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温泉旅館
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「うう、金が…金がない…」
コスプレ騎士マールに病院へ連れて行かれた後、全ての状態異常は綺麗さっぱり消え去った。当然、代償として有金を毟られたため、ドロップアイテムの換金で手に入れたお金はほとんど残っていない。
「そう言うな、全財産を取られなかっただけ優しいと思うぞ。」
ちゃっかりと着いてきたマールが、慰めの言葉を投げかけてくる。
原因はコイツなのだが、悪気があっての行動ではないため責めることも出来ない。
「今からでも軽く外に……は冗談として、どうするかな。」
外に出ようという発言をした途端、隣から凄まじい視線を感じて取り繕う。
どうもこの女騎士は俺を要注意人物と認定したらしく、今日は街の外に出る事を諦めた方が良いだろう。
ちなみに、今回の治療費は全て自己負担でマールの懐は痛まなかった。
街から出られないとなれば、次善策を実行するしかない訳だが、かなり問題があるんだよな。
「そう気を落とすな、どうしても生活が苦しいようなら私も出来る限り手伝うさ。…と言っても戦う事以外はからっきしだから期待はしないで欲しい。」
やや苦笑いを浮かべつつ、協力を申し出るマール。
俺の知っているマールなら、言葉通り全力で手伝ってくれるだろう。役に立つかどうかはさておき、真面目な性格ではあるからな。
当然こんなイベントは存在しないが、現実化による影響と考えれば、変な行動をとれば不審に思うし心配するのも納得はできる。
「そうだよな、みんなここで生きているんだもんな…。」
必ずゲーム時代のイベント通りに進むとは限らないし、把握できていない現実化の影響もまだまだあるだろう。
ゲームでは、なんて考えは捨てて精一杯この【フェアリアル】の世界と向き合って──
「気分転換に名物の温泉でも行かないか?今日は奢りだ、好きなだけ入ってくれ!」
感傷に浸っていたところに、マールの言葉が鮮明に届く。
温泉、奢りだと?
「今、なんて言った?」
「気分転換に温泉に行かないか、と言ったんだが…。」
「違う、その後!」
「ああ、金銭面の心配はしなくて良いぞ。今日は奢るから好きなだけ入ってくれ。」
「本当の本当に良いのか?二言は無いな?」
「騎士に二言は無い!任せろ!」
「っし!サンキュー、マール!準備してから行くから、一時間後に旅館で集合な!」
「あ、おい。場所は分かるのか……って行ってしまったか」
マールの返事を無視して、準備の為に走り出す。
あのマールが騎士に誓ったのなら、約束を違える事はないだろう。
言葉通り、思う存分時間の許す限り『好きなだけ』入らせてもらうとしよう。
ユグドラシア唯一の宿泊施設である『若木旅館』という名前の温泉旅館は、家を貰ったプレイヤーには無関係の水増し建物、などでは当然ない。
宿泊で利用する事は出来ないが、名物の温泉に入浴することが出来るのだ。
一回入浴する度に五千ユグと、中々手痛い金額を取られるだけあって効果はHP、APの全回復とかなり凄い。
一瞬にして完全回復する方法はベッドで眠るか温泉に入るかの二択しか存在せず、ベッドで眠った場合はイベント中であろうと強制的に一日が進んでしまうため、RTA勢にとって温泉は御用達施設なのだ。
「料金だけがネックなんだけど、今日は気持ち良く利用できそうだな!」
治療してもらったとはいえ、数多の状態異常に蝕まれて一時は具合も悪かったし、ゲームでは些細過ぎて存在しなかった汗も結構流した。まさに天にも昇る心地で堪能出来るだろう。
「さて、『準備』を急ぐか。」
何せ、一時間しか猶予が無いのだから。
「お待たせ、待った?」
旅館の前で立っていたマールに手を上げて挨拶する。
手には小袋を下げているが、着替えなどが入っているのだろうか?
「ん?ああ、カイサ殿。ようやく来たか。」
「ちょっと準備に手間取ってさ、少し遅れて悪かったよ。」
「気にするな、そんなに汗が出ているのを見れば急いで来た事はわかる。」
「サンキュ、それじゃあ時間も勿体無いし行こうか。」
マールを連れて中に入ると、暖かな光が俺を出迎える。
木造建築の落ち着いた雰囲気の旅館は賑わっているにも関わらず、いつもよりゆったりと時間が流れているかのように感じる。
「いらっしゃいませー!あれ、マールちゃんだ!」
「温泉に入りに来たぞ、ユネ。紹介しよう、隣に居るのは先日この街に住み始めたカイサ殿だ。」
「見掛けない顔だと思ったら、彼が噂の人かー。私はユネ、この若木旅館の女将の娘だよ。よろしくね!」
「俺はカイサ。世話になるから、よろしくな。」
常連さん候補か~?なんて言いながらうりうりと肘を当ててくる彼女は、当然ゲームでは見知った顔だ。
小柄で小動物のような動きはユネを幼く見せるものの、実年齢はマールと同じで立派な看板娘。
発育にコンプレックスを持っているところも実に刺さる、人気キャラだ。
「今日はカイサ殿の分も私が支払うんだ。是非もてなしてやってくれ。」
「了解だよ。友達価格でのご提供となります!」
マールとユネは年齢が同じ事もあってか仲が良い設定となっている。
別に他の人と仲が悪いというわけではなく、親友的なポジションなのだ。
「それじゃあカイサさんはこちらにどうぞ!堪能していってね!」
ユネの接客スマイル付きで男湯に案内された俺は意気揚々と脱衣所の暖簾を掻き分ける。
脱衣所で装備を外して湯浴着に着替える事もできるが、俺は装備を外す時間が勿体無いから断然着の身着のまま派だ。
脱衣所をスルーして浴場へ入り、温泉へ飛び込む。
大きな音と水柱が上がった。
コスプレ騎士マールに病院へ連れて行かれた後、全ての状態異常は綺麗さっぱり消え去った。当然、代償として有金を毟られたため、ドロップアイテムの換金で手に入れたお金はほとんど残っていない。
「そう言うな、全財産を取られなかっただけ優しいと思うぞ。」
ちゃっかりと着いてきたマールが、慰めの言葉を投げかけてくる。
原因はコイツなのだが、悪気があっての行動ではないため責めることも出来ない。
「今からでも軽く外に……は冗談として、どうするかな。」
外に出ようという発言をした途端、隣から凄まじい視線を感じて取り繕う。
どうもこの女騎士は俺を要注意人物と認定したらしく、今日は街の外に出る事を諦めた方が良いだろう。
ちなみに、今回の治療費は全て自己負担でマールの懐は痛まなかった。
街から出られないとなれば、次善策を実行するしかない訳だが、かなり問題があるんだよな。
「そう気を落とすな、どうしても生活が苦しいようなら私も出来る限り手伝うさ。…と言っても戦う事以外はからっきしだから期待はしないで欲しい。」
やや苦笑いを浮かべつつ、協力を申し出るマール。
俺の知っているマールなら、言葉通り全力で手伝ってくれるだろう。役に立つかどうかはさておき、真面目な性格ではあるからな。
当然こんなイベントは存在しないが、現実化による影響と考えれば、変な行動をとれば不審に思うし心配するのも納得はできる。
「そうだよな、みんなここで生きているんだもんな…。」
必ずゲーム時代のイベント通りに進むとは限らないし、把握できていない現実化の影響もまだまだあるだろう。
ゲームでは、なんて考えは捨てて精一杯この【フェアリアル】の世界と向き合って──
「気分転換に名物の温泉でも行かないか?今日は奢りだ、好きなだけ入ってくれ!」
感傷に浸っていたところに、マールの言葉が鮮明に届く。
温泉、奢りだと?
「今、なんて言った?」
「気分転換に温泉に行かないか、と言ったんだが…。」
「違う、その後!」
「ああ、金銭面の心配はしなくて良いぞ。今日は奢るから好きなだけ入ってくれ。」
「本当の本当に良いのか?二言は無いな?」
「騎士に二言は無い!任せろ!」
「っし!サンキュー、マール!準備してから行くから、一時間後に旅館で集合な!」
「あ、おい。場所は分かるのか……って行ってしまったか」
マールの返事を無視して、準備の為に走り出す。
あのマールが騎士に誓ったのなら、約束を違える事はないだろう。
言葉通り、思う存分時間の許す限り『好きなだけ』入らせてもらうとしよう。
ユグドラシア唯一の宿泊施設である『若木旅館』という名前の温泉旅館は、家を貰ったプレイヤーには無関係の水増し建物、などでは当然ない。
宿泊で利用する事は出来ないが、名物の温泉に入浴することが出来るのだ。
一回入浴する度に五千ユグと、中々手痛い金額を取られるだけあって効果はHP、APの全回復とかなり凄い。
一瞬にして完全回復する方法はベッドで眠るか温泉に入るかの二択しか存在せず、ベッドで眠った場合はイベント中であろうと強制的に一日が進んでしまうため、RTA勢にとって温泉は御用達施設なのだ。
「料金だけがネックなんだけど、今日は気持ち良く利用できそうだな!」
治療してもらったとはいえ、数多の状態異常に蝕まれて一時は具合も悪かったし、ゲームでは些細過ぎて存在しなかった汗も結構流した。まさに天にも昇る心地で堪能出来るだろう。
「さて、『準備』を急ぐか。」
何せ、一時間しか猶予が無いのだから。
「お待たせ、待った?」
旅館の前で立っていたマールに手を上げて挨拶する。
手には小袋を下げているが、着替えなどが入っているのだろうか?
「ん?ああ、カイサ殿。ようやく来たか。」
「ちょっと準備に手間取ってさ、少し遅れて悪かったよ。」
「気にするな、そんなに汗が出ているのを見れば急いで来た事はわかる。」
「サンキュ、それじゃあ時間も勿体無いし行こうか。」
マールを連れて中に入ると、暖かな光が俺を出迎える。
木造建築の落ち着いた雰囲気の旅館は賑わっているにも関わらず、いつもよりゆったりと時間が流れているかのように感じる。
「いらっしゃいませー!あれ、マールちゃんだ!」
「温泉に入りに来たぞ、ユネ。紹介しよう、隣に居るのは先日この街に住み始めたカイサ殿だ。」
「見掛けない顔だと思ったら、彼が噂の人かー。私はユネ、この若木旅館の女将の娘だよ。よろしくね!」
「俺はカイサ。世話になるから、よろしくな。」
常連さん候補か~?なんて言いながらうりうりと肘を当ててくる彼女は、当然ゲームでは見知った顔だ。
小柄で小動物のような動きはユネを幼く見せるものの、実年齢はマールと同じで立派な看板娘。
発育にコンプレックスを持っているところも実に刺さる、人気キャラだ。
「今日はカイサ殿の分も私が支払うんだ。是非もてなしてやってくれ。」
「了解だよ。友達価格でのご提供となります!」
マールとユネは年齢が同じ事もあってか仲が良い設定となっている。
別に他の人と仲が悪いというわけではなく、親友的なポジションなのだ。
「それじゃあカイサさんはこちらにどうぞ!堪能していってね!」
ユネの接客スマイル付きで男湯に案内された俺は意気揚々と脱衣所の暖簾を掻き分ける。
脱衣所で装備を外して湯浴着に着替える事もできるが、俺は装備を外す時間が勿体無いから断然着の身着のまま派だ。
脱衣所をスルーして浴場へ入り、温泉へ飛び込む。
大きな音と水柱が上がった。
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