Vの秘密

花柳 都子

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現地訪問の総括

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 私と兄は2日目の取材を終え、ホテルに戻ってきた。明日は一度東京に戻り、兄は『合コン』の調査を、そして私は常連マダムの話にあった『清掃会社』を当たってみることにした。
 もちろん、現代において駆使しない手はない『インターネット』の力を借りるつもりで。
 その前に、ここX件で判明したこと、また判明しなかったことをここにまとめることとする。

 ◽️行方不明になる心霊スポット
  瀬名さんが行方不明になったと思われる場所

 ▶︎判明したこと
 ・屋敷内には何もない
 ・元の建物は普通の誰かの家?(兄の推測)
 ・村の老人曰く「近寄ってはならない場所」
 ・知っていることよりが重要
 ・もともとは『恋愛成就のパワースポット』
  少なくとも15年以上前から今に至るまで
 ・訪れる際のルール
  話してはいけない
  一部屋ずつ全室回りきれたら願いが叶う
  一人で行かなければならない(?)
 ・情報源は口コミと裏サイト
 ・裏サイトの投稿者はある女子高生
  ただし正体はわからず

 ▶︎判明しなかったこと
 ・瀬名さんの行方
  大学生グループの目撃者おらず
 ・瀬名さんたちの目的
  恋愛成就? 合コンとの繋がりは?
 ・裏サイト投稿者の女子高生の行方
 ・ゴミの行方(兄がゴミの音を聞いた)
 ・心霊スポットと呼ばれるきっかけは何か
 ・合コンとの関連性
  夜中に男女が騒いでいるとの目撃談あり
  瀬名さんたちの他にもいる?

 ◽️必ず『ゴミ屋敷』になる心霊スポット

 ▶︎判明したこと
 ・監視カメラが設置されている
 ・臭いはしない
 ・定期的に清掃の依頼がある

 ▶︎判明しなかったこと
 ・清掃依頼するヴェールの女の正体
 ・昔住んでいた人の詳細
 ・監視する人の目的と正体(村の人か?)
 ・ゴミがどこから来るのか
 ・どうやってゴミを運び込んでいるのか
 ・実際に清掃した人間はいるのか

 ◽️『開かずの自動ドア』

 ▶︎判明したこと
 ・店長も知らない何かが関係している
 ・今後、別の店もしくは別の場所を検討している
 ・蹴られて破損することも
  入れないのは自動ドアの故障ではない

 ▶︎判明しなかったこと
 ・ドアが開かない理由/開く理由
 ・買い物客の奇行や病気?のきっかけ、条件

 最後の『開かずの自動ドア』に関しては、旧家の次男と町に住む主婦の話から、旧家の人が何か知っている可能性があると見て、今のところ彼からの連絡待ちである。数日経っても何もなければ、こちらから様子見のメッセージを入れるつもりだった。
 それよりも気になるのは、なぜこの辺り──特に村ではなく少し離れた市内──では当初『恋愛成就のパワースポット』だったところが、『行方不明になる心霊スポット』と言われるようになったのか。そして、その時期である。
 瀬名さん行方不明事件を考える際、それをやオカルトの仕業とするには、もともと噂されている『恋愛成就のパワースポット』とは明らかに符合しなくなる。
 現地では多くの人に取材を試み、年代もバラバラになるよう高校生から中高年まで満遍なく選んだはずである。
 その上で時期を推測するならやはり、現時点で30代以上と少なくとも10代とでは認識が異なると見られる。あとは個人の生活環境によるもので、興味のない人は何も知らないということもあるらしかった。
「ここ20年くらいで何か変わったことあったっけ?」
 おそらくよくよく考えればたくさんあるだろう。けれど、私にはすぐには思いつかなかったので、何気なく兄に訊ねてみた。
「そりゃネットの普及だろう」
 即答だった。私はハッとする。
 ──確かに私が10代の頃は、SNSの走りはあったが、浸透していたかと言われると個人の裁量によるところが大きかったように思う。スマホは当然出始めたばかりだし、今では一家に一台は珍しくないPCだって持っていない家庭のほうが圧倒的に多かっただろう。
 そして、口コミから裏サイト(ネット)に噂のフィールドを移したのは、当然今の10代~20代にかけてと思われる。少なくとも30代の人たちは学生時代ではなく、ネットの情報であの場所の噂を確認している。
 さらに、その噂の内容も『恋愛成就のパワースポット』から『行方不明になる心霊スポット』へと徐々に変遷したと思われる。
 それはおそらく、女子高生たちが話してくれた『裏サイトの投稿者が行方不明になった』という噂である。投稿者に限らず、その裏サイトで詳細は語られなかったことから、訪問者たちがあくまでも次々と行方不明になったという表現が、いつの間にか現実世界のことのように語られていったとは考えられないだろうか。
 取材中に「あの場所に近づくな、という方便のために『心霊スポット』という言い方をしたのではないか」と答えた人がいたので、それと奇妙に符合してしまったのかもしれなかった。
「兄さん、他に気になったことは?」
「男性は娘さんたちがあの場所に行くことに反対していること、かな。逆に娘さん自身を含めお母さんたちは寛容だった」
「でも、お父さんたちも自分が知らないところでその約束が破られていることは察しているみたいだったよ」
「それだよ。つまり、そこまで強くんだ。それがによるものなのかによるものなのかわからないけど」
 兄が言いたいのはこういうことらしい。
 父親たちは、あの場所に行く/近づくことを推奨していない。
 しかし、その目的そのものがわからず、おそらく昔から自分が言われてきたことを後世にもそのまま伝えているに過ぎない。だから娘との関係性──父親の存在は無視されがち──もあって、止めるほどの執着がない。
 市内の住民から聞いた話なので、村から離れていることが主な原因なのかもしれないが、仮にそれが父親世代ですらということなら、昔からの村のしきたりや掟を実際にはということだって十分考えられる。
 また、母親たちが比較的寛容なのはおそらく、村以前にこの町や市との関わりも薄いから。「外から嫁に来た人も多い」という証言もあったくらいだ。
だから、昔から言われてきたことに真剣に向き合っていないんだろう。年代を考えれば無理もないけどね。俺はともかくお前だって、迷信や都市伝説くらいにしか思ってないだろ? 古くからある土地には、わりとそういう伝承が多く残ってて、案外暮らしの知恵──もっと言えば、その土地で生き残っていくための処世術──が隠れていることだって珍しくない。その男性たちが言う『近づいてはならない』は、理由があるはずだよ。それがわかれば、『合コン』を探る以上に瀬名さんたちが行方不明になった事情に近づけるかもしれない」
 とはいえ、行方不明スポットで出会ったご老人や『ゴミ屋敷』取材の際の村の人たちの態度を考えると、彼らに直接協力を仰ぐことは不可能だろう。
 かといって市内の人ではこれ以上の情報を得るのは難しい。村人のように口が堅いというより、そもそもから。
「そういえば、『知らないことのほうが重要』ってどういう意味?」
 確か兄が行方不明スポットで、ご老人の真意に言及した言葉だ。
「俺たちがあそこを『心霊スポット』だと認識していることより、『なぜ心霊スポットなのか知らなさそう』だったことが、あの人にとって──いや俺たちにとって救いだったのかもしれない、と思ってね」
 その言葉の真意は私にはよくわからなかった。
 しかし、兄は真っ直ぐ前を見据えていて、彼の中にはある種の確信のようなものがあるのだと、私はそう感じた。

 1回目の現地訪問で瀬名さんの行方を探すことは難しかった。瀬名さんどころか大学生のグループなんて目立つだろうに、ろくに目撃者もいないとは──。
 例えば、あの例の行方不明スポットに──目的はどうあれ──行くのであれば、東京からでは日帰りの予定は絶対に無理だ。つまり、どこかにホテルをとるなりレンタカーの返却なりをしなければならない。
 車で移動するなら、何もない村や町ではなく、市内まで出るのが定石だろう。村ほど見慣れない車に敏感だとは考えにくいが、食事だってするだろうから、レンタカーに乗った都会の大学生を誰も見ていないというのは不自然である。
 ただし、市内の住民に限っては特に嘘をついているような素振りはなかった。おそらく本当に知らないのだと思う。
 では、瀬名さんたちは市内にまで出なかったということだろうか。
「最大限ポジティブに考えるとすれば、と見せかけて、別にそんなつもりもなく、ただどこかにとかね」
 冗談っぽくそう言った兄──男女でしけこむという表現が年代を表している──はしかし、唇の端を曲げ、目はこれっぽっちも笑ってはいなかった。
 私も当然それを笑い飛ばす気分にはなれない。
 瀬名さんと連絡が途絶えてから約3ヶ月。
 私たちは今後の方針を立て、引き続き『合コン』の調査と、ここで得た手がかりをもとに『ゴミ屋敷』に関わる情報収集を目指すこととした。
 私たちが辿り着くまで、瀬名さんが無事でいることを願うのみだ。
 新幹線の駅前でレンタカーを返却し、ホームで新幹線を待っている時、私は不意に視線を感じた。
 その危機感はぞくぞくと足元から這い上がって来て、私は思わず黄色い線のもっとずっと後ろ、自動販売機の辺りまで下がった。
 売店に寄ってからホームへとやって来た兄が私の姿を探し、「どうした?」と心配そうに訊ねたが、視線はずっと私たちから離れなかったので、私はただ首を横に振るだけだった。
 







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