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壊れたきらきら星

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「おほほほ」

 その場の雰囲気に似つかわしくない朗らかな笑い声に、そこにいる人々はぎょっとする。

 声を上げた主の女は、真理子の目の前までツカツカ歩いてきた。

 真理子は大きく目を見開いたままで一歩後ずさる。

 

「……今日くらい、いいじゃないの?子供たちの晴れ姿を目に焼き付けましょうよ」

 歌うような調子で笑顔で語りかける女の頬を、真理子が打った。

 相当力が入っていたのか、女はバランスを崩して尻餅をつき、周囲がざわめく。

「ーー何がっ……何がーー!このアバズレ女ーー!」

 真理子は女に馬乗りになった。両腕を振り上げて女の顔を殴りはじめる。

「水波さん……!やめてください!」

「真理子!やめるんだ!」

 止めに入る先生の声と、凛々しい男性の声が重なった。

 真由は、そこで初めて、父の慎(しん)がいることに気づく。

(お父さんーー?)

  

 優しくてハンサムな父。

 大好きな父が来ている事に、真由は安堵したが、それは束の間だった。

 

「真理子っ!落ち着くんだ!」

 慎に羽交い締めにされながらも、尚も女を殴り付ける真理子だったが、慎の言葉を聞いて動きを止めた。

 突然女を離して立ち上がり、慎と向き合う。

「ーー落ち着けですって?私に隠れて、この女と寝てたくせに!」

「真理子っ……」

「私の留守に、堂々とやってくれたわよね!」

「……っ」

 慎は、噛みつかんばかりの勢いで怒鳴る妻から目をそらした。

 

「真由さん、こっちへ」

 切迫したような先生の声が耳元で聞こえ、真由は腕を持たれて立たされる。

 いつの間にか、足の力が抜け、座り込んでいたらしい。

 

「ーーこの女!息子をだしに使って、うちに上がり込んで貴方とーー!」

「……やめないか!」

 

 先生に手を引かれ歩きながら、真由は両親を振り返った。

 恐ろしい形相の母が、父を責める姿は、この間読んだ絵本に出てくる、人食い熊みたいだーー

 
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