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絡み合う、蔦②
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烈しい交わりの余韻と、甘い気だるさを噛み締めながら、腕の中で放心するように俺を見詰める菊野の頬を掌で包む。
綺麗な涙がぽろり、と手の甲を濡らした。
初めて彼女の中に入り、熱い精を放った。
恐ろしい程の快感と幸福感に俺も酔いしれていたが、彼女の涙に狼狽えてしまう。
何度も泣くのを見たが、この涙は何の涙なのだろう。
無我夢中で彼女を愛した。
俺の全てを彼女にぶつけ、捧げたつもりだった。
彼女は俺に揺らされながら喜びに声を上げていた……そう思っていた。
だが、それは俺の都合の良い思い込みだったのだろうか?
幸せだったのは、俺だけなのか?
(――何故泣くんだ)
そう聞きたいのに、喉まで出かけた言葉が詰まり、声が出ない。
彼女は、俺を見詰めしゃくり上げて、顔を逸らした。
苦い切なさで俺まで泣きたくなった。
――俺は、怖くなっていた。
彼女を抱いている時には、恋と快感しかこの世界にはなかったのに……
彼女とやっと確かめ合えた。
思いが叶ったと、喜びに震えたのに……
今、彼女がその口で何を言うのか、怖かった。
好き、と言われたのに。
熱く、抱き合ったばかりなのに。
もうこんなに不安を感じている……
後悔しているのだろうか?
無かった事にしたいと、言われてしまうのだろうか。
胸の奥でグシャリ、と何かが潰れ、俺は自分でも驚くほど低い声を出して、彼女の手首を強く掴み、こちらを向かせていた。
「――これきりなんて……言わせない」
「……っ?剛さ……」
驚く菊野の唇を強引に奪う。
身体を強張らせたのは一瞬で、直ぐに彼女の腕は俺の背中に回される。
強烈ないとおしさと、戸惑いが同時に俺を混乱させる。
――貴女は、何を考えている?
俺と結ばれて、良かったのか?
また、俺を恋しいと言ってくれるのか?
言葉で尋ねる代わりに、彼女を抱き締める腕にいっそう力をこめた。
「い……痛いっ……」
「……」
「剛さ……ん……?」
いつもならここで力を緩めるが、今の俺は彼女を易々と離す気になれない。
離したら、もう何処かへ行ってしまいそうな気がする。
そうだ。
このホテルを出たら――
夜が明けたら、恋人の時間は終わりを告げ、彼女は俺の保護者に戻るつもりなのではないか?
――抱き合って……口付けて……
お互いの全てを確かめあったのに……
今更、平気な顔をして母親と息子の振りが出来るのか?
「――無理だ」
「え……?」
「菊野さん――」
「あっ……」
俺は、彼女の乳房に顔を埋め、烈しく揉みしだきながら再び唇を塞いだ。
「つ……よしさんっ……んっ……どうし……あっ」
唇を離すと、菊野が頬に触れて尋ねるが、それに答える前に、俺は再び彼女の中へ自分を沈ませ、突き上げる。
「……!!」
彼女が目を見張り何か叫ぼうと口を開くが、途端に痙攣して気を失ってしまう。
「くっ……まだ早い……菊野っ」
太股をぐっと大きく横へ倒して真上から貫くと、菊野が甘い溜め息を漏らして瞼を開けた。
「そうだ……俺を見て下さい……
俺をずっと……っ」
容赦なく揺さぶられ、突かれながら彼女は目を瞑り喘ぐ。
その瞼に口付けて、やるせない思いと共に彼女をいっそう烈しく犯す。
「菊野……目を閉じないで……っ……見るんだ……」
菊野が躊躇する素振りを見せるが、ゆっくりとその瞼を開ける。
俺を見た途端に頬を鮮やかに染め、途切れ途切れに呟いた。
「……剛さんは……っ……酷い……」
「……っ?」
俺が動きを少し緩やかにし、彼女の震える唇に触れると、拗ねたように彼女がそっぽを向いた。
「さっきも……今も……い、いきなりっ……!」
「嫌でしたか……?」
「――」
「俺にこうされるのが……」
俺は、彼女の手を握り締めると、腰をこれ以上ない程に深く沈め、そのまま回した。
「ああ、ああっ」
菊野が烈しく反応し啼いて、手を握り返す。
「く……っ……菊野さんの身体は……もっと、と俺にせがんでいます……っ」
「ち……違っ……」
「違わない……こんなになっていますよ……っ」
俺は一気に自分を引き抜き、指で彼女をそっと開き中をかき回した。
「やあ――っ……イヤっ……イヤっ……」
「ほら……見て下さい。
こんなに俺の指を濡らしています……」
蜜を指で掬い取り彼女の目の前に翳して見せると、涙をその目に一杯に溜めて睨まれるが、その目に俺は痺れてしまう。
「嫌だ……そんな事言わないで」
「もっと、もっと気持ち良くしてあげます……」
「……!
つ……剛さんがそんな事を言うなんて……っ……やだっ」
首を振り、真っ赤になった頬を膨らませ、俺の胸を軽く叩く彼女は、やはり大人の女性には見えなかった。
可愛い――そう思い、笑いを溢す俺に菊野がビンタした。
「つ……」
小さな痛みに眉をしかめる俺に、彼女はハッと我にかえり顔を歪める。
「ごめんなさい……だ……大丈夫?」
殴っておいて、自分が泣きそうになっている彼女に苦笑しながら俺は、ヒリヒリする頬に触れた。
「最近良く叩かれますね……」
「だ……だって……それは剛さんが」
「俺が……何です?」
「い、色々するから……っ」
「俺が、何をしたんでしたっけ?」
「――!!」
わざと惚けて、彼女の髪を指で弄びながら見詰めると、菊野が金魚のように口をパクパクさせ、さらに真っ赤になった。
「……答えられませんか?」
「だって……っ」
頬も首筋も鮮やかに染めて、花びらのような唇や、細い指を震わす菊野――
愛しくて、その全てに惹き付けられて、目が離せない。
年齢が離れているから、俺の保護者だから、彼女に伴侶が居るから、許されない――のか?
そんな事を理由にこの想いを消せるなら、最初から好きになったりしない――
不満げに唇を突き出す彼女の顎を掴み、俺を真っ直ぐに見るように向かせると、抵抗するかの如く瞼をギュウ、と閉じる。
また笑いが込み上げてしまう。
「俺が、こんな風にするから……ですか?」
「やっ」
顎から指を離し、うなじと首筋をなぞり乳房へと滑らせ小さな突起を摘まむと、甘い声を出して震える菊野……
恋しさと、邪な欲がはち切れんばかりに、俺の下腹部へと熱を集める。
かつてない程に猛ったまま、彼女に覆い被さり泉に再び自分を沈ませた。
「ああ……また……私っ……んっ」
「何です……っ?」
俺にしがみつきながら、耳元で彼女が叫ぶ。
「こんな……風にしたら……っ……
離れられなく……なっちゃ……あっ」
「――!」
「離れなければいい……」
「――っ……だ、だって……あっ!」
腰を一旦引き、ゆっくりと沈ませながら円を描く動きで彼女を掻き回すと、切なく顔を歪めて涙を流す。
その表情に見とれながら、同じ動きを繰り返す。
快楽に堪えきれなくなった花園から愛蜜がまた溢れた。
彼女の吐息が、美しい表情が、揺れる白い肌が、滴る蜜が獣を更に興奮させ、増大させる。
ゆったりと動かすだけではもう我慢できそうになかった。
腰をしっかりと掴み、菊野に囁く。
「本気で行きます……覚悟して下さい」
「な……っ」
菊野が一際真っ赤に頬も身体も染めるが、俺は一切の手加減なしに、最奥まで猛る獣を沈ませ、直ぐに律動を始める。
「……あ……あ……ん……っ……っ!」
「菊野……っ……貴女が……好きだ……っ」
「……剛さ……っ」
ベッドのスプリングが、俺の動きに合わせて悲鳴を上げるが、その烈しさは先程の比較にもならない。
菊野の髪が揺れ、シーツに広がる。
白い豊かな膨らみが上下し、彼女の華奢な身体が跳ね、俺は彼女が落ちないように抱き締めながら突き上げる。
「ああっ……剛さ……っ……」
彼女も必死に俺にしがみついて切ない甘い声で啼いた。
壊れてしまうのではないか、と思う程に深く烈しく高速で打ち付け彼女を責める俺は、果てのない快楽に溺れながら、彼女に恋の詞(ことば)を唄わせようとねだる。
「……言って下さい……さっき俺に言った……」
「……言……言えな……」
息も絶え絶えな彼女に、俺は更に腰を打ち付けて乱れさせる。
「ああ――っ……やっ……っ」
シーツを指でくしゃくしゃに掴み、涙を浮かべ俺を見詰める菊野――俺の、ただ一人の恋しい女――
貴女は、何故こんなに愛らしくて、幼くて、それでいて俺を悩ましく惑わせる……
決して俺だけの物にならない人……
だが、俺と身体も心も繋いでしまった……
もう、戻れない。
貴女を知る前の自分には、もう二度と――
「――っ」
自分を引き抜き、彼女の両足首を持ち上げ、俺の肩に乗せて再び貫くと、より最奥に当たるのか、菊野は痙攣して叫んだ。
同時に蕾の内部が強く締まり、俺も呻く。
「……く……どうですっ……いい……でしょう?
もう……俺を……子供などと思わないで……下さいっ……」
ゆっくりとなぶるように腰を回すと、菊野は涙を溢れさせて小さく呟いた。
「んっ……つ……剛さ……
こ……こんなことを……いつ……覚え……っ」
「ふふ……気になりますか」
「――ああっ!」
ズン、と奥まで沈ませ、ゆっくりと回すと、菊野が仰け反り啼いた。
動かす度に、彼女の中は潤い滴り滑りを良くして、俺を悩ましく締め付ける。
もっと――もっと、感じたい……貴女を……貴女の全てを……
もっと乱れさせて……俺に夢中になって欲しい……
「……気に……なるに決まって……
やっぱり……私が……初めてなんて……嘘っ」
「――俺は……菊野さんを毎晩抱いていました……」
「――!?」
「夢の中で……
いつも……貴女に……どんな風に触れたら……
貴女は啼くのか……
想像していました……」
俺の言葉に、頬をまた染めている彼女の乳房に手を伸ばし、突起を撫でる。
「――やっ」
彼女が反応して喘ぐと、蕾も締まり、俺は唇を噛んだ。
危うく、今ので暴発しそうだった。
俺がそうして耐えているのも知らずに、菊野は、責めるように言う。
「……嘘……嘘よ……
そんな……想像して……なんてっ……
剛さんの……嘘つき――……んっ」
俺は、彼女の膝を折り曲げて、真上から突き刺して回した。
乱れ、泣きながら喘ぐ彼女の反応を見ながら、俺は動きに緩急を付ける。
休みなく突いていたら、多分間も無く爆ぜてしまう――
少しでも長い間、菊野と繋がって居たかった。
菊野が、無意識だろうか。
焦れったそうに腰を動かした。
電流に撃たれたように俺は震え、息を止めてゴクリと喉を鳴らす。
「……本当です……俺は……毎晩……貴女の身体を想像して……っ」
緩慢な律動だけでは遂に我慢が出来なくなり、烈しく彼女を揺らし始めると、甘い蕩ける艶声が俺に火を灯し、また後戻り出来なくする。
「あああっ……やっ……ああっ……剛さっ……」
「菊野さん……菊野っ……凄く……素敵だ……っ」
「――っ……本当に……本当に……私を……毎晩……?」
彼女は潤む目を俺に向け、震える指で頬に触れてきた。
その指を手に取り、口付ける。
――ずっと、こうして貴女に触れたかった……
愛を囁きたかった……
「本当です……
俺を……軽蔑しますか……?」
「……っ」
菊野は、泣き笑いのような顔になり、首を振った。
菊野の唇は咲き溢れるミニ薔薇の様に愛らしく開き、瞳の中に俺の姿を真っ直ぐに映し、涙を溢れさせる。
先程の悲しそうな涙とは違う――
俺が毎晩貴女の事を考えていたことを、嫌悪したりしないのか?
それどころか、嬉しい、と思ってくれているのか?
それとも…俺がそうだったように、貴女も俺を夜毎想ってくれていた――?
「さあ……俺の秘密は話しました……
次は……菊野さんが告白する番です」
彼女の中を掻き回しながら指で胸の突起をまさぐり、身を屈めて耳元で囁いた。
予想以上に菊野は敏感に反応して、大きく痙攣し叫ぶ。
「ああ……っ……ダメ……っ」
「……俺は……菊野さんの身体を見たときの事を思い出して……
肌に触れた感触を……
唇の柔らかさも……
そうして……毎晩……自分を慰めていました……」
耳朶を軽く咬みながら囁き、俺は彼女をなぶり、啼かせる。
指も、腰の動きも止めないままで。
俺の初めてのセックスで、何処まで彼女を狂わせる事が出来るのか……
彼女に、とびきり甘い快楽を与えたい。
俺との交わりが忘れられなくなるように。
――悟志にされた時よりも、烈しく淫らに感じて、この腕の中で啼いて欲しいんだ……
「菊野……っ……
菊野は、俺の事を考えて……自分で……した?」
腰を進める度に、囁く度に、彼女の中が締まり溢れ、俺も正気を保つのが困難になりつつあった。
俺の質問に彼女は一瞬息を呑んだが、我慢が出来ずに烈しく突き上げる俺に乱されて、途端に甘い矯声を上げ、しがみついてくる。
そんな彼女の仕草がいとおしくて抱き締めたくなるが、俺は唇を強く噛みしめて腰を一気に抜いた。
「――っ……」
掻き回される事も身体に触れられることも中断された彼女は、戸惑いをその目に浮かべる。
「剛さん……?」
俺は、彼女を見下ろして笑って見せた。
余裕の笑みのつもりだが、彼女の目にはどんな風に映っているのだろう?
本当は、休みなく責め立てて彼女と共に昇りつめたい。
だが、彼女を虐めてもみたくなったのだ。
白い、柔い優美な肌が、俺との交わりのせいか火照って紅色に艶めいている。
唇は濡れた様に煌めき、身体の曲線が際限なく俺を猛らせて、誘惑する。
引き抜いた獣はまだ熱く隆々と上を向いて、彼女を欲しがっていた。
だが俺は、彼女からねだって欲しくて、意地悪を仕掛けた。
不満そうに唇をつき出して俺を微かに睨んでいた菊野の目には涙が浮かんでいた。
「……菊野さん……
教えて……
俺を想って、した事がありますか」
貴女はなんと答えるのか。
俺は、菊野がベッドで自分の蕾を指で開き、弄び喘ぐ姿を頭の中で描いてみただけで、獣が質量を増すのを自覚した。
菊野――早く教えてくれ。
答えて……俺をもっと猛らせて、狂わせてくれ……
恥ずかしがらないで……教えて……
そして、俺に言ってくれ……
――早く、貫いてと。
「い……意地悪っ……」
菊野は、素直すぎる。
思った事がほぼ全部顔に出てしまう。
彼女の気持ちを知った今となっては、彼女の仕草や表情全て、俺に恋している故の物に見えてくる。
涙をポロリと溢し、脚をこすり合わせてせつなげに溜め息を吐く菊野は堪らなく俺を欲情させた。
その太股にそっと触れると、ビクリと震え、小さい声が唇から漏れた。
「お……お願い……っ……
早く……っ」
俺の胸はときめき踊り、頬が緩んでしまう。
太股を撫でていた指を乳房に滑らせると、彼女は仰け反り喘ぐ。
「私をこんなに……してっ……
止める……なんてひど……っ……ああっ」
目の前で、妖艶に蠢く彼女の肢体を眺めているだけでは我慢できず、柔らかな乳房を両の掌で包み込み、揉み上げながら舌を這わせた。
「剛さん……っ……んんっ」
柔らかく華奢な腕が首に絡み付き、俺の耳元を甘く優しい菊野の声が擽り、鼓膜から恋の媚薬が流し込まれる。
今この瞬間にも俺は貴女に奪われて、溺れる。
弾力のある膨らみに窒息しそうになり、俺は顔を離して深呼吸した。
菊野が、突かれるのを待ちきれないとでも言うように自ら手を伸ばし、俺の猛りをそっと握った。
予想外の彼女の行動に俺は驚き、触れられる快感に呻く。
「く……菊野……っ」
「剛さん……大きい……」
「……っ」
「とっても硬くて……」
「――き……菊野さん」
目を潤ませて俺を握る菊野に、今度は俺が狼狽える。
彼女は、俺の反り勃った物を、まるで宝物を扱うように両手で包み込み、ゆっくりと上下に動かした。
「う……くっ……っはっ……あうっ……」
自分で触れて動かすのとはまるで違う感触に、俺は長い呻き声を上げてしまう。
菊野の細い柔い指が蔦のように絡み付き、絶妙に刺激を与えてきて、獣の口からは少しずつ欲望が溢れ、彼女の指の滑りを良くして淫らな快感に拍車をかけていく。
「私……っ……
これから……どうしたらいい……?」
「く……うっ……菊野さ……っ」
彼女は、虚ろにも、恍惚とも見える表情で呟きながら俺を指で愛し続ける。
「こんなに事になって……もう……
剛さんと……親子になんか……戻れな……っ」
菊野が瞬きすると同時に、大粒の涙がポロリと堕ちて、暗闇の中で煌めいた。
彼女の手の動きに拍車がかかり、俺は限界寸前まで膨張して熱くなる。
立て膝を突いた体勢で愛撫されながら、彼女の髪を撫でる位しか出来ないほどに、俺は余裕が無かった。
「く……菊野っ……そんなに……
もう……ダメだっ……う……っ」
「私も……もう……ダメっ……
剛さんに抱かれないと……もう……っ」
「菊野……はっ……うっ――!!」
彼女の頭を抱き抱えた瞬間、俺は優しい掌の中で精を放った。
「く……う……っ」
欲を爆ざした脱力感と目眩に襲われて、俺は彼女にしがみつき、暖かく柔らかな胸の中で意識を手放した。
彼女の唇が頬に触れて、
――愛しているわ――
と、囁かれたような気がする。
それは現実なのか夢なのか、眠りの闇に堕ちていく俺には確かめる術が無かった。
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