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ーーーあれから数日。
「んぁ・・・あ?」
眩しい光が顔に当たった。
「何だ・・・?」
眩しさのあまり目が開けられない。ぎりぎりの細目で窺うと、誰かに照らされているのが分かった。影がぬうっとこちらを見下ろしている。
「だから、言っただろう・・・?」
影が急に口を聞いた。男の人だ。無愛想で少し掠れた聞き覚えのある声・・・。
「あっ!!!」
ジュークさんだ。反射的に立ち上がろうとしたが、体がぐらりとかしいで倒れてしまった。縄がきりきりと食い込む。そうだ、忘れていた。罪人扱いをされて、捕まっていたんだった。
「なぜ・・・?」
ずっと水分補給をしていないせいで、喉がカラカラだ。少し話すだけで、何かに刺されるかのように喉が痛む。
「お前が何かやらかすだろうと考えない訳があるか? ティンガングーのことをエレベーターだと言ってしまっておいて?」
ん? 僕が言ってばれたことになっているのか? 本当に何もしていないんだが・・・。ばれたのステータス確認のせいだし。
「まあそれはともかくだ。ステータス確認があることを想定していなかった俺も俺だしな」
ジュークさんがゆっくりと近づいてきた。
ぶちぶちぶち、と背後で縄の切れる音がする。
「飲め」
痺れた手に何やら竹筒らしきものを渡された。どうしたらいいのか戸惑っていると、
「なんだ、知らないのか? こうやるんだ」
少し呆れたように言われ、筒を口に突っ込まれた。
久しぶりの水は、あっという間に喉を駆け下った。全身に染み渡ったのが分かる。
「さて、逃げるぞ」
「はい!」
その後ろ姿は、後光がさして見えた。いや、だいぶまじなレベルで。
迷うことなくジュークさんは地下の街を抜けていく。こう考えるとある意味地下牢じゃなかったのは奇跡だな。じゃなかったら助けに来てもらえなかった。いや、違うのか? 地下牢があるのならそっちに閉じ込めそうなものだ。存在しないのか? そこのところはよく分からない。
降りてきた細い階段にたどり着いた。引きずられてきたときには気がつかなかったが、思ったより階段の途中で道が分かれていたようだ。ここから見るだけでも3つに分かれている。僕だけだったら間違いなく迷うな。
てか、ジュークさんは僕を逃しても無事なのか? 捕まらないのか? 僕のせいで捕まったらすごく申し訳ないのだが・・・。
「ジュークさんは大丈夫なんですか?」
聞かずにはおれなくて、つい聞いてしまった。
「ん? 何がだ」
「僕を逃して、無事なのかってことです。お咎めなしですか?」
「そんなわけないだろう」
若干笑いながらきっぱりと否定された。
「間違いなくこの里は追放だろうな」
「じゃあ、なんで・・・」
「俺のモットーだ」
「モットー・・・?」
どういうことだ?
「昔、ざっと20年くらい前だったか、俺はここではない里に住んでいた」
細い階段をたどりながら、心なし潜めた声でジュークさんが語り出した。
「こことほとんど仕組みは同じ。だからティンガングーもあった」
「だが当時はステータスの確認はなかった。だから失言さえしなければ【異世界人】や【転生者】とは分からなかった」
「そこに、ある女が来た」
「そいつは【転生者】ではなかったが【転移者】で【異世界人】だった。そいつを1番はじめに見つけたのは俺だ。お前らと同じように行くあてがなさそうだったから里に招いた」
「だがそいつは俺が口止めしたにもかかわらずティンガングーのことをエレベーターと呼んでしまった」
「そいつの処刑を俺は・・・止められなかった」
「それ以来俺は【異世界人】を見つけるたびに逃してきた。【異世界人】とはいえ同じ人間だ。もう目の前で人が殺されるのを見るのはごめんだった」
「もちろんその度に俺がやったと知られて里を追われた。だからこんな僻地にまで追いやられたんだ」
なぜ、そこまでしてこの世界の人は【異世界人】を憎むのだろう。違う世界からやって来たというだけで、どうして殺されなければいけないのか。ジュークさんの言う通り、みんな同じ人間なのに。
僕の顔に疑問が書いてあったのだろうか、まるで僕の考えを読んだかのようにジュークさんは答えた。
「大昔の話だ。俺が生まれるずっと前。『異世界人』が当たり前のように受け入れられていた時期があった」
辺りの明かりの質が変わった。2階か、とジュークさんが呟く。
「悪いな、話はまた後だ。兎と虎を助けに行くぞ」
「・・・はい!」
シェル、コーマ。少し会っていなかっただけなのに、随分久しぶりのように感じる。
1本横の道に入ると、上へ上へと続いていた階段が平坦な道になった。1個1個の段が小さかったのとジュークさんの話に聞き入っていたのとでそこまで足に疲労感はなかった。が、この先地上まで歩けるかと聞かれると、体力的に怪しいものがある。僕もだし、シェルも、コーマも。あくまで、幼児体型だし。
何もないまっすぐな道が続いている。どこにいるのだろうか。
「どこまで行くんですか?」
僕の問いは黙殺された。見上げると、ジュークさんはさっきより真剣な顔をしている。何かを警戒しているのだろうか。
ーーーと、そのとき。
「そこまでだ、ジューク」
重々しい声が通路に響き渡った。
ジュークさんがゆっくりと振り返る。僕もそれにつられて振り返った。
そこには、最初に僕らの身体検査などを仕切っていたおじさんが立っていた。
「まさかお前が【セマルコピア】だったとはな・・・。噂には聞いていたが、こんなところにまで来ると思っていなかった・・・」
「【セマルコピア】・・・?」
首を傾げる俺に構わず、ジュークさんとおじさんは話を続ける。
「なぜ俺だと分かった?」
「簡単なことだ。【セマルコピア】が人を信用させてから逃がすことは聞いていた。そして、どの街でも【異世界人】を最初につれてくるのはお前だった。それだけ合わせればじゅうぶんだ」
「ありもしない噂も流れているようだな・・・」
と、突然視界にちらりと金色がかすめた。
「は?」
思わず小さく声を漏らした俺に構わず、2人は話し続ける。
だが、俺の意識は既にそこにはなかった。
ジュークさんは気づいていないらしい。おじさんの足元でちょろちょろしている物に。
いや、生き物か。
それは、とっってもミニサイズのーーー
ラクダだった。
『あーあーあー。聞こえてる? 驚かないでね』
頭の中に声が響いた。動揺を顔に出さないように、小さく頷く。
『そ、良かった。こっちで返事してくれていいわよ。念じたら通じるから』
『あーあーあー。行ってる?』
『あらうまいわね。やるじゃない。ここまで習得早い人間は久しぶりよ』
『ラッテラ?』
『そうよ、あんた達を助けに来たのよ。さ、2人が話してる間に逃げるわよ』
『え、でも・・・』
そう、さっきジュークさんが言ったことがあっているなら、僕の背後に続く道にシェルとコーマがいるはずだった。
『大丈夫よ』
僕の心を読んだかのようにラッテラが優しく笑った。というか笑ってるのが伝わって来た。
『あの2人ならスルバが先に逃したわ。ジュークにも先に言ってたはずなんだけど・・・あのおじさんと一騎打ちするためにここに入ったのかしらね? まあいいわ、あんたは先に逃げるのよ』
『嫌だ』
答えは決まっていた。
『ジュークさんが戦ってくれるなら尚更だ。僕も戦う』
『戦うって、あんた子供じゃない・・・』
呆れたように言うラッテラの目が光った。
『そーだ、あんたステータス見せてよ』
『え、うん』
『【ステータス】』
ラッテラに向けて送るイメージでステータスと唱えてみた。上手くいったようで、ふむふむと声が聞こえてくる。
『へえ、あんた凄いのねえ。【転生者】で【異世界人】なら凄いやつ多いけど、ここまでのは初めてだわ・・・』
僕もみておくか、と思い【ステータス】と念じる。すると、前と比べ変化していることがあった。
[ワカヤマ・リョウ Level 2/500
HP:∞(年齢により疲労度は変化)
MP:∞
ペット:兎・虎
称号 異世界人
転生者
神からの贈り物
マスターの右腕
剣術師
双剣術師
魔術師
体術師
斧術師
槍術師
弓術師
龍騎術師
変身術師
スキル 言語理解 使用可
剣 使用可(skill level 100/100)
魔法 使用可(skill level 100/100)
武闘 使用可(skill level 100/100)
斧 使用可(skill level 100/100)
槍 使用可(skill level 100/100)
弓 使用可(skill level 100/100)
変身 使用可(skill level 100/100)
動物手懐け(言語理解可) 使用可
身体能力向上 使用不可
特殊能力 使用可(念話)
注:レベルが上がるごとに使える技は増えます]
レベルが上がり、念話が使用可になってる。あと、レベルに上限がついた。500か・・・先は長いな。
『・・・ウ!リョウ!』
『びっくりした、何?』
『呼んでも気づかないからよ』
ラッテラがまたしても呆れたような様子。
『もう1回言うわよ? あのね、あんたのステータスだったらいっちゃあ悪いけどあのおじさんには余裕で勝てるわ。だけどね、あの人だって経験積んでないわけじゃない。ジュークとちょうど互角くらいなのよ。だから、あんたにはジュークを援護して欲しいの。できる?』
いや、できるできないの前に僕剣も魔法も分からないんだが・・・。
『ごめん、説明不足だったかしら。ほら、そろそろバトルが始まりそうな雰囲気じゃない?』
ラッテラから視線をあげると、どうして今まで気づかなかったのかと思うくらい分かりやすい殺気を放つ2人がいた。
『たぶんあんたが魔法1個ぶち込めばどかんよ。呪文は私が教える。あんたはそれをそのまま言うだけ。できる?』
うん、説明不足にもほどがあるな。
とことことラッテラがこっちに向かってくる。
『あくまで殺すわけにもいかないから足止めだからね。使える魔法じゃないわ。覚えとかなくていいからね』
『じゃ、いくわよ』
『汝 全てのものの視界を奪い 聴覚を奪い 嗅覚を奪い 味覚を奪い 触覚を奪え また 全身の安定をなくせ 水神アキトニスの名によって命令す 発生せよ 第4ソティオン“不自由なる霧”』
『え? 長くない?』
『気のせいよ、てかこれまだ短い方よ? どうせもっと長いのも使うようになるんだから、慣れなさい』
え、こんな長いの覚えられないぞ? はしょっちゃダメか?
「めんどくさ、もういいや」
「第4ソティオン“不自由なる霧”」
『省略詠唱なんてーーー』
ラッテラの言葉は途中で途切れた。僕の指先からあっという間に霧が発生し、おじさんのみを包み込んだからだ。成功するわけないじゃない、とでも言いたかったのだろうか。
『信じられない・・・省略詠唱なんて見たの初めてよ・・・しかも対象を絞るなんて・・・』
『え、できるもんじゃないの?』
『できないわよ!! だからジュークを引きずって行けるようにサイズ変える準備してたのに・・・』
えええええ。すごく自然にやった僕はなんなのでしょうか。
「今の魔法、お前か?」
ジュークさんが振り返って尋ねた。
「エエ、ナンノコトデスカー。ボクゼンゼンシリマセンヨー」
「・・・お前だな」
・・・誤魔化し方が下手なのは前世からです。
「まあいい、話は後で聞く。今はとりあえず脱出するぞ」
「はい」
「ラッテラ」
ジュークさんが呼ぶ。ラッテラはジュークさんの肩に飛び乗っていった。
「こっちよ」
おじさんに止められていなかったら進んでいたはずの道だ。足早にいくつかの分かれ道を抜けると、目の前に見たことのある銀の箱が浮いていた。
壁に飛び移ったラッテラが全力で赤いボタンを蹴り飛ばす。ゴゴゴゴゴ、と音を立ててティンガングーは降りてきた。
ゆっくりと上がっていく箱の中は沈黙に満たされていた。
視界の闇の質が変わった。目を凝らすと、星が見えている。
ティンガングーが完全に止まり、ジュークさんが扉を開けるのを待って、僕は叫んだ。
「地上だああああ!!!」
「んぁ・・・あ?」
眩しい光が顔に当たった。
「何だ・・・?」
眩しさのあまり目が開けられない。ぎりぎりの細目で窺うと、誰かに照らされているのが分かった。影がぬうっとこちらを見下ろしている。
「だから、言っただろう・・・?」
影が急に口を聞いた。男の人だ。無愛想で少し掠れた聞き覚えのある声・・・。
「あっ!!!」
ジュークさんだ。反射的に立ち上がろうとしたが、体がぐらりとかしいで倒れてしまった。縄がきりきりと食い込む。そうだ、忘れていた。罪人扱いをされて、捕まっていたんだった。
「なぜ・・・?」
ずっと水分補給をしていないせいで、喉がカラカラだ。少し話すだけで、何かに刺されるかのように喉が痛む。
「お前が何かやらかすだろうと考えない訳があるか? ティンガングーのことをエレベーターだと言ってしまっておいて?」
ん? 僕が言ってばれたことになっているのか? 本当に何もしていないんだが・・・。ばれたのステータス確認のせいだし。
「まあそれはともかくだ。ステータス確認があることを想定していなかった俺も俺だしな」
ジュークさんがゆっくりと近づいてきた。
ぶちぶちぶち、と背後で縄の切れる音がする。
「飲め」
痺れた手に何やら竹筒らしきものを渡された。どうしたらいいのか戸惑っていると、
「なんだ、知らないのか? こうやるんだ」
少し呆れたように言われ、筒を口に突っ込まれた。
久しぶりの水は、あっという間に喉を駆け下った。全身に染み渡ったのが分かる。
「さて、逃げるぞ」
「はい!」
その後ろ姿は、後光がさして見えた。いや、だいぶまじなレベルで。
迷うことなくジュークさんは地下の街を抜けていく。こう考えるとある意味地下牢じゃなかったのは奇跡だな。じゃなかったら助けに来てもらえなかった。いや、違うのか? 地下牢があるのならそっちに閉じ込めそうなものだ。存在しないのか? そこのところはよく分からない。
降りてきた細い階段にたどり着いた。引きずられてきたときには気がつかなかったが、思ったより階段の途中で道が分かれていたようだ。ここから見るだけでも3つに分かれている。僕だけだったら間違いなく迷うな。
てか、ジュークさんは僕を逃しても無事なのか? 捕まらないのか? 僕のせいで捕まったらすごく申し訳ないのだが・・・。
「ジュークさんは大丈夫なんですか?」
聞かずにはおれなくて、つい聞いてしまった。
「ん? 何がだ」
「僕を逃して、無事なのかってことです。お咎めなしですか?」
「そんなわけないだろう」
若干笑いながらきっぱりと否定された。
「間違いなくこの里は追放だろうな」
「じゃあ、なんで・・・」
「俺のモットーだ」
「モットー・・・?」
どういうことだ?
「昔、ざっと20年くらい前だったか、俺はここではない里に住んでいた」
細い階段をたどりながら、心なし潜めた声でジュークさんが語り出した。
「こことほとんど仕組みは同じ。だからティンガングーもあった」
「だが当時はステータスの確認はなかった。だから失言さえしなければ【異世界人】や【転生者】とは分からなかった」
「そこに、ある女が来た」
「そいつは【転生者】ではなかったが【転移者】で【異世界人】だった。そいつを1番はじめに見つけたのは俺だ。お前らと同じように行くあてがなさそうだったから里に招いた」
「だがそいつは俺が口止めしたにもかかわらずティンガングーのことをエレベーターと呼んでしまった」
「そいつの処刑を俺は・・・止められなかった」
「それ以来俺は【異世界人】を見つけるたびに逃してきた。【異世界人】とはいえ同じ人間だ。もう目の前で人が殺されるのを見るのはごめんだった」
「もちろんその度に俺がやったと知られて里を追われた。だからこんな僻地にまで追いやられたんだ」
なぜ、そこまでしてこの世界の人は【異世界人】を憎むのだろう。違う世界からやって来たというだけで、どうして殺されなければいけないのか。ジュークさんの言う通り、みんな同じ人間なのに。
僕の顔に疑問が書いてあったのだろうか、まるで僕の考えを読んだかのようにジュークさんは答えた。
「大昔の話だ。俺が生まれるずっと前。『異世界人』が当たり前のように受け入れられていた時期があった」
辺りの明かりの質が変わった。2階か、とジュークさんが呟く。
「悪いな、話はまた後だ。兎と虎を助けに行くぞ」
「・・・はい!」
シェル、コーマ。少し会っていなかっただけなのに、随分久しぶりのように感じる。
1本横の道に入ると、上へ上へと続いていた階段が平坦な道になった。1個1個の段が小さかったのとジュークさんの話に聞き入っていたのとでそこまで足に疲労感はなかった。が、この先地上まで歩けるかと聞かれると、体力的に怪しいものがある。僕もだし、シェルも、コーマも。あくまで、幼児体型だし。
何もないまっすぐな道が続いている。どこにいるのだろうか。
「どこまで行くんですか?」
僕の問いは黙殺された。見上げると、ジュークさんはさっきより真剣な顔をしている。何かを警戒しているのだろうか。
ーーーと、そのとき。
「そこまでだ、ジューク」
重々しい声が通路に響き渡った。
ジュークさんがゆっくりと振り返る。僕もそれにつられて振り返った。
そこには、最初に僕らの身体検査などを仕切っていたおじさんが立っていた。
「まさかお前が【セマルコピア】だったとはな・・・。噂には聞いていたが、こんなところにまで来ると思っていなかった・・・」
「【セマルコピア】・・・?」
首を傾げる俺に構わず、ジュークさんとおじさんは話を続ける。
「なぜ俺だと分かった?」
「簡単なことだ。【セマルコピア】が人を信用させてから逃がすことは聞いていた。そして、どの街でも【異世界人】を最初につれてくるのはお前だった。それだけ合わせればじゅうぶんだ」
「ありもしない噂も流れているようだな・・・」
と、突然視界にちらりと金色がかすめた。
「は?」
思わず小さく声を漏らした俺に構わず、2人は話し続ける。
だが、俺の意識は既にそこにはなかった。
ジュークさんは気づいていないらしい。おじさんの足元でちょろちょろしている物に。
いや、生き物か。
それは、とっってもミニサイズのーーー
ラクダだった。
『あーあーあー。聞こえてる? 驚かないでね』
頭の中に声が響いた。動揺を顔に出さないように、小さく頷く。
『そ、良かった。こっちで返事してくれていいわよ。念じたら通じるから』
『あーあーあー。行ってる?』
『あらうまいわね。やるじゃない。ここまで習得早い人間は久しぶりよ』
『ラッテラ?』
『そうよ、あんた達を助けに来たのよ。さ、2人が話してる間に逃げるわよ』
『え、でも・・・』
そう、さっきジュークさんが言ったことがあっているなら、僕の背後に続く道にシェルとコーマがいるはずだった。
『大丈夫よ』
僕の心を読んだかのようにラッテラが優しく笑った。というか笑ってるのが伝わって来た。
『あの2人ならスルバが先に逃したわ。ジュークにも先に言ってたはずなんだけど・・・あのおじさんと一騎打ちするためにここに入ったのかしらね? まあいいわ、あんたは先に逃げるのよ』
『嫌だ』
答えは決まっていた。
『ジュークさんが戦ってくれるなら尚更だ。僕も戦う』
『戦うって、あんた子供じゃない・・・』
呆れたように言うラッテラの目が光った。
『そーだ、あんたステータス見せてよ』
『え、うん』
『【ステータス】』
ラッテラに向けて送るイメージでステータスと唱えてみた。上手くいったようで、ふむふむと声が聞こえてくる。
『へえ、あんた凄いのねえ。【転生者】で【異世界人】なら凄いやつ多いけど、ここまでのは初めてだわ・・・』
僕もみておくか、と思い【ステータス】と念じる。すると、前と比べ変化していることがあった。
[ワカヤマ・リョウ Level 2/500
HP:∞(年齢により疲労度は変化)
MP:∞
ペット:兎・虎
称号 異世界人
転生者
神からの贈り物
マスターの右腕
剣術師
双剣術師
魔術師
体術師
斧術師
槍術師
弓術師
龍騎術師
変身術師
スキル 言語理解 使用可
剣 使用可(skill level 100/100)
魔法 使用可(skill level 100/100)
武闘 使用可(skill level 100/100)
斧 使用可(skill level 100/100)
槍 使用可(skill level 100/100)
弓 使用可(skill level 100/100)
変身 使用可(skill level 100/100)
動物手懐け(言語理解可) 使用可
身体能力向上 使用不可
特殊能力 使用可(念話)
注:レベルが上がるごとに使える技は増えます]
レベルが上がり、念話が使用可になってる。あと、レベルに上限がついた。500か・・・先は長いな。
『・・・ウ!リョウ!』
『びっくりした、何?』
『呼んでも気づかないからよ』
ラッテラがまたしても呆れたような様子。
『もう1回言うわよ? あのね、あんたのステータスだったらいっちゃあ悪いけどあのおじさんには余裕で勝てるわ。だけどね、あの人だって経験積んでないわけじゃない。ジュークとちょうど互角くらいなのよ。だから、あんたにはジュークを援護して欲しいの。できる?』
いや、できるできないの前に僕剣も魔法も分からないんだが・・・。
『ごめん、説明不足だったかしら。ほら、そろそろバトルが始まりそうな雰囲気じゃない?』
ラッテラから視線をあげると、どうして今まで気づかなかったのかと思うくらい分かりやすい殺気を放つ2人がいた。
『たぶんあんたが魔法1個ぶち込めばどかんよ。呪文は私が教える。あんたはそれをそのまま言うだけ。できる?』
うん、説明不足にもほどがあるな。
とことことラッテラがこっちに向かってくる。
『あくまで殺すわけにもいかないから足止めだからね。使える魔法じゃないわ。覚えとかなくていいからね』
『じゃ、いくわよ』
『汝 全てのものの視界を奪い 聴覚を奪い 嗅覚を奪い 味覚を奪い 触覚を奪え また 全身の安定をなくせ 水神アキトニスの名によって命令す 発生せよ 第4ソティオン“不自由なる霧”』
『え? 長くない?』
『気のせいよ、てかこれまだ短い方よ? どうせもっと長いのも使うようになるんだから、慣れなさい』
え、こんな長いの覚えられないぞ? はしょっちゃダメか?
「めんどくさ、もういいや」
「第4ソティオン“不自由なる霧”」
『省略詠唱なんてーーー』
ラッテラの言葉は途中で途切れた。僕の指先からあっという間に霧が発生し、おじさんのみを包み込んだからだ。成功するわけないじゃない、とでも言いたかったのだろうか。
『信じられない・・・省略詠唱なんて見たの初めてよ・・・しかも対象を絞るなんて・・・』
『え、できるもんじゃないの?』
『できないわよ!! だからジュークを引きずって行けるようにサイズ変える準備してたのに・・・』
えええええ。すごく自然にやった僕はなんなのでしょうか。
「今の魔法、お前か?」
ジュークさんが振り返って尋ねた。
「エエ、ナンノコトデスカー。ボクゼンゼンシリマセンヨー」
「・・・お前だな」
・・・誤魔化し方が下手なのは前世からです。
「まあいい、話は後で聞く。今はとりあえず脱出するぞ」
「はい」
「ラッテラ」
ジュークさんが呼ぶ。ラッテラはジュークさんの肩に飛び乗っていった。
「こっちよ」
おじさんに止められていなかったら進んでいたはずの道だ。足早にいくつかの分かれ道を抜けると、目の前に見たことのある銀の箱が浮いていた。
壁に飛び移ったラッテラが全力で赤いボタンを蹴り飛ばす。ゴゴゴゴゴ、と音を立ててティンガングーは降りてきた。
ゆっくりと上がっていく箱の中は沈黙に満たされていた。
視界の闇の質が変わった。目を凝らすと、星が見えている。
ティンガングーが完全に止まり、ジュークさんが扉を開けるのを待って、僕は叫んだ。
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