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領都フルネンディク
6 領都フルネンディクへ!
しおりを挟む出発の朝、自室を出ると、階下がなんだか変にバタバタしています。階段から玄関を覗き込むとノート兄様の隣に何故かアルカイックスマイルを浮かべたアルフォンス殿下がいました。
今日この日にやってくるなんて婚約者候補だと宣伝しに来たようなものではないですか。悪魔だ。やっぱり悪魔だ。
大方お父様が王宮で娘自慢とかして日程をバラしたんでしょう。道理で挨拶もそこそこに早朝から出かけたはずだ。おのれタヌキ。禿げろタヌキ。燃えろタヌキ。
頭の中でお父様に枯れ枝を背負わせて火をつけていると、おろおろしているノート兄様が目に入ります。おろおろしているノート兄様かわいいです。和み。
和みつつノート兄様の隣に立ち略式のカーテシーをして頭を下げます。
「おはよう、マリアンネ嬢」
「……アルフォンス殿下に置かれましてはご機嫌麗しくこのような所にお越しいただきまして恐悦至極に存じます」
「そんなに畏まらなくても、婚約者を見送りに来ただけなのに」
「……恐れながら、私程度の者が殿下のご婚約者を自称するなんて恐れ多く」
「謙遜は美徳だよね。王妃教育の為に領地に赴き領地経営を学ぶと侯爵が自慢していたよ」
やっぱりか! タヌキめ。後で燃やす。
「……恐れながら”走為上”という古い言葉がありまして、そちらに習いたいと」
「?」
答えは教えませんよ。兵法三十六計など存在するはずありませんし。ついでに電波な子でも演じて”苦肉計”を弄しておきましょうか。
「そう言えば、隣国の第一王女のアンジェリク・ル・ジラルデ王女は王族らしくない天真爛漫な美しい姫らしいですわ」
「?」
「両陛下の愛情を受け、他人の言動を変に穿った見方をしない優しい方で、弟君の第一王子様も将来有望な方らしいですわ」
「それが何?」
「実を言うと最近殿下とアンジェリク姫がご成婚される夢を見まして、一国民として正夢になりそうでとても楽しみにしておりますの」
「まさか、あそこは中立国で、政略で第一王女を差し出す事はないと思うけど?」
「いいえ、お二方とも想い合っていて、とてもお幸せそうでしたよ。物語のようでこちらが羨ましくなるくらい」わざと殿下の右後方を見てうっとりと微笑んでみせます。
殿下ルートの結婚式スチルは二人ともホント幸せそうでした。ぜひ、そうなって欲しいですね。ちなみにゲームプレイ中の私は、娘の結婚式を見る母の気分でした。
「……じゃあ、候補が四人になったようだね」
「えっ、もう決まったのですか?」
「うん。王妃と妻、両方になりたい公爵令嬢と女騎士になりたい侯爵令嬢と平民になりたいマリアンネ嬢。面白そうな子ばかりだよね」
王妃になりたいか奥さんになりたいか、の質問の答えか。無難に奥さんって言っておけば良かったなぁ……後の祭りですが。
「その公爵令嬢で良いのではないでしょうか? 本人も熱烈に希望されているようですし」
「それでは普通でしょ? 僕は楽しませてくれる方が良いから」
そしてあのアルカイック・スマイルを浮かべる殿下。だから怖いってば!
「マリアンネ嬢にはとても期待しているよ。あの時も今もモノを考えてから口を開くのも僕の笑顔を見て怯えたのも、君だけだから。何か面白いことしてね? 楽しみにしているよ?」
「……善処致します」
よく観察していらっしゃる。間者でも付けられるのでしょうか? やっぱり悪魔ですね。でもその本質を見抜く観察力は評価できます。一緒に仕事すると楽しいかもしれません。
馬車でひと月かかる領都に向かう馬車の中、蛇蝎のように嫌っていた殿下の事をちょっと見直した朝でした。でもノート兄様の方がいいな。うん。
ヒロインの名が出たところですっかり忘れていた、この世界によく似た携帯ゲームは、こんな感じでした。
『軍事国家マシアス王国が、突如、山脈を挟んだル・ジラルデ王国に侵攻を開始する。
貴方はヒロインの第一王女のアンジェリク・ル・ジラルデ姫となって、ステンベルヘン国に同盟条約締結のお願いとマシアス王国との停戦・講和条約の後見の依頼をしに僅かなお供を連れ単身乗り込みます。故国の為に頑張る姫はステンベルヘン国の(腹黒)第一王子や微笑みの(シスコン)筆頭魔術師、マシアス王国の(俺様)第一王子と従兄弟の(ヤンデレ)公爵のいずれかと永遠の恋に落ちる。
彼らの信頼と愛情を勝ち取るためにミニゲームをクリアして華麗なスチルと豪華声優陣のスペシャルボイスを集めよう!』
……こんな感じだったと……結構、Enterテイメント(Enter連打)な読みゲーでしたね。でも好きな絵師さんと声優さんが多数出ていたのと、苦手なガチャ引いてヒロインの着せ替えをしないと話が進まないタイプのゲームでなかったので暇があるとポチポチやってました。ちなみにシスコン筆頭魔術師がノート兄様です! そして当て馬の私は殿下の婚約者でノート兄様の妹。どうあがいても当て馬です。だから勝手にやってて欲しいのですよ。私は傍観していますから。
◇◆◇◆◇◆
よく聞くけどよくわからないビジネス用語
走為上;そういじょうと読む。三十六計逃げるに如かずの語源。走ぐるを上と為す。アンネは解らないようにわざと漢文で回答しています。
苦肉計;自ら自分を傷つける又は品位を落とす事をするのは故意ではなく過失であると思う心理を利用して人を欺くこと。ビジネスでは苦し紛れに策を弄するという意味になっているが、本来の意味ではない。
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