eyes to me~私を見て

ペコリーヌ☆パフェ

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junkな三人の王子

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「化粧品と……着替えと……あと忘れ物は……あっ!手鏡持っていかなくちゃ!」



バッグに荷物を詰めていた美名がバスルームに向かおうとした時、それまでじっと見つめていた綾波に不意に腕を掴まれ引き寄せられた。

きゅうっと力を込めて抱き締められ、息が苦しくなる位だった。



「あ、綾波さん……あっ」


熱い息が耳にかかって、胸が甘く疼いてしまう。


「……志村さん、今すぐ血管がぶちって切れてくんねえかな……」


唐突な意味のわからない呟きに、美名の頭の中に疑問符が沢山浮かぶ。


深い溜め息を吐いて綾波は続けた。



「そのまま入院して……記憶喪失にでもなりゃいいかもな……全く……」



「な、何故?」



綾波は美名の腕を掴んだまま身体を離して苦笑した。



「そうなりゃ、あいつらとの合宿も、デビューもおじゃんになるだろうが」



「えっ……」






切れ長の涼やかな瞳が、強い光を宿して美名を見る。


「美名……行かせたくない」


その言葉に甘くときめいて、同時に困惑してしまう。


(剛さんにんな事を言われるのは……
嬉しい気持ちもあるけど……

私は志村さんの言うことに従うしかないし……)



―――――――――――


「一ヶ月後のデヒューに備えて、junkメンバーと美名ちゃんで合宿をしましょう」


と、先日志村が言い出したのだ。



「が、合宿っ?つまり、あいつらと美名が同じ屋根の下で過ごすって事ですか?」


綾波は目の色を変えた。



「長野に、私の別荘兼スタジオがあるのよ!いい所よ~!自然も一杯だし、庭でキャンプファイヤーもできるわ~!手を繋いでマイムマイムを皆で踊れるわねっ!あ~考えただけで楽しいじゃない?」


「志村さん!あなたが遊びたいだけじゃないですか?」



「うふふ。ばれた?」



ニッコリ笑う志村に綾波は絶句した。




「この厳しい修羅の芸能界で生き残るのに必要なのはなんだと思う?綾波君?」


志村はワインを一口含み、その香りを堪能しながら綾波と美名をちらりと見た。



「……才能と……したたかさ……と……殺されても死なないような……図太さ……ですかね」



「そうね。いくら素晴らしい才能があっても、この異常な世界で自分を保つのは余程の精神力がないとね。でも、それが出来なくて消えていったミュージシャンは山程いるわ……」



綾波は、志村を鋭い目で見つめる。



「わかりますが、それと合宿と何の関係が?」



「ねえ、美名ちゃん、あなたは人を蹴落としてでも這い上がりたい野望があるかしら?」



「えっ……」



思わず言葉に詰まるが、志村がじっと見て答えを待っている。





美名は少し考えて、きっぱり言った。


「私は……ずっと歌手を夢見て上京してから六年間、夢中でやって来ました……ステージに立つ夢は絶対に叶えたいし、譲れません……
ですが、この何年かの間、騙されて悲しくて悔しい思いもしました……
人を蹴落としてとか、騙して音楽をやりたいとは思いません。
自分がされて嫌だった事を、他の人にはしたくありませんから。
私は、あくまで自分の力で、夢を掴みたいです」




綾波がニヤリと笑う。



「大きく出たな……まあ、その位で丁度じゃないか?」



「あ、も、勿論デビューは私を見出だしてくれた綾波さんのお蔭ですし、志村さんのお力無くしては果たせない事ですけど……っ」



慌てて付け加える美名を見て、志村は手をヒラヒラさせて笑った。



「んも~美名ちゃんてば謙虚なんだから~
いいのよ?そんな風に今更かしこまらなくても!第一、綾波君なんてキッカケはナンパが八割位じゃないの?ホホホホ」


「志村さん!」



綾波が咎める様に言った。



「も~怒らないの綾波君!……まあ、美名ちゃんは凄くイイコよね。
でも、その普通の感覚で、この世界で生きていくのは難しいわよ……」


志村の目がキラリとして、美名はドキリとして、少し怖い、と思ってしまった。

志村は、若い時にはスーパーアイドル、今は敏腕プロデューサー。
その目はこの世界の色んな事を見てきたのだろう。



「綾波君の言うように、したたかさ、図太さは確かに必要よ。
でも、人間皆そんな簡単に強くなれないの。
その辺は個人差よね~。美名ちゃんもjunkの子達も、そういう意味では普通の子達よ。
才能は磨けるけど、個人個人の精神力までは鍛えるのは口で言う程簡単じゃないわ」



「はあ……」
「ええ……」


美名と綾波は同時に相槌を打って、思わず顔を見合わせて笑った。






「仲良しねえ~妬けちゃうわ」



志村に冷やかされ、綾波は咳払いし、美名は赤面した。




「けど、その精神面をカバーするのが、そういう繋がりなのよ」



「……?」



「信頼や愛情とか、そういう物があれば人間は過酷な状況でも頑張ろうって思えるものよ。
例えば、クレッシェンドの子達が成功したのは才能のおかげだけじゃなくて、あの四人のチームワークよね?
綾波君なら分かるでしょ?」



「ええ……まあ」



そこで志村はニカッと笑い、綾波の肩を叩いた。



「だから、合宿なのよ☆」


「どうしてそうなるんです!」



志村は舞台でミュージカルを演じるが如く、ワイングラスを手に、片手を大きく開きくるりとターンして見せた。



「人間はね、昼間一緒にいるよりも夜を共に過ごすほうがより親しくなれる生き物なの!
一つ屋根の下で眠り、朝を一緒に迎えて……朝昼晩、同じ物を食べるのよっ!
そうする事で結束が生まれるのよ!」



目を輝かせて力説する志村に綾波は拳を握り反論した。



「学生のクラブ合宿じゃないんですよ!いいですか、男三人と女一人、どうなるか結果は火を見るより明らかじゃないですか!」





「ふふ。心配?」


「……心配どころか、100パーセントの確立で美名は餌食になりますよ」


「えっ」



美名はギョッとするが、志村は手を叩いて笑った。



「綾波くん基準で考えればそうよね~貴方は会ったその日に襲っちゃったんだし!オホホホ」



美名は真っ赤になってしまい、綾波はムッと志村を睨む。



「あらあら、怖いわあ~
でもそのナイフみたいに尖ってる綾波くんがス・テ・キよ!ふふっ」



「志村さん……」



「まあまあ、それは冗談として~私も合宿に泊まり込むから大丈夫よ!」



「えっ」



「昼間は何だかんだ他にあるから夜だけだけどね」



「夜だけじゃダメですよ!そんなの昼も夜も関係ない!」



綾波が声を荒げたので美名はハラハラするが、志村は笑ってかわす。





「う~ん、まあ確かにそうかもね。綾波くんは昼も夜も関係なく美名ちゃんを苛めてるだろうし」



「……」



恥ずかしくて顔を上げられないで居ると、綾波が肩を抱いて来た。


「悪いな……当分冷やかされるぞ。この人は女をからかって恥ずかしがる所を見るのが大好物なんだよ」


「えっ!」



「まあ、とにかく」


志村はにっこりした。



「美名ちゃん、妹さんが来てるんですって?」



「は、はい。一週間位居るつもりらしいですけど」



「丁度いいじゃない。妹さんにも来て貰って手伝って貰えば」



「桃子をですか?……お手伝いって言っても」



「あるじゃない。食事の仕度とか。桃子ちゃんも美名ちゃんが合宿で居なくなったら東京で退屈するんじゃない?タダとは言わないわよ。バイト賃は出すから!ねっ?」





美名はその場で桃子に電話させられた。



『男と合宿……?それって、根本さんとか……き、来たりする?』


「え?ううん、junkのメンバーだよ。しょう君にはこの間会ったよね。あと、志村さんがバイト賃くれるらしいけど」



『……そのバイト賃で
"バドミントンの王子様"のスペシャルファンブックの初回限定D版、買えるかな……』



「えっ?……ど、どうかな、わかんないけど」



『まあ、いいよ~行っても。合宿長引いたらもう少し学校休んでもいいし』


「て、桃子……そんなに休んでいいの?また何かあったわけ?」



『……ゴメンお姉ちゃん!
今"私と執事のドキドキラブ・レッスン"
のプレイ中なの!また後で聞くから!』



「ちょっと桃子ったら!……切られた……はあ」



「で、オッケ?」



志村が首を傾げて聞いた。



「は、はい。大丈夫だそうです」



「決まりね!じゃあ私、あの子達に連絡するわ!」



憮然とする綾波をよそに、志村はルンルンしながらメンバーへ電話し始めたのであった……









それからバタバタと合宿が決まってしまったのだ。

綾波は志村に
「風紀が乱れるから、あなたは出入り禁止!」
と言われてしまい、物凄く不満そうだ。




「二泊三日……か」


綾波は、美名を抱き締めながら低く唸る様に呟いている。


「だ、大丈夫だよ。桃子もいるし、夜は志村さんも居るから……」



「俺が持たねえよ。二晩離れるなんて」


「……!」



綾波の目がギラリと光る。



「お前は……平気なのか」


「へ、平気って」



大きな指が、背中からするりと移動してスカートの中へ浸入して来た。
脚を閉じようとする前に綾波の指が悩ましい場所に触れてくる。



「や、やあんっ」




思わず声が出てしまい、慌てて口を塞いだ。

(桃子が奥の部屋に居るのに……)



桃子はあれから綾波に突っ掛からなくなった。というよりは、何故か怯えた様に近寄らないのだ。
綾波が何かしたとは思えないけど、どうしたのだろう?と気になっていた。



美名の手を綾波が掴んでニヤリとする。


その目には野蛮な欲望がたぎり、美名をゾクリとさせた。



「声を我慢しなくてもいいだろう……桃子もズカズカ踏み込んでは来ないだろ?」


「そ、そういう問題じゃ……ああっ」



美名は軽々と抱き上げられてソファまで運ばれ、降ろされた途端に胸のボタンを素早く外された。



「ちょっ……綾波さん!」


胸を叩いたが、綾波はへっちゃらな余裕の表情で動作を止めない。
本気で抵抗出来ないのをわかっているのだ。





「あ、綾波さんっ!ダメ!」


綾波の動作はとても素早く、あっという間に美名は下着だけになってしまう。



跨がり見下ろしながらネクタイを外して放り投げて、シャツも脱いでいく。



「抵抗するならもっと必死にならないとダメじゃないか……もう手遅れだぞ」


綾波はシャツも放り出し、ズボンも無造作に脱ぎ捨てて美名に覆い被さった。


身体の中心の猛りをわざと腰に押し付けてニヤリとしている。



「も、もう……っ!志村さんのお迎えが来ちゃう……んっ」



熱い唇が胸元に降りて来て、美名は早くも身体が反応する。



「待たせておけばいいさ」


ブラを外されて乳房を揉みしだかれ突起にキスされて、大きな声が出てしまった。



「あっ……!」





「美名……いくぞ」


「えっ?」



上擦る声で言われたかと思った時にはショーツを取られ、綾波もいつの間にか裸になっていて、蕾に獣を一気に押し込まれた。

凄まじい圧迫感に苦しさを覚えたが、それはほんの一瞬で、綾波が腰を動かした途端に止めどなく蜜が溢れ、狂ってしまいそうな甘い快感に襲われてしまった。



「やあっ……剛さんっ……だ、ダメえっ」



「ダメなものか……物凄い締まりだぞ……うっ」



「あんっ……あ、あああ――!」


脚を強引に限界まで大きく開かれて、熱いモノを打ち付けられ、快感で訳が分からなくなる。


ガクン!と視界が揺れた時に物凄い力で引っ張られた。


どうやら、激しい動きでソファから落ちそうになったらしい。






「美名……っ……どうだ……イイか!」



綾波が揺れながら切ない表情で恥ずかしい問いをする。



「や、やだっ……そんなの言えなっ……」



「なら……こうしてやる!」



長い指が花弁をつまみ、巧みに圧力を加える。
その上でなおも激しく獣を打ち込まれ、美名は泣き叫んだ。




「ああっ!イヤアアアっ!そんなっ……あああっ」



綾波が一瞬身体を震わせて天を仰ぎ口を食い縛った。



「くっ……俺がもう……持たないっ」



「ああ――っ」



綾波が身体中で突き上げた瞬間、火傷しそうな欲望が美名の中へ流れ出した。



「う……っ……」


「んん……」



二人は余韻のまま、暫し抱き合っていた。

このまま身体を密着していたら、直ぐにまた欲望が目を醒ましてしまいそうだった。



綾波は、指で美名の頬の涙を拭い、壁の時計をチラリと見ると苦く笑って頭をくしゃりとした。



「そろそろ時間だ……姫様」


「……離れたくないよ……」



苦しい位の想いが込み上げて、美名は綾波に強くしがみついた。



次の瞬間、息が止まりそうな位にきつく抱き締められた。


「い、痛い……」


「すまん」


綾波はそう小さく呟くけれど、更に力を込めてくる。

このまま、身体がバラバラになるのでは無いかと思う位の力で。



「んっ……いた…い……でも……離さない……で」


「お前はマゾか」


ククッと笑い、腕の力が緩む。


「……泣くな。たったの二日だぞ」


「ひっ……だって……」


「お前の夢の第一歩だ……庵原翔大が一緒なのが面白くないが……」


綾波はそこまで言うと、押し黙ってしまう。




「あ、あの……私、しょう君と二人きりにならないように頑張ります!隙を見せないように……笑いかけたりとか、しません!もし、目が合ったら睨んでやりますから!」


大真面目に宣言する美名を綾波はポカンと見ていたが、プーッと吹き出した。



「阿呆かお前は……余計に怪しい対応だぞ……くくっ……」



「そ、そうですか?」



ポン、と頭を優しく叩かれる。





「一緒に演奏する仲間だしな……邪険にも出来ないだろ。フツーにしてろ、フツーに」



「フツー……」



う―んと考え込む美名の身体を、綾波が手際よくティッシュで優しく拭き始めた。


気が付けば、胸の辺りまで精が飛び散っている。


「ほら、脚を拡げろ」



「や、やだ!自分でやります」



「今更……恥ずかしがられてもな」


ふふ、と笑って無理矢理太股をグイと開き、そっと丁寧に拭き取られる。

絶妙な触れ方で、思わず小さな声が出てしまった。


「あん……」


「……」



綾波の手が止まった。


「?」


顔を上げると、綾波の目付きが変わっている。


「あ、綾波さ――」


次の瞬間蕾に触れてきたのはティッシュではなく、しなやかな長い指だった。
一旦引いた筈の淫らな欲望の波がまたやって来てしまう。



「折角綺麗にしたのに……また汚したくなったじゃないか……お前がそんな反応をするから……っ」


耳元で、熱い息がかかり身体中が甘く反応する。


「やっ……だ……め!」



その時に、綾波のスマホが鳴った。





「……なんてタイミングなんだ」


深い溜め息をついて、美名から離れ綾波は電話に出た。



美名は、開かれた脚を慌てて閉じて乱れた髪を治す。
ほてった身体は、冷めそうに無いし、蕾の中や廻りがジンジン疼いて正気でいられない。


(どうしよう……)



そんな風に身体をもて余して居ると、綾波が電話を切って戻ってきて、美名を抱き上げた。



「えっ?」


綾波はニヤリとする。


「志村さんが急用で、迎えに来るのが二時間程遅れるそうだ……」


「えっえっ?」



「このまま風呂へ行くぞ」


「え――!?」



「綺麗にしながら、イイ事も出来るしな」



綾波は美名を見つめて舌舐めずりする。



「や……だ!お風呂でなんて……恥ずかし……んっ」


抱き上げられたまま唇を奪われ、そのままバスルームに連れていかれた。










それから美名は風呂場で何回もイカされ、沢山叫んでしまった。


後から、声が響いて桃子に聞こえていたかも?と思ったが、今更過ぎる……



達した後、バスタブの手摺りに掴まって息を乱していると、首筋に綾波がキスをしながら乳房に手を伸ばしてくる。


「やっ……だ、ダメ……もうっ」


立ったままで抱かれて、足腰が砕けそうだった美名は浴槽の中で綾波の上に跨がらされていた。


お湯とシャワーの蒸気と熱気でのぼせているのか、快感で火照っているのか訳がわからない。


綾波の止めどない欲望は尽きる事が無いのだろうか。


さっきあんなに沢山精を吐き出した筈の獣がまたムクリと勃ち上がって居る。


両の乳房を円を描く動きで揉みながら、跨がらせた体勢で下から突き上げられる。



「あ……あっ……もう……許して……剛さんっ」



濡れた髪の綾波のいつもと違う色気にゾクリとして、美名は身体が疼きっぱなしだった。


勿論、猛った綾波が許す筈もなく、美名を攻め続ける。




「美名……っイイぞ……」

綾波の唇が笑っている。
乱れている美名を見て、愉しむ様に。


突き上げる動きは緩むことが無く美名を際限無く狂わせ、バスルームに淫らな音と吐息、叫びが響く。


「あ、あ、あっ!もっ……イッちゃ……!」


激しく揺らされ乱され、目の前が真っ白になる。


(――また、来る……)



「俺も――だっ」



綾波が叫んで、思いきり強く突かれた瞬間、爆ぜた欲望はシャワーよりも熱かった。




美名はそこで気を失ってしまい、目をさました時には綾波の寝室のベッドに寝かされて、いつの間にか服を着せられていた。
ちゃんと下着も付けている。


綾波は、無心な表情で美名の髪を乾かしていた。


ぼんやりした意識で美名は状況を把握して、綾波を見つめた。



「つ、よしさん……」



「もう少しで出来るぞ」



手際よくメイクボックスからトリートメントを出すと掌に広げて髪にそっと揉みこむ。




「すいません……」



「いや、俺が悪かった……やり過ぎたな」



髪をブラシで器用にといてくれる感触がくすぐったくて気持ちがいい。



「大丈夫か?」



「う、うん……あっ」



美名は身体を起こすが、直ぐによろけて綾波に掴まった。



「ほら、飲め」



綾波はスポーツドリンクのペットボトルを美名に差し出した。



「ありがとう……」



乾ききっていた美名は一気に飲み干し、思わず溜め息を吐いた。



「はあ~こんなに何度もしたの……初めて……剛さんのバカっ」


「すまん」



綾波は珍しく、本当に悪いと思っているようだ。
少し伏し目で美名の手をそっと握り、また謝ってきた。



「悪かった……お前の身体や喉の為には、本当はこんな無茶なセックスは良くない……」



「……今更言う?」



美名がプッと笑うと、長い腕がそっと抱き締めて来た。





「待ってるからな……」


その言葉に、甘く胸が締め付けられてまた泣きたくなるけれど、ぐっと我慢して笑ってみせた。


「うん。待ってて」



「……その顔を、あいつの前でするなよ」



「えっ」



「さて、化粧も出来たな」


「えっ!」



手鏡を渡されて自分の顔をチェックして唖然とする。



「綾波さんが……お化粧してくれたの?寝てる間に?」



「まあな。着せかえゴッコみたいでなかなか楽しかったぞ」



含み笑いをする綾波を美名は睨む。




「私が寝てる間に、また悪戯しました?」



「さて?どうかな?」



「もうっ!」


すっとぼけた様に明後日の方向を見る綾波に殴りかかった時、例の着信音がバッグの中のスマホから大音量で鳴った。



『ママー!電話だよ―!ママー!電話だよ―!ママー』



「……ふざけた着信音だな」


綾波が呆れる中、美名は慌てて電話に出た。





『お姉ちゃん?』


「も、桃子……同じマンションに居るのに何故電話してくるの?」



『え――、だってお二人さん、ずっと仲良くしてるし……部屋へ入って行っていいのかわかんないからさ――』



「うっ……ご、ごめんね」


『もう済んだ?』



美名は赤くなりしどろもどろになる。



「う、うん……まあ……うん」



『なら良かった。私は準備オッケーだからね』



「うん、わかった。そろそろお迎え来ると思うけど……」



『ねえ、お姉ちゃん』



「ん?」



『根本さんが……合宿、行くなって……』



「えっ?……て言うかいつの間に連絡先交換したのっ?」



『何でそんな事言うと思う?』



「う――ん、それは……」



綾波が呆れた顔をして美名の頭を軽く小突いた。



「お前ら、直に話せばいいだろうが……」




すると、インターホンが鳴った。






「美名……こんにちは」


その声に、美名の身体が強ばる。


「あっ!翔大さんだ!はあ~い!こんにちは~!」



桃子の弾む声が聞こえた。
男子が苦手な桃子だが、どうやら翔大には懐いてしまったらしい……



――『美名……好きだ』


「……!」


この間、キスされて組み敷かれた時の甘い囁きや唇の感触が甦って、ゾクリとしてしまう。


けれど、綾波に不意に引き寄せられて唇を荒々しく吸われて、その疼きは別の物に変わる。

一瞬で、綾波の事で一杯になってしまった。


唇を離して額をくっつけ合いあいながら、綾波が目の前で笑った。



「せっかく塗ったのにな……」


唇を指でなぞられる。



「もう……剛さんってば」


再び唇が降りてきて、目を閉じて身を任せた時、部屋のドアが開けられた。





「!」


美名はキスをされながら目はドアの方を見た。


翔大と桃子が立っている。


翔大は目を見開いたが、唇を結んだまま黙ってじっと見ていた。
桃子は赤くなって向こうへ逃げてしまう。



「ん、ん!んんん」

美名は綾波の胸を叩いたが、翔大がそこに居るのにも構わず、強く抱き締めて更に深いキスをしてきた。


翔大の表情が、何を思っているのか読めない。


「ん――んっ……ん」


熱い唇と舌は、この感触を忘れるなと言わんばかりに咥内を悩ましくかき回し、指は腰の辺りをはい回る。


途中から抵抗出来なくなって、甘い溜め息が出てしまった。


(――しょう君が居る前で何故……?
それとも、わざとなの?綾波さん……)




意識が飛びかけた時、ようやく綾波は美名を離した。



美名がフラフラとよろめいて、壁にもたれかかり息を整えていると、綾波は翔大に近付くや否や鳩尾に膝蹴りを入れた。



「くっ」



翔大は腹を押さえて崩れる。



「し、しょう君!……綾波さんっ!何を!」




駆け寄ろうとすると、綾波に後ろから羽交い締めにされる。



「ちょっと――!何をしてんのよ野蛮人っ!」


桃子が飛んできて翔大を起こした。



「いきなり、手荒いご挨拶ですね……」



翔大は眉を寄せてニヤリと笑った。



「俺が居ない時に、美名によからぬ事を企むなよ?」


綾波の低い声が耳元から聞こえてきて、美名はゾクゾクしていた。



「よからぬ事……ですか?俺は、ただ好きなだけだ……よからぬ事をするわけじゃない……美名の気持ち次第ですけどね」


物静かな言い方だが、その目には鋭い光が棲んでいた。


「……美名に何かしてみろ……殺すだけじゃ済まないからな」


「――!」


後ろの綾波が、どんな顔をしているのか見えないから余計に怖いが、その反面、そんな彼に美名はときめいていた。


「ん・も――!
何の乙女ゲーの逆ハーシチュな訳っ!?そんなのはねえ、架空の世界だからこそ素敵なのよ!
リアルでやられたらたまったもんじゃないわ――!いい加減に・しなさいよ――!」


桃子の叫びと共に二つの緑の物体が二人に豪速で飛んできた。


「きゃあ!」
「おっと!」



綾波は美名を抱き締めたまま、片手ではたき落とし、翔大は両手でキャッチする。



桃子は瓶底眼鏡を指で持ち、二人を交互に見て感心した様に言った。



「おお~二人共見事な反射神経です事!」


「おい、下手したら美名に当たるだろうが……何だコリャ。」



綾波は、はたき落とした物を拾い片眉を上げる。



「これ、ワニの縫いぐるみ?可愛いね」



翔大は笑った。



「ち――がう!カメレオンですっ!」



「えっ?」「!?」「はっ?」
三人は固まった。





「は~。でも、性格が出るわよね……
エセ西君は問答無用でカメレオンちゃんを叩き返して……
つまり無慈悲な本性が垣間見えたわけよ。そこへ行くとしょう君は、正面からがっちり受け止めてたわよね~
うん!誠実誠実!お姉ちゃん、やっぱりしょう君にした方がいいんじゃない?」



独特の持論を展開する桃子に、美名は頭がクラクラして来た。



「何がやっぱりだ!」
「ありがとう、桃子ちゃん」

同時に桃子に言った綾波と翔大は、顔を見合わせ睨みあった。



ピンポーン


「は、はい?」


美名は綾波の腕からすり抜けようとするが離してもらえず、そのままでインターホンに出る。


すると、不機嫌丸出しの怖い顔がアップで映っていて美名の血の気が引く。



「あ、真理……」



美名達の後ろから翔大が言った。





「あ、まこと☆
じゃねえ――よ!
その女を迎えに行っていつまでも戻ってこねえって、こっちは苛々してたんだよ!
暇だと煙草吸いたくなるじゃねーか!せっかく禁煙したのによ!
禁煙に挫折したらお前のせいだからな!女あ!」



インターホン越しに思いきり怒鳴られ、美名は思わず目を瞑り身体を竦める。



「ゴメンな、真理。今行くから」


翔大がフォローする様に言った。



「早くしろよな!」



倉田真理は捨て台詞の様に言い、インターホンの前から消えた。



「なあに?今の失礼な男」

桃子が目を剥いた。



「junkのメンバーの真理だよ……口は悪いけど」



翔大は苦笑する。



「口は悪いけど根っこはナイスな男だって言うの~?そんな素敵な設定が似合う奴には見えないけど?見たまんまの短気なロクデナシじゃないのっ?」


桃子にまくしたてられて、翔大は笑顔で
「まあまあ」と言ったが、美名はズーンと一気に気持ちが沈んでしまった。





「ガーガーうるさい男だな……」


「……」



「情けない顔をするなよ。何を言われても可愛く笑ってりゃ、いつか奴もお前に骨抜きになるだろ」



冗談ぽく綾波は笑ったが、ふと真顔になる。


「いや……それも困るな……」


真剣に悩み始めた綾波の腕からすり抜け、美名はアカンベをした。



「そんな変な心配しなくても、私はそんなにモテません――!」


「いや、それは間違いだろうが……」


「そうだよ。お姉ちゃんは世界一可愛い!」


「俺が守るから大丈夫だよ、美名」


「そういうお前が一番危険だろうが!」



皆が皆ピーキャーと喚いていたら、またインターホンが鳴った。



今度は、由清がオドオドしながら、消え入る様に話す。



「あ、あの……どうですか?……行けますか?」



綾波が、意地悪な笑みを浮かべてインターホンに返事をする。



「無理だ、行けない、て言ったらそれでもいいのか?えっ?」



「えっ!?」

由清はあからさまに困惑した。



「もう……綾波さんったら、変な事言ったらダメでしょ!」


美名は綾波を睨んだ。




「由清、ゴメンな!今行くから、志村さんに伝えてくれ」


後ろから言う翔大に、由清は力無く笑い頷くと、インターホンの前から居なくなる。



「おお~今のアンソニーは?」


桃子が翔大に聞く。


「アンソニー……?……由清の事?」


「彼もメンバー?イケメン揃いだね」


「ちょっと気が弱いけどね……」



「おい美名。由清みたいな一見ほにゃら~としてる奴は、実は危険なんだからな!それこそウサギのふりした狼ってやつだ」


「もうっ……剛さんたら、口うるさいお母さんみたい!」


「な、何っ!?」


「あんまりうるさいと、嫌いになりそう」


そっぽを向くと、綾波がまた抱き締めてきて、顎を掴み顔を近付ける。



「お母さんなら、こういう事はしないだろうが。え?」



「ち、ちょっ……剛さんってば!」




「ギャア――!またエセ西本がセクハラ!」
「美名を離せよ!」



二人が側で騒ぐ中、綾波は意に介さず美名にキスをしようとする。



「綾波さ――」


唇が触れそうになったその瞬間、インターホンのチャイムと共に、怒鳴り声が大音量で響いた。



『綾波――!アンタいい加減に美名ちゃんを離しなさい――!
ラブラブなのはわかるけど、可愛い子にこそ旅をさせるのよ!
この私をいつまで待たせる気!?
言うこと聞かないと、アンタのお尻にぶっとい野菜を突っ込むからねっ!泣いても知らないわよっ!』



般若の形相の志村が超アップで画面に見切れて映っている。


「ひいっ」


皆して、恐怖に震えた。




「……了解しました。では、美名をよろしくお願いします」



綾波は盛大に溜め息をついて、諦めた様に志村に答えた。





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