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第1章
第5夜 朝焼告白駅(1)
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海沿いの無人駅のホームに降り立った瞬間、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
およそこの世のものとは思えない美しい光景に、俺たちは言葉を失い、ただ見つめるしかなかった。
東の水平線、真っ黒な海の向こうにオレンジ色の空が広がっていた。その光景は、俺の想像をはるかに超えていた。太陽は水平線の下にいる。燃えるような深紅の朝焼けと群青の夜空が、なめらかに繋がっていた。その色彩の変遷は、まるで天空のキャンバスに神々しい絵が描かれているかのよう。俺は、この世界の美しさを初めて知った気がした。小学校の頃にはこの街に住んでいて、見慣れていた景色のはずなのに、すっかり忘れてしまっていた。
先輩が指さした海岸のほうを見ると、光の帯が海面を覆い、波の一つ一つが宝石のように輝いていた。暗い砂浜にたくさんの海ほたるが打ち上げられ、その青白い光が星空を鏡に映したみたいだった。
俺は目を見開いたまま、その様子をじっと見つめていた。心臓が早鐘を打つのを感じる。
決して日が昇ることのない街で育った俺にとって、これまで見てきた夜空の星々の輝きさえも霞んでしまうほどの感動が、心の中で波のように押し寄せる。この瞬間を永遠に覚えていたいと思った。
「すごいね……」
先輩の口から小さなつぶやきがこぼれた。驚きと畏敬の念に満ちた声に、俺も思わずうなずいた。
大きく開いた彼女の瞳には朝焼けの光が映り込んでいた。その瞳の奥に、人間離れした何かが潜んでいるように見えた。まるで宇宙の深淵を覗き込んでいるかのような、得体の知れない深み。その瞳に吸い込まれそうになる。
俺たちは言葉を交わすことなく、ただその光景に見入った。
潮の香りを含んだ海風が先輩の長い髪をそっと撫で、ほのかに甘い香りが漂った。遠くで響く波の音。錆びついた線路、色あせた駅名標、そして俺たち二人の姿以外何もない無人のホーム。この瞬間が永遠に続けばいいのにと思った。
やがて、先輩がゆっくりと口を開いた。その声は、朝焼けの温かさに負けないほど柔らかかった。
「ねえ、蛍くん」
先輩の顔には、いつもの明るさとは違う、何か深い決意のようなものが浮かんでいた。その表情に、俺は少し不安を感じた。
朝焼けの光が彼女の輪郭を優しく照らし、まるで別世界の存在のように見えた。その姿は、俺が初めて彼女に出会った日、理科室で見た不思議な光景を思い出させた。懐かしさと共に、胸が締め付けられる感覚があった。
「ここまで連れてきてくれて、ありがとう」
先輩は柔らかな笑みを浮かべ、ぺこりとおじぎをした。
「いえ、なにもしてませんって」
俺は慌てて答えた。心臓がドキドキしていた。
「ううん——一緒に来てくれた」
ああ。ため息にも似た声を漏らし、俺はうなずいた。胸の中に、期待と不安が入り混じった感情が湧き上がる。
これまでの不眠症の夜々、理科室での実験、屋上での星空観察、そして今この瞬間までの全てが、何か大きな真実へと繋がっているような予感がした。その予感に、俺は身震いした。
「私、話しとかなきゃいけないこと、あるんだ」
先輩は深呼吸をし、朝焼けに染まる海を見つめながら静かに語り始めた。俺は息を詰めて、次の言葉を待った。その仕草には、地球の重力に慣れてないみたいな、かすかな違和感があった。
「……やっぱ、いいです。今日は」
「えっ」
「何も、聞きたくないです」
俺は自分でも驚くほど強い口調で言った。
「うまく言えないけど、今はもう少し、このままがいい。じつは眠れるとか、ほんとうは異星人だとか。そうだったとしても、俺にとって……その、つまり……俺にとって、」
先輩の手をそっと取ると、彼女の瞳に驚きの色が浮かんだ。先輩の手は温かく、確かにそこにいた。その実感に、俺は安心感を覚えた。
「先輩は……先輩です。だから……」
彼女大きく見開かれたその瞳に、星々が煌めいているのが見えた。それは比喩ではなく、文字通り、小さな星々が舞っていた。
「蛍くん……今日は、『どうせ』って言わないね。めずらしい」
その声は、宇宙の彼方から届いたかのように遠く儚く、かすかだった。俺は不思議な懐かしさを感じた。
「先輩こそ、めずらしいですね」
「えっ?」
「そんなに自信なさそうな顔するなんて」
俺の言葉に先輩は言葉を詰まらせると、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。その反応に、俺は少し嬉しさを感じた。
「もうっ。見んな!」
先輩の声にいつもの強さが戻っていて、ちょっと安心した。
俺は先輩と肩が触れるか触れないかくらいの7センチくらいの距離をとって横に並んだ。そうして輝く海をただぼんやりと見つめた。ゆっくりと、でも確実に。これまで感じていた特別な感情が確信へと変わっていく。同時に、大きな責任も感じた。その重みに、俺は少し身を縮めた。
およそこの世のものとは思えない美しい光景に、俺たちは言葉を失い、ただ見つめるしかなかった。
東の水平線、真っ黒な海の向こうにオレンジ色の空が広がっていた。その光景は、俺の想像をはるかに超えていた。太陽は水平線の下にいる。燃えるような深紅の朝焼けと群青の夜空が、なめらかに繋がっていた。その色彩の変遷は、まるで天空のキャンバスに神々しい絵が描かれているかのよう。俺は、この世界の美しさを初めて知った気がした。小学校の頃にはこの街に住んでいて、見慣れていた景色のはずなのに、すっかり忘れてしまっていた。
先輩が指さした海岸のほうを見ると、光の帯が海面を覆い、波の一つ一つが宝石のように輝いていた。暗い砂浜にたくさんの海ほたるが打ち上げられ、その青白い光が星空を鏡に映したみたいだった。
俺は目を見開いたまま、その様子をじっと見つめていた。心臓が早鐘を打つのを感じる。
決して日が昇ることのない街で育った俺にとって、これまで見てきた夜空の星々の輝きさえも霞んでしまうほどの感動が、心の中で波のように押し寄せる。この瞬間を永遠に覚えていたいと思った。
「すごいね……」
先輩の口から小さなつぶやきがこぼれた。驚きと畏敬の念に満ちた声に、俺も思わずうなずいた。
大きく開いた彼女の瞳には朝焼けの光が映り込んでいた。その瞳の奥に、人間離れした何かが潜んでいるように見えた。まるで宇宙の深淵を覗き込んでいるかのような、得体の知れない深み。その瞳に吸い込まれそうになる。
俺たちは言葉を交わすことなく、ただその光景に見入った。
潮の香りを含んだ海風が先輩の長い髪をそっと撫で、ほのかに甘い香りが漂った。遠くで響く波の音。錆びついた線路、色あせた駅名標、そして俺たち二人の姿以外何もない無人のホーム。この瞬間が永遠に続けばいいのにと思った。
やがて、先輩がゆっくりと口を開いた。その声は、朝焼けの温かさに負けないほど柔らかかった。
「ねえ、蛍くん」
先輩の顔には、いつもの明るさとは違う、何か深い決意のようなものが浮かんでいた。その表情に、俺は少し不安を感じた。
朝焼けの光が彼女の輪郭を優しく照らし、まるで別世界の存在のように見えた。その姿は、俺が初めて彼女に出会った日、理科室で見た不思議な光景を思い出させた。懐かしさと共に、胸が締め付けられる感覚があった。
「ここまで連れてきてくれて、ありがとう」
先輩は柔らかな笑みを浮かべ、ぺこりとおじぎをした。
「いえ、なにもしてませんって」
俺は慌てて答えた。心臓がドキドキしていた。
「ううん——一緒に来てくれた」
ああ。ため息にも似た声を漏らし、俺はうなずいた。胸の中に、期待と不安が入り混じった感情が湧き上がる。
これまでの不眠症の夜々、理科室での実験、屋上での星空観察、そして今この瞬間までの全てが、何か大きな真実へと繋がっているような予感がした。その予感に、俺は身震いした。
「私、話しとかなきゃいけないこと、あるんだ」
先輩は深呼吸をし、朝焼けに染まる海を見つめながら静かに語り始めた。俺は息を詰めて、次の言葉を待った。その仕草には、地球の重力に慣れてないみたいな、かすかな違和感があった。
「……やっぱ、いいです。今日は」
「えっ」
「何も、聞きたくないです」
俺は自分でも驚くほど強い口調で言った。
「うまく言えないけど、今はもう少し、このままがいい。じつは眠れるとか、ほんとうは異星人だとか。そうだったとしても、俺にとって……その、つまり……俺にとって、」
先輩の手をそっと取ると、彼女の瞳に驚きの色が浮かんだ。先輩の手は温かく、確かにそこにいた。その実感に、俺は安心感を覚えた。
「先輩は……先輩です。だから……」
彼女大きく見開かれたその瞳に、星々が煌めいているのが見えた。それは比喩ではなく、文字通り、小さな星々が舞っていた。
「蛍くん……今日は、『どうせ』って言わないね。めずらしい」
その声は、宇宙の彼方から届いたかのように遠く儚く、かすかだった。俺は不思議な懐かしさを感じた。
「先輩こそ、めずらしいですね」
「えっ?」
「そんなに自信なさそうな顔するなんて」
俺の言葉に先輩は言葉を詰まらせると、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。その反応に、俺は少し嬉しさを感じた。
「もうっ。見んな!」
先輩の声にいつもの強さが戻っていて、ちょっと安心した。
俺は先輩と肩が触れるか触れないかくらいの7センチくらいの距離をとって横に並んだ。そうして輝く海をただぼんやりと見つめた。ゆっくりと、でも確実に。これまで感じていた特別な感情が確信へと変わっていく。同時に、大きな責任も感じた。その重みに、俺は少し身を縮めた。
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