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THE・試練の果て
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クレッシェンドのライヴは大盛り上がりで本編を終えた。
約1時間半強だろうか。
立て続けにノリノリでアゲアゲなナンバー連発で、今日はバラードを一曲も演奏していない。
僕はずっと『西くん』に声援を送り、彼の目に留まろうとわざと他の客とは違う動きをしたりしてアピールした。
西くんは時折こちらを見た様な気がするが、『見てはいけない物を見てしまった』とでも言うような表情をされて目を逸らされた……様な気がする……様な気がする……
僕のシャイなハートはその度に深く傷つき、それでも西くんを目で追うのを止められなかった……
ああ、恋が楽しいなんて何処の誰が言ったんだ?
僕は苦しくてたまらない!
ヘルプミー!
………………
て……………
「違うだろう――――――っギャアアア」
∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∪。△。)⊃―☆∥∥∥∥∥∥∥∥∥
「うるさいぞ勇人!」
ビシィ!
ペコリーヌのスティッキが尻を強打して、僕は痛みに絶叫する。
「アンコール!アンコール!」
隣の茜や他の客達は目を輝かせてアンコールコールをしている。
僕の絶叫ごとき何も気にならないようだ。
「な、何すんだよっ!本気で痛いぞ――!」
涙目の僕に追い討ちをかけるかの様に、ジャムがズボンの中へ入り込み尻を噛んだ。
「いっっヒィ――!」
「∪。△。))だから静かにしろ勇人――!バシィ!」
またしてもスティッキで叩かれる。
「ひ、酷いっ酷いよお前ら――!僕の尻や毛根や乳をなんだと思ってるんだよ――っ」
「∪。△。)ほらほら勇人!アンコールでお前の愛しい人を呼ばないとだぞ!アンコール!アンコール!」
ペコリーヌの目が緑に光る。
「ひぃっ!何故今ピカーなんだよ!頼むから何かしでかすなよ?」
僕は肩の上でジャンプしてはしゃぐジャムを捕まえようとアタフタしながらステージを見た。
茜もキラキラの笑顔でステージを見つめて一心に手拍子している。
可愛いなあ、と思う。
僕の好きなアニメのヒロインにそっくりな女の子。
だけど……
何だか知らないが、僕は、僕は!
『西くん』に禁断の恋をしてしまったんだあ――!
チキショ――!どうしてくれる!?
「切ないだろう苦しいだろう勇人。それが恋の醍醐味だよ。まだまだお子様のお前はこういう機会でもなけりゃ恋の何たるか?を学ぶ事は出来ないだろう?有り難く思うんだな。ホーッホホホ。△。)。△)」
「えっ?勇人君、恋してるの?西くんに?」
茜が手拍子しながら目を真ん丸くした。
「ち、違う!……違うと思いたいけど違わないかも知れない……でも違うんだよ――っ」
必死に弁明するが、茜は僕の極小の目を真っ直ぐに見つめてしみじみと言った。
「いいんだよ、勇人君、自分に正直になって!世の中、色んな形の愛があるんだもの……私、応援するから!」
「ヒイッ応援されてもっ」
「フレー!フレー!勇人!!」
ジャムが茜の肩と僕の肩をピョンピョン飛び乗って遊んでいる。
うるさいわ――!と絶叫しかけた時、会場がワッと歓喜の声で沸いた。
再びステージが眩く照らされ、ツアーTシャツに着替えたクレッシェンドのメンバーが現れた。
西くんは一番最後に現れ、ライトに負けない眩い笑顔で客に手を振る。
「アアア!西くんっ」
僕は喜びの涙を流しながら大きく手を振って叫ぶ。
茜が隣で僕を見て、ウンウンと頷きながら拍手している。
「良かったねえ!勇人君!西くんを目に焼き付けようね?」
「うん……うん!……僕、今日の日の思い出を胸に……頑張るっ!」
胸の前で手を組み叫ぶと、ペコリーヌが大袈裟に驚いてみせた。
「。△。)ほお――?青春のネガティブが全て集まった様な勇人の口から"頑張る"という言葉が飛び出すとは……これは、事件ぬら!」
「事件ダ!事件ダ!」
「。△。)⊃事件どころか天変地異が起こるぞ!どうする!どうする勇人!」
「ドースルドースル♪」
好き勝手に騒ぐペコリーヌ&ジャムに僕は言い返す気持ちにもならなかった。
何故って、それは!
西くんから目を離したくないからなんだよおおオオオオオオ!
アアア!
西くんは、スタンドマイクで静かに話を始めた。
「皆、今日は本当にありがとう!最高の夜になったよ!」
「キャー!」
「ありがとう西くん!」
「最高だったよ―!」
「西くーん!」
「に、西ぐ――ん!」
黄色い声の中に、若干不気味な叫びが混じる。
そうだよ、僕だよ!
キモくて悪かったな―!
だってだって好きなんだも―ん!
いいだろ―!叫ぶ位―!
すっかり、開き直り、抗う事を止めた僕には何も怖いものはなかった。
ゲイがなんだホモがなんだ――!
世界は広いんだぜ――!
こう叫びたかった。
ペコリーヌ曰く、この恋は試練らしいが、試練上等!
わはははは。
「わはははは」
狂った様に笑う僕を見て緑の目コンビがヒソヒソ話をする。
「。△。)……かなり、ハマってしまった様だな」
「ハヤトは抑圧サレテイキテ来タカラ反動ガ凄キノダ―!爆発ボーン!」
「さて、皆、まだいけるかな?」
西くんの言葉に、客がオーと答えた。
西くんは、耳に手を当てて首を振る。
サラサラした髪が一瞬、頬に貼り付いて、そのキュートな表情に僕の胸はズッキンドッキン!
「……な―んか声が若干控え目だよなあ……皆、余力残してる場合じゃないぞ―!本気で来い―!」
さっきよりも大きな叫びが起こる。
勿論、僕も血管がキレそうな程に叫んだ。
西くんはピアノを軽やかにつま弾きながら、客の方を振り返り笑顔で叫ぶ。
「皆、ありがとう!皆の本気に、俺たちも本気で答えるよ?じゃあ、ラストまで!ぶっ飛ばすよ――!ハイッ!」
西くんの掛け声で、会場は強烈なオイコールに包まれた。
茜も小さな手を振り上げ声を上げ、変態魔物コンビも会場の客の頭の上を飛び回りはしゃぐ。
一瞬ギョッとしたが、客にもメンバーにも見えて居ないみたいだ。
誰も気に留めない。
「オイ!オイ!ウォイ!」
僕も渾身のオイコールを愛と純情を込めて西くんに送った。
『たった一粒の
小さな 小さな 宝石を
君に 君だけにあげる』
西くんが澄んだ声で歌い始めると、会場じゅうからワアッと歓声とどよめきが起きる。
茜も跳び跳ねて喜んでいる。
そう、今演奏されているのは、音源で発売されていない、ライヴでしかやらない曲、しかもたまにしかやらないレア曲なのだ――!
僕も涙と鼻水を流しながら絶叫して喜びを表現していると、ジャムがストローでズルズル吸いに来た。
「ぶがっ!な、ななな何をしとるんじゃ――?」
ジャムはストローを口に含み頬をプクウと膨らませる。
すると無数の小さなシャボン玉が空中に漂った。
照明を浴びてキラキラと輝くそれに、客達は演出と勘違いして目を輝かす。
「うわ~きれい!」
茜もうっとりする。
ジャムは緑に光る目で、僕の涙や鼻汁をストローで搾り取り、シャボンに変えた。
『僕にとって
君の愛はね
キラリと瞬く 星みたいなんだよ
君にとって
僕のキスが
クラリとよろめく
魔法ならいいのに』
西くんやメンバーも、演奏しながら、この不思議なシャボン玉の出現に目を輝かす。
「∪。△。)⊃ふふふふ皆喜んでいるな?このシャボンの原料が勇人のザ・鼻汁だとも知らずに……ホホホ☆良かったのう勇人!お前の体液が人様を幸せにしているぞ――!」
「た、体液とか言うな――!ぐぼべっ」
ジャムは、もはや出ても居ない涙や鼻の汁を無理矢理出そうとしている。
鼻の穴にストローをぶちこまれ、バキュームみたいな力でギュウギュウ吸われて居る。
止めろ、止めろってば――!ひぁぃ!
「足リナイタリナイ!モット出スンダ―ハヤト!本気ダセ―!」
「グギャア!意味わかんねーよ!何の本気だよ!」
僕はステージの西くんを乙女の眼差し(のつもり)で見詰めながら、尚も搾取しようとする悪魔の様なジャムをむんずと掴まえて怒鳴った。
するとジャムは目をうるうるさせて震えている。マズイ!
「。△。)おおお。ジャムが泣くぞ!大変だぞ!勇人、ジャムの言う通りにした方がお前の身の為ぬら!」
「そ、そんな……酷いっ」
「∪。△。)⊃そうしなければ本当に酷い事になるぞ!さあ、鼻汁を出すのだ!」
何て無茶苦茶な……
でも、こいつら自体が無茶苦茶なんだった。
僕は諦めて、ジャムに棒読みで話し掛けた。
「ごめんなさい。僕が間違ってました。どうぞ好きにして下さい」
途端にジャムの目が爛々として、ライヴハウスが緑の閃光に包まれた。
「わ――!」
「何っ?」
客の何人かは光に驚いたが、ライヴに夢中な観客達には演出の照明としか思わないのだろう。
ジャムの身体からまばゆいエメラルドグリーンの後光が差している。
ま、眩しい……
僕は一瞬ジャムに対して拝みそうになるが、ジャムがその口を開けると、その中にブラックホールのような黒い渦が見える。
「ひっ?」
ジャムはいつの間にか巨大化して僕をがっちり抱き締めて口をあーんと開けた。
「な、何をするんだよ――!離せっギャアっ」
「。△。)好きにして下さいと言ったのはお前だぞ」
ペコリーヌは呑気に会場の客達の頭上を飛び回り遊んでいる。
「ひ――!だからって、だからって何だよこれは――!なにっ?何をするのジャム!」
涙目で叫ぶがジャムは目を光らせてニヤリと笑った。
あの可愛い縫いぐるみの面影なんて1ミリもありゃしない!
神は何処へ行った――!
「わあ!ジャムちゃんに抱っこされて楽しそうだね勇人君!」
茜はステージに向かい拳を突き出しながら、ジャムに捕らえられて恐怖に震える僕を見てニッコリした。
違う!違うんだよ――!
もう、恐怖で声が出ない。
ステージではキラキラの笑顔で西くんが歌っている。
た、助けて――西くん!
心の中で叫ぶが、勿論当の西くんに、僕のテレパシーが届く訳もなく……
突然、パクンとジャムの口に食べられた。
…………
え?
食べられた?
………
エエエエエエ――――!
ジャムが大きく口を開けた瞬間、世界が真っ暗になったのだ。
僕の回りには誰も居ない。
とりあえず、歩き回ってみる。
内部は柔らかくてモサモサしていた。
ジャムの毛みたいに。
静かだ。
さっきまでライヴハウスの轟音の中に居たのに、無音の世界に来てしまった。
「な、何なんだよ……ジャム!ここから出せ――!」
しーん。
僕はモサモサする回りの壁をバンバン叩いた。
「た、頼むから!出して下さい!な、何が欲しいんだ?毛根か?母乳か?」
しーん。
「ぼ、僕が出せる体液をいくらでも差し出しますから――!どうかお願いします――ジャム――!」
すると、目の前にちんまり小さなジャムが現れた。
うるうるした黒い眼でストローを持ち近付いて来る。
僕は両手を拡げた。
「いいよジャム!好きに吸ってくれ!」
ジャムがニヤリとした時、ババババと分身した。
へ?分身?
分身てあの忍者がやるやつか?
僕は無数のジャムに四方八方から囲まれて、何処にも逃げ場がない。
「ひっ……ちょ、ちょい待ち!何故こんな沢山!一人にジャム大勢なんて卑怯じゃないか――!」
ジャム達は、EXILEみたいにくるくると踊りながら一斉にストローを僕に向ける。
「ハヤト。タンマリ頂クゾ」
「ひ、ひ、ひ」
僕は腰を抜かすが、下からヌッと茶色いモサモサの腕が出てきて身体をがんじがらめにされて絶叫する。
幼い頃からの思い出が頭の中でスライドショーを始める。
お父さんお母さん、細目に生まれた運命を恨んだ事もあるけど、僕を今日まで育ててくれてありがとう……
僕はきっと、悪魔と化したジャムに体液全てを抜き取られて死ぬんだ……
僕は目を瞑り手を合わせて祈った。
目を瞑れば浮かんでくるのが、西くんの歌う姿……
ああ、西くん……
この人生の最後に西くんに恋して僕は幸せだったよ……
大勢のジャムの眼が一斉に緑に光った時、僕の目の前は真っ暗になった。
※※
「……勇人、勇人!」
目を開けると、涙でつけまがずれたオカンのアップが眼前にあり、僕は絶叫した。
「ギャアアアア」
「失礼ね!ママンを見て怖がるなんて!きーっ」
「アウッ」
オカンに殴られる。
「全く、何やってんだお前は!」
髪を逆立てて特攻服を着て宝塚みたいな化粧をした岳人にも殴られた。
「ぎゃうっ」
「勇人君!よかった――!」
涙を流しながら茜が抱き着いてくる。
「ひいっ……ふうううやああうええっ……きゃあああひいいいっ」
オカンと岳人に殴られたせいで出来た頭の瘤がジンジン痛むし、茜の髪からいい香りがして別の意味で意識がトリップしそうになるしで僕は訳ワカメ状態だ。
「ちょ……待って、僕、どうしたの?」
僕は見慣れない部屋のベッドに居た。
腕には点滴が刺さっている。
オカンが「あっ!看護婦さん呼ばなきゃ!」と、枕元のボタンを押した。
「もしもし!もしもし!勇人ちゃんが起きました――!も――この子ったら、目を開けてても瞑ってても区別がつかないお顔だから、見分けるのが大変なんですう――!
でもね、私はやっぱりハヤちゃんのママンだから、分かるのよ――!ウフフフフッ」
「母さん、電話じゃないんだから」
岳人は呆れて言った。
「勇人君ね、脱水起こしてライヴの最中に倒れたの」
茜は僕の手を握りながら目を潤ませた。
「ええっ!?」
「西くんがステージから気がついてくれてね?少しライヴが中断されたんだよ」
「え、エエエエエエ」
「救急車呼んでくれてね、凄く親切だね!西くんて!」
僕は頭を抱えた。
なんてこった!
ライヴを中断した上にメンバーに世話をかけてしまうとは……
「あ、でも大丈夫だよ」
茜がバッグから色紙を出した。
「さっき、救急車に乗るときスタッフの人が、勇人君にメンバーからだって 」
「お――っ」
「まああ、すごいわ!」
岳人とオカンが感嘆の溜め息を付いた。
色紙にはメンバー全員のサインと、「ドンマイ!」というメッセージが書かれていた。
色紙を持つ手が震えた。
「ひ、ひはひひひ」
余りの感激に僕は声が震える。
「全く、倒れて得したなお前は」
岳人がデコピンしてきた。
「い、いてえ!……そういや岳人!アレは何なんだよ!暴走ぞ」
「あ――よかったなあ勇人本当に!青春の一ページを刻んだ今日という日を忘れんなよ?」
岳人は僕の口を塞ぎ、デカい目を更に見開いて、
(余計な事を言ったらコロス!)
と眼で伝えてきた。
「んぐ!ふんふん!ぬっ!」
この目は本気の目だ。
僕は恐怖に震えながら頷いた。
「も~今日はびっくりする事ばかり!ハヤちゃんが茜ちゃんとデートなんて奇跡的な事をするから倒れちゃったんじゃない?岳ちゃんも、変なコスプレで病院に来るし~?でも、岳ちゃんは何をしても似合うわねえ!うふ!あ、ハヤちゃんの入院の手続きして来るわね?
茜ちゃん、今日は悪かったわねえ……
お世話かけて……
あ、そうそう、お家の人がもうすぐお迎えに来るそうよ?それまでいてあげてね?」
オカンは一人まくしたて、あたふたと出ていった。
「ふあ~俺、帰るわ。疲れたし……じゃあ勇人、寝ぼけてベッドから落ちんじゃねーぞ。お前寝相悪いんだから。看護士さん達の仕事を増やすんじゃねーぞ」
「う、うん……じゃあね」
岳人は、他の入院患者や家族、すれ違う看護士からハートマークの目を向けられながら悠々と歩いていく。
病室に二人きりになってしまい、僕は早速うろたえ始めた。
「勇人君、本当によかったね」
茜がニッコリ笑い、僕のハートが激しく痛んだ。
あれ?僕、西くんに恋してたんじゃ?
胸が痛い。
痛い……
乳首の辺りに強烈な刺すような激痛が襲い、声にならない叫びを上げると、パジャマの中から小さなジャムがポーンと飛び出した。
「あ、ジャムちゃん!そこに隠れてたの?」
茜がコロコロ笑い、ジャムの小さな頭を指で撫でた。
まさか、と思いパジャマの中を覗いたら、やはり小さな歯形がくっきりとビーチク周辺についていた。
ジャムに抗議しようと顔を上げたら、聞き覚えのある声が――
ぬらぬらぬらぬらぬらぬら
∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∪。△。)⊃―☆∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥
ぬらぬら
「ぎゃひ―――――っ!」
ペコリーヌが逆さまで目の前に現れるのは最近の定番パターンなのにも関わらず、僕はいちいち驚愕してしまうのは何故なんだろうか。
茜は手を叩いて喜んでいる。
「ペ子ちゃん、凄いマジックだね――!魔法使いみたい!」
いや、だからそうなんだよ!
「。△。)⊃ふふふふ。お気に召したかえ?」
ペコリーヌは満更でもなさそうだ。
「うん!凄く楽しい!」
「。△。)こんなので良ければいつでもやってあげるわYO☆」
「うわあ――本当?」
ジャムは茜の肩の上でちんまりと大人しくして居るが、僕と目が合うとまた恐ろしい笑みを浮かべて背筋が寒くなる。
「∪。△。)⊃勇人。お前の体液のお陰でライヴは素晴らしいエンターテイメントになったぞ」
「へ……?」
「あ~そう言えば、演出が凝っててびっくりしたなあ。シャボン玉が出てきたり、最後には霧がかかったみたいになったんだけど、虹がかかって凄く素敵だったの!あんなことが出来るんだねえ!」
ジャムの目が緑に光り僕を見ている。
「に、虹い?」
茜が自分のスマホを見た。
「あ、お迎え来てくれたみたい……勇人君、今夜入院なんだよね、ゆっくり休んでね?元気になったらまた学校でね。ペ子ちゃん、ジャムちゃんもまたね?」
「う、うん……またね」
僕はベッドから手を振る。
すると茜が、また戻ってきて扉から顔を出して顔を赤らめて言った。
「また……一緒に遊びに行こうね?」
一気に頭の中にお花畑が広がり、蝶々が舞い鳥が歌い、天使達が羽を広げて笑っている。
パレードどころの騒ぎではない。
天国だ!パラダイス!
「ひっ!……ひっ……も、勿論……ガッテンだいっ!」
また訳ワカメな事を口走り、親指を立てて見せた。
茜はニッコリ笑い、頷くと走って行った。
「。△。)⊃ふふふ良かったのう勇人!試練も終わったぞ!」
「へ?終わった?」
「∪。△。)⊃六時間限定版の試練だったのだよ☆ラッキーだったな」
「限定て!……て事は、六時間限定の禁断の恋、だったの?」
ジャムがのそのそと腕を伝って登ってきた。
「延長スルカ?ヒヒッ」
「いや、いやもう充分でございます!ガクブル」
「。△。)。△)むむっ!」
ペコリーヌの目が緑に光る。
「何?」
「∪。△。)⊃……また新たな事件が起こるぞ」
「はあっ?」
ペコリーヌは楽しそうにルンルンしている。
「事件ダ!事件ダ!キャホーイ」
変態魔物コンビは手を取り合い病室の中をはしゃいで飛び回った。
僕は脱力して枕に顔を埋めた。
勘弁してくれ……
平和な毎日、カンバック!
約1時間半強だろうか。
立て続けにノリノリでアゲアゲなナンバー連発で、今日はバラードを一曲も演奏していない。
僕はずっと『西くん』に声援を送り、彼の目に留まろうとわざと他の客とは違う動きをしたりしてアピールした。
西くんは時折こちらを見た様な気がするが、『見てはいけない物を見てしまった』とでも言うような表情をされて目を逸らされた……様な気がする……様な気がする……
僕のシャイなハートはその度に深く傷つき、それでも西くんを目で追うのを止められなかった……
ああ、恋が楽しいなんて何処の誰が言ったんだ?
僕は苦しくてたまらない!
ヘルプミー!
………………
て……………
「違うだろう――――――っギャアアア」
∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∪。△。)⊃―☆∥∥∥∥∥∥∥∥∥
「うるさいぞ勇人!」
ビシィ!
ペコリーヌのスティッキが尻を強打して、僕は痛みに絶叫する。
「アンコール!アンコール!」
隣の茜や他の客達は目を輝かせてアンコールコールをしている。
僕の絶叫ごとき何も気にならないようだ。
「な、何すんだよっ!本気で痛いぞ――!」
涙目の僕に追い討ちをかけるかの様に、ジャムがズボンの中へ入り込み尻を噛んだ。
「いっっヒィ――!」
「∪。△。))だから静かにしろ勇人――!バシィ!」
またしてもスティッキで叩かれる。
「ひ、酷いっ酷いよお前ら――!僕の尻や毛根や乳をなんだと思ってるんだよ――っ」
「∪。△。)ほらほら勇人!アンコールでお前の愛しい人を呼ばないとだぞ!アンコール!アンコール!」
ペコリーヌの目が緑に光る。
「ひぃっ!何故今ピカーなんだよ!頼むから何かしでかすなよ?」
僕は肩の上でジャンプしてはしゃぐジャムを捕まえようとアタフタしながらステージを見た。
茜もキラキラの笑顔でステージを見つめて一心に手拍子している。
可愛いなあ、と思う。
僕の好きなアニメのヒロインにそっくりな女の子。
だけど……
何だか知らないが、僕は、僕は!
『西くん』に禁断の恋をしてしまったんだあ――!
チキショ――!どうしてくれる!?
「切ないだろう苦しいだろう勇人。それが恋の醍醐味だよ。まだまだお子様のお前はこういう機会でもなけりゃ恋の何たるか?を学ぶ事は出来ないだろう?有り難く思うんだな。ホーッホホホ。△。)。△)」
「えっ?勇人君、恋してるの?西くんに?」
茜が手拍子しながら目を真ん丸くした。
「ち、違う!……違うと思いたいけど違わないかも知れない……でも違うんだよ――っ」
必死に弁明するが、茜は僕の極小の目を真っ直ぐに見つめてしみじみと言った。
「いいんだよ、勇人君、自分に正直になって!世の中、色んな形の愛があるんだもの……私、応援するから!」
「ヒイッ応援されてもっ」
「フレー!フレー!勇人!!」
ジャムが茜の肩と僕の肩をピョンピョン飛び乗って遊んでいる。
うるさいわ――!と絶叫しかけた時、会場がワッと歓喜の声で沸いた。
再びステージが眩く照らされ、ツアーTシャツに着替えたクレッシェンドのメンバーが現れた。
西くんは一番最後に現れ、ライトに負けない眩い笑顔で客に手を振る。
「アアア!西くんっ」
僕は喜びの涙を流しながら大きく手を振って叫ぶ。
茜が隣で僕を見て、ウンウンと頷きながら拍手している。
「良かったねえ!勇人君!西くんを目に焼き付けようね?」
「うん……うん!……僕、今日の日の思い出を胸に……頑張るっ!」
胸の前で手を組み叫ぶと、ペコリーヌが大袈裟に驚いてみせた。
「。△。)ほお――?青春のネガティブが全て集まった様な勇人の口から"頑張る"という言葉が飛び出すとは……これは、事件ぬら!」
「事件ダ!事件ダ!」
「。△。)⊃事件どころか天変地異が起こるぞ!どうする!どうする勇人!」
「ドースルドースル♪」
好き勝手に騒ぐペコリーヌ&ジャムに僕は言い返す気持ちにもならなかった。
何故って、それは!
西くんから目を離したくないからなんだよおおオオオオオオ!
アアア!
西くんは、スタンドマイクで静かに話を始めた。
「皆、今日は本当にありがとう!最高の夜になったよ!」
「キャー!」
「ありがとう西くん!」
「最高だったよ―!」
「西くーん!」
「に、西ぐ――ん!」
黄色い声の中に、若干不気味な叫びが混じる。
そうだよ、僕だよ!
キモくて悪かったな―!
だってだって好きなんだも―ん!
いいだろ―!叫ぶ位―!
すっかり、開き直り、抗う事を止めた僕には何も怖いものはなかった。
ゲイがなんだホモがなんだ――!
世界は広いんだぜ――!
こう叫びたかった。
ペコリーヌ曰く、この恋は試練らしいが、試練上等!
わはははは。
「わはははは」
狂った様に笑う僕を見て緑の目コンビがヒソヒソ話をする。
「。△。)……かなり、ハマってしまった様だな」
「ハヤトは抑圧サレテイキテ来タカラ反動ガ凄キノダ―!爆発ボーン!」
「さて、皆、まだいけるかな?」
西くんの言葉に、客がオーと答えた。
西くんは、耳に手を当てて首を振る。
サラサラした髪が一瞬、頬に貼り付いて、そのキュートな表情に僕の胸はズッキンドッキン!
「……な―んか声が若干控え目だよなあ……皆、余力残してる場合じゃないぞ―!本気で来い―!」
さっきよりも大きな叫びが起こる。
勿論、僕も血管がキレそうな程に叫んだ。
西くんはピアノを軽やかにつま弾きながら、客の方を振り返り笑顔で叫ぶ。
「皆、ありがとう!皆の本気に、俺たちも本気で答えるよ?じゃあ、ラストまで!ぶっ飛ばすよ――!ハイッ!」
西くんの掛け声で、会場は強烈なオイコールに包まれた。
茜も小さな手を振り上げ声を上げ、変態魔物コンビも会場の客の頭の上を飛び回りはしゃぐ。
一瞬ギョッとしたが、客にもメンバーにも見えて居ないみたいだ。
誰も気に留めない。
「オイ!オイ!ウォイ!」
僕も渾身のオイコールを愛と純情を込めて西くんに送った。
『たった一粒の
小さな 小さな 宝石を
君に 君だけにあげる』
西くんが澄んだ声で歌い始めると、会場じゅうからワアッと歓声とどよめきが起きる。
茜も跳び跳ねて喜んでいる。
そう、今演奏されているのは、音源で発売されていない、ライヴでしかやらない曲、しかもたまにしかやらないレア曲なのだ――!
僕も涙と鼻水を流しながら絶叫して喜びを表現していると、ジャムがストローでズルズル吸いに来た。
「ぶがっ!な、ななな何をしとるんじゃ――?」
ジャムはストローを口に含み頬をプクウと膨らませる。
すると無数の小さなシャボン玉が空中に漂った。
照明を浴びてキラキラと輝くそれに、客達は演出と勘違いして目を輝かす。
「うわ~きれい!」
茜もうっとりする。
ジャムは緑に光る目で、僕の涙や鼻汁をストローで搾り取り、シャボンに変えた。
『僕にとって
君の愛はね
キラリと瞬く 星みたいなんだよ
君にとって
僕のキスが
クラリとよろめく
魔法ならいいのに』
西くんやメンバーも、演奏しながら、この不思議なシャボン玉の出現に目を輝かす。
「∪。△。)⊃ふふふふ皆喜んでいるな?このシャボンの原料が勇人のザ・鼻汁だとも知らずに……ホホホ☆良かったのう勇人!お前の体液が人様を幸せにしているぞ――!」
「た、体液とか言うな――!ぐぼべっ」
ジャムは、もはや出ても居ない涙や鼻の汁を無理矢理出そうとしている。
鼻の穴にストローをぶちこまれ、バキュームみたいな力でギュウギュウ吸われて居る。
止めろ、止めろってば――!ひぁぃ!
「足リナイタリナイ!モット出スンダ―ハヤト!本気ダセ―!」
「グギャア!意味わかんねーよ!何の本気だよ!」
僕はステージの西くんを乙女の眼差し(のつもり)で見詰めながら、尚も搾取しようとする悪魔の様なジャムをむんずと掴まえて怒鳴った。
するとジャムは目をうるうるさせて震えている。マズイ!
「。△。)おおお。ジャムが泣くぞ!大変だぞ!勇人、ジャムの言う通りにした方がお前の身の為ぬら!」
「そ、そんな……酷いっ」
「∪。△。)⊃そうしなければ本当に酷い事になるぞ!さあ、鼻汁を出すのだ!」
何て無茶苦茶な……
でも、こいつら自体が無茶苦茶なんだった。
僕は諦めて、ジャムに棒読みで話し掛けた。
「ごめんなさい。僕が間違ってました。どうぞ好きにして下さい」
途端にジャムの目が爛々として、ライヴハウスが緑の閃光に包まれた。
「わ――!」
「何っ?」
客の何人かは光に驚いたが、ライヴに夢中な観客達には演出の照明としか思わないのだろう。
ジャムの身体からまばゆいエメラルドグリーンの後光が差している。
ま、眩しい……
僕は一瞬ジャムに対して拝みそうになるが、ジャムがその口を開けると、その中にブラックホールのような黒い渦が見える。
「ひっ?」
ジャムはいつの間にか巨大化して僕をがっちり抱き締めて口をあーんと開けた。
「な、何をするんだよ――!離せっギャアっ」
「。△。)好きにして下さいと言ったのはお前だぞ」
ペコリーヌは呑気に会場の客達の頭上を飛び回り遊んでいる。
「ひ――!だからって、だからって何だよこれは――!なにっ?何をするのジャム!」
涙目で叫ぶがジャムは目を光らせてニヤリと笑った。
あの可愛い縫いぐるみの面影なんて1ミリもありゃしない!
神は何処へ行った――!
「わあ!ジャムちゃんに抱っこされて楽しそうだね勇人君!」
茜はステージに向かい拳を突き出しながら、ジャムに捕らえられて恐怖に震える僕を見てニッコリした。
違う!違うんだよ――!
もう、恐怖で声が出ない。
ステージではキラキラの笑顔で西くんが歌っている。
た、助けて――西くん!
心の中で叫ぶが、勿論当の西くんに、僕のテレパシーが届く訳もなく……
突然、パクンとジャムの口に食べられた。
…………
え?
食べられた?
………
エエエエエエ――――!
ジャムが大きく口を開けた瞬間、世界が真っ暗になったのだ。
僕の回りには誰も居ない。
とりあえず、歩き回ってみる。
内部は柔らかくてモサモサしていた。
ジャムの毛みたいに。
静かだ。
さっきまでライヴハウスの轟音の中に居たのに、無音の世界に来てしまった。
「な、何なんだよ……ジャム!ここから出せ――!」
しーん。
僕はモサモサする回りの壁をバンバン叩いた。
「た、頼むから!出して下さい!な、何が欲しいんだ?毛根か?母乳か?」
しーん。
「ぼ、僕が出せる体液をいくらでも差し出しますから――!どうかお願いします――ジャム――!」
すると、目の前にちんまり小さなジャムが現れた。
うるうるした黒い眼でストローを持ち近付いて来る。
僕は両手を拡げた。
「いいよジャム!好きに吸ってくれ!」
ジャムがニヤリとした時、ババババと分身した。
へ?分身?
分身てあの忍者がやるやつか?
僕は無数のジャムに四方八方から囲まれて、何処にも逃げ場がない。
「ひっ……ちょ、ちょい待ち!何故こんな沢山!一人にジャム大勢なんて卑怯じゃないか――!」
ジャム達は、EXILEみたいにくるくると踊りながら一斉にストローを僕に向ける。
「ハヤト。タンマリ頂クゾ」
「ひ、ひ、ひ」
僕は腰を抜かすが、下からヌッと茶色いモサモサの腕が出てきて身体をがんじがらめにされて絶叫する。
幼い頃からの思い出が頭の中でスライドショーを始める。
お父さんお母さん、細目に生まれた運命を恨んだ事もあるけど、僕を今日まで育ててくれてありがとう……
僕はきっと、悪魔と化したジャムに体液全てを抜き取られて死ぬんだ……
僕は目を瞑り手を合わせて祈った。
目を瞑れば浮かんでくるのが、西くんの歌う姿……
ああ、西くん……
この人生の最後に西くんに恋して僕は幸せだったよ……
大勢のジャムの眼が一斉に緑に光った時、僕の目の前は真っ暗になった。
※※
「……勇人、勇人!」
目を開けると、涙でつけまがずれたオカンのアップが眼前にあり、僕は絶叫した。
「ギャアアアア」
「失礼ね!ママンを見て怖がるなんて!きーっ」
「アウッ」
オカンに殴られる。
「全く、何やってんだお前は!」
髪を逆立てて特攻服を着て宝塚みたいな化粧をした岳人にも殴られた。
「ぎゃうっ」
「勇人君!よかった――!」
涙を流しながら茜が抱き着いてくる。
「ひいっ……ふうううやああうええっ……きゃあああひいいいっ」
オカンと岳人に殴られたせいで出来た頭の瘤がジンジン痛むし、茜の髪からいい香りがして別の意味で意識がトリップしそうになるしで僕は訳ワカメ状態だ。
「ちょ……待って、僕、どうしたの?」
僕は見慣れない部屋のベッドに居た。
腕には点滴が刺さっている。
オカンが「あっ!看護婦さん呼ばなきゃ!」と、枕元のボタンを押した。
「もしもし!もしもし!勇人ちゃんが起きました――!も――この子ったら、目を開けてても瞑ってても区別がつかないお顔だから、見分けるのが大変なんですう――!
でもね、私はやっぱりハヤちゃんのママンだから、分かるのよ――!ウフフフフッ」
「母さん、電話じゃないんだから」
岳人は呆れて言った。
「勇人君ね、脱水起こしてライヴの最中に倒れたの」
茜は僕の手を握りながら目を潤ませた。
「ええっ!?」
「西くんがステージから気がついてくれてね?少しライヴが中断されたんだよ」
「え、エエエエエエ」
「救急車呼んでくれてね、凄く親切だね!西くんて!」
僕は頭を抱えた。
なんてこった!
ライヴを中断した上にメンバーに世話をかけてしまうとは……
「あ、でも大丈夫だよ」
茜がバッグから色紙を出した。
「さっき、救急車に乗るときスタッフの人が、勇人君にメンバーからだって 」
「お――っ」
「まああ、すごいわ!」
岳人とオカンが感嘆の溜め息を付いた。
色紙にはメンバー全員のサインと、「ドンマイ!」というメッセージが書かれていた。
色紙を持つ手が震えた。
「ひ、ひはひひひ」
余りの感激に僕は声が震える。
「全く、倒れて得したなお前は」
岳人がデコピンしてきた。
「い、いてえ!……そういや岳人!アレは何なんだよ!暴走ぞ」
「あ――よかったなあ勇人本当に!青春の一ページを刻んだ今日という日を忘れんなよ?」
岳人は僕の口を塞ぎ、デカい目を更に見開いて、
(余計な事を言ったらコロス!)
と眼で伝えてきた。
「んぐ!ふんふん!ぬっ!」
この目は本気の目だ。
僕は恐怖に震えながら頷いた。
「も~今日はびっくりする事ばかり!ハヤちゃんが茜ちゃんとデートなんて奇跡的な事をするから倒れちゃったんじゃない?岳ちゃんも、変なコスプレで病院に来るし~?でも、岳ちゃんは何をしても似合うわねえ!うふ!あ、ハヤちゃんの入院の手続きして来るわね?
茜ちゃん、今日は悪かったわねえ……
お世話かけて……
あ、そうそう、お家の人がもうすぐお迎えに来るそうよ?それまでいてあげてね?」
オカンは一人まくしたて、あたふたと出ていった。
「ふあ~俺、帰るわ。疲れたし……じゃあ勇人、寝ぼけてベッドから落ちんじゃねーぞ。お前寝相悪いんだから。看護士さん達の仕事を増やすんじゃねーぞ」
「う、うん……じゃあね」
岳人は、他の入院患者や家族、すれ違う看護士からハートマークの目を向けられながら悠々と歩いていく。
病室に二人きりになってしまい、僕は早速うろたえ始めた。
「勇人君、本当によかったね」
茜がニッコリ笑い、僕のハートが激しく痛んだ。
あれ?僕、西くんに恋してたんじゃ?
胸が痛い。
痛い……
乳首の辺りに強烈な刺すような激痛が襲い、声にならない叫びを上げると、パジャマの中から小さなジャムがポーンと飛び出した。
「あ、ジャムちゃん!そこに隠れてたの?」
茜がコロコロ笑い、ジャムの小さな頭を指で撫でた。
まさか、と思いパジャマの中を覗いたら、やはり小さな歯形がくっきりとビーチク周辺についていた。
ジャムに抗議しようと顔を上げたら、聞き覚えのある声が――
ぬらぬらぬらぬらぬらぬら
∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∪。△。)⊃―☆∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥
ぬらぬら
「ぎゃひ―――――っ!」
ペコリーヌが逆さまで目の前に現れるのは最近の定番パターンなのにも関わらず、僕はいちいち驚愕してしまうのは何故なんだろうか。
茜は手を叩いて喜んでいる。
「ペ子ちゃん、凄いマジックだね――!魔法使いみたい!」
いや、だからそうなんだよ!
「。△。)⊃ふふふふ。お気に召したかえ?」
ペコリーヌは満更でもなさそうだ。
「うん!凄く楽しい!」
「。△。)こんなので良ければいつでもやってあげるわYO☆」
「うわあ――本当?」
ジャムは茜の肩の上でちんまりと大人しくして居るが、僕と目が合うとまた恐ろしい笑みを浮かべて背筋が寒くなる。
「∪。△。)⊃勇人。お前の体液のお陰でライヴは素晴らしいエンターテイメントになったぞ」
「へ……?」
「あ~そう言えば、演出が凝っててびっくりしたなあ。シャボン玉が出てきたり、最後には霧がかかったみたいになったんだけど、虹がかかって凄く素敵だったの!あんなことが出来るんだねえ!」
ジャムの目が緑に光り僕を見ている。
「に、虹い?」
茜が自分のスマホを見た。
「あ、お迎え来てくれたみたい……勇人君、今夜入院なんだよね、ゆっくり休んでね?元気になったらまた学校でね。ペ子ちゃん、ジャムちゃんもまたね?」
「う、うん……またね」
僕はベッドから手を振る。
すると茜が、また戻ってきて扉から顔を出して顔を赤らめて言った。
「また……一緒に遊びに行こうね?」
一気に頭の中にお花畑が広がり、蝶々が舞い鳥が歌い、天使達が羽を広げて笑っている。
パレードどころの騒ぎではない。
天国だ!パラダイス!
「ひっ!……ひっ……も、勿論……ガッテンだいっ!」
また訳ワカメな事を口走り、親指を立てて見せた。
茜はニッコリ笑い、頷くと走って行った。
「。△。)⊃ふふふ良かったのう勇人!試練も終わったぞ!」
「へ?終わった?」
「∪。△。)⊃六時間限定版の試練だったのだよ☆ラッキーだったな」
「限定て!……て事は、六時間限定の禁断の恋、だったの?」
ジャムがのそのそと腕を伝って登ってきた。
「延長スルカ?ヒヒッ」
「いや、いやもう充分でございます!ガクブル」
「。△。)。△)むむっ!」
ペコリーヌの目が緑に光る。
「何?」
「∪。△。)⊃……また新たな事件が起こるぞ」
「はあっ?」
ペコリーヌは楽しそうにルンルンしている。
「事件ダ!事件ダ!キャホーイ」
変態魔物コンビは手を取り合い病室の中をはしゃいで飛び回った。
僕は脱力して枕に顔を埋めた。
勘弁してくれ……
平和な毎日、カンバック!
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