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十六歳の誕生日
⑨
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「お待たせいたしました」
店員が、抑揚のない声で言い、コーヒーをテーブルに置いた。真由は両手でカップを包み込む。温かい。冷房の効きすぎた店内は寒くて、身体が冷えていた。真由はひとくちコーヒーを飲み、バッグを掴み立ち上がる。
「じゃあ、もう時間だから」
「もう行くのかい?」
慎の瞳が少し潤んでいる。真由は、彼の顔を直視しないよう、手元のバッグを見つめた。星の形のアクセサリーがシャラリ、と揺れる。婚約者が贈ってよこしたものだ。いや、厳密にいえば、今日婚約するのだ。
真由は、16歳になったら婚約する約束になっていた。相手は、この町の名士のひとり息子。三つ上年上で、真由をぜひ、と望んでいる。
「……真由、本当にそれでいいのかい?」
慎が、喉になにか引っ掛かって苦しいような聞き方をする。
「いいも何も。相手は母さんの面倒も見てくれるっていうしね。私が結婚さえすれば」
「真由は……好きな人はいないのか?」
慎の問いかけに、真由は首を振った。
「真由が決めたことなら……いいんだ……でも……もし」
「お父さんは、自分の幸せを考えて。私は大丈夫だから」
慎の言葉を遮るように言い捨てその場を後にした。
「誕生日おめでとう」
掠れた慎の声が後ろからした。
真由は振り向きもせずに店の重いドアを開けた。
店員が、抑揚のない声で言い、コーヒーをテーブルに置いた。真由は両手でカップを包み込む。温かい。冷房の効きすぎた店内は寒くて、身体が冷えていた。真由はひとくちコーヒーを飲み、バッグを掴み立ち上がる。
「じゃあ、もう時間だから」
「もう行くのかい?」
慎の瞳が少し潤んでいる。真由は、彼の顔を直視しないよう、手元のバッグを見つめた。星の形のアクセサリーがシャラリ、と揺れる。婚約者が贈ってよこしたものだ。いや、厳密にいえば、今日婚約するのだ。
真由は、16歳になったら婚約する約束になっていた。相手は、この町の名士のひとり息子。三つ上年上で、真由をぜひ、と望んでいる。
「……真由、本当にそれでいいのかい?」
慎が、喉になにか引っ掛かって苦しいような聞き方をする。
「いいも何も。相手は母さんの面倒も見てくれるっていうしね。私が結婚さえすれば」
「真由は……好きな人はいないのか?」
慎の問いかけに、真由は首を振った。
「真由が決めたことなら……いいんだ……でも……もし」
「お父さんは、自分の幸せを考えて。私は大丈夫だから」
慎の言葉を遮るように言い捨てその場を後にした。
「誕生日おめでとう」
掠れた慎の声が後ろからした。
真由は振り向きもせずに店の重いドアを開けた。
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