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I CAN FRY
①
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真由は、華奢な両の手の指を精一杯広げた。ピアノの鍵盤の上を跳躍させ、華やかな音を響かせる。
いくつも重なる複雑な和音、きらびやかなトリル。元は中高年に人気の演歌歌手のヒット曲とは思えない。
最後の大サビの部分に差し掛かる。真由はきゅっと唇を結んだ。いくらなんでも、ここからは原曲に忠実に弾かなければならない。
小さな頃から音楽が好きだが、演歌の世界はよくわからない。否定するつもりはないけれど。真由の苦手とするジャンルには違いない。
が、弾くことが多いのは、いわゆる昭和歌謡だ。
理不尽な不幸に耐え、寒さに震えながらせっせと夜なべをするーーなどどいう、真由からすれば突っ込みどころ満載の歌詞があったりする。
こういう歌に心を慰められ、癒される人達も一定数いるのだ。色んな感じかたがあるものだーーと感心するけれど、私には一生理解できないだろうな、と思う。
週一の定休日以外の日はここでピアノを弾いている。ここは、ほぼ近所の年配の男性ばかりが通うスナックだ。
忙しく指を動かしながら、すっかり見慣れた店の中をチラリと見る。古いが手入れの行き届いた黒い壁には額縁に飾られた白黒の写真が掛けられている。オーナーとその妻の結婚式の写真だ。妻は何年か前に亡くなった。
この辺では有名なおしどり夫婦だったらしい。
オーナーはこの町では有名な建築士で、店は趣味の延長でやっている。妻が切り盛りしていたが、亡くなってからは親類が交代で店番をしていた。
真由はピアノの腕を買われ、雇われた。本当なら未成年の真由が深夜まで労働するのは問題だが、オーナーは町長よりも力のある名士だ。この事は町じゅうで公然の秘密となっている。
「ああ~愛~も~岩をも砕くぅぅ~波ぃぃがぁぁぁ~」
半拍ほど遅れた調子外れの歌が聴こえる。テーブルに突っ伏していた最後の客が僅かに顔を上げて歌っていた。
思わず舌打ちしたくなる。が、こんなのはよくあること。いちいち気にしていられない。引きずられないよう、頭の中にある譜面をなぞりながら最後まで弾ききった。
いくつも重なる複雑な和音、きらびやかなトリル。元は中高年に人気の演歌歌手のヒット曲とは思えない。
最後の大サビの部分に差し掛かる。真由はきゅっと唇を結んだ。いくらなんでも、ここからは原曲に忠実に弾かなければならない。
小さな頃から音楽が好きだが、演歌の世界はよくわからない。否定するつもりはないけれど。真由の苦手とするジャンルには違いない。
が、弾くことが多いのは、いわゆる昭和歌謡だ。
理不尽な不幸に耐え、寒さに震えながらせっせと夜なべをするーーなどどいう、真由からすれば突っ込みどころ満載の歌詞があったりする。
こういう歌に心を慰められ、癒される人達も一定数いるのだ。色んな感じかたがあるものだーーと感心するけれど、私には一生理解できないだろうな、と思う。
週一の定休日以外の日はここでピアノを弾いている。ここは、ほぼ近所の年配の男性ばかりが通うスナックだ。
忙しく指を動かしながら、すっかり見慣れた店の中をチラリと見る。古いが手入れの行き届いた黒い壁には額縁に飾られた白黒の写真が掛けられている。オーナーとその妻の結婚式の写真だ。妻は何年か前に亡くなった。
この辺では有名なおしどり夫婦だったらしい。
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真由はピアノの腕を買われ、雇われた。本当なら未成年の真由が深夜まで労働するのは問題だが、オーナーは町長よりも力のある名士だ。この事は町じゅうで公然の秘密となっている。
「ああ~愛~も~岩をも砕くぅぅ~波ぃぃがぁぁぁ~」
半拍ほど遅れた調子外れの歌が聴こえる。テーブルに突っ伏していた最後の客が僅かに顔を上げて歌っていた。
思わず舌打ちしたくなる。が、こんなのはよくあること。いちいち気にしていられない。引きずられないよう、頭の中にある譜面をなぞりながら最後まで弾ききった。
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