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温泉周回
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「どうしたの!?」
バタバタと音がして、脱衣所から浴場に向かってユネが飛び出していく。
ここは男湯だぞ、と思わなくもないが全裸で風呂に入る習慣はこの世界には存在しないため問題ないのだろう。
偶然にも俺以外に入浴中の客は居なかったようだし、俺もフル装備で入浴を済ませた。
既に誰も居ない浴場で首を傾げているユネに声をかける。
「どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「こっちのセリフだよ!大きな音がしたから来てみたんだけど…ってカイサさん、どうしてずぶ濡れなの!?」
「ん?派手に飛び込んだからなぁ~。」
俺が着ている服からは常に水が滴り落ちている。脱衣所に水溜りが出来始めているが、まあ勘弁してほしい。
「なるほど、さっきのはカイサさんが温泉に飛び込んだ音だったんだね。……え?なんで?」
ユネの声が一段低くなり、ガチトーンでドン引きしている気がするが、今は急いでいる。
構っている暇はない。
「それじゃ、またすぐ来るから!」
「え、ちょっ……え?」
困惑顔のユネを置き去りに、俺は自宅へ走り出す。
服が水を吸って走りにくいのは想定外だったが、今更着替えるのは時間が勿体無い。
自宅の扉を乱暴に開き、先ほど『準備』した物で作業を行い、すぐに旅館へ引き返す。
男湯に入ると、ユネが困惑顔を浮かべたまま掃除道具に手にしていたところだった。
「あ、カイサさん!こんなに脱衣所をこんなに水浸しにしたんだから少しは片付けを手伝ってよ!」
「悪い、また後でな。」
ユネが何か言っていた気がするが、聞いている時間が勿体無い。
横を通り抜けて浴室の入り口で大きく跳躍。
走り幅跳びの要領で僅かに放物線を描きながら温泉へダイブ。
本日二度目の水柱が上がった。
「正座。」
鬼の形相で立つユネが、モップ片手に俺を威圧する。
あの後、同じ事を何度も繰り返し、そろそろ二桁を超えたかと言ったところでストップが入った。
脱衣所を水浸しにされてブチ切れたユネと、温泉を満喫し終わりユネから事情を聞いたマールにより取り押さえられたのだ。
初期時点ではマールどころか、実はそこそこの実力者であるユネにすら遅れを取っているカイサでは太刀打ち出来ず、無事に捕獲されている。
「さて、カイサさん。ちゃんと聞くから先に事情を話してよ。なんであんな事を?」
「温泉に入れば疲れが取れるから、作業が捗ると思って…。」
完全回復、何てゲームのシステム的な事を言っても伝わらないだろうから、それっぽく言い換えた俺の発言に対して、ユネの額には怒りマークが浮かぶ。
「どんな作業か知らないけど、疲れてるなら休んだ方が良いと思うよ。温泉に入れば疲れが全て取れる、なんて都合の良い事は無いんだから。」
「いや、でも疲れが吹き飛んでやる気が出てきて動けそうだったんだよ…。」
「気の所為だよ。温泉に入ってリラックスして十分な睡眠を取る。無理をしたって仕方がないって子どもでもわかってるよ?」
ナイフのような一言が胸に突き刺さる。
実際回復したし、という事を遠回しに伝えても、至極真っ当かつとても鋭利な意見を返される。
「悪かったよ、次は気を付けるから。」
「次は気を付けるから、何?」
「え~と、今日はこれくらいで勘弁して欲しいなーと思って…。」
「まさかとは思うけど、このままお咎め無しで解放されるなんて勘違いをしていないよね?」
ちょっとめんどくさい事言うなコイツ、と思いつつ答えた矢先、お咎めなんて言葉が出てきた。
嫌な予感に、背筋に冷や汗が流れる。
「お咎めとはどう言った内容でしょうか…?」
「温泉の利用料金と迷惑料込みで百万ユグの支払いをお願いします。」
「ひゃ、百万ユグ?ちょっと手持ちじゃ足りないかな~…なんて。」
「もちろん、持っていない事は承知の上だよ。ちゃんとツケにしておくから、少しづつ返済してね。完済するまでは温泉の利用を禁止にするから。」
「そ、それは流石に…。そうだ、今日の利用料金はマールが払ってくれるって約束だろ?迷惑料のみで割り引いてもらう事には…。」
俺を逃さないようになのか、この部屋唯一の出入り口を塞ぐ様に立っているマールを見る。
ユネは親友だろ、助け舟を出してくれ、と視線を送るも睨み返される。
「約束は守るさ、一回の利用料分は支払わせて貰おう。だが、ユネのお咎めは別だ。きっちり罰を受けてくれ。」
「それから、カイサさんが汚した温泉の掃除も手伝ってもらうからね。」
「はい…喜んで…。」
「もっと丁寧に磨いてよ。」
「はい。」
「もっと腰を使え、そんなんじゃ日が暮れるぞ。」
「はい…。」
「一箇所に時間をかけすぎ。もっと効率良く出来るはずだよ。あと洗剤使いすぎだから量を減らしてね。」
「はい……。」
ユネとマールによる熱血指導により、飛び込んだ温泉を掃除させられている。
俺の目から見ればピカピカになっているのだが、温泉に一家言ある二人には満足のいく仕上がりでは無いようで、小姑のように細部まで指摘を入れてくる。
一緒に掃除してくれてるだけありがたいのだろうが、二度目はこりごりだ。
次からはちゃんと湯浴着に着替えて、ゆっくり入ろうと思う。
次はいつになるか、見当もつかないけど。
「手、止まっているように見えるけど大丈夫?」
「ごめんなさい。」
マールは兎も角、ユネだけは怒らせない様にしよう。
バタバタと音がして、脱衣所から浴場に向かってユネが飛び出していく。
ここは男湯だぞ、と思わなくもないが全裸で風呂に入る習慣はこの世界には存在しないため問題ないのだろう。
偶然にも俺以外に入浴中の客は居なかったようだし、俺もフル装備で入浴を済ませた。
既に誰も居ない浴場で首を傾げているユネに声をかける。
「どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「こっちのセリフだよ!大きな音がしたから来てみたんだけど…ってカイサさん、どうしてずぶ濡れなの!?」
「ん?派手に飛び込んだからなぁ~。」
俺が着ている服からは常に水が滴り落ちている。脱衣所に水溜りが出来始めているが、まあ勘弁してほしい。
「なるほど、さっきのはカイサさんが温泉に飛び込んだ音だったんだね。……え?なんで?」
ユネの声が一段低くなり、ガチトーンでドン引きしている気がするが、今は急いでいる。
構っている暇はない。
「それじゃ、またすぐ来るから!」
「え、ちょっ……え?」
困惑顔のユネを置き去りに、俺は自宅へ走り出す。
服が水を吸って走りにくいのは想定外だったが、今更着替えるのは時間が勿体無い。
自宅の扉を乱暴に開き、先ほど『準備』した物で作業を行い、すぐに旅館へ引き返す。
男湯に入ると、ユネが困惑顔を浮かべたまま掃除道具に手にしていたところだった。
「あ、カイサさん!こんなに脱衣所をこんなに水浸しにしたんだから少しは片付けを手伝ってよ!」
「悪い、また後でな。」
ユネが何か言っていた気がするが、聞いている時間が勿体無い。
横を通り抜けて浴室の入り口で大きく跳躍。
走り幅跳びの要領で僅かに放物線を描きながら温泉へダイブ。
本日二度目の水柱が上がった。
「正座。」
鬼の形相で立つユネが、モップ片手に俺を威圧する。
あの後、同じ事を何度も繰り返し、そろそろ二桁を超えたかと言ったところでストップが入った。
脱衣所を水浸しにされてブチ切れたユネと、温泉を満喫し終わりユネから事情を聞いたマールにより取り押さえられたのだ。
初期時点ではマールどころか、実はそこそこの実力者であるユネにすら遅れを取っているカイサでは太刀打ち出来ず、無事に捕獲されている。
「さて、カイサさん。ちゃんと聞くから先に事情を話してよ。なんであんな事を?」
「温泉に入れば疲れが取れるから、作業が捗ると思って…。」
完全回復、何てゲームのシステム的な事を言っても伝わらないだろうから、それっぽく言い換えた俺の発言に対して、ユネの額には怒りマークが浮かぶ。
「どんな作業か知らないけど、疲れてるなら休んだ方が良いと思うよ。温泉に入れば疲れが全て取れる、なんて都合の良い事は無いんだから。」
「いや、でも疲れが吹き飛んでやる気が出てきて動けそうだったんだよ…。」
「気の所為だよ。温泉に入ってリラックスして十分な睡眠を取る。無理をしたって仕方がないって子どもでもわかってるよ?」
ナイフのような一言が胸に突き刺さる。
実際回復したし、という事を遠回しに伝えても、至極真っ当かつとても鋭利な意見を返される。
「悪かったよ、次は気を付けるから。」
「次は気を付けるから、何?」
「え~と、今日はこれくらいで勘弁して欲しいなーと思って…。」
「まさかとは思うけど、このままお咎め無しで解放されるなんて勘違いをしていないよね?」
ちょっとめんどくさい事言うなコイツ、と思いつつ答えた矢先、お咎めなんて言葉が出てきた。
嫌な予感に、背筋に冷や汗が流れる。
「お咎めとはどう言った内容でしょうか…?」
「温泉の利用料金と迷惑料込みで百万ユグの支払いをお願いします。」
「ひゃ、百万ユグ?ちょっと手持ちじゃ足りないかな~…なんて。」
「もちろん、持っていない事は承知の上だよ。ちゃんとツケにしておくから、少しづつ返済してね。完済するまでは温泉の利用を禁止にするから。」
「そ、それは流石に…。そうだ、今日の利用料金はマールが払ってくれるって約束だろ?迷惑料のみで割り引いてもらう事には…。」
俺を逃さないようになのか、この部屋唯一の出入り口を塞ぐ様に立っているマールを見る。
ユネは親友だろ、助け舟を出してくれ、と視線を送るも睨み返される。
「約束は守るさ、一回の利用料分は支払わせて貰おう。だが、ユネのお咎めは別だ。きっちり罰を受けてくれ。」
「それから、カイサさんが汚した温泉の掃除も手伝ってもらうからね。」
「はい…喜んで…。」
「もっと丁寧に磨いてよ。」
「はい。」
「もっと腰を使え、そんなんじゃ日が暮れるぞ。」
「はい…。」
「一箇所に時間をかけすぎ。もっと効率良く出来るはずだよ。あと洗剤使いすぎだから量を減らしてね。」
「はい……。」
ユネとマールによる熱血指導により、飛び込んだ温泉を掃除させられている。
俺の目から見ればピカピカになっているのだが、温泉に一家言ある二人には満足のいく仕上がりでは無いようで、小姑のように細部まで指摘を入れてくる。
一緒に掃除してくれてるだけありがたいのだろうが、二度目はこりごりだ。
次からはちゃんと湯浴着に着替えて、ゆっくり入ろうと思う。
次はいつになるか、見当もつかないけど。
「手、止まっているように見えるけど大丈夫?」
「ごめんなさい。」
マールは兎も角、ユネだけは怒らせない様にしよう。
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