転生悪役令嬢は悪魔王子をスルーしてカフェオーナーになりたい

和気 藹

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領都フルネンディク

25 登山は別の山に

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 翌日。

「マリアンネとやらに会わせなさい!」
 来たよ、シーラ嬢。つか先触れもなく第一声がそれ? シーラ嬢。自分より下の人間には礼儀さえ必要ないとか? シーラ嬢。とんだお馬鹿さんですね。シーラ嬢。もういいやチョレイ嬢で。あっでも今日は従者らしい男性を連れてきているわ。ちょっとは学習しているようね。

 しかし、悪魔王子はヒロイン選ばないとこんなのと結婚することになるのかぁ。大変だねぇ。私は逃げ切るからね。王宮の皆さん御后教育がんばってね。他人事って良いわぁ。深く考えなくて済むから良いわね。

 二階の手摺の隙間からノート兄様と並んでチョレイ嬢を観察している私達も傍から見ると笑いを誘える状態だとは思いますがね。

「ノルベルト様、マリアンネ様、例の方がお見えになりました」
「ありがとう、ハンス。そう言えば、あなたからのご令嬢の印象を聞いていなかったわね。どう感じましたか?」
 ハンスがどこか遠くを見た後、私に向き直って芝居がかかった様に両手を振って向き直り立膝をついてニヤッと笑います。いつもは卒のないファースト・フットマンを演じていますが、ハンスの素はこっちなのです。そして「騒々しい」とディーデリックに怒られるまでが一セット。私は嫌いじゃない、むしろこのノリは好きであります。
「良くも悪くも普通のご令嬢ですね」
「という事は、引き抜きまでされたのですか?」
「ご令嬢専属の執事にしてくださるようです」
「あら、普通ね」
「いつものようにご辞退お断りさせて頂きましたが」
「やっぱり、眉を顰めたの?」
「はい、盛大に」そう言ってこれでもかと眉間に皺を寄せて見せるハンス。
「まぁ、ハンスの良さが解らないなんて、勿体ない」
「私の出自を聞いて普通に受け入れて頂いたのはフェルセンダールの方々だけですよ」
 ハンスは元ストリートチルドレン。物心ついた時には路上にいたそうで、自分の年齢すら解らなかったそう。ハンスの黒髪はこの国で珍しいので目を引くし、子供ながら眉目秀麗なので、もしかしたら何処かの貴族の落とし胤かもしれない、とディーデリックに拾われてきたそうです。

 結局、三人並んで玄関ホールの様子を伺うと、チョレイ嬢が一番大きな応接室に通されていくのを確認して、三人で頷きあいます。

「ノート兄様、ハンス、打合せ通りに参りましょうか」
 マウンティングは別の山にしてもらいましょうかね。





 応接室にハンス、ノート兄様、私の順で入ると、上座に座り甲高い声で従者に何か指示を出していたチョレイ嬢。語尾が「~なさい!」だから何か命令しているのでしょうが、ヒステリーは嫌われますよ?
 職場が円滑に動くためには、上の人間ほど周りを見ながら冷静に指示をしなければならないというのに。
 扉付近にハンスが立つと、その斜め前にノート兄様と並んで頭を下げる。
「本日はわざわざのお越しありがとうございます。私はノルベルト・フェルセンダールと申します。こちらは妹のマリアンネでございます」
 私は未成年なので黙ってカーテシーをする。私が一番下なので名乗れないのです。
「ジュネスト公爵家の長女、ユリシーラよ。名乗りなさい」
「はい、始めまして、ユリシーラ様。マリアンネと申します」
「いいわ、かけなさい。あなた、小さいわね、幾つなの?」
「八歳になりました。失礼します」
 チョレイ嬢の向いにノート兄様、隣に私が座ります。そのタイミングでハンスがお茶を配ります。
 三人とも無言でお茶を飲んだ後、洋扇を広げ口を隠したチョレイ嬢が切り出します。
「マリアンネ嬢、子供相手だから単刀直入に言うわ、第一王子様の婚約者候補から辞退しなさい」
 やっぱりかー! 貴族の勢力関係に関わる話を個人レベルに落としても無理だと思うのですが、そこら辺を理解できてます? アナタもどう見ても十二、三歳よね?
「妹はまだ八歳ですから、扶養者である父の判断で動いております。妹の意思で婚約者候補に残っているわけではありませんが?」
 ノート兄様がいつもの微笑みと一緒に回答します。
「でも、フェルセンダール侯爵は娘は王妃教育の一環として自ら領地経営を学びに行ったと吹聴しているわよ?」
「当然、こちらに来る為の方便ですよ?」
「どうかしら? 油断させておく気ではなくて?」
 おっ何気に鋭い。でも逃げるための布石なんだよ……本当はね……。
「妹は、王妃にも殿下の后にもなりたくないと殿下に申し上げています」
「では、侯爵が嘘をついていると?」
「僕達には父の考えている事は解りかねますので」ノート兄様の笑みが深くなります。と同時に部屋の温度が少し低くなったような気がします。
 ノート兄様が怖いので取り合えず持ち上げて落とす作戦いきますか。
「あの…… ユリシーラ様、少しお伺いしてよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「王妃教育で同盟国全部の標準言語を覚えなくてはいけないというのは本当でしょうか?」
「えっ……当然よ! そんなこと」
「そうなんですか……父様からの指示で五ケ国語を勉強中なのですが、とても大変で……辛くて……」
「五ケ国語って……同盟国は三つのはずでしょ?」
「王妃になるのなら、友好国の分も必要だと……」
「そ、そうね、当然必要よ!」
「あと、カーテシーの練習が辛くて……」
「練習?」
「同じ姿勢のまま長い時間止まっていないといけなくて、頭を下げる角度と途中少しでも動くと教鞭で叩かれて……」
「まぁ二十数える位できれば良いほうじゃない?」
「百数えさせられるのですけど……そんなにしなくて良いものなんですか?」
「そ、そうね……」
「あと紅茶の銘柄と味を覚えるのが大変で……お腹いっぱいになって気持ち悪くなっちゃうんです!」
「……」
「あと貴族名鑑を全部覚えろとか、歴史や魔法言語とか魔法陣の解除方法とか……とにかくいろいろあって、勉強、勉強って辛くてもういやなんです!」
 頭を左右にぶんぶん降って顔を覆って項垂れて子供らしい癇癪を起こすようなしぐさをしてみる。普段しないので頭くらくらするわ……。
「……」
 抵抗しろと言わないところが、育ちなのか、考えてなかったのか。もう少し時間がかかると思ったんですが、攻勢に回らせていただきますよ、チョレイ嬢。
「よろしい、ならば戦争だ」くらい言いたかったな~。

 ノート兄様がゆっくりと頭をなでてくださいます。
「マリアンネ、今勉強していることは将来きっと役に立つから」
「でも、今までのお勉強の倍以上なのよ!」
「大丈夫、マリアンネならできるよ、僕も一緒にいるから」
「ぐすっ、お兄様……」
 それを合図にハンスが近寄り、私達にアドバイスを始めます。
「ノルベルト様、ちょうどよく公爵家のご令嬢がいらっしゃっておいでなのですから、お勉強を見てもらえるようにお願いしたらいかがでしょう?」
「ええっ!」目を見開くチョレイ嬢。
「そうだね、公爵家の礼儀作法はとても美しいといわれているよね! 僕からもお願いしてみようか、マリアンネもちゃんとお願いするんだよ?」
「はい、お兄様……」
 ノート兄様が立ち上がり頭を下げます。
「ユリシーラ様、お願いです、妹の勉強をみてもらえませんでしょうか? ほら、マリアンネ」
 私も立ち上がって、しぶしぶ頭を下げます。
「ユリシーラ様、お願い致します」
 そして三人で期待の目でチョレイ嬢を見つめます。
「わっ」
「わ?」三人でチョレイ嬢の言葉を反芻します。
「ワタクシ、用事を思い出したので、帰らせていただくわ!」
 そう言うと立ち上がり慌てて応接室を出ていきました。従僕が慌てて後を追いかけます。

「……普通ですね」と私。
「普通だね」とノート兄様。
「そうですね、普通だともうしあげました」とハンス。
 三人の団結力が上がった瞬間でした。



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