコテツは、頷きながら言う。

「そうか、そりゃー…もうけたなぁータケル……今日は肉料理が出るなぁ……皮もなめせば敷物になりそうだなぁー………」

 あえて怒らずにそう言えば、タケルはちょっと得意げな表情になって頷く。

「うん……それでねぇ………今度は別のところからぁ……ホーンディアの群れも現われてねぇ~………喧嘩し始めたんだ…縄張り争いってやつ始めたんだぁ……だから、早く父さんに知らせたい」

 やや重いが、最近わりと滑らかに喋れるようになったタケルの必死の言葉に、コテツは頷く。

「そうだな。上手く行けば、肉祭りだな」

 普段あまり喋らないタケルが、珍しく一生懸命に喋る訳を知り、コテツは足を早める。
 マサルの元に向かうついでに、狩りが得意な者達へと声を掛けることは忘れなかった。

 ちなみに、守護地の境界線の外側でワイルドボアの群れとホーンディアの群れが縄張り争いをしているという情報を得たマサルは、集落の男達を募って、即座に討伐に向かったことは言うまでもない。

 追記するならば、縄張り争いでマサル達が到着した時には、ほとんどが虫の息で、とどめを刺すだけだった。
 総数16頭の大物の獲物と、まるまると肥え太ったホーンラビットを得たことで、子育て真っ最中で手が離せない母親と、産み月が近い女性と年端もいかない子供達以外のほとんどが肉処理に追われたのだった。

 住民のほとんどが、連日肉処理に追われたことで、結局、タケルのプチ冒険は誰にも咎められるコトが無かったのは確かな事実だった。







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