女子高生達と俺

saikororo

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一日目

♯5

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俺は胸ポケットに忍ばせていた数枚の紙幣をテーブルの上で滑らせる。

「ありがとう。楽しかった」

後ろ髪をひかれる思いだけれど、目的は果たされ、そして満たされた。

何がどう満たされたか上手く説明出来ないが、確かに満たされた。

去り際こそ男であれ。

伝票に手を伸ばし、立ち上がる。

「・・・」

その手に二つの感触が重なる。

一つは彼女の柔い手で、一つはその手の内にある紙幣のものだった。

「・・・まだ。お金の分働いてないので」

「いや。充分だ。その金額の価値はあった」

「でも」

「提示した額は既に納得済みだ。君が気に病む必要はない。それに」

「・・・だ、だからっ!」

店内からほんの一時音が消えた。

そして、顔を赤く染めた彼女がそこにいた。

上目遣いが、睨みとそう変わらない程に尖っている。

「まだ、女子高生と知り合えてないですから」

「え」

「・・・制服持って来てますから。着替えられる所に行きましょう?」

「なんと」

彼女の唐突の提案に、思わず声が上ずってしまった。

確かに、私服の彼女を女子高生と言っていいのか。

俺が求めたのは身分だけであったのか。

そんな疑問が頭上をさ迷っている間に、彼女は紙幣を俺の胸に押し付け、伝票を持ってさっさとレジに向かって行ってしまった。

去り行く背中にどうしていいか分からず、彼女が会計を済ます間、俺はずっと自分の革靴を眺める事しか出来なかった。
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