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領都フルネンディク

26 ババンがバンバンバン

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 歯磨けよ!

 と言われて思い出す、温泉やフィットネスクラブ等の公共の場で歯を磨くのは勘弁して欲しかったマリアンネです。歯医者さんで推奨しているらしいのですが……自宅でするのは理解できるけどねぇ……。

 さて、ここはファジャ地方上空です。ファフニールの背に乗り、同じくトゥーナの背に乗ったノート兄様とエシュロン隊形で飛んでいます。体感高度は国際旅客機の飛行高度三万三千フィート(一万メートル)です。 これでエアポケットとかあったら死ねる。
 ドラゴンさん達は、凄い速いからすぐ着くよと説明してくださいましたが私は実を言うと高いところが怖いのでガクブルだったりします。
「ふぉぉぉぉぉぉ~たーかーいーふぉぉぉぉぉぉ~はーやーいー」
「ウルサイよアンネ」念話でファフニールが話しかけて来ますが、会話などできるはずもなく。
 ファフニールの魔法なのか、高速で飛んでいても風圧はないし普通に呼吸できるんですが、前から後方へ飛んでいく雲を見るだけで眩暈が。そして鞍のようなものがあるので、下半身は固定されているのですが、上半身はフリー。プリーズRECAROのフルバケットと五点ベルト。視覚情報と恐怖心で頭が処理しきれないんですよぉぉ。

「ああぁいっそ気絶したい……でもそれも怖い……」
「アンネ、アンネ、もうすぐ着くってノルベルトが言ってるって」
「うーー がんばるぅ……」
 まさかこんな所で前世の弱点が出るとは……。ぶっつけ本番でなく、ちゃんと練習しておけば良かった。

 領都から出ちゃいけないはずなのに、なんでファジャ地方に向かっているかって? それはノート兄様とチョレイ嬢のおかげです。
 ノート兄様が「お父様が方々で自慢するから、チョレイ嬢にアポなしで責められて、アンネはショックで寝込んでしまった!どうしてくれるんだ!」と抗議してくれて、温泉に逗留する許可をもぎ取ってくれたのです。
 流石ノート兄様、天才です!



 そんなこんなで、なんとか着きました! ファルジャ地方の温泉街。私達はやっぱり領主館に滞在します。領主館は領都の屋敷より規模が小さく、使用人も管理人夫婦二人だけです。領主館は専用の温泉を引いているのですが、やっぱり行きたいよね、大きなお風呂。
 管理人夫婦に簡単に挨拶した後、馬車に乗って二人と二匹で温泉へ!
 あ、目的の重曹泉と予想される冷泉は山一つ隔てたところにあるらしいので、今日は温泉三昧行きますよ。



 ギリシャ風の漆喰と見事な彫刻に彩られた温泉施設は背中合わせに右が庶民用左が貴族用に入り口が分かれています。イタリアのテルメって感じですね。開放的で大きな室外露天風呂と貴族用スパがあり、もちろん水着着用です。男性は海パン、女性はマキシ丈のムームーのような鮮やかな色柄のワンピースを着ます。

 玄関ホールにテルメ特有のトレビの泉を模したような飲泉場がありここまでは無料で入れます。泉質はあまり詳しくないので判りませんが硫黄の色(黄味がかかった白)で硫化水素のニオイ(卵の腐ったニオイ)が少ししますが気にならない程度なので硫黄泉だと思います。

 普通は入口でデポジット式の料金を払いますが、領主一族である私達は顔パスです。セレブですね。そして支配人にご挨拶。案内されたのは、貴族用の方でした。
 残念、プールで何十年ぶりにヒャッハーしたかったのに。でも今日は他に貴族のお客さんがいないので、貴族用エリアは貸し切りらしいです。温泉に罪はないしヒャッハーしても文句言う人はいない。くく、天国か。

 男女に分かれ水着に着替えトゥーナと髪を結い合ってシャワーを浴びてノート兄様達と合流してまずジャグジーへ。ぬるめのお湯と振動が気持ちイイわぁ……。ふへぇぇ天国。
 ノート兄様と並んで座った両側にドラゴンの二匹も普通にお湯につかります。

 あれ? ドラゴンさんはお湯大丈夫?
 私の疑問に満ちた視線に気づいたのか、ファフニールがぶっきらぼうに教えてくれました。
「俺達は上級竜だからな。水にしか入れない下級と一緒にするな」
「そうなんだ~勉強になります」
「おう」
「いい機会だから、ドラゴンさんやファフニールの事、色々教えてくださいね?」
 にっこりとファフニール笑いかけるとしまった、と思ったのかそっぽを向くファフニール。うお、反抗期のダンスィーだ。からかい甲斐がありそうですね。

 調子に乗ってファフニールを追いかけまわしていたら、ノート兄様に怒られてしまいましたとさ。



◇◆◇◆◇◆
 よく聞くけどよくわからないビジネス用語

エシュロン隊形;斜線陣とも呼ぶ。戦闘機が飛行する際の編隊を進行方向に向かって斜線を描くように飛行する事。

デポジット;日本語で保証金の事。海外ホテル利用時によく利用される支払い方式。先に定額でお金を払いサービスを受けた後最後に精算する。日本でもICカード式乗車券導入などで一般的になりつつある。
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