転生悪役令嬢は悪魔王子をスルーしてカフェオーナーになりたい

和気 藹

文字の大きさ
6 / 43
プロローグ

5 賽は投げられた 後

しおりを挟む


 ノート兄様の隣に座っていた私は席を立ち皆と同じ目の高さに来るようにします。本当は十から十五センチ見下ろすのが良いのですが、仕方ありません。

「今日のカプチーノとビスコッティを作ったのは私です」
「「えーっ!」」どよめきまで起こります。酷い。

「昨年、私とお兄様で領地見学に行った際に思ったのは、領地で生産されるほとんどの農作物は王都に送られ、領都では市場で細々と売られる程度で消費される事はほとんどありません。折角の領都なのに物流拠点としてしか利用されないのは寂しいと思ったのです。また他からやってきた人は、折角領民が努力して生産するものを知らずに素通りしてしまう。それはとても勿体ないと思うのです」

(お嬢様……そんなにまで私たちの事を……)
 領地から来た三人は何故かうるうるしています。私、何かした?

「カフェはコーヒーを楽しむビスコッティやヒッコリーの実入りのクッキーや領地産の果実を使ったタルト等のデザートや軽食を出す店舗にしたいと思います。先程のノート兄様のヒッコリーの実が描かれたページから後ろをご覧ください。我がフェルセンダール領で生産される農産物を表にした物です」

 小麦、大麦、ソバ、ジャガイモ、小豆、苺、さくらんぼ、みかん、茸。名前は違うけれど、前世でおなじみの食材はそろっている。もちろん、こちら特有のものも。それに生産は少ないけれどワインだって生産している。海のない我が領は海産物がないのが残念ですがね……。

「こうして一覧で見ると我がフェルセンダール領はとても豊かなのが解ると思います。これらを利用した新しい料理をカフェで出せば良い宣伝になると思うのです。そしてその料理開発を私に任せていただいて、コーヒーとヒッコリーの実が量産できるまで、領地を直で見て味を知り新しい料理を提供できるように準備したいのです!」

「おおー! お嬢様自ら!」
「それは良い旗印になる!」

 私が説明を始めてから一言も発しなかったお父様が、ようやく口を開きました。
「ダメだ。お前は第一王子殿下の后がねだ。領地内とはいえ外に出すわけにはいかない」

 やっぱり、言われたか……。でも負けるわけにはいきません!
 最後はあれだ、泣き落とし。でもそれは最後まで取っておきたいのです。前世からの小さなプライド。涙を売りにするのは知力を尽くしてから。幸い涙を使わずのし上がってきたのだから。負けません!

「私は新しい料理素材を発見して領地を豊かにしたいだけです」
「ダメだ。料理ならここでもできる」
「私は、婚約者候補だったのでは? まだ候補は全て決定したわけではないのですよね?」
「そうだ。しかし侯爵家としては他家に差をつけるために早々にお后教育を始めたい。そう、資金も出す。ノルベルトに全権を任せよう」

 やっぱり私の事は政略結婚の道具としてしか見ていないのですね……。薄々感じていましたが、直に態度で示されると寂しいですね。まぁそういうつもりでしたら心置きなく地盤固めて出奔するのみです。

「お父様。それは短慮です」
「なっ」
「お后教育など、他の候補者も受けてきます。それより領政に関わり政治を学び、領民と関わり国民の立場を理解し、王の立場からの目を持つ者になった方が差を付けられると思いませんか?」
「…………」
「お父様、今回のアイディアは全てアンネが考えました。私は協力しただけです。それに私には魔術学校があるのでそう簡単に彼らの面倒は見れません」
 黙ってしまったお父様にノート兄様がいきなりネタ晴らし! 早くないですか?!
「なっ! なんだと!」
 うろたえるお父様をよそに領地の財務担当者が突然立ち上がり、私の肩に手を置き跪きます。
「お嬢様がこの財務書類を作ったのですか!」
「は、はいっ!」おわー、びっくりした。
「お嬢様、この財務書類は今までの財務を根本的に変え、税徴収さえも能率的に行えます。これは私達だけでなく、すべての商人に教え広めるべきです。ぜひ私に、私達にご教授を!」
 そうですよね-今まで単式簿記でしたからねー。複式簿記見たらびっくりしますよねー。
「で、でも……」ちらっとお父様を見ると苦虫を噛み潰したような顔をしてこちらをにらんでいます。ふん、もう怖くないですよ! でも一応怯えたフリはしておかないとですね。
「お館様! お嬢様は天才です! ぜひ、私達領民の為にお嬢様のお力をお貸し頂きたく存じます!」
「私も! お嬢様の領民を思う気持ちに心を打たれました。お嬢様の計画にぜひ協力をさせて頂きたく!」
「私もです!」


 しばらく黙っていたお父様が大きな深ーい溜息をつくと折れてくれました。

「解った。マリアンネに任せよう。資金は計画書通り出してやろう。しかし、ノルベルトと共同で行う事。カフェの料理開発の材料集めは他の者に任せる事。マリアンネが領都から出ることは許さない。そして、この事業に期限を設ける。七年だ。マリアンネが成人する前までに成果を出せ」

「ありがとうございます! お父様! 大好き!」
 感動したのでサービスに大好き付けました。でも抱きついたりしません。抱きつくのはノート兄様のみ。
「ノート兄様! やりました! ノート兄様のおかげです。私、頑張ります!」
「おめでとうアンネ。僕も嬉しいよ!」
「ノート兄様大好き!」


 さて、夢の第一歩! 行きますよ!



◇◆◇◆◇◆


 よく聞くけどよくわからないビジネス用語

 単式簿記;資金の収支のみを帳簿に付ける記帳方法。簿記の知識がなくとも行える。
 複式簿記;全ての取引を原因と結果に分けて帳簿に付ける記帳方法。現在、全世界の会計はこの方式で行われている。
(今回は簿記の歴史であんまり世間には知られていない言葉でした)

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...