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17 約束1
しおりを挟むそんなこんなでふて寝を決め込んだリスベスだったが、昼間に言われたコードとの約束を思い出せず、ベットの上で枕を叩いて寝返りを打ち続けていた。
教授のプロポーズに関しては、彼の人の話の聞かなさは慣れているので、父親の誤解を解いておけば問題ない。ミュクラがさっきのやり取りを報告してくれているだろう。
しかしコードとの約束に関しては全くの手がかりがなく「小さかった」と言われたことで、魔力が不安定で領地にいた頃出会っていたのだと想像できるのだが……。
思い出せないのだ。
仕方なく起きてホットミルクでも作ろうと厨房に下りてみると、ミュクラがレンジに向かってこちらに背を向けていた。
作業台には、ミュクラ特製リンデンフラワーの蜂蜜漬けの瓶がありタイミング良くホットミルクを作っているようだ。これはご相伴に預かるしかない。
「ミュクラ~」
「お嬢様、やっぱり眠れなかったのですね」
「そうなの。私にもホットミルク分けてくれない?」
「喜んで。こちらでお召し上がりになりますか?」
「ええ」
厨房脇のスツールにミュクラと並んで腰かけリンデンフラワーと蜂蜜の甘い香りを楽しむ。
「こうしてミュクラと並んでリンデンフラワーのホットミルクを飲むのも久しぶりね。領地に一人で居た頃は、毎晩のように飲んでいたのに」
「お嬢様には散々これがないと寝ない! と駄々を捏ねられましたからね」
「だってすごーく美味しかったのよ。これ。今でも美味しいけれど」
「ありがとうございます」
当時リスベスは魔力暴走を恐れた家族と離れ一人、ミュクラと数人の使用人と領地内の小さい湖畔に建つ別荘に住んでいた。
家族と離れ一人で眠るのが寂しくて仕方なかった幼いリスベスはミュクラにわがままを言ってベットの上で毎晩ホットミルクを飲んでから眠っていた。
「ホント、懐かしいわね……あの頃は我儘ばかりでごめんなさいね」
「お嬢様の我儘など可愛いものですよ。そういえば、あの頃近くにあったリストライネン公爵家の別邸にいた使用人の子供と仲良くなってから、あまり我儘を言わなくなりましたねぇ。使用人皆で残念がっていたんですよ?」
「えっ?」
「覚えていらっしゃいませんか? 名前は失念しましたが、黒髪に青い目の男の子です。魔力が多い子だったのでお嬢様が湖で魔力暴走を起こしたときに助けてくれたんですよ?」
「覚えてないわ……薄情ね。私……」
「その子は途中で母親が亡くなって、どこかへ引き取られて行ったのは記憶しております。そのあとお嬢様は何かあったのか大人しくお勉強に向かうようになって……」
「ああっ! 指輪っ!」
「……お嬢様? 深夜ですので……大きな声は……」
「ごめんなさい。ご馳走様ミュクラ。もう寝るわ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
リスベスは静かに自室に戻ると衣裳部屋に入り、子供の頃の衣装などをしまった衣装箱を開く。
(確かこの間に……隠したような……あった!)
それは赤いベルベットを張った小さな宝石箱だった。
◇◆◇◆
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