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謎解きツアーの先駆け
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さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。昔、もうどれくらい経つかわかりませんが、テレビで謎解きツアーなるものを放送していたことがあったんです。おそらく皆さんが思っている謎解きツアーとは少し違って、推理作家の先生が作った謎パートのシナリオを再現VTRのように女優さん俳優さんが演じて、それを見ていたスタジオのタレントさんたちが謎を解く、というゲーム感覚の番組だったんですね。その企画の面白いところは、スタジオから離れられないタレントさんたちに代わって、謎解きパートで登場する警察官や探偵助手に扮した芸人さんたちが、再現VTRの世界を動き回って現場検証をしたり、出演していた役者さんに事情聴取をしたりと、当時のテレビ番組では他にない唯一無二なアイデアだなと思ったものです。さすがに生放送ではなかったと思いますが、スタジオと再現VTRに登場する、いわゆる犯行現場の世界は繋がっていて、警察官や探偵助手に扮した芸人さんたちを通して、会話することができるんですね。スタジオのタレントさんたちからの質問をぶつけられた役者さんたちの役になりきった咄嗟の答えもさることながら、彼らをサポートする役目でもある芸人さんたちが、「ここに血がありますよ」とか「こういうこと聞いておいたほうがいいですよね」とか、表から裏から現場とスタジオとの仲介役として持ち前のアドリブ力を発揮されていたのも印象的でした。シナリオを書いた作家さんも特別ゲストとしてスタジオに招かれ、時折ヒントを出す場面もありました。番組を盛り上げるために、それぞれがそれぞれの役割を果たし、私のような視聴者のニーズを掴んだとても質の高い番組だったと思うのですが、あの番組を覚えている人が今どれだけいるのでしょう。最近は番組制作のコストなどにもシビアな時代ですが、低予算とは言えなくとも、それほど高コストでなくとも実現できそうな番組だったので、ぜひまた放送して欲しいですね。実際は予算面だけが問題なのではなく、実現は難しいのかもしれません。その作家さんも数年前に亡くなったというニュースを拝見して、この番組のことがありましたから、なんだかとてつもない喪失感を感じたことを覚えています。ご冥福をお祈りするとともに、あぁもうこの番組は永遠に見られないんだなと。
放送時期はかなり前ですが、これはいわば『謎解きツアーの先駆け』とも言える内容で、自分自身がその場にいなくても、まるで本当の探偵のように事件を追っていく、そんな展開に心が躍ったものです。今では脱出ゲームやそれこそ謎解きツアー、旅行会社が提供するミステリーツアーなんかもありますね。テレビが最先端だった当時に比べ、オンラインやリアルな場でも同様のコンテンツが溢れている今日この頃、もうそんな願望は叶わないのかもしれません。むしろお話をいただけるのなら、誠心誠意この私、深見小夜子がシナリオを担当致します、なんていうのは烏滸がましいでしょうか。
それはともかくとして、私が昔からミステリに惹かれるのは何故か、考えてみたことがあります。答えは至極簡単で、物語とはイコール謎だからです。もう少し具体的に表現すると、謎がないと物語が成り立たないからです。全ての物語は謎の提示から始まります。どんなミステリでも、恋愛小説でも、時代劇でも、青春映画でも、なんでもそうだと思うのです。だって皆さん、物語が始まった段階で一番最初に思うことは何ですか? 総じて「このあと一体どうなるんだろう?」ではありませんか? 誰と誰が恋して、誰が挫折してどうやって立ち直って、誰が犯人で動機は何か、ほらね、どんなジャンルでも謎がなければ物語は始まらないし成り立ちません。その中でも私たち受け手が想像を逞しくして勝手に手に入れた謎ではなく、謎そのものを謎として解明していくミステリはやっぱり心惹かれるものがあるのです。私自身の負けず嫌いな性格が作用しているのも多少はあるかもしれません。恋も友情も、実のところすっきり解明できる類のものではありません。人間の心なんてその時々でころころと変わるものですし、人によって『主観』は違うのですから、私があなたを解明できなくて当然なのです。結局は想像することしかできませんし、答えは永遠に見つかりません。何度も言うように、私はあなたではないからです。けれど、謎が謎なら話は別です。必ず解明できるのがミステリなのです。確かに動機という面では人の心の問題ですから完全解明は難しいでしょう。けれど、5W1HのWHY以外の部分は論理で解明できるものばかりです。だからこそ、挑戦のしがいもあるし、挑戦のされがいもあるのです。
私はホラーも好きですが、ホラーとミステリの決定的な違いは、『その謎を解明できるか否か』です。ホラーというのは犯人の正体や、犯行の方法に必ず、人間では解明しきれない何かが含まれているのです。幽霊は幽霊というだけで謎の生命体(?)ですし、その幽霊の仕業による犯行なら当然『念』などという人間には持ち得ない力が関係していることがあります。だからこそ、ホラーはホラーで解明できない謎を楽しむ物語でもあるのですが。怖いとか恐ろしいとか以上に、そういうメタ的な捉え方をしてしまうところが、私が冷めているというか、人の感情に特化した物語に向かない理由なのでしょうね。かといって、どんな物語にも恋愛や友情、金や権力などなど、普段から私たちの身近にある要素が多く散りばめられていますよね。そうすることで、物語に重厚感が出て、よりその世界に引きこまれていくのです。『物語』の核が『謎』だとしたら、その『核』を覆う幕が、人間関係であり、金であり、その物語の世界観そのものなのでしょう。世界の中に謎は間違いなく存在していて、でも誰も意識しないし、見向きもしない。けれど、ふとした瞬間、謎が目の前に口を開けて待っていて、私たちは唐突にそこに吸い込まれてしまうのです。物語の渦中で、私たちが思うこと感じることの全ては、謎に磁石のようにくっついて、時に謎そのものを見えにくくしたり、時に謎以外のものを全て排除してすっきり晴れ渡るように見通せたりするのです。
そろそろお別れの時間です。物語の世界を楽しむということは、物語に対して皆さんなりの向き合い方を見つけることと同義だと思います。それが肯定的でも否定的でも、あなたはあなたの謎と向き合ってみてください。それが同時にあなたの『世界観』なのです。ぜひ目を逸らさず、目を背けず、あなたなりの解釈で謎と見つめ合ってくださいね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。
放送時期はかなり前ですが、これはいわば『謎解きツアーの先駆け』とも言える内容で、自分自身がその場にいなくても、まるで本当の探偵のように事件を追っていく、そんな展開に心が躍ったものです。今では脱出ゲームやそれこそ謎解きツアー、旅行会社が提供するミステリーツアーなんかもありますね。テレビが最先端だった当時に比べ、オンラインやリアルな場でも同様のコンテンツが溢れている今日この頃、もうそんな願望は叶わないのかもしれません。むしろお話をいただけるのなら、誠心誠意この私、深見小夜子がシナリオを担当致します、なんていうのは烏滸がましいでしょうか。
それはともかくとして、私が昔からミステリに惹かれるのは何故か、考えてみたことがあります。答えは至極簡単で、物語とはイコール謎だからです。もう少し具体的に表現すると、謎がないと物語が成り立たないからです。全ての物語は謎の提示から始まります。どんなミステリでも、恋愛小説でも、時代劇でも、青春映画でも、なんでもそうだと思うのです。だって皆さん、物語が始まった段階で一番最初に思うことは何ですか? 総じて「このあと一体どうなるんだろう?」ではありませんか? 誰と誰が恋して、誰が挫折してどうやって立ち直って、誰が犯人で動機は何か、ほらね、どんなジャンルでも謎がなければ物語は始まらないし成り立ちません。その中でも私たち受け手が想像を逞しくして勝手に手に入れた謎ではなく、謎そのものを謎として解明していくミステリはやっぱり心惹かれるものがあるのです。私自身の負けず嫌いな性格が作用しているのも多少はあるかもしれません。恋も友情も、実のところすっきり解明できる類のものではありません。人間の心なんてその時々でころころと変わるものですし、人によって『主観』は違うのですから、私があなたを解明できなくて当然なのです。結局は想像することしかできませんし、答えは永遠に見つかりません。何度も言うように、私はあなたではないからです。けれど、謎が謎なら話は別です。必ず解明できるのがミステリなのです。確かに動機という面では人の心の問題ですから完全解明は難しいでしょう。けれど、5W1HのWHY以外の部分は論理で解明できるものばかりです。だからこそ、挑戦のしがいもあるし、挑戦のされがいもあるのです。
私はホラーも好きですが、ホラーとミステリの決定的な違いは、『その謎を解明できるか否か』です。ホラーというのは犯人の正体や、犯行の方法に必ず、人間では解明しきれない何かが含まれているのです。幽霊は幽霊というだけで謎の生命体(?)ですし、その幽霊の仕業による犯行なら当然『念』などという人間には持ち得ない力が関係していることがあります。だからこそ、ホラーはホラーで解明できない謎を楽しむ物語でもあるのですが。怖いとか恐ろしいとか以上に、そういうメタ的な捉え方をしてしまうところが、私が冷めているというか、人の感情に特化した物語に向かない理由なのでしょうね。かといって、どんな物語にも恋愛や友情、金や権力などなど、普段から私たちの身近にある要素が多く散りばめられていますよね。そうすることで、物語に重厚感が出て、よりその世界に引きこまれていくのです。『物語』の核が『謎』だとしたら、その『核』を覆う幕が、人間関係であり、金であり、その物語の世界観そのものなのでしょう。世界の中に謎は間違いなく存在していて、でも誰も意識しないし、見向きもしない。けれど、ふとした瞬間、謎が目の前に口を開けて待っていて、私たちは唐突にそこに吸い込まれてしまうのです。物語の渦中で、私たちが思うこと感じることの全ては、謎に磁石のようにくっついて、時に謎そのものを見えにくくしたり、時に謎以外のものを全て排除してすっきり晴れ渡るように見通せたりするのです。
そろそろお別れの時間です。物語の世界を楽しむということは、物語に対して皆さんなりの向き合い方を見つけることと同義だと思います。それが肯定的でも否定的でも、あなたはあなたの謎と向き合ってみてください。それが同時にあなたの『世界観』なのです。ぜひ目を逸らさず、目を背けず、あなたなりの解釈で謎と見つめ合ってくださいね。また来週お会いしましょう。深見小夜子でした。
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