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第1章「夏」
1.わた雲ソフトクリーム(3)
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部活を終えると、いつものようにコンビニでアイスを買い、川沿いの遊歩道をゆっくりと歩く。バスに乗れば一瞬で着くけど、こうして陽菜とくだらない話をしながらのんびり歩くのが、何よりも好きなんだ。
いつもキリッとしている陽菜も、私と2人きりの時は柔らかい表情になる。だけど今日は何だか様子が違って、悩んでいるような顔で
「ねえ澪……好きな人、いる?」
そんなことを聞いてきた。アイスを舐める陽菜は、私が目をそらすのを見逃さない。
「ふふ、その顔は、いるね?」
「う、ううん。好きとかそういうのかはまだよく分からないけど……でも、気になる人はいるかな」
「もしかして……羽合先生?」
「えええっ!? ど、どうしてそれを!?」
「澪、アンタねぇーーバレバレだってば」
呆れたように笑う陽菜。私は川面に揺れる夕日を見つめ、「でも、ダメなんだ」とアイスを一口含んだ。
「先生だからダメなの?」
「それもあるけど……羽合先生、きっとまだお姉ちゃんのこと忘れられないでいるんだと思う。だから、なんか、お姉ちゃんに申し訳なくって……」
「そっか……うん、よく分かる」
「でも陽菜こそ、もしかして好きな人……いるんじゃない?」
「ええっ!?」
アイスを食べようとした陽菜の手が止まった。
「隠し事はよくないぞ。私と陽菜の仲じゃん」
「えっと、その…………あ…………」
「みーーーお!」
陽菜が顔を真っ赤にして、もじもじと言いかけた時だった。川向こうから、私の名前を呼ぶ声が響いた。
「え、大地!? どうしたのーー!?」
どうやら走ってきたらしく、大地は肩で息をしている。大した幅じゃないこの川、そこまで大声じゃなくても聞こえるはずなのに。でも、大地につられて私も思わず叫び声をあげていた。
ふと陽菜を見ると、溶けたアイスがぽたぽたと垂れているのに気づかず、まるで夕焼けのように顔を赤らめている。
「ねえ陽菜、どうかした?」
「あ、私、もう帰るから」
「えっ、ちょっと待ってよ陽菜!」
「おおーい。みーーお。ビッグニュースだぞーーー!」
川向こうで、大地はまだ叫んでいる。
「おーーい、メールの新事実!見つけたぞーー!」
「はーい、明日教えてーー!」
私は大きく手を振って答え、急いで陽菜の後を追いかけた。
* * *
すぐに陽菜に追いつくことができた。道沿いの公園で手を洗う彼女の姿を見つけ、そっと声をかける。
「ーーごめんね陽菜……。陽菜の好きな人って、大地だったんだ……?」
陽菜は小さくうなずいて答えた。
「もっと早く教えてくれればよかったのに」
「ごめんね……私、変だったよね」
「全然。アイツはそんなこと気にしないって。ほら、だって、マイペースだし」
「やっぱり二人、仲良しなんだね」
「うん、小学校の頃からずっと一緒だからね。腐れ縁って感じ」
小さく笑う陽菜は、長い髪を耳にかけた。私より15cmも高い彼女が、今日はとても頼りなく小さく見えた。
「私、彼の前だとうまく話せなくて……。澪が羨ましいな」
「え、そうなの? てことは、理科部に入ったのも大地に会うためだったんだ。気づかなくてごめん……」
「はは……私、冷たい人だと思われてたりするのかな」
そう言って自嘲する陽菜を見上げ、私は「そんなことないよ」と力強く言った。
「冷たいってきみは言うが、そこに味があるんだよ。きみもアイスは好きだろう? ってこれ、ロシアの小説家ツルゲーネフの言葉なんだって」
ふふん、と得意げに言ってみる。
「ーーっていうお姉ちゃんの言葉、なんだけどね」
そう言うと、陽菜もようやく笑顔を見せてくれた。私と陽菜は、まるで姉妹みたいに仲良しだ。時には、こうしてお姉ちゃん役が入れ替わることもある。
「気持ちが冷めないうちに、頑張らないとね!」
「うん、その意気だよ陽菜! 絶対応援する!」
夕焼けに照らされた雲が、まるで金色に輝いている。歩き出した私たちを、まるで祝福してくれているみたいだった。
――そういえば、大地の言ってた「ビッグニュース」って、一体なんだったんだろ……。
いつもキリッとしている陽菜も、私と2人きりの時は柔らかい表情になる。だけど今日は何だか様子が違って、悩んでいるような顔で
「ねえ澪……好きな人、いる?」
そんなことを聞いてきた。アイスを舐める陽菜は、私が目をそらすのを見逃さない。
「ふふ、その顔は、いるね?」
「う、ううん。好きとかそういうのかはまだよく分からないけど……でも、気になる人はいるかな」
「もしかして……羽合先生?」
「えええっ!? ど、どうしてそれを!?」
「澪、アンタねぇーーバレバレだってば」
呆れたように笑う陽菜。私は川面に揺れる夕日を見つめ、「でも、ダメなんだ」とアイスを一口含んだ。
「先生だからダメなの?」
「それもあるけど……羽合先生、きっとまだお姉ちゃんのこと忘れられないでいるんだと思う。だから、なんか、お姉ちゃんに申し訳なくって……」
「そっか……うん、よく分かる」
「でも陽菜こそ、もしかして好きな人……いるんじゃない?」
「ええっ!?」
アイスを食べようとした陽菜の手が止まった。
「隠し事はよくないぞ。私と陽菜の仲じゃん」
「えっと、その…………あ…………」
「みーーーお!」
陽菜が顔を真っ赤にして、もじもじと言いかけた時だった。川向こうから、私の名前を呼ぶ声が響いた。
「え、大地!? どうしたのーー!?」
どうやら走ってきたらしく、大地は肩で息をしている。大した幅じゃないこの川、そこまで大声じゃなくても聞こえるはずなのに。でも、大地につられて私も思わず叫び声をあげていた。
ふと陽菜を見ると、溶けたアイスがぽたぽたと垂れているのに気づかず、まるで夕焼けのように顔を赤らめている。
「ねえ陽菜、どうかした?」
「あ、私、もう帰るから」
「えっ、ちょっと待ってよ陽菜!」
「おおーい。みーーお。ビッグニュースだぞーーー!」
川向こうで、大地はまだ叫んでいる。
「おーーい、メールの新事実!見つけたぞーー!」
「はーい、明日教えてーー!」
私は大きく手を振って答え、急いで陽菜の後を追いかけた。
* * *
すぐに陽菜に追いつくことができた。道沿いの公園で手を洗う彼女の姿を見つけ、そっと声をかける。
「ーーごめんね陽菜……。陽菜の好きな人って、大地だったんだ……?」
陽菜は小さくうなずいて答えた。
「もっと早く教えてくれればよかったのに」
「ごめんね……私、変だったよね」
「全然。アイツはそんなこと気にしないって。ほら、だって、マイペースだし」
「やっぱり二人、仲良しなんだね」
「うん、小学校の頃からずっと一緒だからね。腐れ縁って感じ」
小さく笑う陽菜は、長い髪を耳にかけた。私より15cmも高い彼女が、今日はとても頼りなく小さく見えた。
「私、彼の前だとうまく話せなくて……。澪が羨ましいな」
「え、そうなの? てことは、理科部に入ったのも大地に会うためだったんだ。気づかなくてごめん……」
「はは……私、冷たい人だと思われてたりするのかな」
そう言って自嘲する陽菜を見上げ、私は「そんなことないよ」と力強く言った。
「冷たいってきみは言うが、そこに味があるんだよ。きみもアイスは好きだろう? ってこれ、ロシアの小説家ツルゲーネフの言葉なんだって」
ふふん、と得意げに言ってみる。
「ーーっていうお姉ちゃんの言葉、なんだけどね」
そう言うと、陽菜もようやく笑顔を見せてくれた。私と陽菜は、まるで姉妹みたいに仲良しだ。時には、こうしてお姉ちゃん役が入れ替わることもある。
「気持ちが冷めないうちに、頑張らないとね!」
「うん、その意気だよ陽菜! 絶対応援する!」
夕焼けに照らされた雲が、まるで金色に輝いている。歩き出した私たちを、まるで祝福してくれているみたいだった。
――そういえば、大地の言ってた「ビッグニュース」って、一体なんだったんだろ……。
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