風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜

嶌田あき

文字の大きさ
3 / 66
第1章「夏」

1.わた雲ソフトクリーム(3)

しおりを挟む
 部活を終えると、いつものようにコンビニでアイスを買い、川沿いの遊歩道をゆっくりと歩く。バスに乗れば一瞬で着くけど、こうして陽菜とくだらない話をしながらのんびり歩くのが、何よりも好きなんだ。
 いつもキリッとしている陽菜も、私と2人きりの時は柔らかい表情になる。だけど今日は何だか様子が違って、悩んでいるような顔で

「ねえ澪……好きな人、いる?」

 そんなことを聞いてきた。アイスを舐める陽菜は、私が目をそらすのを見逃さない。

「ふふ、その顔は、いるね?」
「う、ううん。好きとかそういうのかはまだよく分からないけど……でも、気になる人はいるかな」
「もしかして……羽合先生?」
「えええっ!? ど、どうしてそれを!?」
「澪、アンタねぇーーバレバレだってば」

 呆れたように笑う陽菜。私は川面に揺れる夕日を見つめ、「でも、ダメなんだ」とアイスを一口含んだ。

「先生だからダメなの?」
「それもあるけど……羽合先生、きっとまだお姉ちゃんのこと忘れられないでいるんだと思う。だから、なんか、お姉ちゃんに申し訳なくって……」
「そっか……うん、よく分かる」
「でも陽菜こそ、もしかして好きな人……いるんじゃない?」
「ええっ!?」

 アイスを食べようとした陽菜の手が止まった。

「隠し事はよくないぞ。私と陽菜の仲じゃん」
「えっと、その…………あ…………」
「みーーーお!」

 陽菜が顔を真っ赤にして、もじもじと言いかけた時だった。川向こうから、私の名前を呼ぶ声が響いた。

「え、大地!? どうしたのーー!?」

 どうやら走ってきたらしく、大地は肩で息をしている。大した幅じゃないこの川、そこまで大声じゃなくても聞こえるはずなのに。でも、大地につられて私も思わず叫び声をあげていた。
 ふと陽菜を見ると、溶けたアイスがぽたぽたと垂れているのに気づかず、まるで夕焼けのように顔を赤らめている。

「ねえ陽菜、どうかした?」
「あ、私、もう帰るから」
「えっ、ちょっと待ってよ陽菜!」
「おおーい。みーーお。ビッグニュースだぞーーー!」

 川向こうで、大地はまだ叫んでいる。

「おーーい、メールの新事実!見つけたぞーー!」
「はーい、明日教えてーー!」

 私は大きく手を振って答え、急いで陽菜の後を追いかけた。

 * * *

 すぐに陽菜に追いつくことができた。道沿いの公園で手を洗う彼女の姿を見つけ、そっと声をかける。

「ーーごめんね陽菜……。陽菜の好きな人って、大地だったんだ……?」

 陽菜は小さくうなずいて答えた。

「もっと早く教えてくれればよかったのに」
「ごめんね……私、変だったよね」
「全然。アイツはそんなこと気にしないって。ほら、だって、マイペースだし」
「やっぱり二人、仲良しなんだね」
「うん、小学校の頃からずっと一緒だからね。腐れ縁って感じ」

 小さく笑う陽菜は、長い髪を耳にかけた。私より15cmも高い彼女が、今日はとても頼りなく小さく見えた。

「私、彼の前だとうまく話せなくて……。澪が羨ましいな」
「え、そうなの? てことは、理科部に入ったのも大地に会うためだったんだ。気づかなくてごめん……」
「はは……私、冷たい人だと思われてたりするのかな」

 そう言って自嘲する陽菜を見上げ、私は「そんなことないよ」と力強く言った。

「冷たいってきみは言うが、そこに味があるんだよ。きみもアイスは好きだろう? ってこれ、ロシアの小説家ツルゲーネフの言葉なんだって」

 ふふん、と得意げに言ってみる。

「ーーっていうお姉ちゃんの言葉、なんだけどね」

 そう言うと、陽菜もようやく笑顔を見せてくれた。私と陽菜は、まるで姉妹みたいに仲良しだ。時には、こうしてお姉ちゃん役が入れ替わることもある。

「気持ちが冷めないうちに、頑張らないとね!」
「うん、その意気だよ陽菜! 絶対応援する!」

 夕焼けに照らされた雲が、まるで金色に輝いている。歩き出した私たちを、まるで祝福してくれているみたいだった。
 ――そういえば、大地の言ってた「ビッグニュース」って、一体なんだったんだろ……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...