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01 薄雲
薄雲
しおりを挟む高く遠のいてゆく青い空を薄雲がゆっくりゆっくり流れてゆく。
あの日もこんな空だった。
少しヒンヤリ感じるようになってきた風が二人の間を吹き抜けてゆく。
慣れない高さのヒールで美術館を回り終えた帰り道、だんだん彼の歩調に合わせられなくなっていった。
離れてゆく広い背中を見ながら歩くのが淋しくて、アスファルトへ視線を落とした。
クシャリクシャリ……
色褪せた枯葉の音。
この先の大きな曲がり角を曲がれば駅だ。
フワッと右手が温かくなった。
前を歩いていたはずの彼がいつのまにか隣にいた。
視線を上げた私へ「寒いね」と顎を上げたままボソリと言った。
何かが右手から頭の先へつま先へとスーッと通り抜け、躰はフワっと浮いたようになり、頭の中はフーッと真っ白になっていった。
『気が遠くなる』って、きっとあのような感覚なのだろう。
あまりにぎこちなく優しくつないできた彼の左手を握り返せていたら、何か違ったのだろうか?
体育の授業で無理やり踊らされたフォークダンス以外で男の子と手をつないだことのなかったあの頃の私は、想いが指先から伝わることをまだ知らない徒花にすぎなかった。
じんわり汗ばんでくる手のひらがただ恥ずかしくって、ただ申し訳なくって、早く駅に着いて欲しいと瞼を伏せた。
ガタンゴトン、ガタンゴトン……
近づいてくる重く硬い電車の音。
一瞬キュッと力が入った彼の左手を振り払うようにして離してしまった。
あの時、彼はどんな顔をしていたのだろう?
駅の改札口を見ることで高鳴る鼓動の戸惑いをただただ誤魔化そうとしていた私には、見上げる余裕なんてなかった。
その後も何度か彼の隣を歩くことはあったけれど、もう手をつないできてはくれなかった。
大きな左手はいつも距離以上に遠く、小さな右手はいつも空を掴んだ。
ようやく手袋の季節が訪れた時には、もう彼の姿は隣から消えていた。
行き場を無くした凍える右手をぎゅっと握り締める。
薄雲はカタチを変えながら高く遠くへ遠くへ流れてゆく。
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